機動戦士ガンダム Hollows' Warfare   作:怨是

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Dec.08/0079
 今はビッグトレーで、この日記を書いている。
 馬鹿馬鹿しい話かもしれないが、俺は手帳を肌身離さず持ち歩いている。
 こうして手元に置いておくことで、
 いつでも過去という、温かいシャワーを浴びることができる。

 ミデアの格納庫からビッグトレーに民間人を誘導するとき、
 誰もが浮かない表情をしていた。
 それも道理だ。
 俺達、連邦軍人の軍服は、彼らの薄汚れた格好に比べたら随分と綺麗なものだ。
 彼ら民間人にとって、彼らを見捨てたのも助けたのも同じ連邦軍だ。
 胸中おだやかでないことを、想像できない者はいないだろう……。
 俺達の装いの清潔さは、そのまま帰る場所があるということを暗示してもいた。

 下手をすれば、俺達は帰る場所を失う。
 ジオンの勢力圏と入り乱れるこの地域で、いつ撃たれるかもわからない背後を、
 恐れおののきながら、何度も振り返りながら、安全圏へと旅立たねばならなくなる。
 まだ失ったことのない者達にとって、それは未知なる恐怖だ。
 黒々とした、得体の知れない何かだ。
 ……それを既に失ったことのある者達にとっては、明確な形を持った恐怖だ。
 こちらを嘲り、大きな鎌を振り回す、死神だ。
 この場に居る殆どの者は後者だろう。
 アイランド・イフィッシュを失ったエリオット・ノークス大尉……。
 北米に落ちた破片のせいで、またジオンの占領下であるために、
 家族の生き死にさえ判らなくなった、ジェフ・ベイカー軍曹……。
 高層ビルの立ち並んでいた沿海地方から生き延びた、たった三十人だけの生存者達。
 誰もが、既に帰る場所を失った。

 ハバロフスク基地は今、攻撃を受けている。ノークス大尉の予感が的中してしまった。
 俺達はそれを迎撃しなくてはならない。
 皆、帰る場所を二度も失うかもしれない。
 だからこそ、俺達は……

 ……日記の中とはいえ、我ながら饒舌だとも思う。
 擦れて霞まないようにとボールペンで書いているのが仇になった。
 書いてしまったものを消すことはできない。
 この辺りでやめておこう。
 死を目前とした人間というものは、自然と饒舌になるらしいが、
 俺はまだ死にたくないから。




File 05: Backstab

 

 

 ビッグトレー級陸上艇『フラウンダー』からリタ・アルバ少尉の操縦する一機のミデアが、モビルスーツを四機寿司詰めに搭載して再び発進する。カペック少尉のミデアが沿海地方に残って生存者と残敵を確認している今、迅速に作戦領域へと到達するには、それが最善手と判断されたためだ。作戦目標は、ハバロフスク基地に群がるジオン軍モビルスーツ部隊の掃討だ。

 アルバは緊張で吊り上がった両肩を自覚しながらも、ヘッドセットのマイクに声を送る。

「ホイッスルより各機へ。降下ポイントまで180秒前、カウントダウン表示します」

 コックピットのキャノピーから一望できる前方では、見慣れた廃墟群が夕日に照らされ赤く輝いていた。そこから更に森林地帯を挟んで1200メートルほど北上した向こう側――ハバロフスク基地で、既にジオンのモビルスーツ部隊が目前まで迫ってきている。

《作戦の概要を確認するぞ。これより俺達は、ハバロフスク基地との挟撃作戦を展開、敵部隊を掃討する。地形は頭に入ってるとは思うが、おさらいだ。サブモニタに注目》

 基地周辺の地形が、3DCGの鳥瞰図で表示される。黒地に緑色の直線で構成されたマップの構造は、眼下に広がる光景と一致していた。そのマップの一角、廃墟群に相当する箇所に青い三角形が表示された。

