次も二週間かかると思いますが、次回は最終回になります。お楽しみに。
「………………タロウ」
タロウの部屋の前で蹲るイオリを見つけたタロウは。イオリの方まで近づく。そして、少女の前で少年は膝をつきその子を見つめる。
お互いに、無言の時間ばかりが続く。
どちらも、話したいという気持ちがあるが、切り出し方に迷い尻すぼんでいる。しばらくの無言の後、イオリはタロウにゆっくりと近付いてーー
ーータロウを抱きしめた。
ゆっくりと吸い寄せられるように、あるいは崩れ落ちるようにタロウの胸元へとイオリは飛び込む。
タロウは、受け入れるようにイオリを抱き返し、抱擁する。腕の中に収まった銀色の髪は月明かりにより綺麗に輝いており、同時に頭の上の薄紫色のヘイローも少し反射していた。
だが、何よりタロウを動揺させたのは、彼女の体が小刻みに、けれどはっきりと震えていることだった。
「イオリ……?」
困惑しながら、タロウはイオリの様子を見ようと自身の胸からイオリを離して見る。……が、ギュッと抱きしめる力が増し、見ようにも見れなくなり、タロウは断念して再度抱き返した。
「………………ないで」
タロウの胸板に顔を埋めたまま、イオリが押し殺したような声を漏らす。
それは、彼がこれまで聞いたことのない、ひどく脆くて、壊れそうな泣き声だった。
「……行かないで。……私を、1人にしないで」
「……ごめん。イオリ」
その言葉は、すべてを削ぎ落とした少女の、剥き出しの悲鳴だった。
タロウのシャツを掴む指先が白くなるほどに力がこもる。
「……怖かった。アンタが真里の家に行けなんて言うから……本当に、私のことが嫌いになったんだって。そうおもって……私がいない方が、アンタは幸せなんだって……っ」
イオリの声は、涙に濡れてひどく震えていた。
キヴォトスでは決して見せることのない、一人の無力な少女としての姿。銃も持たず、知り合いもいないこの世界で、タロウという唯一の「居場所」を失う恐怖が、彼女を極限まで追い詰めていた。
「でも、これ以上タロウに迷惑をかけるのも、私は嫌だ。だから、お前が私を嫌いなら……潔く真里のとこに行くよ」
「違うんだ、イオリ。嫌いになったわけじゃない。その逆なんだよ」
タロウは、腕の中の温もりを壊さないように、けれど力強く抱き締め返す。
「……怖かったんだ。君がここから消えてしまうのが、酷く怖くなったんだ。そしたら、今まで抱いてた想いが溢れて。そしたら、余計また怖くなった。言い出す勇気が君を見届ける覚悟が、持てなくなった」
彼女の気持ちに逃げて傷つけた自分を清算するように。
「だから、いなくなる前に。僕が君に何かを抱く前に離れれば、お互い傷つかなくて済むんじゃないかって……そう思ってたんだ」
どうせ別れるなら、好きにならないほうがいい。異世界の住人である彼女との別れは、もはや永遠の別れといって差し支えない。だから、遠ざけようとした。
「でも、その結果。君を悲しませてしまった。そんな、自分勝手な理屈で、お前を傷つけた。傷つけてしまった……本当にバカなのは、僕の方だ」
だが、もう二人は気付いてしまった。気付かされてしまったのだ。だからもう、止まらなかった。
「ごめんイオリ!」
タロウの胸に、顔を埋めていたイオリの顔が上がり、求めるようにタロウを見た。
「そう、なの……?」
泣いていたのもあり、その声は少し枯れていた。
「あぁ。本当だよ」
「嫌いに、なってない……?」
「嫌いじゃないよ。むしろ……」
タロウは言葉を一度切り、腕の中の小さな震えをより深く、力強く受け止めた。
もう逃げないと決めたその決意が、熱い体温を通して伝わっていく。
「……大好きだよ、イオリ。お前のことが、もうどうしようもないくらい好きなんだ」
タロウの口から溢れたその言葉は、冷え切った廊下に溶けていく。
抱きしめられた腕の中で、イオリの体がビクリと跳ねた。
「……うそ」
震える声で、彼女は呟く。
「嘘よ……だって、アンタ。私を追い出そうと……っ」
「追い出そうとしたんじゃない。……失うのが、怖すぎたんだ。お前が好きだって認めたら、君がいなくなった時、僕は壊れてしまうと思ったから。……でも、そんなの僕の勝手な都合だ。お前を一人にしていい理由になんて、ならないのに」
タロウは、胸元に顔を埋める彼女の頭を、壊れ物を扱うようにそっと撫でた。
イオリはしばらく、声もなくタロウのシャツを握りしめていた。
普段なら怒鳴るはずの彼女が、今はその愛撫を求めるように、小さくタロウの胸に頭を押し付ける。
「ほん、とう……?」
「……あぁ。だからさ、イオリの気持ち、教えてくれないか?」
「……ほんとう、なのね」
