従順少女ノ魔女裁判 作:夏目
本日は桜羽エマさんの誕生日です。
おめでとうございます。
──
何度も、何度も、何度も引き金を引いた。
だけど、何も起きなかった。
だけど、何も変わらなかった。
「っ──
──
不発、不発、不発。
未だ、トウカは生きていた。
無為に、無意味に生きていた。
「なんでっ……!! このっ、なんで……!」
なんでいつもこうなるの。
なんでいつも上手くいかないの。
一回くらい、思う通りになってくれたっていいのに。
悔しい。情けない。惨めにも程がある。
死にたいのに死ねない。
死にたい。死なせてよ。
「死ねよ! お前は──私は!! いつも、いっつも! 生きてちゃいけなかったんだ! 死んでおけばよかったんだ!」
再び銃を口に突っ込んでがちゃがちゃと乱暴に扱うトウカ。さっさと脳幹の辺りを吹っ飛ばしてやりたかったのに、意に反して銃が【火を吹くことはなかった】。
その間も絶えず頭の中を飛び交う、自身を罵倒する言葉の数々。
死んでしまえ。
生まれてきたのが間違いだった。
お前が友達なんか作ろうとするからこうなった。
牢屋敷に来た時点で死んでおくべきだった。
全部が無駄だったんだよ。
ナノカちゃんに死んで詫びるべきだ。
そんなことをして何になる。
思い上がるな。
お前の命に価値などない。
結局お前は自分を自分で痛めつけて償ったつもりになっているだけだ。
許しなど乞うな。
赦してもらえるだなんて思うな。
苦しむことだけが私にできることなんだ。
お父さん、お母さん、悪い子の私を殺して。
できる限りの苦痛を感じながら死ぬべきだ。
死んだところで何も変わらない。
穢れた死体など晒すな。
でも無様に死ね。
お前はナノカちゃんとは違って醜いんだ。
勘違いするな。
綺麗に死ねると思うな。
死にたくない。
でも、死なないと。
無様にも程がある。
両親に申し訳ないと思わないのか?
生きていることそれ自体が罪だと気づくには遅すぎた。
お願いだから普通でいさせて。
死ぬ方法ならまだある。
湖にでも飛び込んだらどうだ。
そんな苦しみでは物足りない。
お前の考えにはほとほと呆れた。
未だにこんなことを考えているなんて、本当にお前は何のために生きているんだ?
死ぬために生きているに決まっている。
じゃあさっさと死ね。
その身の一欠片すら残さずに死ね。
お前が生きていたという痕跡それ自体が他の何物にも変え
それなら【焼却炉】で死のう。
ナノカちゃんが死んでしまったというのに、涙の一つも出なかった私はきっと【魔女】だ。
【魔女】は火に炙られて死ぬものと相場が決まっている。
お前は本当に救いようのない頭脳をしている。
どうして死ぬことにそんなに時間をかけようとしているのか理解に苦しむ。
今すぐ死ぬことがお前にできる唯一の行動だ。
お前が為す最初で最後の善行は今すぐ死ぬことだ。
今すぐ死ぬためには、どうすればいい?
湖はダメだ、死体が膨らむから。
みんなにそんなものを見せるわけにはいかない。
木に頭を打ちつけるのは?
死ぬのに時間がかかりすぎる上、万が一生き残ってしまったらおしまいだ。
確実に死にたいのだから、確実に死ねる方法でないと。
お前の【魔法】は何のためにあるんだ?