《現在地はここだ。降下ポイントは……》

 マップ上の北部、ハバロフスク基地を示す箇所が、大小様々の赤い矢印に囲まれている。敵の包囲網を意味しているが具体的な数は不明で、せいぜい東西から挟み撃ちになっていることくらいだ。これらに飛び込む形で青い点が四つ、ミデアを示す青い大きな矢印の、その進行方向を追う形で表示されて行く。

《このラインに沿って一機ずつだ。言うまでもないだろうが、降りたら即、戦闘だ。ホイッスルはコックピットを狙われないように、蛇行してもいい》

「了解」

 ジャブローでジオンがやったらしい降下作戦よりは、幾らか楽な条件なのだろう。対空砲火は、来たとしてもモビルスーツのみだろうし、それまで防衛部隊と遣り合っていた中で、いきなりこちらに対応しようという真似はできまい。

 それでもアルバは、不安を禁じ得なかった。勝率は従来の作戦に比べると低いほうだろう。主導権を敵に握られれば、それだけ対応も後手に回る。開戦当初の連邦軍が、まさにそれだった。アルバにとってしてみれば、敵を侮った結果として隙を突かれてしまうという点で、ブリティッシュ作戦から全く進歩が見られないように見えたのだ。

 ――馬鹿みたい。既にみんなが通ってきたのに、どうして経験を活かせないの?

 アルバはインカムのマイクをミュートにし、不安と苛立ちを内包した、大きな溜め息をつく。

《各機、ビームスプレーガンはエラーを吐いてないな?》

《ゴート2問題ありません》

《ゴート3、4同じく》

 次に顔を上げたときには、遠くで対空砲火が幾つもの弾幕を作っていた。飛び交う両軍の戦闘機も。戦場が、すぐそこに見えていた。

 

 

 *

 

 

《ゴート1、降下!》

 ホイッスルの号令に従い、エリオット・ノークス大尉はペダルを踏み、乗機を前進させる。寒空に身を晒し、すぐ横で四散するジオン軍の戦闘機を見ながら、エリオットのジムはバーニアを噴かす。着地したその周囲に敵は居ない。

 それから等間隔の距離で、番号が若い順に――つまりイサカ少尉、ベイカー軍曹、オニール伍長の順番で――降下してゆく。

 基地を取り囲んでいたザク達は、一瞬ではあったが呆気に取られた。うち一機がミデアを狙うも、上向きに放たれた銃弾は掠りもしていない。

「各機、常に基地を左手にして戦え! ホイッスルはハンガーに向かえ!」

 オニール伍長のジムが着地するより少し早くに、エリオットは指示を飛ばす。

 その間に余所見をしていたザクは手にしたシュツルムファウストを使う間もなく、イサカ機のビームに風穴を空けられ大破した。見れば、イサカ少尉の陸戦型ジムはしっかりと基地を左手にして戦っていた。残る二人も、エリオットの真意を理解してくれたらしい。イサカ少尉に続く形で、同様のポジションへと乗機を移動させていた。

 基地を背にするか或いは敵を基地と挟み込んだ場合とは異なり、友軍相撃のリスクを抑えた上で相互連携や敵の足止めがしやすくなる。こちらにはシールドがある分、敵部隊が基地への直接攻撃に切り替えたとしても、妨害しやすい。敵が基地に近付いたら、その分だけこちらも左へ、そして敵よりも基地に近い場所へと移動するという寸法だ。

《ホイッスル着陸しました。索敵データは手筈通りですね?》

「いいぞ! それでいい!」

《了解! 引き継ぎ、問題ありません! 管制室に直行します!》

 エリオットは胸を撫で下ろしたいのを我慢し、基地と隊長機のそれぞれにレーザーで送信された索敵データを参照する。モビルスーツ部隊は、ザクが合計九機、ドムが一機、ズゴックが三機。うち編隊を組んでいるのはザク六機とズゴックの三機ずつで――そしてザクの一機は今しがた撃破したばかりだ――残りは遊撃部隊として動いているようだ。