イオリはタロウの胸に額を押し付けたまま、何度も自分に言い聞かせるように繰り返した。その声からは、先ほどまでの「裏切られた」という絶望が、雪解けのように消えていた。
「私の……気持ち……」
イオリはゆっくりと顔を上げた。涙で縁取られた赤い瞳が、月明かりを反射して潤んでいる。
いつもなら、ここで顔を真っ赤にして怒鳴るのがいつもの光景だったろう。けれど、一度剥き出しになった心は、もうそんな風に自分を偽る術を忘れてしまっていた。
「……嬉しい」
ぽつりと、掠れた声が漏れる。
その言葉に、嘘や虚勢は一欠片も混じっていなかった。
「アンタに嫌われたと思って……もう、二度と会えないまま、嫌われたままって思ったら……死ぬほど、怖かった……からっ」
イオリは再び視線を落とし、タロウのシャツの裾をギュッと、離さないように握りしめる。
「私も……好き。タロウのこと、大好き。……キヴォトスにいた頃は、こんな気持ち、知らなかった。……太郎と出会って、ここで過ごして……初めて、異性の人に誰かの隣にいたいって、心の底から思った」
彼女は弱々しく笑った。それは、いつもの自信に満ちた不遜な笑みではなく、救われたことに安堵し、愛されていることに震える、年相応の少女の純粋な微笑みだった。
「だから……ありがとう。私を、見捨てないでいてくれて。……最後まで、ここにいていいって言ってくれて……本当に、嬉しい……」
「ありがとう、イオリ。……両思いだったんだね」
また一粒、大粒の涙が頬を伝い、タロウの手の甲に落ちる。
それは悲しみの涙ではなく、凍りついた心が解けた証だった。
イオリは甘えるように、タロウの腕の中に自分からもう一度潜り込み、その温もりを確かめるように深く息を吐いた。
「……バカ。大バカ。……こんなに幸せにされたら、帰るのがもっと辛くなっちゃうじゃない……」
「……あぁ、そうだな。僕も、お前を帰したくないよ。……でも、だからこそ、今はこの時間を大切にしよう」
タロウは、腕の中の愛おしい存在を壊さないように、けれど決して離さないという意志を込めて抱きしめ返した。
二人の間を隔てていた冷たい「蓋」は、今、完全に粉砕された。
そこにあるのは、異世界の住人同士という残酷な現実を塗りつぶすほどの、純粋で熱い想いだけだった。
「……タロウ」
「ん?」
「……お腹、空いた」
不意に漏れた弱々しい本音に、タロウは思わず小さく吹き出した。
「はは……そうだな。中に入ろう。まだ焼きの途中だったからね」
「火はちゃんと切ったの?」
「当たり前だろう。火事になったら過失が舞い込んでくるし」
「……あ〜。確かにそれは問題だな……あークソ。アイツらの事思い出しちゃった」
イオリはあっちの方にいるテロリスト達の活動を思い出し、ため息を吐いた。
イオリはタロウの胸から顔を離すと、今度は逸らさずに、潤んだ瞳で彼を真っ直ぐに見つめ返した。繋がれた手は、どちらからともなく指を絡ませ、固く結ばれていた。
アパートの扉が開き、温かい光が廊下へと溢れ出す。
□□□
ハンバーグを一緒に焼き、いつもの日常とは少し変わった空気の中で食事を済ませた二人は、とある人に報告する事にした。
二人は並んで座り、イオリのスマートフォンを手に取りました。この世界で唯一、キヴォトスの「先生」と繋がることができる、彼女の端末。画面の明かりが、少しだけ赤らんだ二人の顔を照らす。
タロウが言葉を選び、イオリがそれを打ち込んでいく。二人の共同作業で、先生へのメッセージが綴られました。
『先生、起きてるか?』
『“うん。起きてるけど、どうかしたのかい?”』
『実は……その。私……タロウと』
『タロウと付き合う事になった』
少しの間隔を空けて送ったその文面が表示されると、5秒も経たない内に返答が返ってきた。
『“おめでとうイオリ!!よく勇気を出した!!”』
『そんなに大袈裟にしなくていいから!は、恥ずかしいでだろ!!』
「なんか、文面からしてもテンション高いなこの先生」
若干タロウは先生に少し引きながらそう感想を抱く。
『“ところで、どちらが先なのかな?馴れ初めを聞きたいな〜?”』
『なっ!なんでそんなことを先生に教えなきゃいけないんだよ!』
『“イオリ。私にとっては大事な事なんだよ。若人の青春ほど大人にとってそれは活力となる栄養なんだ”』
それ一部の人間だけだと思うけどな。とタロウはツッコミしそうになったが押し黙る。
それから、先生から交渉を受け、結局どうやってなったのかその経緯を話す事になった。あらかた説明し終えると、先生は『“うんうん、なるほどね”』と頷いてるような文面を送って――。