そっか。私の【魔法】って【苦しんで死ぬ】ためにあったのか。
だったら簡単だ、やることは一つしかない。
トウカはそこまでほとんど一瞬で考えた挙句、手に持っていた銃をナノカの
そして、トウカは【包帯】を
「……これなら、
トウカは包帯を手に持ったまま、ナノカが背を預けている木によじ登り始めた。そうして、周囲にある枝の中から、【一番頑丈そうなもの】を見つけ出した。
それに
トウカは包帯の先端部分──【輪っか状】になったその部分に首を通し、そして木の枝に
包帯で作った縄(あるいは紐)の長さはそこまで長くない。だから、このまま飛び降りても首の骨は折れない。
苦しみながら死ぬことになるだろう。
痛みに喘ぎながら許しを乞うことだろう。
そうでなければならない。
そつでなくてはいけない。
トウカは【魔法】を使って、【触覚】を引き上げた。
できるだけ、苦しみ抜いて死ぬために。
悪い子は、そうやって苦しまなきゃ。
悪い子は、そうやって死ななきゃ。
ね、そうでしょ。
お父さん。
お母さん。
「いま、そっちにいくから」
尾形トウカは、いつも通りに笑顔を浮かべて。
何でもないことのように飛び降りた。
──直後。
視界が
トウカの首に、【包帯が食い込んでいた】。
「がっ、ぅは──く、は、ひ……ぃひっ……」
即席の縄だったから、本当なら鳴るはずの
強度も不安が残る。事前にチェックしたとはいえ、所詮【包帯】は【包帯】でしかない。いくらトウカの体重が軽いからって、限界というものがあった。
だけど、現在トウカは【感覚操作】で【触覚】を強化している──つまり、【
包帯が食い込んでいる部分から、絶えず刺し貫かれているかのような激痛が襲いかかる。伸長した皮膚が悲鳴を上げていた。
だからきっとトウカは、窒息するよりも先に【痛みによってショック死】する。常人が同じことをした場合に、人生の最後に感じるであろうそれの【何倍もの痛み】を感じているのだから。
だからトウカは、既にじたばたともがく力すら残していなかった。抵抗することがいっそ馬鹿らしくなる苦痛。身を委ねてさっさと終わりを迎えるのがお似合いだ。そう考えていたのも一因だった。
あと5秒も経たぬ内にトウカは気絶する。
そうしてそのまま、無様に独り寂しく朽ちるのだ。
ああ──やっとだ。
やっと、やっと!
私はようやく【普通】になれる!
これまで何千何万何億何兆と積み上げられてきた、物言わぬ【普通】になることができる!
誰にも迷惑をかけることのない、【普通】に──。
──
心が死にたがっている。身体だってそうだ。トウカは魂の奥底から全身全霊で「死にたい」と叫びを上げていた。
だけど、踏みとどまって、もう少し考えるべきだ。
仮に、ここで自分が死んだとして。
ミステリ小説の基本だ。
それは、駄目だ。
迷惑をかけないようになりたかったのに、それではむしろ、私のせいで新たな【死人】を出しかねないではないか。
しかも、【冤罪】だ。
自分は勝手に死ぬべきであって、そこに何かしらの禍根を残すべきではない。
短慮だった。
浅慮だった。
私は今、ここで死ぬべきではなかった!
……今更になって、そんな事実に気付いたらしいトウカは、しかし既にそのひらめきが【手遅れ】であるということも同時に悟った。
既に決行してしまったのだ。それに先ほど述べた通り、抵抗する力は既に残されていない。もがこうとしたけれど、やはりいつもの通り、トウカは無力だった。
残り、2秒。
まさか包帯を切断する
頑丈な木の枝を選んだ甲斐あって、ここから生還する方法は、まるでなかった。
そう、そんな方法など、一つもなかった。
少なくとも、トウカはそんな力を有していなかった。
──だけど。
例えば。
──その少女は、大声を上げながら、そしてトウカに駆け寄りながら。【
その威力は、たとえトウカの身体を吊り上げているものが【頑丈な縄】だったとしても、
だから【包帯】を焼き切ることなどまさしく朝飯前。
宙吊りになっていたトウカの身体は、呆気なく解放されることになった。
投げ出されたトウカは、そのまま地面に墜落する──ところだったが、しかしその身体は、包帯を焼き尽くした少女によって乱雑に受け止められたので、大した怪我は負わなかった。
トウカを受け止めた少女は、すぐさま首に食い込んでいた包帯を力任せに引きちぎった。焼き切った部分から火が回って来てしまえば、トウカが火だるまになってしまうことは容易に想像ができたからだ。
──紫藤アリサ。
トウカの命をすんでのところで拾ったのは、彼女だった。
「っか、く……ゲホッ、はっ──ひゅっ、ぁ、はあ……!
