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それから約1週間以上の時が過ぎた。
タロウとイオリも二人での暮らしも、だんだんと慣れ始めた。
最初は覚束なかった料理や洗濯なども今では人並み程度にはこなせるまで成長したイオリは、今では一人で一食任せられるまでなった。イオリは飲み込みがそもそも早い。それもあるが、彼女自身根が真っ直ぐで真面目なのだ。その甲斐あって、タロウも楽な生活が出来ていた。
「ただいま〜」
「あ、おかえり」
と、エプロン姿で銀髪を後ろに纏めた姿のイオリが晩御飯の準備をしながら帰ってきた家主に向けて返す。もはや当たり前となった掛け合いであった。
「はぁ〜つかれた〜」
学校が終わって、放課後のバイトから帰ってきたタロウは、帰ってきた瞬間にドッと疲れがきたのか、だらしない声で唸った。
「お疲れ様。ほら、もうお風呂沸かしてあるから、先に入って汗を流してこい」
「サンキューイオリ。じゃあ、着替え持って行くわ。……あ、晩飯何?」
「今日は肉じゃがだ」
「……へ〜、和食作るのか」
実は、ここ三日ほどは全部洋食だった。同じものが続かないだけマシだが、そろそろ和食を口に入れたい気持ちになっていたタロウは、顔には出さず内心喜んでいた。
「タロウのお陰もあってだいぶ慣れたからな。ネットで調べてやってみたんだ」
「良い匂いだ。……これは期待が高いな。さすがはイオリ」
「はいはい。ほら、ボサっとしてないで早く行け」
イオリの一声に適当に相槌を返し、着替えを持って真っ直ぐ脱衣所へと直行した。イオリは、それを確認して煮詰めている鍋に視線を向けると味を見つつ調味料を足して煮詰めなおした。
「うん。……よし!」
しばらく経ち、再度味見をする。
ようやく完成したそれの火を止め、今度は作り終えていた味噌汁を温め直すためもう一つのコンロに火を付ける。
脱衣所の方から扉越しに水の音が小さく反響している。そろそろ上がる頃かと、食器を棚から出し、ご飯と味噌汁をよそっていく。
「上がったよ〜」
そうしていると、タイミングよくタロウが入ってくる。準備が出来たのを察して、よそい終わった茶碗などに手を伸ばす。
「机に運ぶよ」
「あぁ、頼む」
タロウは居間とキッチンを交互に移動し、ちゃぶ台の上に料理を並べていく。
最後に二人が座布団の上に座り、向かい合いながらお互いに手を合わせて、合唱する。
「「いただきます」」
もはやそれも、見慣れた光景の一つだった。
「ん!……芋柔らか、味もよく染みてて美味い!」
「だろ。調べながらで初めてやったけど、案外上手くいったな」
「凄いなイオリは、こんな数日でここまで腕を上げるなんて……」
「まあな。……時間だけはあるからな」
「いつもなら、不良共やテロリスト共の鎮圧とか、書類作業とかで暇な時なんかなかったから。どうしても、何かやってないと落ち着かなくて……」
彼女の世界、学園都市キヴォトスは銃社会で撃たれた程度では致命傷にすらならない人間がほとんどだ。銃の携帯が当たり前の世界なわけだが、その分治安が良くない。特にゲヘナ学園というところは混沌と自由が校風であるが為、治安維持組織の風紀委員会は多忙を極めていた。ゲームの世界とは別のキヴォトスであっても、そこは変わらないようだった。
「風紀委員の仕事って、多分僕が思ってるものと違うよな。服装の取り締まりとかそういうのってあるの?」
「いや、ないな。学校にもよるがそんな厳しく取り締まってはない。改造もある程度は許されてる」
「そうなんだ」
「結構緩いんだな〜と」呟きながらご飯の茶碗を差し出しながら。
「おかわり」
と、イオリに渡した。
「はいはい。ついでくるよ」
1分も経たず、新しくつがれた茶碗を受け取り、料理に舌鼓を打つ。本当にうまい。
「飯が美味くて、米が進む〜。マジでうめぇ」
「そ、そんなに褒めても出るのは料理くらいだぞ」
そういうイオリだが、尻尾は僅かにフリフリと揺れていた。どうやら無意識のようで全く気づいていない。種族は悪魔なのに犬みたいだな、とタロウは微笑む。
「イオリの旦那になる人は、さぞ幸せだろうな」
思わずそんな言葉が漏れ出ていた。