 敵戦闘機ドップは十五機おり、基地守備隊のセイバーフィッシュと戦っている。またマゼラアタック戦車は沿海地方基地で撮られた航空写真のものとほぼ同一形状の車両が二十両ほどで、これも基地守備隊の61式とやりあって、半数が潰れている。後は歩兵部隊だが、これは侵攻速度など様々な要素から概算するしかあるまい。

 後続の敵戦力は、見た限りでは憂慮しなくても良さそうだ。規模からして、今回は偵察ではないだろう。また予備隊を投入してきたらしいという情報も、基地のほうで掴んでいたようだ。

 彼らは本気でこのハバロフスク基地に強襲を仕掛けたということだ。そしてよほどの馬鹿でない限り、正念場でこそ定石を守る。つまり逐次投入という愚は冒さないということだ。

 ただ問題は、三倍近い戦力差だ。各個撃破などされてしまえば目も当てられない。

「各機、なるべく離れすぎるなよ! 相互支援が可能な距離を維持しろ!」

《了解!》

 基地側から外に向けて、迫り来る敵戦力へとビームを掃射する。

 さすがに敵も馬鹿ではない。先日の戦闘は偵察だったのか、こちらの配置の傾向、地形を熟知しているようだ。退避行動の手際は実に鮮やかであったし、間隙を見計らって反撃を差し込んでくる部隊も居る。ザクとドムの混成による遊撃隊がそれだ。彼らは定位置というものが無い。特に、先日の偵察部隊に居たと思われるザクの二機はかなり動きが良い。そしてその片割れは他でもない、あのときベイカー軍曹のジムの脚部を両断してくれた、憎いザクだった。左肩の蛇のエンブレムが見覚えのある掠れ具合だったのも相まって、すぐに判別できた。

「ゴート3、気を付けろ。あのときのザクだ」

《……了解》

 短い内容から察したのか、ベイカー軍曹は緊張した面持ちで応じた。部下の不安を煽るようなやり方は好きではないが、警戒はしておくべきだ。さもなくば、今度こそやられてしまう。

 ドップが上空を、凄まじい速度で突っ切る。迎撃のセイバーフィッシュは全く追い付けていない。エリオットは嫌な予感がした。ビームスプレーガンの発射トリガーを引く。

 撃墜したかに見えた。

 しかし、奥には更にもう一機のドップが潜んでいた。どういう理屈か、貫通したビームの直撃を間一髪で免れたらしかった。

「嘘だろ――」

 もう一機のドップはそのまま横転した“U”の字の軌道を描いて飛び、第一、第二ハンガーのゲートへとロケットを打ち込む。ハンガー入り口からは火が噴き出し、屋根が弾け飛ぶ。あれでは中で格納されていた友軍の航空機など、ひとたまりもないだろう。お返しとばかりに放たれた友軍の対空ミサイルが命中し、件のドップは撃墜された。しかし、たった一機のために、こちらは大勢の後方支援要員と、資源と設備を破壊された。撃墜数と味方の損害が、釣り合っていない。

「くそ! せめてビームが当たっていてくれたら!」

 エリオットは歯噛みした。防空部隊は何をやっていたのか。こういうことを未然に防ぐためのパトロール飛行だというのに、易々と通してしまってはまるっきり無意味ではないか。

 だが悔やんだところでハンガーが元に戻るわけでもない。

 エリオット達を嘲笑うかのように、味方モビルスーツ部隊は損傷を増やして行く。ジムは対モビルスーツ戦を意識した作りであるとはいえ、無敵の装甲ではない。敵のザク達は少しずつ削ってくることで、防衛戦力がジリ貧に陥るよう仕向けているのだろう。反面こちらは撃てども、有効打を与えているとはとても思えなかった。痺れを切らしたイサカ機が、腰部のラッチからバズーカを取り出す。

