従順少女ノ魔女裁判   作:夏目

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【第十一審】友好→有効

 

 

 

 ココの配信にお邪魔した翌日。

 自由時間の【一回目】──時間としては朝8時ごろ、トウカはマーゴに呼び出され、牢屋敷2階の【図書室】を訪れていた。

 

 何気に足を踏み入れるのは二回目なのだが、やはり目を引くのはなんと言っても、中央に鎮座する【桜の木】だろう。一体どういう設計なのか、まるで見当もつかなかった。

 

 ちなみに、例の如くナノカも着いて来ている。

 今のナノカはトウカの【護衛】なわけだから、当然と言われればその通りだった。

 

「いらっしゃいトウカちゃん、それにナノカちゃんも。本当なら私の檻房で話すのが一番手っ取り早かったのだけど、あんなに辛気臭いところで話が弾むはずもないものね?」

 

「おはよう、宝生さん。確かにそうだね、ご配慮いただき本当にありがとう──いやあしかし、今日のご飯もまずかったねえ。私の胃袋がどんどん強くなっていくのを感じてるよ」

 

「ええ、そうね。ここ数日は果物で済ませていたけれど、もう一度あの料理を食べるつもりにはなれないわ。もっとも、最悪の場合は食べるしかないとも思っているけれど」

 

「好き嫌いはダメよ、ナノカちゃん? 出されたものをちゃんと食べられない悪い子は、とんでもない折檻をくらってしまうかもしれないのに……♡」

 

 マーゴは妖艶な笑みを浮かべながら、冗談半分にそんなことを言う。しかしこの場にいる少女二人は、どちらかと言えば【冗談が通じない】寄りだった。

 

 トウカは首を傾げ、ナノカは大きなため息をつく。その様子を見てマーゴも何となく察しがついたのか、一度居佇まいを正してから、さっさと本題に入ることにしたようだった。

 

 それに合わせて、トウカとナノカも椅子に腰掛ける。マーゴとは机を挟んで相対する形になった。

 

「今日ここに二人を──というか、トウカちゃんを呼んだのは他でもない、あなたの【魔法】について、聞きたいことがあったからなのよ」

 

「……私の? ああ、もしかして昨日の配信を見てくれたのかな。だったら何となく、私の【魔法】については分かってると思うんだけど……」

 

「それはもちろん。あそこまで【見せられて】おいて、おおよその察しがつかない程に頭が悪い自覚はないわ──」

 

 机に両肘を突き、指を組んでそこに顎を乗せる。マーゴはどこぞの黒幕がよくやりがちなポーズを取ってみせ、それからトウカに向かって言葉を放つ。

 

 ともすれば、致命的な一言。

 

「トウカちゃん、あなたは昨日の配信で【人の考えていることが分かる】みたいな芸当をやってのけたけど──そんなこと、本当はできないんでしょう?

 

「うん、あれは【嘘】だよ」

 

 致命的な一言──の、()()()()()

 だけどトウカは、事前に()()()()()()()()()】くらいのことは想定していた。

 

 この牢屋敷には、未だ【魔法】が不明な者が数多くいる。眼前のマーゴを筆頭として、ココやミリア、レイアやアリサ、そしてエマが該当者だ。

 

 これらの少女の中に、【()()()()()()()()】を持っている者がいたとしても、何も不自然ではない──いや、むしろ()()()()()()()()()()()()()()

 

 だから、当然ながら。

 その程度の追求では、トウカは揺らがない。

 

「やっぱりね。呼び出したからには教えてあげるけど、私の魔法は【看破】──()()()()()()()()のよ。もっとも! 詳細にどこが嘘なのかまでは分からないんだけど」

 

「いやあ、絶対誰かにはバレちゃうと思ってたんだよねえ。まあこんな【嘘】がバレたところで、私の方針は変わらないけどさ」

 

「……その反応から見るに、やっぱりここまでナノカちゃんを連れて来たのは、その銃で私を脅すためだったりするのかしら?」

 

「いえ、私が勝手に尾形トウカに着いて来ただけよ。私は【護衛】だもの、ここにいるのはむしろ当然のことだと思うのだけど?」

 

「……【嘘】ではないみたいね。ひとまずほっとしたわ、【殺人事件を起こさせない】と豪語したあなたたちが、最初の【殺人事件】を起こしてしまうだなんて、そんな皮肉なことにはならなくて♡」

 

 あいも変わらず妖艶な微笑をたたえたまま、二人に向けてまるで嫌がらせみたいな言葉を放つマーゴ。

 

