カリスマチート転生者先輩 in 北宇治   作:山田太郎

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北宇治高校3年 原作1年目 前

 おっす!松宮響17歳です。今日は入学式。原作通り、校門で田中指揮・暴れん坊将軍のテーマを演奏した。

 

 そして迎えた放課後。音楽室での全体ミーティング中、入り口の窓から中を覗いている3人組が見えたと思ったら、田中にだる絡みされて小笠原に救出されていた。

 良かった。ちゃんと黄前さんはここに来たんだな。うちが全国銅を獲ったから、ユーフォを辞める理由を求めていたであろう彼女は来ないかと思っていた。今朝、校門前の演奏にはどんな感想を溢してくれたのかな。

 

 その後練習を開始してすぐ、チューニングが終わった段階でまた扉が開いた。

 

「すみません」

「見学ですか?」

「いえ。入部したいんですけど」

 

 本当に始まったんだな。

 

 

 そして今日は1年生の楽器決めの日。1年生は28名入ってくれた。そして原作通りに進む楽器紹介。ただフルートは僕がやったし、今はチューバを岡部が紹介しているんだけど……

 

「……だからお願いなんだ!チューバに来てくれ!」

 

 こいつ内輪ネタ決めやがった!しかも2年生にすら通じないやつ。3年生だけが笑っていて、後輩たちは不思議そうな顔をしている。

 

「はいはい、内輪ネタ辞めようね」

「先輩、あれって結局何のネタなんですか?よく聞きますよね」

「いや、いいから。楽器決めるよー!セッティングしてー!」

 

 そうして始まった楽器決め。2年生が場を整えている最中、僕にはある思惑があって麗奈の元に近づく。

 

「麗奈。半年だけどよろしくね」

「はい、よろしくお願いします。みぞれさんは……」

 

 と麗奈がキョロキョロしているとみぞれがやってきた。

 

「麗奈、よろしく」

「はい、よろしくお願いします」

「なになにー?麗奈ちゃんは松宮くんたちの知り合いなのかな?」

「ピアノ教室の子なんだよ」

「おー、それはそれは。低音パートとか興味ないかなー?」

 

 お、あっさり釣れた。低音に上手い人を求めている彼女は、僕とみぞれの知り合いに食いつくと思った。

 

「いえ、私はトランペット一筋です」

「そっかー。今年も低音は第2希望からかなー」

「あの、ユーフォならあそこにいる黄前さんが上手いですよ」

なっ!

「へぇ〜。……どうしたの?かわいこちゃん。ちょっとお姉さんと話そうか

えぇー!?

 

 僕が会話を誘導するまでもなく麗奈は黄前さんのことを話してくれた。話を聞いていたらしい彼女は反応してしまい、そのまま田中に捕まった。すまないな、原作からの変化によって君が他の楽器になるかもしれなかったから。これで「響け!ユーフォニアム」は受け継がれるってわけよ。ユーフォによろしくだよ。

 ふぅ。一仕事こなした達成感に浸りながらみぞれと麗奈と話していると、下方向からキラキラした視線を感じる。

 

「あの!松宮響さんですよね!鎧塚みぞれさんも!」

「そうだけど……」

「うん」

「凄いです。本物です!」

「みどりー、もしかしてすごい人たちなの?」

「そうですよ!松宮先輩はホープ学生ピアノコンクール高校生の部と日報全日本音楽コンクールピアノ部門で1位を獲っています。でもそれよりすごいのが、中学3年生の時に出場者中最年少で桜井雅子国際コンクール2位です!はっ、もしや今年は……」

「あー……。うん、リベンジするよ」

「はわー!」

「あー、そういえばそんなニュースあったかも!その人か!あれ、でも吹奏楽部としては?」

「吹奏楽部としても昨年全国銅賞ですし、フルート6重奏でアンコン全国銀賞獲ってますよ!」

「おー、全国って言われるとすごさが分かるね」

「鎧塚先輩は、全日本学生管打楽器コンテスト、オーボエの部高校生銀賞です。それも1年生で!全国で2番目に上手いってことですよ!吹部に入ってる人の中では1番かもしれませんね」

「す、すご……」

「ありがとう」

 

 この子のコンクールオタクって吹奏楽部のコンクールに限ったことじゃないんだな。みぞれのことは入学式前から今でも校舎に垂れ幕が掛かっているから、調べたのか?麗奈のことは抜けているし。いや、これ使えるな。

