ブルアカの生徒達が現代に転移する話   作:松花 陽気

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銀鏡イオリの現代転移
第一話:秋葉原の裏路地、銀色の強襲


12月上旬の秋葉原。

街は既にクリスマスの浮かれた空気に飲み込まれていた。駅前の巨大な街頭ビジョンには、最近流行っている『ブルーアーカイブ』というスマホゲームの広告が大々的に映し出され、可愛らしい少女たちが「先生!」とこちらに微笑みかけている。

 

「……寒い。こういう日は温かいもんが食いてぇな〜」

 

今日は久しぶりに何もない休みの日。そんな僕は今、気晴らしに秋葉原まで来ていた。僕——長島太郎は、親からの仕送りとバイト代で食い繋いで過ごしている。一人暮らしの身にとって、この時期の電気代と寒さは天敵だ。

 

人混みを避けようと、中央通りから一本入った裏路地を抜ける。その時だった。

 

「——っ!?」

 

頭上から突然、ものすごい光が照射された。

見上げた瞬間、視界を覆ったのは暴力的なまでの光。そして、重力に従って「何か」が猛烈な勢いで落ちてくる。

 

「うおわっ!?」

 

避ける間もなかった。

ドサリ、という重みと共に、僕の視界はアスファルトと、鼻先をかすめる銀色の髪に支配された。

 

「……いっ、てて……」

 

背中を打った衝撃に、僕は思わず呻いた。 幸い、背負っていたリュックがクッションになったらしい。

だが、腹のあたりにズシリとした重みがある。どうやら誰かが俺の上に乗っているようだ。

 

「むぐ……っ!?」

 

顔に押し付けられたのは、柔らかい感触。 というより、顔面を何かに埋められている。おまけに、ずっしりとした重みが腹の上に乗っている。呼吸が苦しい。

 

「……あー、悪い。ちょっとどいてくれないか」

 

僕が何とか声を絞り出すと、のしかかっていた存在が跳ねるように動き出した。

 

「なっ……ななな、何を、何をしてるんだお前はぁっ!?」

 

飛び退いたのは、長い銀髪をツインテールに結び、体は褐色で耳がエルフのように尖っており、赤い瞳の輝く少女だった。 黒を基調とした、どこか軍服を思わせるカッチリとした制服。だが、その顔は火が出るほど真っ赤だ。

 

「……何をしてるか、って。空から君が降ってきて、僕が下敷きになった。それだけだよ」

 

「そんなわけないでしょ! この変態! 死ねっ!!」

 

立ち上がりざまの第一声が「死ね」とは。 理不尽な罵倒にツッコミを入れようとして、僕は言葉を失った。

 

彼女の頭上には、薄紫色の光を放つ不気味な光輪が浮いている。さらに、怒りに震える彼女の腰からは、細長い尻尾が「シャーッ!」と威嚇するように逆立っていた。

 

「……君、それ。コスプレ、じゃないよな?」

 

「コスプレ……? 何を言って……。それより私の銃は!? それにヘルメット団はどこへ行ったの!?」

 

彼女はパニック状態で辺りを見回すが、そこにあるのはゴミ捨て場のコンテナと、遠くから聞こえる秋葉原の喧騒だけだ。

 

「銃なんて見てないし、ヘルメット……何とかもいない。……ここは秋葉原だ」

 

「アキハバラ……? 何よそれ。ゲヘナの自治区のどこかだっていうの……?」

 

その時、彼女は自分の腕をさすって小さく震えた。 12月の寒風が、薄着の制服姿の彼女に容赦なく吹き付ける。

 

「……寒い。なんなのよ、この世界。火薬の匂いもしないし、先生とも通信が繋がらないし……」

 

強気だった瞳に、一瞬だけ子供のような不安がよぎった。 このまま放っておけば、警察に捕まるか、あるいはこの「尻尾」のせいで見世物にされるだろう。

 

「……とりあえず、場所を移そう。立ち話するような気温じゃない」

 

僕は自分のロングコートを脱ぎ、彼女の肩にかけた。

 

「……っ。……あんた、下心があるなら……その時は、覚悟しなさいよ?」

 

「はいはい。とりあえず、それて尻尾は隠せるだろ。頭のそれはともかく、耳ならフードかマフラー……耳当てでも付ければ大丈夫だろう」

 

そう言って、僕は彼女について来るよう促し、歩き出す。

 

「おっ、おい!どこに行くんだ!!」

 

「落ち着いて話せる場所……今はとにかく情報の整理が必要だ。僕には関係ないが、お前は必要だろう?」

 

□□□

 

「……つまり、私はその『ブルーアーカイブ』というゲームのキャラで、ここは私のいた世界じゃない、と」

 

秋葉原の裏通りにある、客入りの少ない喫茶店のボックス席。

銀鏡(しろみ)イオリ——彼女はそう名乗った——は、僕がスマホで見せたゲーム画面を、眉間にこれでもかとシワを寄せて睨んでいた。

 