 恐らくはこちらの動揺を誘っているのだろう。でなければ()()()()()()()()()()()()()。これ以外に可能性があるとすれば、【魔法】の発動にはこちらの動揺が必要なのか、シンプルにマーゴの性格が悪いかである。

 

「まああの宣言については、完全に【わざとやった】からね。私がいる限りこの牢屋敷で起こることは筒抜け──だから、人を殺すにはまず()()()()()()()()()()()()()()()()。故に私は【安全装置(セーフティ)】として機能しているわけだけど」

 

「ええ、私が名付けたのよ。だから名付け親としての責任を果たすため、こうして【護衛】しているというわけね」

 

「……それも【嘘】、というか【冗談】なのよね、ナノカちゃん。逆にトウカちゃんの方は、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……そうね。私は今、らしくもなく場を和ませるために慣れない冗談を言っているわ」

 

「ありがとう、黒部さん。おかげで宝生さんの【魔法】もはっきりしたよ」

 

 トウカは座ったままナノカに会釈した。それに合わせてナノカも会釈を返す。連れ添って行動しているのはまだ数日だったが、既に阿吽の呼吸を手に入れているらしい。

 

 その様子を見て、誰にも聞こえないくらい小さくため息をつくマーゴ。

 

 ──ほんの少しのため息。

 ──ほんの少しの息遣い。

 ──ほんの少しの息継ぎ。

 ──ほんの少しの休息。

 ──ほんの少しの安息。

 

 ──そして。

 ──ほんの少しの、()()

 

「宝生さん」

 

「……何かしら、トウカちゃん?」

 

「【嘘が見抜ける】っての、【嘘】でしょ」

 

「…………えっ?」

 

「【嘘が見抜ける】って【嘘】なんでしょ?」

 

「いや、それはもちろん、他人の【魔法】が何かなんて確かめる(すべ)なんてないけれど……」

 

「でも、宝生さんのは【嘘】。そうでしょ?」

 

 トウカの表情は当初の笑顔のままだ。

 だというのに──()()()()()()()()

 

「さっき言ってたもんね、【私の言ったことは本心からだ】って。あの時の言葉、半分くらい【嘘】だよ」

 

 人好きのする、朗らかで優しげな笑顔。

 だからなのか──()()()()()()()()()()()()()

 

「別に、誰かを殺すとき()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。【嘘】ついてたの、見抜けてないよね。だから宝生さんが【看破】の魔法を持ってるのは【嘘】。でしょ?」

 

 何かを伝えたいわけではない、ただの笑顔。

 人間味溢れる、本心からの、普通の笑顔。

 だというのに──。

 

「大丈夫、私のことを試したかったんだよね。【本当に信用していい相手か見極めたかった】んだよね、私も昔よく無意識でやっちゃってたから気にしてないよ」

 

 ──包帯の奥にある双眸から、何もかもを覗かれているみたいで。身も心も、何もかもを引っ剥がされて、直接鷲掴みにされているみたいで。

 

「そんなに緊張しなくてもいいよお。私だって必要以上の【魔法】は使わないって決めてるんだからね? みんなともっと仲良くしたいもん」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 尾形トウカは、()()()()()()()()()()()()()

 

「んー? ああ、【嘘が分かる】っていうのはまるっきり【嘘】でもないんだ。嘘か本音かは相手の雰囲気で大体分かる……みたいな感じ? 私と似てるね!」

 

 もしかしたら、トウカは自分とは根本的に【構造】が違う別の生命体なのかもしれない。

 そんな突拍子もない思考が、突拍子もないものであるとも、到底思えない。それほどに、マーゴにとっては──トウカが恐ろしいものに見えた。

 

「……やっぱ、ここでもダメだよねえ」

 

 このまま──このまま。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──。

 

「そこまでよ、尾形トウカ」

 

 ──状況を断ち切ったのは、他でもない黒部ナノカだった。トウカの【視線】を自らの帽子で遮った彼女は、そのままマーゴへと視線を向ける。

 

 何やら申し訳なさそうに目を伏せながら、ナノカは二の句を継いだ。

 

「ごめんなさい。前々から話は聞いていたのだけど、まさか()()()()()()()だとは思っていなかったの」

 

「……いえ、こちらこそ試すような真似をしてごめんなさい。でも、こうでもしておかないと【信用】なんて得られないもの。そうでしょう、トウカちゃん?」

 

