従順少女ノ魔女裁判   作:夏目

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 ルーキーランキング13位になりました。
 まのさば二次創作が【13位】なの、因果を感じます。
 ありがとうございます。





【第五審】被動→披露

 

 

 

 少しだけ時は流れ、現在は夕食の時間である。

 トウカたちは【食堂】へと足を運び、そして夕食を前にしておきながら、既に互いに自己紹介を済ませたエマやメルル、シェリーやハンナらと話に花を咲かせていた。

 

 ちなみに食堂の座席は特に決められていなかった。そのためトウカは、誰も使っていない椅子を一脚拝借し、さながら誕生日席のようにエマ派の食卓にお邪魔しているという形になっている。

 

「いやしかし、ここまで食欲がそそられない料理は初めてだよ。見た目はべちゃべちゃで泥のようだし、色合いもほとんど毒物のそれだ。というかそもそも、骨がまるまる入っているのには流石に目を疑ったよね」

 

「……と、言っている割には完食していますわね……。わたくしには何億年かけたって食べ切れる気がしませんわ……」

 

 夕飯を一度口に運んだ瞬間から顔面を蒼白に染め上げているのはハンナである。皿に盛られたものを残すのは彼女の矜持に反しているようだったが、しかし無理をしてまで食べる価値のあるものではないというのは、その場にいる全員の思うところであった。

 

 事実として周囲を見渡してみれば、トウカ以外の面々はほとんど完食できていない。それもそうだ、牢屋敷の料理は食えたものではない──どころか食べ物であるかどうかも怪しい──のだから。

 

「うーん、まあ私もこれが限界って感じではあるんだけどね。ビュッフェ形式だったから食べられる限界の量を取ったけれど、これ以上は無理だ。ゆるして。勘弁してください」

 

「いや、別に誰も強要はしていないのですけれど……。それにトウカさん、あなた顔色ひとつ変えずにぺろりと平らげていたではありませんの!」

 

「そりゃまあ、作ってくれた人に失礼──うぷっ。ごめんなさい強がってました、さっきからずっと胃がびくびくしてます、許してください、私が間違ってました」

 

「どうしてそんなになるまで放っておいたんですか!!」

 

 顔を真っ赤にしながら机を叩いて立ち上がるハンナ。すぐさまトウカの背中を優しくさすり始めた──ところで、突如としてトウカが微笑み始めたものだから、ハンナとしては内心()()()()()()()()といった感じだった。

 

 が、しかし。

 ハンナが想定したような結末は、ついぞいつまで経っても訪れることはなくて。何が何だか分からないという表情の彼女に、トウカはようやく【ネタバラシ】をすることにしたようだった。

 

「遠野さん、()()()()()()()()?」

 

「──……はい?」

 

「いやね、遠野さんはご飯を一口食べた瞬間からグロッキーだったし、サプライズを仕掛ければ体調も良くなるかなと思ってさ」

 

「え? いえ、あの……」

 

「私側からこれを仕掛けるのは初めてだったけど、いやあ上手くいって良かったよ! 何事もチャレンジしてみないとねえ」

 

「トウカさんあなたまさか、しゃっくりの止め方が全ての体調不良に有効だと思ってるんじゃねーですわよね……?

 

 信じられないといった表情でトウカを見つめるハンナ。もちろんトウカとしては何が何だか分からないので、ひとまず周囲を見渡してみると、エマとメルルが苦笑いを浮かべていた。

 

 ああ、なるほど。これ間違ってるの私の方だな。トウカは瞬時にそのことを察して、肩を落としつつため息を吐いた。

 

「ど、どうしたのトウカちゃん……?」

 

「ああ、いや……なんかこう、私はいつも、自分で考えたことを行動に移すとまるでダメだなと……」

 

(意外とネガティブだ……!)

 

 エマがそんなことを思っているとはつゆ知らず、一人で勝手にどんどん落ち込んでいくトウカ。その様子を見ていたメルルはあたふたとしているし、ハンナも頭を抱えていた。

 

 ──ところで、ボギンッと。

 まるで、【何かが折れた】みたいな音が響いた。

 

 どこから?

