従順少女ノ魔女裁判 作:夏目
この二次創作は『魔法少女ノ魔女裁判』本編のネタバレを数多く含みます。閲覧の際はこちらの点に注意し、十分なご理解の上でご覧くださいますと幸いです。
・本編のネタバレ
・独自の設定
・オリキャラ
・オリジナル展開
以上の点にご留意ください。
よろしくお願いします。
触れそうな特殊タグがあれば、触ってみると面白いかもしれません。
【第一審】日常→異常
──15歳の少女、
「おはようございます。……あれれ? 私の家、ここまで開放的な構造をしていたっけな……」
なるほど随分なリフォームだ。トウカはひとまず、現状を把握するためにも周囲を見渡してみることにする。天井が近く、床が遠い。どうやら自身の体は【二段ベッドの上段】に横たえられていたらしかった。
下段からは何者かの吐息。ふむ、相部屋か。まるで寮のようだな──そう思いながら、彼女はさらに周辺に視線をやる。
壁には古めかしいモニター。【目を凝らして】よく見てみるとそこそこ年季が入っているようで、液晶が所々割れているようだ。トウカの記憶が正しければ、こんなテレビは我が家に設置されていなかったはずである。今は電源が入っていないようだし、リモコンなんかも見当たらないが、果たしていつ使うのだろうか。
少し視線をずらすと、嫌でも目につく鉄格子。そこから覗く外の景色はほとんど壁だった。私の家族はここまで悪趣味だっただろうか? あろうことか、娘を閉じ込めているかのような……いやまあ、養ってもらっている以上は文句を言うつもりもないのだけれど。
トウカは脳内でそんな独り言を吐きながら、頑丈そうで破壊もままならなそうな鉄格子を【観察】することをやめた。
続いて自分の身体に纏わりついている衣服を確認する。昨夜は21時ちょうどに、無地で質素なパジャマに身を包み就寝したはずだったが、今のトウカの服装はといえば、一言で表すのならば【グレーを基調としたスーツのようなドレス】だった。
なんというか、スーツにロングスカートを無理やり合わせたかのような印象を受ける。ちぐはぐだと、総評することも可能である。
(……ちょっと、
服装がちぐはぐなことはこの際どうでもいい。トウカはファッションに疎かったし、そもそも興味もなかった。ただ、なにやらごてごてと色々なアクセサリが取り付けられていることには、しかし眉を顰めざるを得なかった。
トウカからしてみれば、その衣装にはあまりにも無駄が多すぎた。人生を送る上では必要のないものばかり。無駄だし、無闇だし、何より無意味だ。
だからそれらを取り外そうとしてみたが、しかしせっかく先方のご厚意で付けてもらったものかもしれないのだからと思い直し、ひとまず付けっぱなしにしておくことに決めた。
と、そこで。
鉄格子の外から、
「ねえ! ここどこなのかな!?」
「こんなところに閉じ込めるだなんて、何を考えていますの!?」
「少女監禁とか、犯罪だよこれ! 人生終わっちゃうよ!?」
「ぶっ殺すぞ! ざけんな、こっから出せっ、おい!!」
声の主は聞こえただけでも4人。
私と、そして二段ベッドの下段にいる何者かを合わせて、合計で6人。
ふむ、なるほど。【一部屋につき2人組】だと、そう捉えてしまって相違ないだろう。そうでなければ、
……先ほど聞こえた【4人の声】。トウカはそれを余すことなく、寸分の違いなく【聞き取る】ことができたわけだが、先ほどの声には
声の大きさや響き方から予想するに、私たちが閉じ込められている檻房──【牢屋】と言い換えてもいいかもしれない──は、廊下をなぞる形で一直線に配置されているということは明らかである。
私が配置された檻房からは突き当たりの壁しか見えないことを考えると、廊下は反対方向に伸びているのだろう。順番としては……2人目→3人目→1人目→4人目の順で声が遠くなっている。
それに加えて【3人目と1人目の間】、それから【1人目と4人目の間】には
ここまでに分かったことは私たちがどこかに拉致されているらしいという事実。そして【各部屋に2人ずつ収容されている】ということと、それから【部屋のおおよその数】。
これらの根拠から推理できる、
トウカが下に降りると、そこにはいかにも気弱そうな少女が瞳を潤ませながら座していた。必死に何かに祈っているようにも見える。
目を瞑っているからか、トウカが二段ベッドを降りて面と向かい合っていることに気が付いていないようである。眼前の少女の肌は白磁の陶器のように透き通っていて、新雪のように清らかな印象を受けとることができた。
何を置いても同部屋なのだ、今後何かとお世話になるかもしれない。そう考えたトウカは、未だその両目を閉ざしている、聖女のような少女と挨拶を交わすことにした。
「こんにちは、お嬢さん」
「うわぁっ!? び、びっくりしました……!」
「驚かせちゃってごめんね。突然で申し訳ないのだけど、