 

「ここにいる麗奈も一緒にそのソロコンに出て、トランペットの部中学生銀賞だったんだよ」

「そうなんですか!」

「え、ええ。だけど高校生の部では金……いえ、文部科学大臣賞を獲りにいくわ。伴奏は会場の誰よりも上手いから」

「麗奈、私も負けない」

「銀もすごいですけど、おふたりとも頑張ってくださいね。みどり応援してます!」

「「ありがとう」」

 

 文部科学大臣賞は小中高それぞれの部で全楽器中1番の人に送られる賞だ。つまり、ここでは高校生の部としてみぞれと麗奈がライバルになる。

 

 麗奈のトランペットのことを聞いた部内はざわついている。これで先生が贔屓しただの言われることはないだろう。あとはトランペットパートの気持ちの問題だな。中世古は後輩に慕われているから、原田とみぞれのように上手くいくか……。ダブルリードは4人だったし、みぞれは唯一の後輩として結構可愛がられていたからな。

 僕としてはみぞれが麗奈に対して闘志を燃やしたのが意外だったな。まあ人見知りのみぞれが京都から離れて日本一の音大を志望している時点で、音楽に対するストイックさは確かか。まだ聞けていないけど、コンクールは好きになってくれたかな。

 それにしてもサファイア川島はすごい元気だ。なんか小動物みたいで癒される。本人が興奮しているのもあるのだろうけど、距離の詰め方もすごい。みぞれと麗奈がもじもじしていてこれも癒される。やっぱり僕はお兄ちゃんだったんだね。

 

「はいはい!セッティング終わったので1年生は希望する楽器のところに移動してください!」

 

 

 次の日。今は滝先生が簡単な挨拶を済ませたところだ。2、3年生も軽く顔合わせしただけなので、実質今日が初日。ここではみんなガチだから、鬼畜メガネ扱いはされない……されないはず。

 

「……では、部活を始めるにあたって、最初に私から話があります。私は生徒の自主性を重んじるというのをモットーにしています。ですので、今年1年指導していくにあたって」

 

 キー、と黒板が擦れる不快な音が鳴る。僕は本当にまんまだなーと思いながら聞いている。

 

「おっと失礼。まずみなさんで今年の目標を決めてほしいのです。これが昨年度のみなさんの目標でしたよね。そして無事に達成したわけですが……」

 

 先生は、話しながら黒板に書き込んだ「全国大会出場」という文字を背にそう言う。

 

「ああの、先生。それは貼り紙を放置していただけというか、前までのスローガンというか。私たちの目標は全国大会金賞です。あ、でも1年生もいるから多数決を……なに?」

 

 小笠原が、そのあわあわした態度とは裏腹にとても大きな目標を言うから、ギャップで笑ってしまった。副部長としてすぐ隣に立っていたので、本人に気づかれて睨まれた。他にも笑っている人いるじゃん……。1年生や先生は固まっているし。

 僕は誤魔化すように少し前に出る。

 

「あー、小笠原の言うとおり、僕たち3年生と2年生は全国大会金賞を目標としています。僕たちは一昨年から、2年生も去年からずっと。朝も7時前には集まって練習しています。コンクール期間を全力で練習するため、暇な時間を見つけては勉強してきました」

 

 2年生や麗奈が気合を入れる。

 

「だけど、1年生にそれを強要するつもりはありません。僕たちだけでも全国大会金賞を獲れるからです。みんなは練習の邪魔だけしないでくれたら大丈夫」

「ちょっと、松宮くん」

「まあ聞いてよ。2、3年生の意思は統一されてるから、目標決めるために全体で多数決なんてしたら1年生の意思は無視されるじゃん?だから、1年生は無理して参加しなくてもいいよってことを伝えたくて」

「……はあ。いやな言い方しないでよ」

「ごめんごめん。……ということで、ここでは1年生の意思を確認させてください。2択です。だらだら過ごして楽しい思い出を作るか、僕たちと全国大会金賞を目指すか。前者を選んでも構いません。僕たちと、あとはやる気のある1年生で全国大会金賞を獲ってきます。他のみんなは邪魔にさえならなければ途中で練習抜けたって、面倒だから休んだって大丈夫。そのことで責めたりもしません」