 ……そのときだった。

 エリオットの視界が急激に揺れ、外の景色が横倒しになる。メインカメラが僅かに捉えた映像から、ホバーバイクと爆薬によるものだと瞬時に理解した。急造された、半ば実験機ともいえる陸戦型ジム――いや正確には先行量産型ジムには、地上でこそ必要とされる筈の接近警報装置が粗雑な作りであり、役に立ったことなど殆ど稀だった。東南アジア戦線の07小隊が壊滅したのも、そのせいだろう。少しくらい改良してくれてもいい筈だ。

 思い通りにならないことばかりでうんざりするが、コックピットのショック吸収機構だけはしっかり作動してくれていたらしい。エリオットはぺしゃんこにならずに済み、反面そのせいで身体中の痛みを自覚せねばならない。

 我に返ったエリオットは、転倒してから数秒が経過していたことを自覚した。

 断続的にコックピットを叩く衝撃は、どうやらモニタを見るにザクのマシンガンがコックピットへ向けて放たれているためらしい。それでもコックピットが少しも凹む様子がないところは、流石はルナ・チタニウム製と言える。

「参ったか、この野郎! そう易々と蜂の巣にされてたまるかよ!」

 エリオットは操縦桿を動かし、機体を仰向けにする。それから、ペダルを踏み込んだ。

「さっさと、どきやがれ!」

 自機の両足が相手のザクにぶつかり、そのまま押し飛ばす。ザクは蹴飛ばされた衝撃で、構えていたヒートホークを取り落とした。

《……覚えたぜ。お前の声》

「お前は……?!」

 エリオットは背筋が凍り付くような錯覚に襲われた。これは接触通信ではなく、レーザーを利用した近距離通信の筈だ。どうやって帯域を同調させたのか。急いで体勢を立て直し、ビームスプレーガンを速射する。しかし照準は定まらず、ビームは的外れな方向へ飛んでいく。ザクは大きく避けることなく、そのままザク・マシンガンを撃ちながらバーニアを噴射して後退した。ビームはたった一発だけがザクの右腕を融かしたが、同時にスプレーガンのエネルギー残量も僅かだった。

「くそ、こっちは両手がオシャカだ。これじゃあ足手まといに――」

 呟いた瞬間、右胸から横隔膜にかけて激痛が奔った。どうやら転倒した衝撃で、肋骨を強打していたらしい。エリオットは暫く咳き込み、それが収まるとようやく呼吸を整えた。

 ――最低限のことだけを喋っていれば、何とかなるだろう。

「整備班、準備頼む。指揮権は……一時的にゴート2に委譲。悪いが、持ち堪えてくれ」

《了解! 格納庫、シャッターを開けて下さい!》

《ゴート2了解。隊長機周辺を警戒しつつ、格納庫を守ります》

「世話になるぜ……」

 

 

 

 

 ジャンゴ・セス大尉は連邦軍のモビルスーツ部隊から逃げるようにして、北東から回り込む。その最中に、フランコ・バッシ少尉の乗機が敵の白いモビルスーツに蹴飛ばされた。合同で作戦に当たっている友軍はともかく、こちら側の損害はさほど大きくない。件の白いモビルスーツは両腕をだらりと垂らしながら、格納庫へと撤退していった。距離を鑑みるに、命中しても有効打にはなりえまい。

「コブラ2、まだ動けるか?」

《ヘリの連中、この前より賢いですね。白い奴の、シールドの陰に逃げやがります》

 フランコのザクは右腕をやられていたが、残った左腕でザク・マシンガンを拾い上げ、そのまま使っていた。

「元気そうだな……」

《ですが、それも時間の問題でしょうや。もう一機、足の角張った奴が居るでしょ? そいつに狙われちまう》

 彼が指しているのは、格納庫の前に陣取っている白い奴だろう。スネが丸みを帯びているジャブロー生産型に比べて、装甲が固いというデータが上がっている。それなりに熟達している筈の友軍――彼らは激戦区である東南アジア戦線帰りだ――が苦戦するくらいなのだから、情報の信憑性は高いだろう。