「……そう、だね。まあとりあえず、私の【魔法】に関しては何となく分かってくれたかな。つまり【嘘は見抜けない】けど、【反応次第では嘘だと分かる】って感じだね」

 

 身振り手振りを交えながら、にこにこと笑顔でそう(のたま)うトウカ。何故かは知らないが、彼女は自身が元気であるとアピールしているように見えた。

 

 いっときは狼狽えたものの、しかしそのことに気付かないマーゴではない。何やら【無理をしていそうだ】ということくらいは容易に理解できた。

 

(……【感覚強化】、確かに強力な【魔法】だけど──もしかして、()()()()()()()()()()()使()()()ことになったりするのかしら? だとすれば、常に気を張っているトウカちゃんは、今現在相当に疲弊しているはずよね)

 

 混乱しっぱなしの精神を正常な状態に戻すため、マーゴはそんな風に考えを巡らせつつ、その佇まいを再び直した。

 

 そうやって、一度冷静になろうと努めたからなのだろうか。ここでマーゴは、とある【事実】に思い至る。

 

「……ねえ、トウカちゃん、ナノカちゃん。あなたたち二人はここ数日、ほとんどの時間を共に過ごしているようだけれど、それなら当然、【情報の共有】くらいはしているのよね? 例えば、()()()()()()()使()()()とか」

 

「えっ? ああ、うん。細かいところはぼかしてるけど、大体は共有してるよ。いざとなった時、一番近くにいた人同士で信用し合えないと困るしねえ」

 

「……今このタイミングでそれを聞いたということは、あなたも私たちの【魔法】について詳しく知りたいということかしら、宝生マーゴ」

 

「……いいえ? 嫌がってるところを無理矢理っていうのもジャンルとしてはありかもしれないけれど──そんなことをしてわざわざ荒波を立てたくないもの♡」

 

 マーゴはそんな茶化しで場の空気を緩ませてから、ひとまず感謝の言葉と、それから別れの挨拶を吐いておくことにした。

 

「呼び出しにわざわざ応じてくれてありがとう、二人とも。私の聞きたいことは聞けたことだし、もういいわ。じゃあね?」

 

「あっ、うん。こちらこそ誤解が解けたようで何よりだよ。それじゃあ、また今度。とは言っても閉じ込められてる以上、もしかしたらまたすぐ会うかもしれないけど」

 

「……邪魔したわ、宝生マーゴ。くれぐれも変な気は起こさないようにしておきなさい」

 

 そんな言葉を残して、二人は図書室を後にした。

 残されたのは、マーゴただ一人である。

 

 そんなマーゴは、二人が離れていったのを確認してから、椅子に深く腰掛け、天井を見つめながら【笑み】をこぼした。

 

 思い至った【事実】。

 それが、ほとんど【正解】だと分かってしまったからだ。

 

(……トウカちゃん、【聴覚は強化できない】みたいね

 

 ずっと気になっていた。

 トウカがマーゴの【内心を覗き見た】時。

 

 ナノカは何故か、()()()()()()()()()()()()

 

 トウカの説明が全て正しかったのだとすれば、視界を塞がれたところで、【聴覚】が機能していればそれだけで全ての物事を察することができるはずである。

 

 それなのに、ナノカはトウカの視界しか塞がず、他は放ったままだった。二人が【魔法】についての【情報共有】をしていたのであれば、その【弱点】を無意識に放っておいてしまった可能性はある。

 

 つまり、トウカが【牢屋中の情報を知ることができる】と豪語したのは、()()()()()

 

 ……ただ、ここで問題となるのが。

 

(これ、私、()()()()()()()()()()?)

 

【殺人事件を起こさせない】と宣言し、実際に牢屋敷の全員と既に一定以上の仲にはなっていて、事実上この牢屋敷における外付けの【安全装置(セーフティ)】となっているトウカとナノカが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(何にせよ……何が起こるにせよ。大人しくしておいた方が良さそうね──)

 

 そう結論付けたマーゴは、直後机の上に置いておいた本を開き、そのまま読書へと没頭し始めてしまった。

 

 ……だから、もう一つの【事実】には、思い至りもしなかったのだろう。それもしょうがないことだった。だってそんなこと、想像できるはずもないのだから。

 

 まさか、誰だって思うまい。

 先ほどのトウカとナノカの言動が。

 

 全部、ただの()()()()だったなんて。

 

 

 








共犯者(評価者)様紹介(敬称略)
 ☆10
 もぺってぃんぐ

 ☆8
 真庭四季




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