 

 先ほどまでどこかのほほんとしていた1年生たちが、背筋を伸ばして真剣な表情を浮かべている。

 

「ではいいかな。楽しい思い出を作るだけでいいという方。……次、全国大会金賞を目指す方」

 

 まあこんな言い方したら普通の心臓の子は全国大会金賞しか挙手できないよね。

 

「では1年生も全国大会金賞を目指すということで。……実はほっとしています。個人的な目標として、今年から3年連続の全国大会金賞というものがあるので、ここでついてきてくれなかったら来年以降どうなるかなと。あはは」

「ならちゃんとお願いしろよ、得意だろ」

「うるさい岡部。さっき言った朝練は1年生も来たければ遠慮せずに来てください。歓迎します。あくまでも自主練なので来なくてもいいですし、連絡等も不要です。では、先生よろしくお願いします」

「……」

「先生?」

「ああ、すみません。……今決めた目標は、みなさん自身が決めたことです。私はその目標に向かって力を尽くしますが、努力するのはみなさん自身。そのことを忘れないでください。わかりましたか?」

「「「はい!」」」

「1年生も、よろしいですか?」

「「「はい!」」」

 

 あれ、見ていなかったけど黄前さんは挙手していたのかな。……まあいっか!

 

 

「久美子ちゃん?」

「あっ、葵ちゃん」

 

「……そっか、そんなことがあったんだね」

「……高坂さんに、私は悪くないって言いたいんだ?」

「……そうかも」

 

「今日みたいに聞かれたら全国大会金賞に手を挙げるでしょ?ずるいよ」

「それ言ったらどれにも手を挙げなかった誰かさんが1番ずるいんじゃない?」

「それはそうだけど」

 

「……久美子ちゃんは、どうして吹部にきたの?」

「友達に誘われたから……」

「ユーフォを続けるのは?」

「高坂さんのせいだよ〜。田中先輩にばれちゃったの」

「本当?友達に誘われた時、あすかに誘われた時……ほっとしなかった?まだユーフォ続けられるって」

「……分かんないよ。ね、もうこの話は」

 

 考えないようにしていた私の本心を、無理やり表に引き摺り出されるようで落ち着かない。話題を変えたい私と許さない葵ちゃん。

 

「否定はしないんだ。じゃあ、北宇治を選んだのはどうして?」

「そこそこ近いし、制服可愛いし。偏差値もちょうど良かったから」

「ここなら吹部のこと諦められるとは考えなかった?」

「……考えた、かもしれない」

 

 絶対に考えた。コンクールから帰宅して、お母さんに進路を聞かれた時。真っ先に思いついたのが北宇治高校だった。中学時代の部員たちが「条件良いんだけど吹部弱いんだよね」と、よく残念がっていた高校。とにかく全てをリセットしたかった。

 それが結局、北中の吹部から私含め5人も進学してきた。本当に運が悪い。

 

「うち、去年は全国行ったけど」

「その時にはもう両親に伝えちゃってたから」

「そっか。……久美子ちゃんの話を聞いてると、何度も辞めるタイミングはあったように感じるけど」

「それは……」

「ふふ。私たち本当に運が良いよね」

「え?」

「本当は辞めたくないのに蓋をして、色々考えて諦めようとした。だけど、周りが続ける理由を与えてくれるの」

「葵ちゃんも辞めたかったの?」

 

 本当は辞めたくないなんてことはない。私は中途半端だから、周りの声に応えて吹部を続けている。それだけのはずだ。

 それに、葵ちゃんが辞めようとしたなんて今の姿からも昔の姿からも想像できない。

 

「私、中学の時はこんなに必死じゃなかった。第1志望落ちたのもあって、勉強優先にするつもりだった。でも同級生の熱意にあてられて、1年の6月くらいかな?もう少しだけやってみようと思ったの」

「?」

「それで迎えた昨年の全国銅賞は本当に悔しかった。私のこれまでを考えれば大満足な筈なのに、どうして入学してからすぐ本気にならなかったんだろうって。私たちは本気だよ。辞めていった子たちのためにも全国金賞を獲るの。私は受験も部活も妥協しない」

「葵ちゃん……」

「久美子ちゃん。そんなことでうじうじしている時間はないよ。私たちみたいな普通の人にとって、3年なんてあっという間だから」

 

