従順少女ノ魔女裁判   作:夏目

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【第十六審】献上→検証

 

 

 

 トウカたちはナノカの【死の真相】を知るために、牢屋敷の探索をすることに決めた。もっとも、トウカ以外の少女たちはこの8時間の間に、おおよその探索は終えていたようだが。

 

 時間は既に夕方である。そして【魔女裁判】が始まるまでは残り【2時間】だ。だから、悠長にしている暇はなかった。

 

 トウカが調べたい場所は【5箇所】だ。

 だからトウカとエマ、メルルの3人は、それらの場所に向かうことにした。

 

(さて、どこから調べようか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──トウカたちは、湖方面へと足を運んでいた。

 

 何を置いても、まずはナノカの【死体】の状況を確認しなければ始まらない。そういった考えの上での行動だった。

 

「……トウカちゃん。もし、ここにいるのが辛かったら──」

 

「いやだ。友達のことなんだ、ちゃんと知っておかないと」

 

「と、トウカさん……」

 

 恐らくエマとメルルの二人は、トウカが拳を握り込んでいるのを見て気を遣っているのだろう。実際それはありがたい申し出だった。

 

 ……トウカはナノカの死体を再び視界に入れた瞬間から、【耳鳴り】を抑えられずにいた。右耳に高音が垂れ流されている感覚がして、頭が痛い。

 

 それでも、諦めたくはなかった。

 だからトウカは、()()を直視した。

 

「……どう【見て】も、頭の一発が【致命傷】だよね」

 

「うん……それで多分、ナノカちゃんは【脳幹】を……」

 

「もっ、もしそうだったとすると……ナノカさんは、ほとんど──【即死】だったということになりますね……」

 

 目に涙をたっぷりと浮かばせながら、そんなことを言うメルル。どうやら医学の知識があるらしい。【治療】の魔法を持っている以上は当然のことだろうか。

 

 ナノカは【即死】した可能性が高いらしい。

 苦しまなかったのなら、それは不幸中の幸いだった。

 

 そんなことを考えつつ、トウカは辺りを見渡す。すると、ナノカが【自殺】に用いたであろう【魔法の銃】が、嫌でも目に入った。

 

 トウカは突如としてそれを手に取り、引き金を引いてみる。やはりと言うべきか、銃は【弾切れ】しているらしかった。

 

「それ……ナノカちゃんの銃?」

 

「うん。【魔法の銃】らしくって、一日一発ずつ銃弾が回復するんだって。装弾数は六発らしいよ」

 

「ああ、アリサちゃんが言ってたよ。さっき試しに引き金を引いてみたけど、【銃弾は発射されなかった】って……」

 

「……発射されなかったということは、【六発を使い切っている】、ということですよね? ど、どうして……?」

 

「ナノカちゃんの【幻視】があれば、その理由も分かったのかもしれないね……。でもまあ、【実際に使ったことはない】と言っていたし、予行で何発か撃ったのかも」

 

「そう、なのかな……」

 

 エマは何が言いたげにしていたが、しかしそこでトウカはとあることに気づく。それは彼女が【視覚】を強化していたが故に気づけた【事実】だった。

 

 ……【不幸中の幸いだった】というのは、訂正しなければならないのかもしれない。事実、()()に気付いたトウカは表情を苦々しげに歪めた。

 

 ナノカの頭に、【弾痕が二つ残っている】。

 

 至近距離に二つの弾痕。

 トウカの【視力】がなければ気づけないほど、些細なズレが、そこにはあった。

 

 だとすれば。

 仮に、【自殺】だったとするならば。

 

 ナノカは、即死ではなかったのかもしれない。

 

「いや……そんな、まさか……」

 

「……と、トウカさん……? ど、どど……どうしたん、ですか……?」

 

「トウカちゃん、辛そうだよ……。あとはボクたちが調べておくから、無理はしないで……」

 

「……いや、ごめん、大丈夫。ただ──昨日ナノカちゃんと約束したことを思い出しただけだよ。【ナノカちゃんに何かあったら銃を譲ってもらえる】って約束だったんだあ」

 

 そう口にしながら、ナノカが持っていた(ところをトウカが勝手に動かした)銃を持ちながら死体に近寄りしゃがみ込む──()()()()、【()()()()()()()()()()()()】。

 

 ナノカちゃんのことだ、もしかしたら何か残してくれているかもしれない。そんな考えのもと、トウカはそれがごくごく当たり前のことであるかのように、スマホを回収した。

 

