従順少女ノ魔女裁判   作:夏目

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 予約投稿を忘れていました。
 申し訳ありません。





【第七審】疲労→非行

 

 

 

「おはよう、尾形トウカ。規則正しい生活を心がけているようで何よりだわ」

 

 朝6時、檻房から足を踏み出した【一歩目】のところで、突如としてそんな声をかけられたものだから、トウカといえども流石に驚いた。

 

 声のした方を見やると、やはりと言うべきか、そこにいたのはナノカだった。腕を組みながら壁に寄りかかっている。妙に様になっているのが、なんだかどうにもおかしかった。

 

「……うん、おはよう。黒部さんも朝早いんだねえ、氷上さんはまだ寝てるみたいなんだけど、宝生さんは? 確か同室だったよね」

 

「宝生マーゴはまだ寝ているわ。もしかしたら狸寝入りなのかもしれないけれど、どちらにせよ、私には関係のないことだもの」

 

「…………そうかもねえ」

 

 トウカは内心、やっぱりどっちも一線引きがちだから独特の距離感になっているのかなあ、とかも考えたりしたが。それを口に出すのはどう考えても悪手だったので、それっぽくお茶を濁すことにした。

 

 ちなみに。

 ナノカのリボンは、未だに見つかっていない。

 

 そういうわけで、本日の【自由時間】の【一回目】──6〜9時の3時間を用いて、今度こそ探し物を見つけ出してやろうという魂胆である。

 

「とりあえず、さ。腹が減っては戦はできぬとも言うし、一緒に朝ごはん、食べに行こっか」

 

「そうね。あんな最悪な料理だけど、それでも食べないよりは遥かにマシなはずだもの」

 

「……もし今日のご飯もあの調子だったら、朝は果物で済ませちゃう?」

 

「名案だわ。冴えているわね、尾形トウカ」

 

 ナノカが表情も変えずにそんなことを言うものだから、トウカは思わず微笑みを浮かべてしまった。それを見たナノカは少しだけむっとしているようにも見える。笑われたのが気に食わなかったのかもしれない。

 

 ともかく。

 こんなに狂った状況でも、彼女たちは【普通】の女の子だった。

 

 

 

──◆──◇──◆──◇──◆──◇──◆──

 

 

 

 朝食を摂り終えた二人は、今日中に探索する場所を既に決めていた。先日は牢屋敷の中をくまなく捜索したので、今日は【牢屋敷の外】を探してみることにしたらしい。

 

 牢屋敷の外──とは一口に言っても、その敷地面積は広大だ。やたらと広い【森】や【湖】、他には【花畑】なんかがあったりする。探すのは大変だろうが、くまなく探す以外の選択肢がないのもまた事実だった。

 

 ということで。

 二人は現在、湖がある場所へと向かっている最中である。

 

「尾形トウカ、足元に気をつけて歩きなさい。この辺りは起伏が激しいから」

 

「ああ、うん……ありがとう……。あのさ、一つだけ聞いてもいい?」

 

「……あなたには昨日、私の質問に答えてもらった。だから私にはあなたの質問に答える義務があるわ」

 

「そうだね。じゃあ聞くけど……なんかさっきからずっと距離近くない?

 

 そうなのだ。先ほどから何故かナノカの距離感が【近すぎる】のだ。一歩間違えば手でも繋ぐのかという距離感である。

 

 それに加えて、歩幅もぴったりとほとんど同じくらいに落とされている……気がする。気を遣われているのだろうか、【護衛】ってこんな距離感だったっけ、とも思ったが。

 

「……あなたは包帯で視界を覆っているでしょう」

 

「うん、まあね。落ち着くんだよね、こうしてると」

 

「私からすれば、その……()()()()()()()()()()のよ。転ばれでもしたら大変じゃない。だからこうして、転んでもすぐに助けられる位置にいるのよ」

 

「ああ、うん……な、なるほど?」

 

「それにあなたは身長も小さいから、何というか、どうしても気になってしまって」

 

「私、身長全然伸びなかったからなあ。最後に測った時は確か……【141cm(センチ)】だったはずだよ」

 