彼女はとてもまっすぐだ。伝えたいことは正面から言ってくれるし、直球だ。困ったことがあった時、少し恥ずかしがって言わない時もあるが、所作などはわかりやすいから、僕から話しかければ済むのでそう困らなかった。
「いや、私なんてそんな。これくらい普通誰でもできるだろ?」
「出来ない奴も中にはいるんだよ。そりゃ最初から上手くできる人はいないけど。いつまで経っても変われない人もいる。イオリは飲み込みがいいし、なんにでも真剣だからここまで上手くなったんだ。少なくとも、こんな料理が食えて僕は幸せだよ。だから誇っていい」
「そっか。……タロウがそこまで言うなら、少し自信が出たかも」
「そうか」
そこからは特に会話もなく、たんたんと一日が過ぎた。
□□□学校
翌日。
いつも通り学校に来たタロウは、少しソワソワした気持ちで教室に座っていた。その原因は……。
「……いや、マジか」
いつものリュックの中から、普段は入っていないであろう黒色のバックを取り出す。
取り出したそれは、保冷バックだった。
今日の朝食の当番はイオリだったのだが、これは家から出る際に彼女から渡されたものだった。「これは?」と聞く前に「弁当だ」と言われて。その場でタロウは数秒くらい呆然とした。
「弁当……弁当かぁ」
何故急にこんなものを用意されたのか……理由はわからないが、タロウにはそのキッカケに心当たりがあった。
少し前に、お昼についてイオリから聞かれたことがあった。
『タロウってさ、学校で昼はどうしてるんだ?』
その時は、学食か菓子パンかコンビニ弁当、と答えた気がする。多分、食生活を心配したんだろうと、タロウは考えた。
それでも、何故そこまでしたのかはわからなかった。家の家事は、殆どイオリに任せておりしっかりとやってくれている為、十分過ぎる対価をもらっていた。
もはや、自分が返さないと釣り合わないくらいには差があると思っている。
「なんか……ここまでしてもらうと、逆に申し訳ないな」
だからと言って、自分が返せるものなど特にはない。なら、何をしたら返せるだろうかと。聞いても彼女ならきっと「これくらい居候させてもらってるんだから当たり前」とか「十分助かってる」とか言うんだろう。良い答えは返ってこないだろうなと、考えてため息をついた。
「おっ……どうした太郎?」
真横から声がかかり、そちらを向く。
「おは〜!難しい顔して、どったの??」
友達の女の子、真里が話しかけてきた。
「って、なにそれ?弁当?」
物珍しい顔で机に置いたそれとタロウの顔を交互に見る真里。失礼なことを考えてそうだなと、タロウは思ったがあえて何も言わなかった。
「アンタって料理できんだね。ここ二年で初めて知ったかも」
「まあ、ここでは出来合いのものしか食ってないからな」
「ねえねえ。せっかくだから昼休み中身見せてよ」
「は?なんでだよ?」
「男の手作り弁当って気にならない?タロウがさつそうだし、どんなもんかな〜って?」
ナチュラルに失礼ぶっ込んでくるな。これでもイオリが来る前は自主的に家事はやってるから決してガサツではない。だが、そのイオリのおかげで凄く楽が出来ているので、最近のタロウはちょっとだらしなくなっていた。
「まあ、良いけど」
「じゃあ昼休み、屋上の階段にね」
「りょー」
適当にそう返しながら、タロウは保冷バックに視線を戻す。何が入ってるのか考えながら……昼の時間を楽しみに待つのだった。
昼休みになり、真里が指定した場所に赴く。既に真里が屋上の扉前で座っており、隣に手をトントンと叩いて、そこに座ってと促す。
特に深く考えず、タロウは真里の隣に座る。
「はーい!それじゃあ、男の手作り弁当開封タイムです!さあ、一体何が出てくるのでしょうか?!」
バラエティ番組のアナウンサーのテンションで喋りながら、黒いバックから出した渋い銀色の弁当箱に注目する。
「……おや?」
ふと、真里が何か気づく。タロウも同時に、それに気付いた。なんと、弁当箱の蓋が取れぬようゴム製のカバーに、二つ折りにされた紙切れが挟まっていたのだ。真里は頭の上に疑問符を浮かべながら、首を傾げる。
一方タロウは、冷や汗を流した。この弁当は、イオリに渡されたものだ。あの家には、僕とイオリ以外には誰もいない。そして、僕はこんなものを書いていない。つまり、この紙切れを入れられるのはイオリということで。即座に紙切れに手を伸ばす。だが、それよりも早くそれは隣の女によって先に取られ、躊躇もなく彼女はそれを開いた。