(……パスワードがかかっていたとしても、私なら【指紋】でなんとなく開けられる)

 

 内心はナノカへの申し訳なさでいっぱいだったが、残してくれたかもしれない【何か】をみすみす見逃すことになるのも嫌だった。

 

 何でもないかのようにスマホを回収したトウカは、そのままスマホを堂々とポケットに潜ませる。狙い通り、エマとメルルは気づかなかったようだ。

 

「……この銃。裁判で【証拠】としても扱えるはず。二人とも──私、これを持っていってもいいかな? 弾ももう入ってないみたいだし」

 

「うん……そうしてあげて。その方がきっと、ナノカちゃんも喜ぶよ」

 

「そう、だね──そうだといいなあ」

 

 そんな風に呟きながら、トウカは辺りをざっと見回した。するともう一つ、気になる部分が目に付いた。

 

 ──ナノカの左腕。

 トウカの目元と同じように【包帯】が巻かれているそこの先端……、つまりは【手指】の部分に、かなりの量の【土】が付着している。

 

 どうやら結構な力で【地面に指を突き立てた】らしく、白魚のような美しい指の爪が【半ば剥がれかけてしまっていた】。

 

(……自分に銃を撃つのなんて、相当な覚悟がいるもんね)

 

 ナノカの身体で変わったところは、他には特にないように見えた。

 

「……ありがとう、二人とも。もう大丈夫──行こっか」

 

「うん……そうだね……」

 

「は、はい……トウカさん、もし何かあれば、わっ、私たちに頼ってくださいね……!」

 

「あはは、うん……、そうだね、ありがとう」

 

 そんな風に、どこか空回った会話を最後に。

 トウカたちは湖を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──トウカたちは、医務室へと足を運んでいた。

 

 トウカは目を覚ました場所へと戻って来たということになる。特に何かが気になっていたというわけではないが、しかしナノカの【自殺】に繋がる情報を、何でもいいから得たかったのだ。

 

 果たして。

 そこには、紫藤アリサがいた。

 

 アリサは部屋の片隅にうずくまって、何やら棚を漁っているように見える。その表情に【焦り】などは見受けられない。ただ、単純(シンプル)に探し物をしているだけらしかった。

 

 トウカはアリサに助けてもらった恩がある。この後待ち受ける【魔女裁判】で、仇として返してしまう恩だったが、しかし一生かけても返しきれない恩であることは確かだった。

 

 だからトウカは、内心を秘めたままアリサに話しかけてみることにした。

 

「あれっ? 紫藤さん、こんなところで何してるの?」

 

「あぁ? ──って、尾形と……桜羽に氷上か。お前、()()()()()があったんだからまだ大人しくしとけよ……、つっても、無理な話だろうけどよ」

 

「まあ、うん。じっとしてなんて、いられないよ。包帯巻き直してくれたの、紫藤さんだよね。ありがとう」

 

 そうしてお礼を告げてみると、アリサは「うっせぇな……」と悪態をつきつつも、しかしどこか照れた様子だった。やはり根は善良らしい。

 

 そんなアリサの姿を見て、荒んだ心が少しだけ癒されたトウカだったのだが、しかしそうではなかった者が、その場に一人いた。

 

 その少女は、氷上メルルだった。

 彼女は普段の弱気な様子からは考えられない勢いで、アリサへと近づきその手を取った。

 

「あっ……アリサさんっ! まさかっ、【あの薬】を勝手に──」

 

「だあぁっ! 違ぇっつーの! ウチはただ、【薬】について()()()()()()()()()()()があったから調べてただけだよ!」

 

 メルルの手を強く振り解いたアリサは、そのままポケットから【空のビン】を取り出す。トウカはそのビンに()()()()()()()

 

 間違いない。

 眠ってしまう前に飲まされた、【気分を落ち着ける薬】のビンだ。

 

「アリサさん!? まさか、もう全部飲みきっちゃったんですか!? とっ、とっても強い薬だって、だから一気に飲んじゃダメだって……!」

 

「……ウチが全部飲んだわけじゃねぇよ。というかそもそも、このビンは【ウチが飲んだわけじゃねぇ】」

 

「……えっ? アリサさん、それって、ど、どういうことですか……?」

 

「どうもこうも……()()()()()()()()

 

