機動戦士ガンダム Hollows' Warfare   作:怨是

17 / 17
第7話: 狂気の来訪者

第7話: 狂気の来訪者

 

 

『各地にて復興作業を行なう、我等ジオン公国軍地球制圧軍の様子をVTRにて紹介する。早々に近隣の住民を見捨てた連邦軍とは異なり――』

 

 抑揚の効いた、悪く言えば芝居がかったアナウンスと共に、瓦礫を撤去するザクの姿がテレビに映されている。

 このプロパガンダ番組のチャンネルを変える者は、ラウンジには誰一人として居なかった。

 この場での視聴者が、エリオット・ノークスただ一人だからなのかもしれない。

 エリオットは、連邦側がどのように見られているかはテレビなどでは窺い知ることなど、どうせプロパガンダじみた内容なのだからほぼ不可能だと断じていた。

 だからこそ同じプロパガンダ放送でもジオン側を視て、どのような手法で彼らが自らを美化しているのかを観察することにしたのだ。

 あの戦闘以来、出撃も無い。ここ数日の仕事といえばパトロール部隊の報告書を元に付近のジオン軍の動向を分析。

 そしてオニールという無愛想な新入りに部隊編入という内示が出たからそれに付き合う程度。

 

 この前のような激戦はうんざりだが、かといって全く出撃しないのも困りものだ。

 適度に経験を積んで、モビルスーツの動きに慣れて貰わねば。

 それに、前回の出撃から帰還したおりにオニールに伝えた言葉が、果たして実戦に活かせているのかも気掛かりだった。

 

「わかってくれると、いいんだが」

 

 冷静さと年数の大切さを教えた。そこから考えて、理解して欲しいのだ。

 一から十を完全に伝えては、指示を実行するだけになってしまうのだから。

 これを事細かに分けると教官から通信があったのだから、まずしっかり応答する。不意打ちをするには経験が足りない、初陣で無理をしてまで撃墜数を稼ぐ必要などない……など、枚挙に暇が無い。

 安物の代用コーヒーがそろそろ底を突き、アクリル製のカップがすっかり透明になった頃、見知った顔がカップ越しに現れた。

 長いブロンドをうなじの辺りで束ね、ふちが焦げ茶色の眼鏡の奥にエメラルドグリーンの双眸は、理知的とも狡猾とも取れる鋭い輝きを放っている。

 整備士の、デニータ・ロンズデール中尉だ。

 

「怒らないのですね、ジオンのこと。日頃から嫌ってる割には」

 

 デニータは目を細めながら、野菜ジュースの満たされたカップでテレビを指した。

 

「呆れてんだよ」

 

 考え事をしていたとは、敢えて言わなかった。それに、半分は本当のことだ。

 

「自分達でしでかしたことの後始末をしてるだけなのに、さも善行を積んでるみたいによ」

 

 今更怒る気にもならない。

 今やオーストラリアのシドニー跡地に突き刺さっている巨大な墓標こそが、エリオットのかつての故郷『アイランド・イフィッシュ』だった。

 

「笑っちまうな。自分達の住処だった筈のコロニーをゴミにして地球に落としたのはあいつら自身だぞ」

 

 彼らは地球連邦にすり寄る姿勢を見せた幾つかのコロニーを見せしめにしたのだ。

 それが生み出したのは恐怖だけだったか?

 答えは否。サイド6は中立かつ地球連邦に対する協力姿勢をより強固なものとした。

 他のサイドも、同じくジオンへの敵対心をより明確なものとした。

 家族を殺されて憎くないとは言わないが、ジオンが憎いのは、連邦軍の誰もが同じだ。

 こんな見え透いたプロパガンダ放送に、人前で激怒してみせたところで単なるポーズ以上のものには成り得ない。

 芝居をやっているのではないのだ。

 少しでもジオンの敗北に近付ける形で、なおかつ可能な限り早急にケリを付けることこそが兵士の務めというものではないのか。

 その心得が通じているかはわからないが、デニータは野菜ジュースを少しずつ減らしながら相槌を打った。

 

『さて、連邦軍はこの地球復興を後回しにしてまで、宇宙に戦力を……』

 

 テレビは途中から映像が波打って、色が抜け落ちるなどし始めた。

 音声も途切れ途切れになっている。電波状況が悪いのは今に始まったことではないが、今日はいつもに増して乱れがひどい。

 

「どっかでミノフスキー粒子でもバラ撒いてるのか。戦闘の準備をしねえと」

 