「えーっとなになに?」
「『お昼も学校、頑張れよ。太郎』?」
どうしようもなく、顔が熱くなる。真里によって読み上げられたそれに、タロウは恥ずかしさでかたまった。
そのメモの中は、まるで奥さんが仕事を頑張る夫に対して、弁当の中に労いの手紙を送るという、やけに具体的な漫画でしか見たことないーー漫画でも見るかわからんーーようなシチュエーションだった。そりゃ顔も赤くもなるだろう。まるでそれは、タロウとイオリが恋人みたいな関係だと言っているようなものなのだから。
「あ、あの……これは違くて「ねぇ?」はい」
「アンタ、いつの間に彼女作ったの?」
真里のニヤニヤとした視線が、タロウの横顔を射抜く。
「……違うって。そもそも、いつどこで彼女なんて作る暇があるんだよ」
「えー?じゃあ何これ、お母さん?でもタロウ、一人暮らしだよね。わざわざ朝に届けに来たとか?」
「……あー、そう! そうなんだよ。たまにあるだろ、親が急に来て世話焼くやつ。今朝早くに突撃してきて、これ置いてさっさと帰ったんだよ」
我ながら苦しい言い訳だとタロウは自覚していた。だが、これしか道はない。イオリの存在がバレれば、なぜ銀髪の褐色美少女と一つ屋根の下で暮らしているのか、その経緯を論理的に説明する術が彼にはなかった。
「ふーん? お母さんねぇ……。息子の名前を宛名に書いて『頑張れよ』なんて、ずいぶん若々しいっていうか、男勝りな字を書くお母さんなんだね?」
「……いいから、食うぞ! ほら、冷めるだろ!」
タロウは逃げるように箸を取り、目の前のそれに目を向けるのだった。
「うわ……すごっ。彩り、完璧じゃない」
真里が思わず感嘆の声を漏らす。
そこには、昨日作った唐揚げの残りが綺麗に詰められ、黄金色の卵焼き、隙間を埋めるブロッコリー、そして少し焦げたタコさんウインナーが並んでいた。
何より目を引いたのは、白米の中央に梅干しがポツンと乗った「日の丸弁当」のスタイルだ。弁当の6割が米で埋まっている。
(……いつの時代だよ。まあ、美味いから良いけど)
タロウは卵焼きを一口かじる。……甘い。
初日の朝の不格好だった卵焼きとは比べ物にならないほど、出汁の味がしっかりとしていて、けれどほんのりと優しい甘さが広がった。
昨日、あんなに褒めたからだろうか。彼女が寝る間を惜しんで、慣れない手つきでこれを作っていた姿を想像し、タロウは胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……どう? お母さんの味は」
「……うまいよ。すごく」
「なんだよ、ニヤニヤしちゃってさ。結局、幸せなんじゃん」
真里に茶化されても、今度は言い返す気になれなかった。
学校という、彼女とは無縁のはずの場所に、彼女の存在が静かに浸食してきている。
非日常だったはずの彼女との暮らしが、この弁当箱という小さな器を通じて、タロウの日常にじっくりと溶け込んでいく。
□□□
学校が終わると、タロウは足早に帰路についた。
いち早く、彼女に美味しかったと一言伝えたい。そんな当たり前の感情が、今の彼を突き動かしていた。
だが、駅前の大型ビジョンを通りかかった時、タロウは足を止めた。
『大人気アプリ、新イベント開催! ――今、キヴォトスの夏が熱い!』
画面に映し出されていたのは、水着を着て、こちらを睨みつけながらも顔を赤らめている「銀鏡イオリ」の姿だった。
周囲の通行人は、誰もその少女が自分の家で一緒に住んでるなんて思っていない。
けれど、タロウは知っている。あの絵のモデルである本人が、今、自分の帰りを待っていることを。
ビジョンの中のイオリと、脳裏にいるエプロン姿のイオリ。
二つの現実が激しく火花を散らすような感覚に、タロウは軽い眩暈を覚えた。
「……抗えない、のかな」
この世界における彼女の立ち位置。そして、彼女をこの世界に繋ぎ止めている自分の役割。
ふと、背筋に冷たいものが走った。誰かに見られているような、そんな不気味な感覚。
タロウはパーカーのフードを深く被り、逃げるようにアパートへの道を急ぐのだった。
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