 直後、アリサはポケットから()()()()()()()を取り出した。中には【青い液体】がなみなみと注がれたままである。しかし、ほんの少しだけ減ってはいた。

 

 推察するに、アリサが普段から飲んでいたことと、()()()()()()()()()()()()()ことにより、目に見えて量が減っているのだろう。

 

「……この睡眠──じゃなくて、【気分を落ち着ける薬】のビンは、ウチが普段から飲んでた方だ。もちろん用法容量を守った上でだけどな。つーかこんなところでODなんてしたら格好の獲物だろうが……

 

「えっと……それじゃあ、アリサちゃん。その【空のビン】って一体何なの? 予備の容器とかだったりするのかな?」

 

「いや、そうじゃねぇ。もしかしたら予備の容器なんてもんがあるのかもしれねぇが、これは──ウチが【黒部の死体の近くで見つけたビン】だ

 

 瞬間、トウカは驚きに目を見開いた。

 それもそうだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

 考えられる線としては、やはりナノカが自殺の直前に使用していたということになるのだろうか。自分の頭に銃弾を撃ち込むのには相当の覚悟がいるだろうし、まともな精神状態を維持できるとも思えない。事実、トウカが自殺未遂を起こした際も、まともであるとは到底言えなかった。

 

 だからナノカは自殺の直前、気分を落ち着けるために【服薬】したのだと考えれば、一応全ての辻褄は合う。

 

 そんなことをトウカが考えているうちにも、アリサは話を進めていたようだった。

 

「氷上。ウチに処方してた【薬】、全部で何本あったか覚えてるか?」

 

「……た、確かなことは、言えませんが……少なくとも【20本】はあったはずです。医務室に備え付けのおくすり手帳に記録しておきましたし……」

 

「じゃあ十分【確かなこと】じゃねぇかよ──まあいい。つまりウチが持ってる2本のビンと合わせて、この牢屋敷には【20本】の薬がなきゃおかしいっつーわけだ」

 

「うん、まあそうなるよね。だけどアリサちゃん、()()()()()()をするってことは……」

 

「まあ、桜羽の考えてる通りだろうな──この医務室にはビンが【17本】しかねぇんだよ。残りの1本がどこにあるのか、この8時間で思いつく限りの場所は探してみたが、その【1本】がどこにもねぇ」

 

 とはいえ、それが何なんだって話だけどな。

 アリサは肩をすくめながら、そうやって話を締め括った。

 

 つまりアリサが棚を漁っていた理由は、万が一にも自分の見落としではなかったかどうかを確認するためだったらしい。

 

 トウカはそれを受けアリサの表情を【見て】みたが、やはりと言うべきか、嘘は全くついていないように思える。

 

(……ナノカちゃんの自殺を見抜けなかったんだから、こんな行為に今更説得力があるとも思えないな……)

 

 自分を責める言葉が瞬時にいくつも生まれてきたものの、しかしそれらを表に出すようなことはしない。トウカは自分なんかのせいで周りに心配をかけるのが嫌だった。

 

 心配をかけたくない。

 心配されたくない。

 

 私を心配してくれた子は、死んじゃうんだ。

 

「……アリサちゃん。ありがとね」

 

「……ったりめーだろ、んなこと」

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな風に、言葉の裏に込めた意図は、どうやらアリサに寸分違わず伝わったらしかった。

 

 その会話を皮切りに、少女たちは各々の思うままに、牢屋敷の探索へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──トウカたちは、牢屋敷前へと足を運んでいた。

 

 玄関口から外に出てすぐのところに、スプレー缶を手に持っているノアの姿があった。こんな状況だったが、彼女はいつも通り壁にグラフィティを描いていたらしい。

 

 しばらくの間その景色を眺めていると、どうやらノアの方もトウカたちに気づいたらしい。ぱあっと明るい笑顔を浮かべ、トウカたちの方へと駆け寄ってきた。

 

「あっ、トウカちゃんだ〜。それにエマちゃんとメルルちゃんも! のあね、みんなに元気になってもらいたくて、絵を描いたんだあ。どう? すごい?」

 

「……うん、とっても。いやあしかし、こうしてちゃんと見るのは初めてだけど……、さすがは世界の〈バルーン〉だ。こっちまで元気になっちゃうよ」

 

「本当にすごいよ、ノアちゃん! 外とはいえちょっと匂いは気になるけど……それでも、これを見ればきっとみんな元気になるはず……!」

 