「そう。私は【161cm(センチ)】だから、私たちにはちょうど20cm(センチ)の差があるのね。私と話すときにはかなり見上げることになるだろうけれど、首を痛めないように気をつけなさい」

 

 ……ナノカはそう言いつつも、少しだけ屈んでその視線をトウカに合わせてくれている。やはり距離感は近いままだった。

 

 トウカとしては内心複雑だ。包帯を巻いているとはいえ、一応視界は開けているのだから。だがしかし、ナノカの言うことも理解はできた。

 

(目の前に包帯巻いてる子がいたら、私だってこうするだろうしなあ)

 

 トウカだってそうする……というか、誰だってそうする。141cmの少女、それも【目元に包帯を巻いている】のだ。助けない方が、というか、助けたくならない方がおかしい。

 

 つまりつまればつまるところ。

 ナノカの【心配】を、トウカは受け入れる他なかった。

 

 目元に巻いている包帯は【趣味】であるとはいえ。その【趣味】が周囲に及ぼす影響は考えて然るべきだろう。この場合は、周囲から【心配の目を集める】ということである。

 

 だからトウカは。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ありがとね、黒部さん。心配してくれて」

 

「お礼はいらないわ。こんなのは【護衛】として──【人】として、当然のことだもの」

 

 そんな風に駄弁りながら、二人は大雑把にリボンを探しながら、湖の方へと歩みを進め続け。

 

 そうしておおよそ10分後。

 湖に到着した二人の目に飛び込んできたのは。

 

 透き通り、神秘的とも言える湖と。

 非行少女、紫藤アリサの姿だった。

 

 アリサはぼんやりと湖を眺めていて、何をするでもなく、心ここに在らずといった様相である。

 

「あれは……紫藤さん? 彼女も朝早いんだねえ、何というか、イメージには反しているけれど」

 

「……そのようね。私たちよりも早くにこの湖へと辿り着いているということは、彼女は【朝食を摂っていない】と見るべきかしら」

 

 二人は茂みに隠れながら、声を潜めて意見を交換する。というのも、アリサはあまり【他人と関わりたくなさそう】な様子が散見されたからだ。

 

 初日から【懲罰房】に入れられてしまったアリサは、やはり【牢屋敷】やそこに集められた【魔女候補】たちへの強い不信感を抱いているようで、自由時間になるたびどこかへ消えてしまっていた。

 

 それがまさか、こんなところにいるとは。

 しかもこんなに朝早くから。もしかしたら寝ていないだけなのかもしれなかったが、そんなことはどちらでもよかった。

 

 と、その時。

 ナノカが突如として口を開く。

 

「……尾形トウカ。私の考えでは、リボンを盗んだのは彼女──紫藤アリサなのだけれど、あなたはどう思う?」

 

「ええっ!? いや、えっと……念のため理由を聞いておきたいんだけど、どうしてそう思ったの?」

 

「彼女はこの牢屋敷の中で、唯一と言っていいほど【常に一人でいる】からよ。城ヶ崎ノアもその条件には当てはまるけれど、彼女は紫藤アリサとは違って、そもそも【檻房から出ない】から」

 

「ふうん、なるほどねえ……。ま、確かに怪しいといえば怪しいけど──でもやっぱり、【初めから疑ってかかる】のって、()()()()()()()()()()()()なあ」

 

「……ええ、その通りね」

 

 トウカの言葉に対して静かに頷くナノカ。彼女も大切なリボンを失くしてしまって焦っているのだろうか……。トウカとしては、そんなことを思わないでもなかった。

 

 しかし、どうしたものだろうか。トウカとしては、やはり牢屋敷に集められたメンバーには全員で仲良くしてほしいものである。だから、こういった【疑心暗鬼の種】は早急に排除しておきたいのだけど……。

 

 そこまでトウカが考えて、小首を傾げながらうんうんと唸っていたところで。静かな湖畔に、芯の通った声が響いた。

 

「……おい、てめぇら。何か言いたいことがあんなら隠れてねぇで出てこいよ」

 

 ──声の主は、紫藤アリサその人だった。

 

 どうやら初めから気づかれていたらしい。アリサは随分と鋭いようだった。トウカとナノカは隠れている意味もなくなってしまったので、大人しく茂みから姿を現す。

 