「そう。僕も触りだけしか知らないけど……ほら、ゲヘナ学園の銀鏡イオリ。君と全く一緒だろ?」

 

「……私が、ゲーム? 冗談じゃないわよ。私は風紀委員として日々、規律を乱す不届き者を粛清してるんだから!」

 

彼女は腕を組み、不機嫌そうに鼻を鳴らす。だが、温かいココアを差し出すと、文句を言いながらも一口飲み、「……毒は入ってないみたいね」と少しだけ表情を緩めた。「入ってるわけないだろ」、と僕は即座にツッコむ。キヴォトスでは飲食店で普通に毒が盛られるのか? あるいは、単に彼女が素直じゃないだけか。

 

「それにしても……その、街中の看板に私がいたのは、どういうことだ。見世物じゃないんだから……恥ずかしいわね」

 

彼女は先端の尖ったエルフ耳を赤くして、僕のコートの中に顔を埋めた。どうやら「ゲームのキャラ」として扱われることより、「自分の顔が街中に貼ってあること」の方が気恥ずかしいらしい。

 

「でも、おかしいわ」

 

イオリは、僕が調べた『エデン条約編』などのあらすじをスクロールしながら言った。

 

「こんな大きな抗争、一度も起きてない。アズサが裏切り者? ヒナ委員長がそんなに怪我をする? ……あり得ないわ。私の知ってるゲヘナとも、キヴォトスとも、出来事が違いすぎる」

 

「じゃあ、ゲームとは違う『本物のキヴォトス』がどこかにあるのかもな」

 

「……当たり前でしょ。私が今ここにいるのが、何よりの証拠よ」

 

「なるほど。……因みに、足舐めも?」

 

「当たり前だ! 冗談でも、先生に脚を舐めさせるわけがないだろう!!」

 

身を乗り出して猛抗議するイオリ。その勢いに圧倒されつつも、僕は「だよな」と納得する。画面の中の彼女が受けている不遇な扱いは、どうやら彼女の世界では起きていないらしい。

 

だが、勢いの消えた彼女は、ふと自分の細い尻尾を握りしめて、それに視線を落とした。

 

「……でも、帰り方が分からない。先生とも繋がらないし。……ヒナ委員長やチナツ、アコちゃんがいるならいいけど。そうじゃない時に私がいなかったら、風紀委員会なんてすぐガタガタになっちゃう」

 

一見、傲慢に聞こえるその言葉は、裏を返せば仲間への強い信頼と、帰り道が見えない孤独への裏返しに見えた。

 

「……それじゃあ、これからどうするつもりなんだ?」

 

「どうするって……そんなのキヴォトスに帰るに決まってるだろ。なんとしてでも!」

 

「どうやって? 悪いけど、この日本にキヴォトス行きの交通手段はない。あるとわかったとして、それはどこにあるんだ? 方角でもわかるのか?」

 

「……それは」

 

言葉に詰まる彼女に、僕は核心を問う。

 

「そもそも、イオリはどうやってここに来たか心当たりはあるか?」

 

イオリは顎に手を置き、しばらく考え込んだ。やがて、少し決まり悪そうに口を開いた。

まとめるとこうだ。いつものように後輩たちを率いてヘルメット団を追いかけていた際、開いていたマンホールに気づかず落下。気づいたらこの路地裏の空に放り出されていた……ということらしい。

マンホールの中に落ち、気付けばそこは別世界……か。うん、ス○○トゥーンのストーリーモードの入口かな?そもそも、どうやったら開いているマンホールに気付かず落ちるんだ。それを指摘すると、彼女は「敵を追うのに集中していただけよ!」だの「あそこに穴があるのがいけないのよ!」だのと意味のわからない言い訳を始めた。

 

「とりあえず、原因はわかった。……いや、摩訶不思議すぎてさっぱりわからんけど、とにかくわかったよ」

 

「いや、どっちよ!?」

 

「現状、この案件は今すぐに解決するのは無理だってことだ。お前もそれはわかるな」

 

「……っ」

 

彼女の表情が、急激に暗いものへと変わる。帰る方法も、次の一手も見えない。突きつけられた現実を飲み込むのが怖いのだ。

 

「でも、そっか。じゃあ私、もしかして……一生ここで過ごすってことなのかな……」

 

ココアの湯気を見つめている彼女の手が、微かに震えていた。孤独。絶望。12月の寒さ以上に、彼女の心を冷やしているのがわかった。こうなった以上、そうするしか選択肢がない。帰れる方法がもしあったとしても、時間は必ず掛かるはずだ。僕が一緒にやったとしてもだ。だがその間は?戸籍もなければ住む場所もここの通貨もない。どう考えても詰んでいる。だったら、何をするべきか……そんな事は考えるまでもない。

 

「……僕が、君を帰す方法を一緒に探してあげるよ」

 

僕は、自分でも驚くほど真っ直ぐな声で言った。

 