 ()()()()()()()()

 

「んー、微妙! こんなの毎日食べてたら、いつか体を壊しちゃいそうですよね! あとあと、精神の方も! まあ私は結構いける口だったみたいですけど!」

 

「えっ、嘘っ……」

 

「し、シェリーさん、いっ、今……!」

 

「ほっ、()()()()()()()()()()()()()()!? 正気じゃねーですわこの女!!」

 

 同卓の少女たちからは悲鳴じみた声が上がるが、しかし当のシェリーはどこ吹く風。今なおボリボリと骨の歯応えを楽しんでいる始末である。

 

 直後に嚥下(えんげ)し、口の中を見せびらかすシェリー。どうやら歯は欠けていないようで、にっこりと笑顔を浮かべている。しかし普通に考えれば怪我をしていて然るべきなので、すぐさまメルルが彼女の口に手を(かざ)し、【魔法】を使い始めた。

 

 それを見て、トウカはとあることを聞きたかったのを思い出した。

 

「そういえば。氷上さんの【魔法】は既にご存知の通り【治癒】なわけだけど、他のみんなもやはり【魔法】が使えるの?」

 

「【魔法】……ボクは使えないけど、みんなはどうなのかな?」

 

「んー……シェリーちゃんも使えないですねえ。そんな便利なものがあればよかったんですが!」

 

「いや、いやいやいや……あなた、先ほど【骨を噛み砕いていた】でしょう!? どう考えてもそれがあなたの【魔法】じゃありませんの! あなたの魔法は【怪力】! これは火を見るよりも明らかですわ!」

 

「ええっ!? シェリーちゃん、今をときめくパワー系魔法少女だったんですかー!? 知らなかったー!」

 

……こんの、ゴリラ女……ではなく! わたくしたちの【魔法】を知りたいと、トウカさんはそうおっしゃりたいわけですね?」

 

 ハンナが()()()とトウカに向けて指をさしながらそう尋ねる。当のトウカはといえば、質問に対する逆質問の意図を図りかねていたようだったが。

 

 まあ、(おおむ)ね間違いないだろうということで。

 とりあえず頷いておくことにした。

 

「だとすれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? だって【魔法】は、いわゆるわたくしたちの【切り札】のようなものなんですから──」

 

「ああ、そういうこと? 私の魔法は【感覚強化】だよ、さっき気付いたんだけどね」

 

「──聞いといて何ですけど、もうちょっと躊躇った方がいいのではありませんか……?」

 

「いやまあ、隠す意味がないからね──というか、()()()()()()()()()()()()()()()()と思うんだよ、この場合はさ」

 

 トウカが【あえて大きい声】でそう言い放つと、食堂の注目はトウカに集められることになった。誰が見ているのかまでは分からないけれど、しかし【見られている】ということを【感じる】ことくらいはできる。

 

 それこそが、トウカの狙いだった。

 故にトウカは、またもや想定していた通りに、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「私のこの目。みんなには言っていなかったけど、実は全然普通に【見えている】。包帯は【趣味で巻いている】──と、氷上さんに説明はしたけれど、しかしそれだって実のところは嘘っぱちだ」

 

「ええっ!? そ、そうだったんだ……ボク、てっきり目が見えていないのかと……」

 

「逆だよ、桜羽さん。私がこの包帯を巻いたのは、【見えないから】ではなく、【()()()()()()()()から】なんだ」

 

 後ろのテーブルから「そうだったのか……」と悲嘆に暮れているかのような声が聞こえてきた。恐らくはレイアのものだろう。トウカの耳はそれをはっきり捉えていた。

 

 内心でレイアへの謝罪を思い浮かべながら、トウカは話を続ける。

 

「つまり、だ。私の【視覚】は私の魔法にやって強化されていた。さっき気付いたことだけどね。そんなわけで、見えすぎてしまうからこそ、視界を制限するために包帯を巻いていたというわけだ」

 

「ちょーっと待ったー! 名探偵シェリーちゃんは聞き逃しませんでしたよ、トウカさんの【魔法】は【感覚強化】だと! つまりあなたは、【視覚以外も強化されている】のではないでしょうか!」

 

「ご明察だよ、名探偵──つまり私は、視覚が優れていて聴覚が過剰で嗅覚が良好で触覚が過敏で味覚が鋭敏なんだ。普段は抑えているけれど、それでも人間の限界を超えた感覚を手にすることくらいは容易い

 

 人差し指を立てながらそう説明すると、食いついてきたのは意外にもメルルだった。彼女も【魔法】に興味があったのかもしれない。

 

「そっ、それじゃあ……()()()()()()()()()()()()は……どれくらいの範囲の音を拾うことができるんですか……?」

 

「牢屋敷をカバーして余りあるくらいには」

 

「……えっ!? トウカさん、それ、マジですの……!?」

 

「マジマジ。私はしょうもない嘘はつかないからね、信じて」

 

「さっきしょうもない嘘をついたばかりではありませんでしたっけ……」

 

 ハンナの追求を逃れながら、トウカは再びわざと大きな声を張り上げた。

 

 もう二度と。

 ヒロのような、死人を出さないためにも。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「だからまあ、言いたいことはたったの一つなんだ──誰も、私の前で、殺人事件を起こせるだなんて浅い考えは持たない方がいい

 

 そう高らかに宣言してから、トウカは「ごちそうさまでした」と口にした。【誰にも殺人事件は起こさせない】──彼女は自分の【切り札】を速攻で切ることによって、自身をある種の【安全装置(セーフティ)】として機能させることにしたというわけだ。