 小さい頃は確かに年上だったけど、同年代の友達のように思っていた葵ちゃん。だけど今では、私とは大きく……それこそ、実の姉よりもずっと歳の離れた人のように感じた。

 

 

 1年生が入部してきてから1週間と少し。指示された海兵隊の合奏を滝先生に聴いてもらった。

 

「はい、ありがとうございます。次は1年生だけでやってみましょうか。足りないパートは2年生も入ってください」

「「「はい」」」

 

 あ、そうなるんだ。まあどこか緩い雰囲気のある1年生の気を引き締めるには良いのかもしれない。2、3年生の問題は田中以外ほとんど解決してしまっているから、このままだと1年生には試練がないまま3年生になってしまうんだよな。

 

「はい、そこまで。……なんですか、これ」

 

 キター‼︎聞けないまま卒業してしまうかと思っていたよ。

 

「先輩方がいないとテンポも合いませんか?指揮をよく見てください。音量も出ていません。みなさんも全国大会金賞を目指すと決めたのですから、1年生であっても、そのための戦力になる努力をしてください」

 

 1年生たちは自分の音が合っているか不安なのか、隣の人を見たり音量を下げたりしてしまう。

 まあそれでも合奏にはなっていた気がするけど、先生も1年生がネックだと思ったのだろうか。

 

「今日はこれまでにして、明日。再度1年生のみの合奏の時間をとります。2、3年生もちゃんと指導してください」

「「「はい」」」

 

 そう言うと滝先生は音楽室を出た。

 いやー、全国大会金賞を目標としているからか厳しい。でもまあ期限は明日だし、実際すぐ修正できると思う。先生も1年生の意識改善がしたかっただけだろう。

 

「えーと、1年生のみんな、ちゃんと練習して吹けるようにはなってるはずだよ。僕たち抜きでも自信を持って演奏すれば大丈夫だから」

「そうね。もう先生も行ったから、失敗しても大丈夫。改めて1年生だけでやってみましょう。指揮は私がやるから」

「「「……はい」」」

「自信を持って」

「「「はい!」」」

 

 そして1年生だけの合奏を聴く。

 できるじゃねえか……。不思議なのは、これまで中学3年生として後輩を引っ張って演奏していたはずの彼女たちが、1年上に上がった途端に自分たちの音に弱気になってしまうことだよな。

 まあ突然、上の代除いて自分たちだけでやれって言われたら不安にはなるよな。どっかミスった!?とか。

 

「うん、私はちゃんとできてると思うけど。どうかな?」

「いいんじゃない?みんな練習を信じて自信を持って吹くんだよ」

「「「はい!」」」

「まあ次は明日だから細かいところ練習していこうか」

「「「はい」」」

 

 

 あのあと、無事1年生は滝先生に認められ、サンフェスも大好評で終えた僕たちは本格的にコンクールの練習に入る。

 

「さて、ここからが重要な話です。昨年はソロパートのみオーディションで選出したそうですが、今年は全てのメンバーをオーディションで選出します」

 

 2、3年生の一部は不安そうだ。

 

「難しく考えなくても大丈夫ですよ。3年生が1年生より上手ければよいだけのことです」

 

 実際3年生は全員大丈夫だと思う。ただ3年生だけで32名、2年生は25名、1年生は28名だからね。2年生は最低でも2名落ちるところ、編成や単純に上手い1年生の影響で10名弱くらいは落ちるかな。

 ただ、今年ならB編成も組めるだろうから頑張ってほしい。問題はやっぱりトランペットソロだな。

 

 

「楽譜もらってきました!課題曲IV『プロヴァンスの風』と自由曲『三日月の舞』です」

「ありがとう傘木さん」

「「「ありがとー」」」

 

 このパートはあんまり先生の言葉は気にしていない。3年生も2年生もいつも通りだ。だけど……

 

「今年は何人取るか分からないから、みんな頑張ろうね」

「!」

「調、一緒に吹こう!」

「うん」

 

 仲が良いようでなにより。これで5人以下だったら気まずいよ。僕の記憶の映像では7人もいるから多分平気なはず……。

 

「1年生4人も先輩に遠慮しないでいいからね」

「「「はい!」」」

「じゃあ今日の練習始めます。今後の方針だけど、オーディションでやるって言われたところを中心にやっていきます。でも滝先生はそれ以外も出してきそうだから普通に全部やります」