「す、すす、すごいです……! この牢屋敷に、新しい憩いの場ができたみたいで……!」

 

「えへへ〜……のあね、何かできることがないかって考えたの。でも、のあにはお絵描きしかないから──ナノカちゃんにも、のあの絵、見せてあげたかったなあ……」

 

 しんみりと、それでいて噛み締めるようにそんなことを口にするノア。彼女が浮かべた寂しげな笑顔は伝播し、その場にいる全員の心に喪失感が押し寄せてしまった。

 

 トウカは重たい心のまま、ノアの描いた絵を眺める。

 赤や青、黄色──多種多様な色を用いて描かれたのだろう【蝶】の絵。描かれた蝶の数は【14頭】。牢屋敷に拉致された少女たちをモチーフにしていることは明らかだった。

 

 その中の2頭。薄い灰色で描かれた蝶と、濃い灰色で描かれた蝶は、明らかにトウカとナノカをモチーフにしていて。黒いリボンと白い包帯とが、【蝶々結び】で繋がっていて──。

 

(でも、もう、ほどけちゃった)

 

 まさしく、絵空事。

 現実は、描いた予想図のようにはいかない。

 

 あの時ああしていれば。

 この時こうしていれば。

 ほんの少しだけでも、未来を変えられたかもしれないのに。

 

 ……でも、今は絵空事だろうが、夢物語だろうが、何でも良かった。だってトウカは、もう【現実】から()()()()()()()()()()()()から。

 

 そんなもの、【見たくなかった】から。

 

「……城ケ崎さん。この絵、写真を撮らせてもらってもいいかな?」

 

「ん? 別にいいよ〜。みんなに見てもらうために描いた絵だからね!」

 

「ありがとう──城ケ崎さん。本当に、ありがとう」

 

 トウカはノアの手を取った上で大仰にお礼を述べてから、スマホを取り出して壁のグラフィティを写真に収めた。

 

 すぐさまトウカは、メルルやナノカに教えてもらった通りの操作で設定画面を開き、スマホのロック画面とホーム画面の両方を、ノアの描いたグラフィティに変更する。

 

「これで、よし……辛い時はこれを見て元気を出すことにするよ。城ケ崎さん、何回も同じことを言うけれど、本当に、本当にありがとう」

 

「トウカちゃん、元気出して、ねっ? 辛いことがあったら、のあがたくさんお絵描きしてあげるから!」

 

「あは、ははは……参ったな。私、そんなことされたらどんどん元気になっちゃうよお」

 

 沢山の夢みたいな景色を見せてあげると豪語するノア。ありがたい申し出だったけれど、しかしその望みは、きっと叶わないのだろう。

 

 だって、今夜の【魔女裁判】で、トウカは【魔女】として【処刑】されるから。今後ノアの描く美しい絵を見る機会もないのだから。

 

 だけど。

 都合のいい未来を願うだけなら。

 

 きっと許してもらえるよね。

 

「……この牢屋敷の壁、今は蝶の絵しかないけれど──いつかは城ケ崎さんの絵で埋め尽くされて、断然華やかな場所になっちゃうかもね」

 

「うんっ! のあ、みんなのためにたーっくさん絵を描くから! この牢屋敷を、みんなの不安が全部なくなっちゃうくらいの場所にしちゃうよ〜!」

 

 どこまでも無邪気なノア。

 それでいて、健気なノア。

 

 そんな彼女の姿に、ほんの少しとはいえ──トウカたちは間違いなく、【希望】を見出していた。

 

 牢屋敷が陰鬱一辺倒ではなくなるのも、きっと時間の問題だろう。何となくそんな風に考えて、新たなグラフィティを描き始めたノアを横目に、トウカたちは牢屋敷の探索へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──トウカたちは、監房へと足を運んでいた。

 

 監房と一口に言いはしたものの、しかし実際のところトウカたちが足を運んだのは、他の誰でもない──ナノカが過ごしていた監房だった。

 

 さらに厳密に言えば、ナノカとマーゴが過ごしていた監房である。だから当然と言えば当然だが、そこには先客、というかまるっきり住人であるマーゴがいた。

 

「……あら、トウカちゃん。あなたは目が覚めたのね、良かったわ」

 

「……そうみたいだね。ちょーっとおちおち寝ていられるような状況でもなくなっちゃったから、しょうがないよ」

 