 この近くか、少なくともここから電波中継施設の軸の上にあるどこかで戦闘が起きている。

 遠からぬ内に出撃命令が下るだろう。

 今のうちに心の準備を済ませておけば、いざサイレンが鳴り響いたとしても泡を食わずに済む。

 これはエリオットが常々、部隊員に教えてきたことだ。その部隊員も今ではダン・イサカ少尉ただ一人となってしまったが。

 

「忙しいですものね。私達のような裏方とは違って」

 

 彼女はどうしてこう、棘のある言い方ばかりをしてくるのか。エリオットは歯噛みした。

 これだから整備班とは仲良くできたものではないのだと。

 あまり渋い顔をすればまた目敏く指摘されるに違いないからと、エリオットは急いで苦笑いの顔を作った。

 

「……戦時中なんだ。俺達みんな、毎日がメーデーの連続みたいなもんさ」

 

「ええ、そのようですね」

 

 デニータは声音を微塵も変えずにそう言い放ち、野菜ジュースを飲み干した。

 

 

 

 

 ぼろアパートが立ち並ぶ住宅街の廃墟を、ドムキャノンは疾走する。

 パイロットのイース・バローネ中尉は、この地ハルビンでの戦闘を命じられた。

 イルクーツク駐屯地の格納庫で、ザクのコックピットに籠もった上官気取りの青二才を引きずり出し。

 「オーイ、クソ大尉。仕事だ。あのジジイ、オレ達に腕試しをさせたいんだとよ」

 と命令書で顔面を叩いてから、ざっと三時間程度。

 作戦領域までは『ド・ダイ』が低空飛行で輸送し、そこから先は自分でどうにかしろというのが作戦らしい。

 事前の偵察で戦力は判明していた。そこから計算するに、キャノンを多用するのは勿体ない。

 予備の装甲材は幾つか余っていたので、接近戦を主軸に殲滅と洒落込もうというのがイースの目論見だ。

 右腕部兵装である急造品の197mm水平二連ショットガンは、まさにおあつらえ向きだ。

 扱いづらいと不評だが、今回持ち出したもののように銃身を切り詰めれば、散弾が良い具合に広がってくれる。

 

「ヴェノム2、作戦領域に着いたぜ。もう始めちまってもいいかな?」

 

《……ああ。許可する》

 

 フリードリヒの憮然とした声が返ってくる。

 ――命令書で顔を叩いたこと、まだ根に持ってやがるのか。ケツの穴の小せえ野郎だ。

 手厚い歓迎として戦車砲が次々と飛来するのを、左右に回避する。

 上空からのミサイルは既にミノフスキー粒子が作用しているのか、命中せずに空中で四散した。

 所詮は辺境区域の防衛部隊だ。派手な歓迎も長くは続かなかった。

 

 小道に逸れ、索敵を行なう。射線上に敵は居ない。

 先刻の戦車砲の弾道から逆算するには、ここから三ブロック先の坂道を登り切ったところに六両程度が身を潜めているだろう。

 イースは舌なめずりをしながらフットペダルを踏み込んだ。ドムキャノンのホバーが周囲の塵を吹き飛ばす。

 景色は再び、日陰――とはいえ曇り模様なので代わり映えしないが――から、日向へと移り変わる。

 倒れた電柱を蹴散らし、戦車の潜んでいると思しき地点へと足を進める。

 

 果たして彼らはそこに居た。それも十数両ほど。

 連邦の戦車特有の水平二連の戦車砲が火を噴く前に自機を後退させ。戦車の居る通りの裏側まで移動。

 戦車の付近のビルに狙いを定め、ショットガンから二発の散弾を同時に放つと、無数の金属の粒がビルを穿つ。

 すかさずキャノンを発射するとビルは瞬く間に倒壊し、その奥から爆発音が木霊した。

 瓦礫の合間からは煙が立ち込めている。ショットガンを装填しつつ、イースは凄絶な笑みを浮かべた。

 

「共同墓地のできあがりだ!」

 

 目算では二割を削った程度か。先は長い。

 次はミサイルだ。確か、背の高いビルの屋上に備え付けてあった。

 そちらに関しては後回しにするとして、機体後方の路地裏から湧いて出た歩兵を片付けねばならない。

 無論、轢き殺した。

 何度も機体を往復させ、念入りに熱核ホバージェットで焼き払った。

 蒸気にあてられた敵の歩兵達は少しずつ数を減らし、原形を留めぬ黒焦げの物体へと成り果てた。

 