「ありそ〜」

「確かに」

 

 そうしてパート練習を終えてここからは自主練の時間。といってもみんな教室に残って練習しているし、聞かれたら教えるからあんまり変わらない。

 だけど今日は珍しい客が来た。最初に気づいたのは傘木さん。

 

「あれ?みぞれだ。どうしたの?」

「ん。響さんに用があって。練習終わった?」

「うん。松宮先輩、みぞれが」

「聞こえてるよ。どうしたの?」

「あがた祭り、行きたい」

「あー、まだ母から聞いてないね」

「響さんと行きたい。だめ?」

 

 毎年、あがた祭りは母を引率にしてピアノ教室の子たちと行っている。これは2人で行きたいということだろう。可愛いやつめ。

 

「2人でってこと?良いよ。行こうか」

「……あの、私も行っていいですか?」

「僕はいいよ。みぞれは?」

「うん。希美も行こう」

 

 傘木さんも来ることになった。ピアノ教室の子以外と行くのは初めてだな。

 

 

 そうして迎えたあがた祭り。小さい頃はまだマシだったけど、最近の祭りの食べものの値段ってとんでもないな。いつからチョコバナナ1本300円もするようになったんだろう?1番やばいのはかき氷500円か?

 

「ちょっと適当に食べもの買ってくるね」

「分かった」

「はい。私たちここら辺にいますね」

 

 とは言ったものの、祭りに来ると何かしら食べたくなっちゃうんだよな。せめて腹にたまるものをと、歩きながら目についていたじゃがバターとたこ焼きを買って戻る。

 田中と小笠原、中世古が一緒にいたみたいだけど、僕が戻るところでどこかに行ってしまった。

 

「お待たせ。なんか食べる?」

「……たこ焼き」

「私もいいですか?」

「どうぞ」

 

 熱いであろうたこ焼きをほとんど表情を変えずに食べるみぞれ。それを見ていけると判断したか、一口で食べようとしたたこ焼きを「あふっあふっ」と必死に口内で転がしている傘木さん。さらにそれを見て慌てるみぞれ。

 

「希美、大丈夫?」

「うん。みぞれ熱いなら教えてよー」

「ごめん」

「あ、いや謝らないでいいんだけどさ」

 

 みぞれにじゃがバターを渡して、手が空いた僕もたこ焼きを食べてみたけど激アツだった。よくこれ無表情で食べれたな。早く冷めるように、行儀は悪いかもしれないけど穴を開けておく。

 

「さっきまで田中たちと何話してたの?」

「あ、それはその……」

「オーディション頑張ろうって」

「へえ。まあ2人は受かるだろうけど頑張ってね。傘木さんも遠慮しないでいいから」

「は、はい」

 

 オーディションなー。フルートの人数次第では傘木さんの代わりに同級生が1人落ちるんだよな。この子はやっぱり上手い。頼む、原作通りに大量採用してくれ滝先生!

 ……なんかみぞれがじっと見てくるな。

 

「どうしたのみぞれ」

「……あ、うん。これも食べていい?」

「食べな食べな」

「みぞれはよく食べるなあ」

「希美もこれ食べたい?」

「え?いやあ、それ先輩のだし……」

 

 確かによく食べる。教室の子と食事している時も、ずっと何かモグモグしている気がする。育ちがいいからか、一口は小さいけども。

 だけどアニメ効果でメインキャラクターは痩せている。従ってみぞれも痩せて……いや、そう考えてから見るとみぞれってちょっと丸いかもしれない。

 

「……?」

 

 じっと観察する僕の視線に対して、不思議そうに見つめ返してくれるみぞれ。……まあ、背は低いし隣にいる傘木さんは細いしで丸く見えてしまうだけだろう。

 

「うん。いっぱい食べなさい」

「甘いなあ」

「傘木さんも食べなさい」

「え?あー、じゃあいただきます」

 

 なによりいっぱい食べる子は可愛い。ちょっと丸いくらいが1番いいんだから。

 僕は冷めてきたたこ焼きを食べる。料理って出来たてのアツアツが良いみたいな風潮があるけど、僕はちょっとぬるいくらいが1番好きだな。

 

「もう1個たこ焼き食べたい」

「いいよ、はい」

 