「──えっ? えっと……『何をすれば』って、それは、その……うぅ、私にもまだ、何が何だか……!」
それもそうか。未だに周囲の檻房からは困惑の声が相次いでいるし、トウカも表に出していないだけで、正直なところは困惑しきりだった。しかし自分よりも怒っている人を見ると逆に落ち着く、とよく言われるように、周囲の人のおかげで逆に冷静になれているのもまた事実。
どうしたものか。というか、どうしようか。私の持つ力では、現状を打破することなど到底できそうにもない。輝かしい高校生活よさらば。お父さんお母さん今まで迷惑ばかりかけてしまってごめんなさい。これからは囚人として慎ましく生きていきます──。
とか、そんなことを考えながら表情には出さないように落ち込んでいると。同室の聖女然とした少女が突如として立ち上がり、それからトウカの両目に手のひらをかざしてきた。
「そのまま、じっとしていてくださいね……!」
「…………」
「むむむ……! っ、だ、ダメですっ……私の【魔法】では、治せないだなんて……」
「ありがとう、大丈夫だよ。別に
「えっ……? そ、それなら、どうして──」
「どうしてって……【趣味】かな」
「しゅ、【趣味】……?」
「うん、【趣味】。落ち着くんだよね、
トウカは自身の目元に巻かれている仰々しい包帯を優しく撫でつつ、そんな言葉を口にする。目尻に光を浮かばせている優しげな少女はひとまず納得したらしく、安堵のため息をついた。
と、その時。
先ほどから主張が強かった壁のモニターから【通電した音】が響いた後、すぐにその液晶に映像が流れ始めた。
そこに映り込んでいたのは──
それもただのフクロウではなく、
「あー、もしもし……聞こえてます? というか、映像って見えてます? なにせ古くて故障が多いので……困りますよねえ」
トウカは呆気に取られた。フクロウとは言葉を用いることができたのか。そんなわけがないのだが、彼女はフクロウの生態(あるいは声帯)について詳しいわけではなかったから、そういうものか、と勝手に納得してしまった。
それからフクロウは、わざとらしくため息をついてから言葉を発する。
「私、ゴクチョーと申します。皆さんさぞかし混乱していることでしょうし、詳しい説明がしたいので──ラウンジに集合してください」
「
「えっ!? ど、どう思う、と聞かれると……多分、そうなんじゃないでしょうか……?」
「檻房の鍵を【看守】が開けるので、皆さんは大人しく着いて行ってくださいね。抵抗とかはしてもらっても構わないんですけど──その場合、命とかなくなっちゃうので」
だからまあ、大人しくしていてくださいね。
ゴクチョーの言葉に言外に込められた意味をトウカが察するまでに、そこまでの時間はかからなかった。
ふうむ、なるほど、なるほど。
先ほどから断片的に得られる情報──見たまんま鉄格子な扉や、看守の存在など──から、【囚人のような扱いを受けている】ということには薄々勘づいていたが。
(まさかそのまんま【囚人】だったとは)
犯罪行為を働いた試しなど、生まれてこの方一度もなかったのになあ。そんなことを考えている間に、檻房の鉄格子からガチャリと音がした。
開く直前に電子音が【聞こえた】ことから考えるに、どうやらオートロックらしい。見た目に反してハイテクなようである。もう少しローテクでも良かったんじゃないか? トウカは疑問を呈さずにはいられなかった。
「……さて。どうやら私たちは【囚人】のようだし、それならば刑務官──じゃない、ゴクチョーさんの言うことを聞かなければね。さ、行こうか、お嬢さん」
トウカは未だベッドに腰掛けている少女に向かって手を伸ばす。対する少女はといえば、しばらく呆気に取られていたようだったが、トウカが【そういう人間】であるということを理解したらしく、差し出された手を取った。
立ち上がってみると、トウカはイメージよりも小さく見えた。というか実際小さかった。口調や立ち居振る舞いから受ける印象とはなかなか大したものらしい。少女はいっそ感心を覚えた。
(まあ何にせよ、ラウンジに向かわないことには始まらないよな)
トウカは少女の手を引き、そして檻房の鉄格子へと手を伸ばした──ところで、突如として振り返る。そうして少女が本日何度目かの困惑の表情を浮かべたところで。
トウカは真面目くさった顔をしながら、口を開いた。
「……ゴクチョーさんには【ラウンジに来い】と言われただけであって【扉を開けていい】とは一言も言われていないのだけれど、この鉄格子、勝手に開けてしまっていいと思う?」
「…………そ、それは流石に、いいんじゃないでしょうか……?」
臆病そうな少女は、どうやら同室の小さな少女が、かなりの変わり者であるらしいということを、これ以上ない程に理解させられる羽目になった。
【魔女図鑑】
【人物】
尾形トウカ[おがた とうか]
囚人番号671番。
誕生日は1月16日。15歳。
何よりも規則を重んじる堅物だが、やや天然。
【魔法】