「はぁ!? あんたみたいな、ただの一般人に何ができるって言うのよ!」

 

「今は何もできないけど、一人よりはマシだろ。ちょうどやっと期末の期間が終わって、多少時間はある。お前のために時間を割く余裕はある」

「あと、住むところとか、飯のことなら何とかする。……だから、僕を頼れ」

 

イオリは驚いたように目を見開いた。不安に押し潰されていたのだろう。少しの希望が見えたのか、彼女の表情に少しだけ明るさが戻っていた。

 

「い、いいのか?確かに、今信頼できそうな奴って言ったら、目の前のお前しかいないけどさ。……迷惑だろ?」

 

「ここでお前を置いて、どっかで傷付かれる方がよっぽど迷惑だよ」

 

「……なんでだよ、お前には別に関係ないだろ」

 

「あぁ、関係ないさ。でも、もしそうなってたら寝覚が悪いだろ」

 

もしそうなっていたら、僕は助けなかったことを後悔する。これは、自分が後悔しない為に行うんだ。ただの自己満足。だからそこに、親切心なんてものはない。

ただ、それだけの……最低な男。

 

イオリはじっと僕の目を見つめ返しながら、一瞬、喜びの表情になるがすぐにいつものシャキッとしたものに変わった。でも、その顔の赤みは褐色の肌からでもよくわかった。

 

「……そ、そう。なら、お言葉に甘えることにする。えっと〜……そういえば、名前なんだっけ?」

 

あー、そういえば名乗っていなかったな。聞かれて思い出し、真っ先に僕は答える。

 

「僕は、長島太郎。高校二年生だ。よろしく」

 

「なんだ、同学年だったのか。じゃあ私も。……もう知ってると思うけど、改めて」

「私はゲヘナ学園、二年生の風紀委員会所属、銀鏡イオリ。これから頼むぞ、タロウ!」

 

お互いに差し出した手を掴み、握手を交わす。膝の上で丸まっていた尻尾が、パタパタと小刻みに揺れている。

どうやら、受け入れてもらえたらしい。

 

「あぁ、頼まれた。……ところで、早速住むところについてなんだけど」

 

「そうだな……私は何処に住んだらいいんだ?」

 

「正直言うと、そんなに選択肢はないんだよね。出来れば実家がいいんだけど……結構遠くだからな。君に付き合うにしても、家と学校の往復は流石に時間的に厳しいし。だから、必然的にさ……僕が借りてる部屋しかないんだけど。大丈夫か?」

 

「はっ……それってまさか!私がお前の家で住むってこと!?」

 

「うん。……そうだが」

 

「やっぱりか、最初っから私の体目当てで誘ったんだな!?最っ低!この変態!!」

 

「なっ……人が親切でやってるのになんだそれは!?てか、変態じゃねえし!勘違いすんなバーカ!」

 

「バ、バカ!?バカとはなんだ!私はそこまでバカじゃない!バカはお前だ!」

 

「勝手に変態と決めつける奴に言われたくねえ!」

 

(……仲がいいな、あの二人。青春だねぇ〜)

と、ここの店主が、横目に僕らを見ながらカップとソーサーを拭いているが。そんなことも気にせず僕たちは口論するのだった。

 

それから小一時間言い合いは続いた。だが、喧嘩をしていたら話はずっと平行線のまま、進まない。だから、ひとまず僕らは冷静になる為、夕御飯ついでに料理を注文した。

もう時間は19時を回っている。腹ぺこでもおかしくない時間だった。きっと、空腹でお互い気が立っていたのかもしれない。

何はともあれ、注文してる間にお互いに少しだけ冷静になった。

 

「銀鏡が言いたい事はわかった。なら、いくつかルールを決めるのはどうだ」

 

「賛成だ。それなら私も文句はない」

 

「よし、なら早速決めたいところなんだけど。……生憎と今は書き込む紙がない。口頭で決めてもいいが……僕は耳だけではあまり多くは覚えられない。悪いけど、一度アパートに着いてからでもいいか?」

 

「わかったよ。でも、絶対に変な事するなよ!……したら、殺すから」

 

怖っ……。

彼女の突飛な脅迫に内心で物怖じしつつ、平然と彼女の言葉を返していくのだった。

因みに、初めて行った喫茶店だったのだが思いの外美味かったのでまた行きたいと思っている。

でも、最後のマスターの「仲の良いカップルだね」という指摘により、ちょっと行きづらくなった。その後は、少し気まずい空気のまま僕の家へと帰宅するのだった。




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追記3/24

すげー。一回目のアンケートで梔子ユメがダントツだな。
さて、二回目はどうなるかな?今度は選択肢を増やしたからね。この調子だとユメ一択かな?それでも良いけど。

次の生徒をアンケート(もう一度)

  • 小鳥遊ホシノ
  • 空崎ヒナ
  • 黒見セリカ(プレ先ルート)
  • 梔子ユメ
  • 錠前サオリ
  • 月雪ミヤコ
  • 和泉元エイミ
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