 何故か串を受け取らずに僕をじっと見ているみぞれ。食べさせて欲しいのか?仕方ないな。

 

「みぞれ、食べさせてあげるよ。あーん」

「あーん」

 

 と思っている内に傘木さんが食べさせてあげていた。みぞれはとても嬉しそうだ。依存は脱却しても、みぞれにとって傘木さんが特別なのは変わらない。

 

「希美、お返し。あーん」

「え?あ、あーん」

 

 あら〜。傘木さんは僕の方を見て恥ずかしがっていたが、じゃがバターを差し出すみぞれの期待に染まった表情に負けて受け入れた。まあそれ僕のなんだけどとか思わない。

 

「美味しい?」

「うん、美味しいよ」

「良かった」

 

 それから祭りを周ることにした僕ら。たまに会う知り合いに揶揄われながら金魚釣りや射的などの屋台を楽しんだ。結局3人で分けたのもあって全くお腹は膨れなかったので、帰りはファミレスに寄った。

 

 今はみぞれを家まで送り届けて、傘木さんを送っているところ。

 

「あの、先輩たちは全員コンクール出れるんでしょうか」

「オーディションで手抜こうって考えてるの?」

「いいえ、手は抜きません。でも、どうしても考えてしまうんです。今年は何人取るか分からないって言われた時は、調も出られるかもなんて考えていたけど、逆もあるんだって。そうなったら……」

「まあ確かに、フルートはみんな上手くて音量もあるから余裕があるね。それで僕の次に上手いのは傘木さんだから、減らされるならあいつらの誰かだろうね」

「……」

「でも安心して。これまで何度も言ってる通り、僕は2、3年生の実力はかなり信頼してる。余裕があるのはフルートだけじゃない」

「!」

「それにあの曲フルート結構目立つし。多分あの曲を選んだ理由の1つとして、アンコンで全国銀を獲ったフルートを活かそうって考えはあったと思うよ」

 

 まあ原作でも選ばれているから、1番大きな理由は麗奈の実力だろうけど。それにユーフォニアムとオーボエもソロパートがあるからうちの実力者にめっちゃ頼っている選曲なんだよな。原作の滝先生の立場なら彼女たちに賭けるしかないもんな。

 しかし、この世界ではうちの吹奏楽部自体に全国銅以上の実力があるから、違う曲が選ばれるかと思っていた。もっと言うと、今年リズがきてしまうんじゃないかと原作ファンとしてちょっと焦っていた。2年生は圧倒的エースのみぞれとエースの傘木さんに若井さんって感じだし、これは来年も原作通りかな。そして1年生も麗奈とサファイア川島が大エースでその次は黄前さんだろうから、これも原作通りか。

 

「……ぁぁぁああ!よし。そうですよね。先輩たちも調も一緒に吹いて、それで全国金賞獲りましょう!」

「あ、ああ、うん。絶対獲ろうね」

「あはは、びっくりしました?」

「まあちょっとね。ちょっと」

「すみません。他にも言いたいことあったんですけど、やっぱ今はいいです。オーディション頑張りますね。それじゃあ送ってくれてありがとうございました!」

「また明日〜」

「はい!帰り道お気をつけて」

 

 色々考えているところに傘木さんが突然叫び出したから驚いた。今年1番驚いたかもしれない。でも前向きになったみたいだから良かった。

 僕もコンクールに向けて気合い入れないと。

 

 

「あれ〜。みぞれちゃんに希美ちゃんじゃん。昨年はどっちも違う子たちといたよね?」

「あすか先輩に香織先輩!今年は予定があったので。そちらはおふたりですか?」

「うんん。晴香も一緒。あ、ほら来たよ」

「ちょっと、待っててって、言った、じゃない」

 

 松宮先輩を待っているとあすか先輩と香織先輩に話しかけられた。晴香先輩は相変わらず振り回されてるなあ。

 

「だって晴香遅いんだもん」

「ごめんね」

「はあ……。傘木さんと鎧塚さんは2人で来たの?」

「松宮先輩も一緒です。今は食べるもの買いに行ってます」

「へ〜。こんな可愛い子2人連れ回すなんてやるねえ。……ハッ!もしかして2股公認!?」

「ちょ、そんなんじゃないですよ」

「うーん、高坂さんも松宮くんに懐いてるよね?もしかして」

「あすかも香織も後輩を揶揄わないの!」

「……麗奈は違う」

「「「……」」」

「え、麗奈は違う?みぞれちゃん達はそうなの?」

「いやいやそうじゃなくて!みぞれは変なところだけ否定しないでよ」

「私、希美となら分けてもいい」

「「「……」」」

 

 何言ってるのこの子!?