「うふふ、そうね……しょうがないのよね。だけど困ったわぁ、ただでさえ静かな部屋だったのに、もっと静かになってしまうんだもの」

 

 マーゴは明らかに落ち込んでいた。わざわざ【見ず】ともそのことが伝わってくる。彼女の【声色】は、誰がどう聞いても元気がある者のそれではない。

 

 ナノカがいなくなってしまって、普段は飄々としていたマーゴも流石に()()()()しまったらしい。同室だったのだから、そのショックは計り知れないだろう。

 

 本音から、本心から落ち込んでいる。

 きっとみんな、そうだった。

 

 

「ナノカちゃん、昨日の夜は珍しくあの子の方から話しかけてきたのよ。【リボンを探しに行ってくる】って。普段は私がちょっかいをかけても無視されていたから、本当に驚いたわ」

 

「マーゴちゃん、普段からみんなにちょっかいかけてたもんね……」

 

「エマちゃん、私だって傷つくのよ? かけたくてちょっかいをかけていたのではなくて、私にちょっかいをかけさせるみんなが悪いのよ」

 

 無茶苦茶な言い分だったが、しかしその戯言にも普段ほどの元気はない。どちらかと言えば、そういった言葉を吐くことで何とか平静を保っているようにも見えた。

 

 きっとそれがマーゴなりの処世術なのだろう。できる限り動揺を表に出さないよう努める彼女の姿は、健気でもあり、痛ましくもあった。

 

「ところで、3人は何をしているのかしら。やっぱりナノカちゃんの【死の真相】でも解明しようとしているところだったり?」

 

「うん、その通りだよ。ナノカちゃんは私に初めてできた友達だから、()()()()()()()()()()()()()()くらいは──」

 

「そう。それじゃあトウカちゃんは()()()()()()()()()()()()と信じているのね。良かったわ、それなら私とあなたは同じ意見のようだし」

 

「──えっ? それは……どうだろう? 私としては、ナノカちゃんは【自殺】だと思っているんだけど……」

 

「あら、それこそどうしてなのかしら? ナノカちゃんと最後に会った時、あの子はあなたと友達になれたこと、本当に【嬉しそうにしていた】のよ?」

 

「…………そう、なんだ……」

 

 マーゴの口から突如として飛び出した衝撃の事実。どうやらナノカは、トウカと友達になれたことそれ自体を密かに喜んでいたらしい。

 

 ──そうでなければ、どれほど良かったか。

 ──そんなこと、知りたくなんてなかった。

 

 だって、そうだろう。

 そうなのだとしたら。

 ナノカが【自殺】した()()()()()()()()()()()

 

 それに、いくらでも可能性は挙げられる。

 いっときは友達になれたことを喜んだけれど、後々後悔が押し寄せて【自殺】した、とか──とはいえその推理にも、やはり無理があった。

 

 それじゃあ。

 それじゃあ、まるで。

 

 ナノカは、【自殺】なんかじゃなくて──。

 

「それに、それならあなたたちの行動の方が不可解よ。わざわざ友達の【自殺の理由】を暴こうとするだなんて……、人には触れられたくない部分が少なからずあるものなのだし、本当に【自殺】だと考えているのなら、放っておいてあげればいいじゃない」

 

「それ、は……」

 

「トウカちゃん。あなたも本当は気づいているんじゃないの? もしくは、信じているんじゃないの。ナノカちゃんは【自殺】なんかしていないって

 

「それは……っ!」

 

「……もし。あなたが本当にナノカちゃんのことを想っているのなら、【目を背ける】のは()()()()()()()()()()()。というかそもそも、()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()?」

 

 マーゴの言葉は、【聴力】が悪化しているトウカの耳によく響き、ずしんと重々しくのしかかった。

 

 重い。

 言葉が、重い。

 

 そうだ。

 言葉は重い。

 きっと、他の何よりも。

 

「……少し、言い過ぎてしまったわね。トウカちゃんだって傷ついているのは同じことなのに──ナノカちゃんを最初に見つけたの、あなたなのよね」

 

「……うん。私が、ナノカちゃんを見つけてあげられた」

 

「そう……大変だったでしょう。生まれて初めての友達になってくれた子が、翌日()()()()()になってしまうだなんて──考えるだけで、胸が張り裂けそうだもの」

 

「全身が引き裂かれたみたいな気持ちだよ。だから、私は……ううん、やっぱり何でもない。忘れて」

 