 

 ──ただ、二つだけ。

 たったの二つだけ、彼女は【嘘をついた】。

 

 たった二つの、【必要な嘘】。

 

 まず、一つ目。

 それはトウカの【魔法】が【感覚強化】ではなく、【()()()()】であるということである。

 

 操作の範囲は、必ずしも()()()()()()()()

 むしろその反対、()()()()()()()()()()

 

 ……これだけならば、さしたる問題ではない。トウカがわざと視覚や嗅覚を抑えなければいいだけで、何の問題にもなっていない。

 

 ()()()

 ()()()()()()()()()()()

 

(……聴覚だけは、どうにも【操作】できないんだよなあ──

 

 尾形トウカは。

 尾形トウカの【魔法】は。

 聴覚だけは、【制御不可能】なのだ。

 

 その日の天気によって。

 その場の環境によって。

 その地の気温によって。

 

 トウカの【魔法】は、毒にも薬にもなり得る。

 

 そうなった原因は、不明。

 ただ一つだけ確かなことは、【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()】ということだけ。

 

 先刻、ヒロが看守によって首を刎ねられた時もそうだった。トウカは目の前で人が死んだのを目撃し、大きなストレスを受けた。

 

 結果として。

 トウカの聴覚は、()()()()()()()

 

 それこそ、目の前から話しかけているレイアの声を【聞き逃す】ほどに。

 

 あの時はレイアが心配して近寄ってきてくれたから声が聞こえただけであって、もしも彼女が離れた位置から話しかけていたのであれば、恐らくトウカは何時間かかろうと、レイアの声を聞き取ることはできなかったはずである。

 

 問題は、それだけではない。

 つまり、()()()()()()だけではなく、()()()()()()のも駄目なのだ。

 

 例えばトウカの聴力が過剰に底上げされた状態で、耳に流れ込んでくる音を判別しようとしたとする。当然ながら、少女たちの息遣いや生活を送る音が聞こえてくるはずである。

 

 それに加えて。

 

 誰にも聞き取れない程のとても高い音や。

 少女たちの体内を駆け巡る血潮の音や。

 誰かが扉を勢いよく閉めた時の音や。

 看守が床を這いずり移動する音や。

 屋敷の外に吹き抜ける風の音や。

 どこかの金属が軋む時の音や。

 ふと呟かれる悪意ある音や。

 水道管に流れ続ける音や。

 物体を放り投げる音や。

 誰かの咀嚼する音や。

 激しい心臓の音や。

 突然の雷の音や。

 暴力的な音や。

 虫の羽音や。

 嫌な音や。

 騒音や。

 音や。

 音。

 音。

 音。

 音。

 音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音。

 

 そんなに大量の音を聞いてしまえば──【聞かされて】しまえば、それこそトウカは()()()()だ。

 

 感覚が強化されているとはいえ。人並外れた感覚を持っているとはいえ。そんなものを聞かされれば、脳が多大なるストレスを感じることは想像に(かた)くない。

 

 ストレスを感じると、どうなるか?

 トウカの聴覚は再び【乱高下を始める】のだ。

 

 トウカの脳にとって、丁度いい音量になるまで。

 さながら拷問のように、【魔法】は暴れ狂う。

 何度でも、何度でも、何度でも。

 

(……まあ、でも。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今にして思えば、あれも全部【魔法】のせいだったんだなあ)

 

 それでも、トウカは。自分にできることを全力で為さなければ、気が済まない性質(たち)だった。

 

【魔法】という異能を手にしてしまったものとして。

 二階堂ヒロの死に報いるためにも。

 

(私は、為せることを為したい)

 

 今度こそ、みんなを守るんだ。

 トウカが胸に秘めた固い決意を(うかが)い知ることができる者は、その場に存在しなかった。

 

 それでも、トウカはやると決めた。

 尾形トウカは、人一倍の頑固者だった。

 

 

 







魔女図鑑

【人物】
 形トウカ[おがた とうか]
 囚人番号671番。
 誕生日は1月16日。15歳。
 何よりも規則を重んじる堅物だが、やや天然。また、かなりの世間知らず。すぐに恥ずかしがる。
 目元に包帯を巻いているが、それは視界を制限するためのものであって、目が見えていないというわけではない。
 見た目にそぐわずかなりの頑固者で、一度や二度の失敗ではまったく諦めない。

【魔法】
【感覚操作】の魔法。
 五感のうち聴覚を除いて任意に強化・弱化させることができる。









共犯者(評価者)様紹介(敬称略)
 ☆9
 たーか/lautz ドリアスピス




 大変励みになります、ありがとうございます。
 今後とも何卒よろしくお願いいたします。


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