 

「え、それってぇ〜」

「先輩、みぞれの冗談ですから!少しセンスがズレてるんです」

「いやいや〜?本気に聞こえたけどなあ」

「あと、希美も響さんと分ける」

「えぇ!?本当に何言ってるのみぞれぇ!」

「鎧塚さん、2股は良くないよ。でも、女の子同士は良いと思う!」

「香織も何言ってるの!?」

「お姉さん楽しくなってきたぁ!あ、あれ松宮くんじゃない?ふっふっふ……」

「変なこと言わないでくださいね!」

「どうしよっかな〜」

「あすか先輩!」

「はいはい。私たちはもう行きましょうね〜」

「あ、ちょっと晴香、ここからが1番楽しいところなんだよ!」

「待って2人とも〜」

 

 はあ、助かった。ありがとうございます小笠原部長。

 

「みぞれ変なこと言わないでよ」

「希美は響さんの」

「先輩戻ってくるから!この話終わりね、はい」

 

 みぞれはやっぱり先輩が好きなんだな。私はどうなんだろう。

 

 

 今日はオーディションの結果発表!オーディションは2日に渡って行われ、期末テストを挟んで結果発表という形だ。結果を待ちながらじゃあテストに集中できない子もいそうだよな。時期的に仕方ないんだけど。

 ちなみに僕らの世代は昨年から総合トップ4を僕、田中、斎藤、岡部の吹部勢で独占しているぞ!僕と田中は文理別だから点数ではなく偏差値で順位付けされる関係上、文理それぞれの平均点次第で1位が入れ替わる形だ。文理分けされる前は普通に僕が負けていた。(6敗)1位をとった時は田中のお母さんが爆発するかもと思ったけど、今のところは大丈夫みたいだ。

 他の同級生も軒並み中位以上にいるし、2年生もかなり成績が良いらしい。10月まで部活やることをガミガミ言われない理由だね。1年生も頑張ってほしいけどどうだろう。部活に協力してもらっている僕が言うのもなんだけど、受験で後悔はしてほしくないんだよな。

 

 音楽室は針のような緊張感に覆われている。人数確認をしているパートリーダーを除いて誰1人喋ろうとはしないし、この中にいては動くことすら憚られるのか、どうにか目線だけ動かして周りの様子を確認しようとしている。

 その静けさを破るように、大きな音を立てて建て付けの悪いドアが開いた。

 

「小笠原、揃っているか?」

「はい。全員います」

「そうか。……それでは合格者を読みあげる。呼ばれた者は返事をするように」

「「「はい」」」

 

「……続いてフルート」

 

 原作通り7人受かるか、それとも……

 

「……井上調」

「っはい!」

「傘木希美」

「はい!」

「ピッコロで雑賀頼子」

「はい」

「以上6名」

「ぅ……」

 

 原作より1名減ってしまったか……。まあ1年生エースの高橋さんと2年生以上との間には結構な実力差があるからバランスを考えると仕方ないかな。フルートの音量は十分だし、うちには他のパートにも取りたい人がたくさんいただろう。

 

「では最後にトランペット。中世古香織」

「はい」

 

 問題のパートだ。中世古には申し訳ないが、麗奈の勝ちは原作通り揺るがない。

 中世古は目を閉じていて何を考えているのか分からない。ソロパートを絶対に吹くと気合いを入れているのか、敗北を受け入れる準備をしているのか。

 

「笠野沙菜」

「はい」

「滝野純一」

「はい」

「吉川優子」

「はい!」

 

 頼むぞ、ギスギスはしないでくれ。2年もここで過ごした人間として、そんな様子は見たくないと純粋に思う。

 

「高坂麗奈」

「はい!」

「以上5名。ソロパートは高坂麗奈に担当してもらう」

「ぁぁ」

「……はい!」

 

 麗奈の実績は全員知っているから、結果を疑う者はいない。加えてみぞれが去年今年と原田からソロを勝ち取っていることもあって、多くの人が結果に納得していると思う。

 しかし、一部……特にトランペットの2年生は穏やかではなさそうだ。中世古は後輩から慕われているからなあ。みぞれが唯一の後輩だったダブルリードのようにはいかない。

 

