従順少女ノ魔女裁判 作:夏目
本日は城ヶ崎ノアさんの誕生日です。
おめでとうございます。
ヒロが15年の短い人生に終止符を打ち、少女たちが未だ混乱に陥っているというのに、ゴクチョーはそれが当たり前であるとでも言いたげに、気だるげな雰囲気のまま説明を続けた。
彼(あるいは彼女)が言うには、【魔女は簡単には死なない】とのことらしい。皮肉なことにヒロの感情に任せた行動は、彼女の【正しさ】を証明することになった。
二階堂ヒロは、【魔女ではなかった】。
「あっ、あと皆さんに最も大切なことを伝えておきます。魔女になりつつある者は、
「つまり、いずれ私たちの間で【殺人事件】が起こると。ゴクチョーさん、そういうわけですね!?」
「その通りです、橘シェリーさん。ええ、まあ……毎度のことなんですが、困っちゃいますよねえ」
人が一人死んだというのに、随分と明るい声で問いかけたシェリーに対し、ゴクチョーもやはり気だるげに返す。心底うんざりしているのは本当らしい。
……それにしては、やたらと
(やはりみんな、気に病んでいるのかな)
トウカ自身も思うところはあった。
例えばあの時、ヒロと看守の間に自らの身体を捩じ込んでいれば、自身の絶命と引き換えに彼女の命を救えていたのだろうか……とか。
しかし過ぎたことをいつまでも引き摺っていては、次に命を落とすのは恐らく自分だ。決断が遅いものから弾かれていく、親からも常々言われていたことだった。
だけど、それでも。
やはりもっと何か、自分にもできたことがあるのではないかと、そう考えてしまうのが人間の
「……ウカくん。トウカくん! 目の前でヒロくんが死んでショックだったのは分かるが、ひとまず私の話を聞いてくれないか?」
「ん……ああ、うん。ごめん、ぼーっとしてしまっていた。こういう時こそ、平静を保たなくちゃね」
レイアの呼び掛けに対して即座に反応したトウカは、その態度をフラットな状態に戻す。ここで慌てたところで、その狼狽が連鎖的に伝染し、余計なトラブルを生むだけだ。
ふと周囲を見渡すと、ほとんどの少女たちは既に檻房へと戻ろうとしているところだった。残っているのは6人。レイア、トウカ、エマ、ハンナ、シェリー、メルルのみである。
「……ああ、なるほど。
「トウカくん。先ほども話したのだけど、キミは自失の状態にあったからね。もう一度話したほうがいいかな?」
「そう、だね。そうしていただけると、私としてはとても助かる」
「うん、承知した。とはいえ【規則】によれば、私たちは檻房にいなければならない時間帯だし……。ひとまず基本的なことだけ、檻房に戻りながら話すとしようか」
レイアはそう言いつつ、トウカに向けてやたらとキザっぽい仕草で右手を差し出してきた。どうやらその手を取って欲しいらしい。
ふむ、どうしたものだろうか。
恐らくレイアは、先ほどまで呆然としていたトウカのために、緊張をほぐすための行動を取ってくれているのだろう。
そう考えつつ、トウカはレイアの手を──。
檻房へと戻ってきた後。トウカはレイアから聞いたいくつかの話を頭の中で整理していた。
まず初めに考えたのは、【魔女裁判】という制度について。殺人を起こした【
正直なところ、
(何度も同じ囚人番号を使いまわしている可能性もあるけど……、まあ、そこを気にしたところで何かがどうにかなるわけでもないか)
それに加えて、魔女裁判のシステムには穴がある。
魔女を特定できればその者だけ処刑、特定できなければ全員処刑というシステムである。わざわざそんなことをするくらいなら、さっさと全員処刑してしまえばいいのに。
「その辺り、氷上さんはどう思う?」
「えっ、ええっ!? 私……ですか?」
「うん。こういうのは一人で考えると、どうしても思考が偏ってしまいがちだからさ。色々な意見を取り入れたいんだよ」
突如として話しかけられたメルルは、やや涙目になりながらも、自分なりの考えを口にしようとしているようである。トウカはなんだか少しだけ申し訳ない気持ちになった。
それからしばらくして、むむむと唸り続けていたメルルが口を開く。
「これは、私個人の考えなんですけど……ゴクチョーさんは、私たちの中から、
「……ふうん? なるほど、それなら筋も通るかもな……。処刑をした時に死ななければ、それだけでその人は魔女であるという証左になるわけだし、極論全員殺せば、一人くらいは魔女が紛れ込んでいるかもしれないし」
メルルの推理は的を射ている──とまでは言わないにしても、何か核心のようなものを【掠めている】気がした。もっともそれならそれで、どうして一人ずつ処刑するのかは謎なままなのだが。
(とりあえず、魔女裁判について考えるのはこんなところでいいだろう)
