へんなところ見聞録   作:百万回エタった猫

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クワガタ
全長10メートルを超える巨大なクワガタに似た、へんな生物。雑食性。
文字を理解出来る知能があり、同種と音を介した意思疎通をする事も可能。
あなたの事が好き。


あなたはへんな森にいる。

 あなたは今、鬱蒼とした森の中に居る。

 太陽の光すら地面に通さないような、巨大な木々がみっしりと生えている森だ。

 辺りはジメジメと湿気を帯び、地面を踏めばコケかキノコの感触が靴を通して伝わってくる。

 

 あなたは、もっとしっかりした靴を履いてくればよかったと後悔している。

 

 日本にある、チェーン店の靴屋で買った安物のスニーカーである。街中は普通に歩けるが、森の中での使用はあまり想定されてないだろう。ましてや異世界の森の中である。コケやキノコを踏んづけて出てくる水分がスニーカーを濡らし、あなたの靴下まで湿らせていく。

 鬱蒼とした森の中。日向で乾かすことも出来ずヤキモキしていると、あなたの後ろをついてきているクワガタの顎が突然あなたの股下を通り抜ける。

 あなたは突然の事で驚いていると、そのまま顎を持ち上げられてしまった。

 あなたは物理法則に従って、クワガタの顎からコロンコロンと二回転ほど転がり、クワガタの背中にお尻から着地した。

 どうやら背中に乗せてくれるらしい。顎をキチキチと鳴らし、クワガタは鬱蒼とした森の中を進み始める。

 あなたはクワガタに感謝を伝え、その背中を撫でる。

 クワガタは顎をキチキチと鳴らした。

 

 

 クワガタの背中の上は、以外にも乗り心地が良い。

 というのも、クワガタは6本の脚を持っている。歩く際は人間と違って常に3本の脚が接地しており、安定したバランスで歩く事が出来るのだ。

 そしてこのクワガタはただ大きいだけでなく、とても力持ちである。

 以前このクワガタと散歩していた時、たまたま目の前に巨木が倒れてきたことがあった。何らかの要因で巨木が倒れる事自体は珍しくないが、その時は運の悪い事に、あなたに向かって巨木が倒れてきたのだ。

 その時咄嗟にかばってくれたクワガタは、なんと驚くことに倒れてくる巨木をその顎で噛み咥えて受け止めたのだ。

 何百トンもありそうな倒木を受け止めるパワーを持つ生き物は、少なくともあなたの故郷の世界には居ないだろう。人間の作る機械ですら、木を持ち上げる事は出来ても倒木を受け止める事は出来ない筈だ。

 まあ、そういった事もあってあなたの10人や20人程度なら簡単に乗せられるだろう。

 

 あなたは、このクワガタを信頼している。

 

 光が届かない鬱蒼とした森の中。あなたは何の目印もなくただ歩いていたが、クワガタは何かの目的地に向かって歩いているようであった。

 のっしのっしとクワガタはコケやキノコを踏みつぶして歩く。これだけ菌糸類やコケ類が生えているのだから、それらを食べる小型動物、あるいは昆虫類が良そうなものではあるのだが、あなたはこの森の中でクワガタ以外の生き物を見た事が無い。

 

 時折あなたはクワガタの背中を撫でながら辺りを見回していると、鬱蒼とした森の中で不自然に光る何かが正面にある事に気が付いた。

 どうやらクワガタは、その光を目指していたらしい。のっしのっしと歩き進め、その光る何かがなんなのかようやく見えてきた。

 

 あなたは、光る巨大なキノコを見つけた。

 