 するとアリサも立ち上がり、トウカたちと正面から相対する形になった。トウカはメンチでも切られるのだろうか、やはりカツアゲとかされるのだろうかと身構えたが。

 

 しかしアリサの雰囲気は、先日までとは違い、意外にも穏やか──というか、もはや()()()()()

 

「おめぇらは……黒部と、尾形だったか。なんていうか、意外な組み合わせだな……ウチはてっきり、あのうるせぇ【ハエ女】が来たのかと思ってたんだけどな」

 

「は、【ハエ女】……? すごいあだ名を付けるんだね、紫藤さん……」

 

「なるほど、【五月蝿(うるさ)い】と【(はえ)】をかけているということね」

 

「うるせぇ、一々解説すんな……つーか、そこまで考えてねぇよ。ウチと同室の……橘、だったか? あいつ、毎日毎日【あなたの魔法が気になります教えてください】って、ずーっとうるせぇんだよ……」

 

 そう言ったアリサの目元を【見て】みると、少しとはいえ【隈を携えている】ということが分かった。結構な寝不足らしい。だからなのだろうか、彼女にはいつもの覇気がなかった。

 

 シェリーにも悪気はないのだろうが、しかしここまでくると、流石にアリサが不憫だった。寮生活で同室との相性が最悪だなんて、ぞっとしない話である。

 

「そんで? おめぇらはこんなところまで何しに来たんだよ。言っとくが、ウチは何も悪いことしてねぇぞ」

 

「ああ、うん。私たちはね、黒部さんが大切なリボンを失くしちゃったらしいから、昨日からそれを探してるんだよ。紫藤さん、心当たりがあったりしない?」

 

「……はあ? 尾形、お前、ウチが怪しいっつってるみてぇなもんだぞ、それ」

 

「えっ!? いや、いやいやいや! 違くってね──」

 

「その通りね。つまり私たちは、あなたが私のリボンを盗んだ犯人なのではないかと言っているのよ

 

ああ!? てめぇらウチのこと舐めてやがんのか!?

 

「違くって! 違くってね!!」

 

 バッドコミュニケーションにも程があった。発言の意図が上手く伝わらなかったのまではまだ良かったが、しかしまさか、ナノカが面と向かって()()()()()を言うだなんて。

 

 トウカはどうすればいいのかまるで分からなくなって、その場であたふたと、わたわたと両手をばたつかせているが、しかし何も思い浮かんでいないようで、ナノカとアリサを交互に見ながら、顔を真っ赤にしている。

 

 ……そのうち、トウカは解決策が浮かばなかったせいでパニックに陥ったのか、その目に涙をじわりと滲ませた。目元に包帯を巻いていたせいで、両目の位置に涙の染みができてしまった。

 

 それを見たナノカも狼狽え始めてしまって──すると、アリサは思うところがあったのか、頭に手を当てながら、大きなため息をついた。

 

「──はあぁ……朝から怒る気にもならねぇし、だからと言って誤解されっぱなしなのも気に食わねぇからはっきり言わせてもらうけどよ……ウチはそんなセコいことはしねぇよ」

 

「……言葉だけなら、何とでも言えるわ」

 

お前この状況でよくその態度できるよな……とにかく! ウチが言いてぇのは、【言葉】じゃなくって【結果】で証明してやるってことだよ」

 

「……それって、もしかして……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っつってんだよ、尾形──ああ、もう! これでいいだろ! 分かったらさっさと他の場所でも探しに行ってろ!!

 

「……感謝するわ、紫藤アリサ」

 

「……感謝なんかいらねぇよ。その代わり、てめぇのリボンを見つけた暁には、正式に謝罪してもらいてぇところだけどな──」

 

 そう言ったっきり、アリサは二人に背を向けてしまった。

 

 どうやら。紫藤アリサという少女は、素行に反して、優しい子なのかもしれなかった。

 

 

 








共犯者(評価者)様紹介(敬称略)
 ☆10
 後悔に絶唱する邪神

 ☆9
 紅生姜の里

 ☆8
 夜市よい




 大変励みになります、ありがとうございます。
 今後とも何卒よろしくお願いいたします。

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