『“とりあえず、タロウに代わってもらえるかな?ちょっと、お話ししたいからさ”』
と、先生の文面からは怒りの感情が沸いているように見えた。それに気づかないイオリは、特に気にせずタロウに自分のスマホを渡す。タロウは、一度喉を鳴らした後、意を決して文面を打った。
『先生、タロウです。勝手な真似をして、イオリを傷つけてしまいました。多分、あなたはこの事で怒っているのではないでしょうか?』
送信ボタンをタップすると、すぐに既読がつく。深夜にもかかわらず、先生は彼らからの連絡を待っていたかのようでした。
『“もう終わった話らしいから、あまり言うつもりはないけど……これだけは言っておくよ。女の子を泣かせるのは何よりも罪深いよ”』
『はい。すいませんでした。以後、気を付けます』
『“よろしい。……それでだけど、残りの四日間は。どう過ごすつもりだい?”』
タロウは、聞かれると思ってなかったそれに少し驚いたが。前もって話し合った計画があったので、それを伝えた。
『実は、イオリと話し合ったのですが。イオリが帰る前日の日にデートをする事になりました』
あと二日学校に行けば冬休みになる予定で、冬休み一日目は運良くバイトが休みだったのもあり、この日に出かける事が決まった。
『“いいねいいね!……内容は?あ!これ私が聞いても良いやつ?”』
『これイオリのスマホなので、全部はちょっと書けないですね』
『“うん。それでいいよ”』
それから、少しだけ先生にプランを教えた。と言っても、バレてもいい範疇で抑えたため、密かに考えてる事は伏せている。
『“二人とも、本当の気持ちを話せてよかった。タロウ君、イオリのワガママを叶えてくれてありがとう。イオリ、君の居場所はいつだってシャーレに、キヴォトスにある”』
『“残り4日間だけど、二人にとって一生の宝物になるような時間にしよう。何かあったら、いつでもこれで相談して。こっちの準備は気にしなくてもいいから、二人が笑顔でいられるように、僕も最善を尽くすよ。最高の4日間にしてね”』
そこでやりとりは終わり、イオリは画面を閉じた。それから、部屋に静寂が戻った。
イオリはスマートフォンをそっと机に置くと、深く、安堵のため息を吐く。
「……先生は相変わらずだな。でも、なんだか……やっと認められた気がする」
「あぁ。僕も、先生に背中を押された気分だよ。……さて、その日の為に忙しくなるぞ。悔いのないよう、やりたいこと、全部やらないとな」
「うん。……でも、今はまだ、こうしてたいかな。……あと少しだけ」
イオリはタロウの腕をギュッと抱きしめ、幸せそうに目を閉じました。
残された時間は、あと四日。
二人の間に流れる時間は、もう喪失へのカウントダウンではなく、かけがえのない愛を積み上げるための時間に変わったのだった。
□□□翌日 学校。
「というわけなので、真里。助けてくれ」
「そんなこったろうと思ったわよ。……んで、今度は何を助けて欲しいわけ?」
タロウは次の日、真里にことの顛末を説明した。真里はとても嬉しそうに自分のことのように大喜びをした。そんなテンションが上がっている真里に、タロウはとあるお願いをした。
タロウにとって、それは外せないもので。今の時期にするには違和感のない事だった。
そうして、あの日から二日が経ち…………
――――――ついに、その日は来た。
□□□おまけ[セリフのみ]
「今日から、その……一緒に、寝ないか?」
「…………は?」
「いや、あのえっと……後四日しかないから、その。……お前をもっと。かっ感じてたい……と、いうかその」
「あっ、あーなるほどね」
「もう彼氏彼女の関係だから、会った日に作ったルールとか、もう必要ないし」
「そういえば、そんなルール作ったな。忘れてたわ」
「わすれてたのか?いや、まあいいや。もう今更だ。それで、寝るのから寝ないのか?」
「いやでも、流石にそれは……僕だって一応、男だぜ?何かの拍子に……そうなる可能性もあるし」
「わ、私は別に……お、お前になら」
「…………………」
「……お、おい?何か言えよ!」(顔真っ赤)
(あ、可愛い)
「いや、なんでもない………わかった、結婚しよう(寝ようか)」
「えっ」
「えっ?……あっ!」
「な、タロウ今、なんて!何を急に!!??」
「いや、今のはちが……くはないけど違うんだ!!つい本音がポロッと的な?……と、とにかく、もう遅いし寝ようぜ!」
「あっちょっ!誤魔化すなぁー!!」
その後、同じ布団に入った二人は、共に抱き合いながら眠ったとさ。
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