 隙を突いたつもりの歩兵達が、背後から対モビルスーツ用のバズーカを構えているのが見えた。

 が、こんなものは後ろ手にショットガンを放ってしまえばすぐにミンチだ。

 最後の仕上げにバーニアを噴かすと、それらは塵となって飛んでいった。

 これで歩兵達は足下から狙おうとは考えなくなっただろう。

 事実、逃げ惑う彼らの表情は悲痛に歪んでいる。

 この時点で敵に恐怖を植え付けるという、イース個人の至上目標は達成したと言えた。

 

 では次に、割れた窓ガラスの隙間から機関銃を撃ってくる連中だ。これはショットガンをビルに突っ込み解決。

 装填を済ませていなかったので弾は出ないが、虫けらが相手では弾を使うまでもない。

 反対側のビルからも人間用バズーカの“ちゃち”な弾頭が飛んできたのを左手で払い除け。

 そのままビルに腕を突っ込み。

 射手を――引きずり出す!

 マニピュレーターに握られた射手は何かをしきりに叫んでいたが、イースは構わずそれを地面に叩き付けた。

 ひび割れたアスファルトに、赤黒い染み。

 

《中尉、遊びすぎるな。君の背後を戦車が狙っていた》

 

「はっ。ご丁寧にどうも。ドムキャノンの装甲材は余ってるし、こいつら多分、民兵上がりの素人共だ。

 大隊規模つっても、多分正規軍からのお下がりだろ。マスかきしながらでも戦えらあ」

 

 サブモニタを見やると、フリードリヒはザクマシンガンでチマチマと破壊しているようだった。

 ザクマシンガンであれば、二発ないしは三発程度で連邦の戦車は大破する。

 これが後期生産型のMMP-80のように劣化ウラン弾を使用するものであれば、一発で機関部まで貫通できたのだろう。

 が、はぐれ者の集まりにはまず回されない代物だ。無いなら無いなりの戦い方がある。

 イースはコンソールのボタンを操作し、ショットガンの装填を行なった。

 

 少し進むと、坂を登り切る辺りに戦車が隊列を組んでいるのが見えた。

 付近には、こちらが隠れられる場所も無い。すかさずショットガンを撃ち放つ。

 散弾は途中で放物線を描き、戦車の装甲を穴だらけにした。

 それでも幾つかは煙を噴きながらも応戦してくる。残りは坂道であることを利用して、後退していた。

 

「しゃらくせえぜ、てめえら……」

 

 ドムキャノンの腰にマウントさせてあったヒートサーベルを、左手に持たせた。

 機体のマニピュレーターを器用に動かし、ヒートサーベルを逆手持ちにさせる。

 すれ違い様に戦車のうち一両を、ヒートサーベルで抉った。逃げ遅れた数両も、順番に蹴り飛ばす。

 あるものは横転し、あるものは逆さになって火達磨になる。

 装備や整備状態の都合で最大速度は通常仕様のドムに比べて低いものの、時速175kmもあれば充分だ。

 状態の悪い道路では覆帯よりホバーのほうが圧倒的に優位だと、イースは確信している。

 

「……オレに勝てるワケねーだろ! バーカ!」

 

 ガソリンスタンドに無人のタンクローリーがあったので、ショットガンを腰アーマーにマウントし、タンクローリーに持ち替えた。

 眼前で都合良くミサイル車両が尻を向けていたので投げ付ける。

 タンクローリーは何度も向きを変えながら転がり、大爆発と共に車両を宙に浮かせた。

 

「どっかーん! ひゃーはははあ!」

 

 反対側で飛び退くフリードリヒのザクは、敢えて無視した。潜伏している戦力も予想して、これで五割程度か。

 彼らは明らかに狼狽している上に悪手ばかり打っているが、統率のある動きまでは失っていない。この分だと、司令塔はやられていない。

 

《ヴェノム1ならびに2、聞こえるか。俺だ》

 

 今や聞き慣れた濁声が鼓膜を揺らす。テルシオ・テルマルト中佐もとい、愛すべきクソジジイだ。

 イースは舌打ちした。折角いい気分で暴れていたのに、水を差されたためだ。

 

《ヴェノム1よりアナコンダへ。どうぞ》

 

「だ、そうだ。聞こえますよ、クソジジイ」

 

《通信設備の近くに居るやつ引っ捕らえて、ヤクーツク仮設基地を明け渡すように伝えろ。

 基地の座標は今しがた送った。お使いのメモが一行増えた程度だが、やれるだろ?》

 

「ガッテン承知だ。もうひと暴れしてやるぜ」

 