思考にひとまずの区切りを付けたトウカは、次に先ほどメルルが使っていた
メルルが取った目立った行動は合計で二回。
一度目はトウカの目に手を
二度目は転んだエマの膝に同じく手を翳した時。
「氷上さん。出会って早々にこんなことを聞くものではないかもしれないけれど、君は……【魔法】を持っているのか?」
「……
「なるほど。……氷上さん、答えてくれてありがとう。さて──これでなんとなくは分かったよ、ここに集められたみんなの【共通点】が」
「……【魔法が使える】、ことでしょうか……?」
それもそうだ。
だが、それはあくまで【副産物】に過ぎない。
魔法が使えるかどうかは問題ではない。現にトウカは魔法を使っている自覚なんてないし、そういう意味では反証は既にあるということになる。
つまり、ここに拉致された少女たちは皆、【魔女因子】を多く有しているわけで、突き詰めればそれは【魔女になりやすい】ということなのだろう。その結果として【魔法が使えるようになる】のであれば、魔女裁判というシステムが何を目的としているのかも──。
「えっ……? で、でもトウカさん……包帯越しでも前が見えてるのって、魔法の効果なんじゃないでしょうか……?」
「……えっ。あれ、氷上さんは包帯越しに前が見えないの……?」
「は、はい……私は、というかここにいる皆さん、誰もそんなことはできないと思います……!」
「そ、そうなんだ……友達いたことないから……知らなかったな……」
「とっ、トウカさん……!」
どうやらトウカの推理はまるっきり的外れだったらしい。ただでさえ真っ白な顔がみるみる紅潮していく。一瞬にして顔中が紅く火照ってしまっていた。
それを見たメルルもまたあたふたとしてしまっている。どうにかトウカの顔を冷まそうと、その両手を使って顔を扇いだり、直接顔に当てて冷そうとしていたようだったが、むしろ逆効果だった。
「っと。そうだそうだ、恥ずかしがるより先に考えなきゃいけないことがあったんだった」
「……き、切り替え、早いんですね……?」
「うん。その辺りちゃんとしておかないと、痛い目見るのは私だしね」
友達がいなかったことを嘆いている場合ではない。そんなことよりもトウカには、早急に考えなければいけないことがあったのだから。
それはズバリ、エマ派とレイア派、
トウカがヒロの死を目にしてしまって呆然としていた間に、どうやら牢屋敷に集められた少女たちは、大まかに二つの派閥に分かれたらしかった。
ひとまずゴクチョーに従う方針のレイア派。
できる限りの力で抗い続ける方針のエマ派。
一部、どちらの派閥にも付かない例外もいるにはいるようだが、しかしここはどう考えても、孤立を選ぶべきではない場面である──と、トウカはそう考えた。
ちなみに。
トウカと同室のメルルはエマ派ということらしい。
「その辺り、私は
「そう、ですね……個人的なワガママを言うのなら、ぜひ、エマさんと一緒に──」
「分かった、そうしよう」
「──け、決断も、早いんですね……」
「まあ別に、どちらの言うことにも一理あると思っているしな、私は」
それにトウカがエマ派に付けば、お互いのバランスもちょうど半分ずつになる。この牢屋敷でパワーバランスを偏らせるのは悪手もいいところだった。
まあ、本音を言ってしまえば。
先に頼まれた方に属するつもりだったのだけど。
(私は、自分で色々考えるのは、苦手だし……)
「そういうことなら、トウカさん……これからも、よ、よろしくお願いします……!」
「ああ、うん、よろしくね。さて──それじゃあ次の自由時間、早速桜羽さんにご挨拶に行かないと」
そこまで言ったところで。
トウカはもう一つだけ、メルルに質問を投げかけた。
「そういえば、氷上さん。もう一つ教えてもらいたいことがあるんだけど」
「はい、な、なんでしょうか? 私に分かることであれば、なんでも聞いてください……!」
「この……スマートフォン? 私、スマートフォンを触ったことがないから、使い方が分からなくって。もしよければ、教えてもらえないかな?」
その時のメルルの表情は、本当に信じられないものを見たかのような表情で。トウカはその表情の理由が分からなくて、首を傾げることしかできなかった。
尾形トウカという少女は。
恐らくこの牢屋敷の中で、最も電子機器に疎かった。
【
☆10
紫彩
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ペンギン3 紅月___ モーン21
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