「指揮系統はあれに引き継がれたか?」

《そうでしょう。動きに混乱が無い》

「慣れないものに手を出したとて、やはり連邦軍は連邦軍か……」

 ジャンゴは些か憂鬱な気分にさせられた。モビルスーツという、彼ら連邦軍にとってはあまりにも異質なものを、こうも簡単に使いこなされてしまうとは夢にも思わなかった。

 真横を戦闘機の群がUの字を描いて飛び去って行く。風圧でセンサーが一瞬だけエラーを吐き出していた。個々の熟練度はともあれ、組織全体の士気で言えば自分達ジオン軍が優位の筈だ。

 ――でなけりゃ、モビルスーツの真横を飛んで追撃を振り切ろうなんて考えたりはしないだろうさ。

 ジャンゴは物陰に隠れて基地からの攻撃を遣り過ごしながら、敵の司令部をどのようにして叩くかを考えた。

 

 

 

 

「指揮権はそのままゴート2に委譲したままで進行しろ」

 管制室に到着した瞬間、リタ・アルバ少尉は主任オペレーターの指示を耳にした。

「大尉は……?」

 彼は首を横に振ろうとして、少し止まったあとに縦に振った。両手はアルバを宥める意味合いを含んでいるのか、手の平を開きながら二、三ほど上下に振られた。

「肋骨にひびが入ったらしい。出撃は不可能ではないが、悪化すれば――」

 言い終えるが早いか、悲鳴のような声が響く。

「敵正面の基地防衛設備、損傷率37%を超えました! このままでは友軍到着前に押し切られます!」

 アルバは唇を噛み、踵を返す。

「少尉、どこへ!」

「適材適所というものがあるんです。私のことは、あとで反省房なり何なり叩き込んで下さい」

 吐き捨てながら、アルバは格納庫へと向かった。モビルスーツ用の格納庫は基地に隣接しており、全力で走れば五分で辿り着けた。

「私がやらなきゃ……」

 格納庫の通用口を開けると、奥にはノークス大尉の陸戦型ジムと、予備機の正式量産型ジムがドックに固定されていた。広々とした空間に、声が響く。

「ちょっと! こういう時こそ、候補生の出番でしょう?! シミュレーターで撃墜数一位の、この俺、ミゼール・ギャベラー伍長を今こそ使うべきですよ!」

「駄目よ! 上から止められているの!」

「まったく、お偉方は!」

「もうすぐ援軍が到着するから、それまで現状の戦力で持ち堪えろって――」

「――贅沢ですね! あのニュータイプのアムロ・レイ少尉だって、咄嗟にガンダム扱ってみせた! 民間人だった彼にも出来たなら、俺だって!」

 それはミゼール・ギャベラー伍長と、デニータ・ロンズデール中尉の押し問答だった。あろうことか、二人は陸戦型ジムのコックピットの前で揉めていた。こちらに気付いている様子はない。最初は忍び足で足音を殺し、それから充分に接近したと判断したアルバは一気に加速を付けた。気配を直前まで悟らせないことで、相手から対処の時間を奪うのだ。果たしてそれは功を為した。

「二人とも、どいてください!」

 もみ合いになった二人の間に割り込み、突き飛ばす。その勢いのまま、開け放たれていたコックピットに飛び込んだ。

「アルバ少尉?! 勝手な真似はやめなさい!」

「私は、あの人から手ほどきを受けました。シミュレーターも長くやってます」

 コックピットハッチが閉ざされるのを見たデニータ中尉は、それ以上近付けずにいた。

「何でもこなすのが、取り柄ですから」

「少尉!」

「……リタ・アルバ、出ます!」

 陸戦型ジムはバックパックに多少の損傷が見られるが、それ以外はおおむね良好だ。大急ぎで破損箇所を交換したのだろう。周囲の作業機械が、拉げた部品を吊したままにしていた。