《いいか、最低でも一人は残せよ。用が済んだら、好きにしても構わんがね》

 

《ヴェノム1了解であります!》

 

 ――クソ大尉の野郎、暢気に敬礼なんざしてやがる。

 早めに探し当てねば、普通の軍隊というものは自軍が壊滅する前に撤退を始める。

 世の中にはそれを腰抜けと揶揄する“脳足りん”も居るが、常識的に考えて全部が決死隊では組織など成り立たない。

 時には見捨てて逃げることも重要だ。その意味でオデッサでのマ・クベの判断は、半分は正しい。

 ザンジバルにもう少し人員を収容していれば、兵達の反発も少しは収まっただろうが、隠れて脱出の準備を進めることがミソだったに違いない。

 あの時は通信機が絶え間なく狼狽の声を垂れ流していて、鬱陶しくて仕方がなかった。

 少しすれば悲鳴の一つも聞こえなくなったが、彼らの末路など知ったことではない。

 

「仕事、集中しねえと」

 

 そう言い聞かせて雑念を振り払う。今はお掃除の最中だ。

 教会で聖歌を歌っていた頃から塵一つ残すなと教えられてきたから、こういった任務は得意中の得意だった。

 

「そら見ろ。でけえホウキが転がってやがる!」

 

 かつては工事現場だった場所に鉄骨が束ねられている。

 ヒートサーベルを消耗させるより、こちらのほうが経済的だ。うち一本を早速拝借し、左手に持たせた。

 ジャンクションの側道を上ると、高速道路沿いに複数の戦車が縦列配備されていた。

 誘い込んだモビルスーツを滅多打ちにしようという作戦だろう。

 ご丁寧にリフトまで使って近道するという周到ぶりは賞賛に値するが、イースはドムキャノンを前進させつつ、鉄骨でそれらを片端から捲り上げた。

 ほどなくして戦車達は爆発、炎上した。

 先頭車両だけを残し、これを何度も鉄骨で叩き潰す。

 一発振り下ろす毎に惨たらしく変形してゆく戦車から、オイルが流れ出た。やがては、突き立てた鉄骨が車体を貫通した。

 気が付けば上空を、鴉が何羽も飛び回っている。

 代わりに航空機の類いが一機も見られないのは、イース達がここへ来る前に消耗したのか、出払っているのか。

 

「喜べ黒んぼ共。今日の晩飯はハンバーグだ。焦げないうちに召し上がれ」

 

 イースは鴉に聞こえる筈のない独り言を呟きつつ、視界の中から航空機を見付けようとした。

 が、すぐに諦めた。悪天候ではないにもかかわらず、見晴らしの良い場所から探しても見当たらないのだから、無意味だ。

 

「そういやさ。ヘリとか見掛けた?」

 

《いや。発着場らしき地点はあったが、無人だった》

 

 兵士の練度が妙に低いこと、そして航空戦力の不在が気に掛かる。

 

「探しといてくれるかな。オレは親玉を探してみる」

 

 イースはふと、妙案を思い付いた。

 先に回想した友軍の悲鳴から着想を得た、我ながら見事な作戦だった。

 早速実行に移すべく車体から鉄骨を引き抜き、どこへともなく機体を疾走させる。

 

 果たして、戦車はまだ残っていた。

 イースはしぶとく居座る彼らの胆力と、己の運の良さに感謝しつつ、敢えて一両だけを残して叩き潰した。

 それから外部音声を起動させる。

 

「おい捨て駒。他の連中みたいになりたくなけりゃ、親玉の場所を吐きな」

 

《あ、あなたから見て8時の方角に、6キロ進んで下さい》

 

 戦車の外部音声から聞こえてきたのは、青年とも少年ともつかない声。

 だいぶ上擦っていたことから、よほど堪えたのだろう。

 生還すれば、どこかで上官を相手にたっぷりと土産話をしてくれるに違いない。

 

「はいよ、ありがとさん」

 

 残された戦車の水平二連砲塔に鉄骨を振り下ろすと、その両方が拉げた。

 中身の無事は、砲塔を引き摺りながら後退する戦車の様子を見れば確かめるまでもない。

 3時方向のアーケード街から殺気を感じたイースは、お気に入りだった“ホウキ”こと鉄骨をアーケード街の入り口に放り投げる。

 鉄骨は放物線を描き、アーチ状の門を倒壊させた。

 

 

 

 




お久しぶりです。
ようやく筆が乗ってきたので、ぼちぼち再開していこうと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。