「ええ、忘れてあげるわ──それで、あなたたちはまだ牢屋敷の調査を進めるのかしら? それなら3人とも、頑張ってちょうだいね」

 

 そんな風にやりとりを交わして、少女たちは再び各々の思うままに行動することにした。

 

 ──なお、このやりとりは、トウカにまた一つの決意を固めさせるきっかけとなってしまったことも、事実だった。

 

(……やっぱり、【自殺】では【全会一致】は()()()()。私が【ナノカちゃんを殺した】ことにして、むりやり【全会一致】を取るしかない)

 

 もしかしたらマーゴの言う通り、他に【真犯人】がいるのかもしれないけど。トウカにとっては、それも既に()()()()()()ことだった。

 

 トウカはもはや、自暴自棄だった。

 全部が、どうでもよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──トウカたちは、食堂へと足を運んでいた。

 

 普段なら少女たちで賑わっているはずの食堂に、人の影はまったくない。閑散としているどころか、閑古鳥が鳴いている始末だった。

 

 それもそうだろう。ほとんど一週間程度の付き合いだったとはいえ、知人が死んでいる姿を目の当たりにすれば食欲など湧こうはずもない。

 

 トウカたちもその辺りは把握していたし承知の上だった。だから、食堂に足を運んだ理由としては、トウカが最後にナノカと声を交わした場所だったからというのが大きかった。

 

「……やっぱり、ここには何にもないかなあ」

 

「そ、そうですね……でもっ、もしかしたら、何かあるかもしれませんし……」

 

「そうだよ! とは言っても、パッと見た感じだと、いつもの【ご飯と果物しかない】みたいだけど……」

 

 エマの言う通り、前日までの食堂と変わったところは見受けられなかった。隅から隅まで【凝視】してみたものの、トウカは違いを見つけることができなかった。

 

 ふと思い立って、昨日ナノカが口にしていたものと同じ品種であろうリンゴを手に取ってみる。そこにもやはり、違いなんてものは──。

 

「……? あれ、これ……」

 

 ──()()()

 何気なく手に取ったそのリンゴには、【何かで穿たれたような穴】があった。皮の上からでも分かるくらいに柔らかくなってしまっていることから、どうやら【腐っている】のだということが分かる。

 

 傷み具合から考えると、昨夜の時点ではまだ無事だったのかもしれない。しかし現在時点では既に手遅れのように見えた。少なくとも、こんなリンゴを食べようという気持ちにはならない。

 

 リンゴの数は、大きく目減りはしていない。もしかしたら補充されているのかもしれないが、それにしたって一番上に【腐ったリンゴ】があるのは不自然だった。

 

 どうして、こんなものが、こんなところに──。

 

「あっ、これもしかして、【配信でレイアちゃんがレイピアで刺したリンゴ】じゃない?」

 

「──えっ? あっ、あぁ……そっか、なるほどね」

 

「れ、レイアさん、空中リンゴキャッチを、ココさんに何度もやらされていましたもんね……、確か合計で【4個】でしたっけ……?」

 

 数日前のココの配信。そこでレイアは、確かに空中リンゴキャッチを成功させていた。その際レイピアで貫いたリンゴの数は、最初の1個と直後の3個で、合計【4個】。

 

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()

 

(1個だけ廃棄を忘れた……いや、()()()()()。毎日補充されるはずのリンゴ、その一番上に【腐ったリンゴ】が1()()()()()()なんてことは、不自然極まりない)

 

 廃棄するなら【4個まとめて】廃棄するはずだ。

 そうされていないということは、1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の二択にしかならない。

 

 だとしても、何故?

 どうしてここにある?

 何にせよ、意味が分からない。

 

 意味が分からないが──だけどもしかしたら、何かの意味があるかもしれない。そう考えたトウカは、【腐ったリンゴ】をポケットに入れておくことにした。

 

 ポケットに無理矢理押し込んだものだから、腐って柔らかくなっていたリンゴは【少し潰れてしまった】ようだった。ポケットの中から果汁が溢れ出し、そのまま染みて肌を濡らしている。

 

 不快感を覚えたが、しかしその程度のことなら【触覚】を弱化すれば問題にはならない。トウカは不快感ごとリンゴをポケットに突っ込み、エマとメルルの元へと戻った。

 

「色々と【見て】みたけど、他には何にもなさそうだったね。戻ろっか」

 

「うん、そうだね」

 

「そ、そうですね……」

 