 まるで東京スカイツリーのように超巨大なキノコが鬱蒼とした森の中でぼんやりと、それでいて確かな光を放っていた。

 そしてよく見れば、超巨大なキノコの元には何か人工物のようなモノがたくさん建っているのが見えた。

 鬱蒼とした森の中。超巨大な光るキノコがあるところだけポッコリとすり鉢状の穴が開いており、木々はそこを避けるように広がっている。

 遠くから見ればまるで縮尺のおかしなミニチュアのようにも思えたが、クワガタの背中に乗りながら近づいていくと、どうも縮尺がおかしいミニチュアの中の世界に入り込んでしまったようだ。

 超巨大な光るキノコの下に立つ建物一つ一つが、日本での一般的な家よりも大きい。当然、あなたがクワガタの背中から降りて立てば、まるで自身が子供になってしまったかのような家の大きさであった。

 玄関のノブの位置も、あなたの頭よりも高い位置に付いている。あなたにとって、この町は大きすぎる。

 

 クワガタが、顎をギチギチギチと何度も鳴らす。すると辺りの家の扉が開いて、内側から巨大な昆虫がノソノソと出てきた。

 

「ジーッ、ジーッ」

 

「リリリ、リリリ」

 

「ザリ、ジャリッ」

 

 セミのような巨大昆虫、スズムシのような巨大昆虫、カブトムシのような巨大昆虫と、多種多様な巨大昆虫たちがあなた達を取り囲む。

 クワガタはキチキチと顎を鳴らし、あなたの脚の間にふたたび顎を差し込んで持ち上げる。あなたは再び物理法則に従い、コロンコロンと転がってクワガタの背中にお尻から着地した。

 そのままあなたはクワガタに連れられ、町の中央にある光るキノコへと向かって行った。

 クワガタは歩きながらギチギチギチと何度も顎を鳴らし、町の中から巨大昆虫達を呼びよせながらのっしのっしと歩いていく。あなたはそれをただ見ていた。

 

 そうして、クワガタは光るキノコの根本へ到着し、そのまま光るキノコを登っていく。あなたは落ちないようにしっかりとクワガタへしがみ付きながら、ふと下を見下ろした。

 地面が遥か遠くにあり、光るキノコを登るクワガタの後を付いてくるように多くの巨大昆虫達が歩いて登ってきていた。

 

 クワガタが光るキノコに登り始めて数分。思いのほか早く光るキノコの頂点へ到着した。登っていくキノコの軸に添うようにキノコの傘に穴が開いており、昆虫達が傘の上に行き来しやすいように加工されていた。

 キノコの傘の上からの光景は、鬱蒼な森の中とは思えない程に絶景であった。空を見上げれば、巨大な木が覆い隠してしまった光がほんの僅か漏れ出て満点の星空のように見え、辺りを見渡せばぼんやりと光る大地に広がる巨大な絵。それは、クワガタを始めとした多くの巨大昆虫達が描かれた絵であった。

 陰影だけで描かれた、まるであたかもそこに居るかのようなリアルな絵。

 クワガタはギチギチと顎を鳴らし、あなたを優しくキノコの大地に降ろす。

 クワガタの後ろから現れた巨大なカブトムシがノソノソとあなたに近づき、ジィっとつぶらな黒目であなたをみつめる。

 そのまま一分、二分が経過した頃、カブトムシは再びノソノソと歩き出し、地面に描かれたクワガタの傍まで移動した。そしてその巨大な角を器用に動かし、キノコの大地にゴリゴリと絵を描き始めたのだった。

 カブトムシの角がキノコの大地を擦る度、キラキラと舞い上がるキノコの破片。そよと吹いた風にのって、暗い森の中を飛んでいった。

 そうして、僅かの間が過ぎた。カブトムシが三度ノソノソと動きだし、ザリ、ジャリと口内を鳴らす。

 あなたがそこに近づいて見えた光景は、クワガタのすぐ傍で笑顔で立っているあなたの姿絵であった。

 クワガタはそれを見て、ギチギチギチと顎を鳴らして空を見上げた。

 

 

 あなたの胸の中に、言葉にできないような熱い想いが込み上げてきた。

 

 

 

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