 ……ふと嫌な予感がした。原作と違って麗奈の実力はソロコン銀賞として知れ渡っている。部活は2年前から全国金賞を本気で目指している。この状況では不満を表に出すことが出来ず、トランペットはギスギスした空気を解消できないまま本番を迎えるのではないか?今のうちに何か声をかけるか?しかしどうやって。

 

「香織、全国金賞獲るんでしょ?」

「桃……。うん、今度は私の番だよね。……高坂さん」

「はい」

「私、絶対に北宇治で全国金賞獲りたいの。だから、全国最高のソロをよろしくね?」

「はい!」

 

 僕が悩んでいる間に、原田の声かけによって中世古はあっさり吹っ切れたようだ。彼女は誰かに諦めさせて欲しかったのかもしれない。そして、そんな彼女を見てトランペットの後輩たちも結果を受け入れようとしているように見える。

 僕がどうにかしようと思っていたけど、今の北宇治はいちいち僕が前に出る必要はないんだな。

 

 結果としてA編成は3年生32名、2年生17名、1年生6名の55名フルでの参加となった。同級生たったの6人で参加する井上さん、黄前さん、サファイア川島、高久さん、塚本くん、麗奈は心細いかもしれないけど頑張ってほしい。てかチームもなかはどうなるんだろう。

 

 

 本日は毛布を室内に貼り付けての練習。毛布ってこんなに余るものなんだな。僕なんて、図工で余ったタオルや服すら準備できずにまだ使っているものを持っていっていたのに。

 

「ご協力ありがとうございました。ではみなさん、練習を始めましょう」

「先生!1つ質問があるんですけどいいですか?」

「何でしょう?」

「滝先生は高坂麗奈さんと以前から知り合いだったって本当ですか?」

「あっ」

 

 デカリボンお前納得していなかったのか!?僕が混乱しているうちに話は進んでいく。滝先生は原作通りあっさりと認める。部員もざわつきはじめてしまった。麗奈の実力は知っているだろうが、感情の問題だからな。

 

「何故黙っていたんですか?」

「言う必要を感じませんでした。それによって指導が変わることはありません」

「分かりました」

 

 お?

 

「しかし、この部員の反応を見てください。完全実力制のオーディションは顧問との信頼関係が重要だと思います。私は高坂の実力を知っていますが、先生のことは殆ど知りません」

「はい」

「プライベートのことだから全部話せとは言えませんが、知り合いであることぐらいは事前に話して欲しかったです。納得するために」

 

 うーん、それは賛否両論な気がする。そりゃ部員からしたらオーディションに関わるかもしれない情報は開示してほしいけど、滝先生視点だと麗奈との関わりを話したら拗れるんじゃないかという懸念があるよな。滝先生もうちに来たばかりで、僕たちのことは殆ど知らないわけだし。惚けていたけど、流石に先生もオーディションに際して麗奈との関係性は頭をよぎったはずだ。

 部員が滝先生を信じていれば別に言わなくても問題なかったし、滝先生が部員を信じていれば別に言っても問題なかったってことになる。今後は双方向の信頼関係を築く必要があるな。どっちが悪いってことじゃないけど、ここは滝先生が悪者になった方が部の雰囲気としては助かる。ごめんなさい、滝先生。麗奈のストレスも溜まってしまうなあ。

 

「……そうですね。私はコンクールで勝つことばかり考えていて、未成年の部活の指導者としての役割を果たせていませんでした。今後はみなさんから信頼していただけるよう、音楽以外の面でも努力します。今回はオーディション結果に対して疑念を抱かせるようなことになり、申し訳ありません」

「いいえ。私たちも滝先生を信頼しきれずすみませんでした。これからよろしくお願いいたします」

「よろしくお願いします。私も全国金賞に向けて全力を尽くします。改めて、今回及び今後のオーディションにおいて私との関係性が結果に影響することはないと断言させていただきます。また、私に対する意見及び批判はいつでも受け入れます。……それでは、練習を始めましょう」

「「「はい!」」」

 

 デカリボンはいつ爆発するかも知れない爆弾を解体してくれたんだな。考えがあってのことかは分からないが、結果的には助かった。ありがとう。

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