 突如としてポケットにリンゴを捩じ込んだトウカに思うところがあったらしい二人だが、しかし今更そんなことを指摘しても何も変わらないと判断したのか、ただ首を縦に振り。

 

 そうして3人は、牢屋敷の探索に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──もう調べる場所はない。

 

 トウカたちがそう結論をつけた瞬間。

 牢屋敷中に、荘厳な【鐘の音】が鳴り響いた。

 

「これ、は……?」

 

「なんだろう……」

 

 突然響いたその音に、トウカたちはなんとも言えない不安感を抱く。するとその瞬間、彼女たちのスマホに通知が届く。どうやらメッセージが届いたらしい。

 

 メッセージの送り主は、他でもないゴクチョーだった。

 

〈【魔女裁判】の時間になりましたので、【魔女候補】のみなさんはさっさと【裁判所】に集まってください。8時間も待たされてくたくたなので、さっさと終わらせちゃいましょう〉

 

「こいつ……この野郎……!」

 

 何が「さっさと終わらせちゃいましょう」だ。

 ナノカが死んだというのに──と、トウカはそこまで考えて、しかしその【死】の一端には自身の行動が関わっていることがほとんど確かだったのもあり、歯噛みすることしかできなかった。

 

 何はともあれ。

 呼ばれたのなら、行くだけだ。

 

(……私の命で、みんなを救うから──)

 

 誰にも悟らせないよう、仄暗い覚悟を秘めて。

 トウカは粛々と、【断頭台】の待つ【裁判所】へと向かった。

 

 

 







魔女図鑑

【証拠品】

黒部ナノカの死体写真
 湖のほとりで死亡していた黒部ナノカの写真。
 頭部に二発の弾痕があり、即死ではなかった可能性がある。

 左手の爪が剥がれており、土が付着していた。


魔法の銃
 黒部ナノカが所有していた魔法の銃。
 装弾数は六発。一日一発ずつ銃弾が復活する。
 弾を撃ち切っているらしく、引き金を引いても発砲されない。

 現在はトウカが所持している。


黒部ナノカのスマホ
 シンプルながらも所々にゴシック風味の装飾が施されたスマホカバーが装着されている。

 指紋のつき方から推察するに、パスワードは0606だと思われる。


気持ちを落ち着ける薬
 青色をしている、鎮静作用のある薬。
 紫藤アリサが服用しており、尾形トウカもほんの少しだけ口にした。

 かなり強い薬らしく、副作用として眠気を誘発するらしい。


空きビン
 薬液を入れておくためのビン。
 紫藤アリサが黒部ナノカの死体の付近で発見し、持ち歩いていた。


牢屋敷前の壁画
 城ケ崎ノアが牢屋敷前の壁に描いた絵。
 牢屋敷に拉致された少女たち14人をモチーフとした蝶が飛び交っている。

 今後絵を増やしていく予定らしく、今のところ他の絵はない。


腐ったリンゴ
 食堂のフルーツかごに放置されていた、沢渡ココの配信で蓮見レイアがレイピアを用いて貫いたであろうリンゴ4個の内の1個。

 前日まではまだ食べられる状態だったのだろうが、現在は腐ってしまっていて食べられそうにない。



──◆──◇──◆──◇──◆──◇──◆──





共犯者(評価者)様紹介(敬称略)
 ☆10
 KINGクルール うりだがね 東ドイツ空軍航空部隊 はるさめ増量中 asparagus ぽじさん

 ☆9
 自業自得の擬人化 takahashi よひつじ いい兄さん 椎名真白 ゆくあいさん かがやき餅

 ☆5
 森亜




 お気に入り登録やここすき、感想など大変励みになります、ありがとうございます。

 また皆様のおかげで共犯者(評価者)様が50人を突破し、総合評価も1,000ptを突破した上、UAも10,000を突破いたしました。

 本当にありがとうございます。
 今後とも何卒よろしくお願いいたします。


現時点で怪しいのは誰?

  • 桜羽エマ
  • 二階堂ヒロ
  • 夏目アンアン
  • 城ケ崎ノア
  • 蓮見レイア
  • 佐伯ミリア
  • 宝生マーゴ
  • 黒部ナノカ
  • 紫藤アリサ
  • 橘シェリー
  • 遠野ハンナ
  • 沢渡ココ
  • 氷上メルル
  • 尾形トウカ
  • ゴクチョー
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