「はあっ、はあっ……てめぇ! 何考えて──って、お、尾形……? お前、
「わたしのことなんてっ、ごほっ……どうでも、いいからっ──ナノカちゃんが! ナノカちゃんがぁっ!!」
「は、ぁ……? どうでもいいわけねぇだろうが!? さっきまで首吊って……つーか、黒部! テメェが着いてながら、どうしてこんな、こと、に……」
──そこで、アリサはようやくナノカの状態を認識したらしい。
頭に
トウカが
つまり──つまりは。
ナノカは既に、
「くろ、べ……?」
「私のっ、わたしのせいなの……ナノカちゃん、銃で、銃で……! わたしのせいだって思って、死なないと、わたしのせいだから、死なないとって──」
「っ──どうなってんだ、マジで……じゃあ、黒部は【銃で自殺】してたって言うのかよ……?」
アリサの表情は青ざめていた。
それもそうだ。知人が自殺しようとしていたのを止められたと思ったら、もう一人の知人が
人の死に触れることなど、ほとんどない。
それも、同年代の少女が、無惨に死んでいる姿など、普通は見るものじゃないし、見れたものではなかった。
だけどアリサは、どこか苦々しげな表情──それ以上でもそれ以下でもない──を浮かべながら、冷静を保てるよう努めて、トウカに向き合った。
「……尾形。お前、【嘘は嫌い】だって言ってたよな。だったら聞かせてもらうが──お前が黒部を自殺に見せかけて殺したりしたのか?」
「そんなわけない!! そんなことするわけない!! 初めての、生まれて初めての、仲良くなってくれたお友達だったの……っ!!」
「……そうか。ま、ウチもお前らが仲良かったのは、そりゃあ知ってるけどよ──とにかく。ウチとしては、それだけ分かってれば十分だ」
「…………」
「黒部が昨日の夜から帰ってきてなかったってのは、ウチも宝生から聞いた。だからまあ……
「…………」
「尾形。黒部がどうしてこんなことをしたのかは分からねぇけどよ……。でも、とにかく、
「でも……っ」
アリサの言い分に反論を返そうとしたトウカだったが、しかし身体を起こそうとしたところで、がくっと力が抜けてしまったようだった。
それもそうだろう。先ほどまでトウカは死と隣り合わせの状況にいたのだから。アリサもそんなことは承知していたから、トウカを支える手にあらかじめ力を込めていた。
何が何だか分からないという様子で混乱していたトウカ。それを見たアリサは、しばらく迷ってから、ポケットに手を突っ込んで【青い液体の入ったビン】を取り出した。
「そ、れは……?」
「ウチがいつも氷上から処方してもらってる……【気分を落ち着ける薬】だよ。ここに拉致されてからメンタル不安定になっちまって……、だから時々もらってんだ」
「……そう、なんだ……」
ビンの蓋を開け、そこに【青い薬】をほんの少しだけ注ぐアリサ。恐らく強い薬なのだろう、トウカの目にはアリサが細心の注意を払っているように見えた。
そしてアリサは、ほんの少しだけ【青い薬】が注がれたビンの蓋をトウカの口元に持ってくる。拒む理由もなかったから、口内に注がれたそれを、トウカは迷わず嚥下した。
──すると、段々と瞼が下がり、頭がずしんと重くなる感覚に襲われた。もしや緊張の糸が切れた反動だろうか。そんな取り止めのない考えすら、ろくにまとまらない。
「今は眠っとけ。しょうがねぇから、牢屋敷まではウチが運んでやるよ」
「紫藤、さん……」
トウカは感謝の言葉を告げようとしたけれど、しかしその行為すら最後まで貫き通すことはできなかった。
ここまでの即効性だと、どれだけ強い薬なのか到底想像もつかない。だけどトウカは、そんな想像にすら辿り着くこともないまま、呆気なく眠りに落ちた。
「……眠ったか」
どうやらトウカが眠りに落ちたらしいということを確認したアリサは、そのままトウカの身体をおぶり、立ち上がった。
トウカは軽かった。
まるで、中身が全くないみたいに。
「…………黒部、ごめんな」
アリサは、振り返らずにそんなことを口にして。
それから、湖を後にした。
まのさば、スイッチ版の発売日が決定しましたね。今から楽しみです。
【
☆10
醤油1806 ひーりん ヨウリュウ
☆9
黒雪09 バイソン11 Dレイ ただのコマチ
お気に入り登録やここすき、感想など大変励みになります、ありがとうございます。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。