「いつでも出せる状態に、こんなにすぐに……」

 アルバは緊張を誤魔化すために、溜め息をつく。

 何故予備機ではなく、こちらにしたのか。自分でも理解できていない。予備機ならば、もみ合いになっていた二人を突き飛ばす必要は無かった筈だ。

「……でも、これは隊長のモビルスーツだもの」

 連絡通路がスライドし、陸戦型ジムの障害物が消えた。リフトを操作しているのはデニータ中尉だった。隣でギャベラー伍長が承伏しかねるといった顔をしているのに対し、デニータ中尉は諦観にも似た涼しい面持ちだった。

 格納庫を飛び出し、各機に伝達する。

「隊長の代わりに、私が出ます」

《アルバ少尉?! 無茶です!》

 ベイカー軍曹は度肝を抜かれたといった様子だが、アルバは意に介さず前進した。指揮系統は確か、ダン・イサカ少尉に委譲されていた筈だ。

「ゴート2、指示を」

《待て。予備機は格納庫にあるか?》

 相変わらず、イサカ少尉は言葉足らずなきらいがある。ジュニアハイスクールまでに習う単語ばかり用い、慣用句などもあまり使わないせいで、彼の言葉は今一つ伝わりづらい。が、このリタ・アルバの頭脳を以てすれば解読は容易かった。

「ジムなら一機だけあります。でも、隊長はあばらを骨折しています……」

《了解。ゴート3、4を援護しろ》

「ホイッスル了解」

 

 

 

 

「クソッタレの白んぼが。また湧いて出て来やがった」

 イース・バローネは苦々しげに毒突く。

 たった一機のモビルスーツが減っただけでも、防衛戦力というものは大きく削がれる。モビルスーツ一機分を補うために、防衛側の遊撃部隊は戦力を割かねばならない。何らかの理由――この基地に関して言えば、単純に規模が小さいからだろうか――で縦深を薄くせざるをえない場合は特にこの傾向が強い。何故なら、モビルスーツが可能とする防御範囲に穴が空けば、侵攻側がそこから突破できるためだ。

 にもかかわらず、一介の小規模な基地を相手取るだけの仕事に、攻撃側、つまりは自分達ヴァイパー小隊の司令官であるクソジジイもといテルシオ・テルマルト中佐が日夜、眉間に皺を刻みながらあれこれ考えねばならなかったのは、ひとえにヴァイパー小隊を含めたジオン公国の地上軍が“貧者の行軍”であるからに他ならなかった。

 だからこうして、格納庫から白いモビルスーツ――恐らくフランコ・バッシ少尉が叩いたものと同じ相手が出て来たとき、イースは大いに悩まされた。胴体部分のナンバーを見れば、それが同一の機体であるとすぐに判った。ほんの数分で破損箇所を換装し、完璧な状態で出してくるとは、連邦のモビルスーツ格納庫はかなり高度に自動化されているらしい。

 であるならば、撤退させるのではなく足を奪うべきだと、イースはすぐに結論を見付けた。寧ろ、これはイースの得意分野だった。対モビルスーツ戦闘演習でも何度もそれを披露してきたし、オデッサで包囲網を突破する際も相手のモビルスーツを相手にこれをやってきたために“狂犬”の異名を得るに至ったのだ。

「……やるか」

 次々に飛来するビームを、イースは蛇行することで回避した。ろくに狙いも定めていないビームなど、避けるのはたやすかった。

 今、獲物はすぐそこで、イースはそれと戦っている。肉薄するや、眼前にシールドが飛んでくる。無論イースにとって、それは想定内だった。

「はっはぁ! その手にゃ乗らねえよ!」

 投げ付けられたシールドを抱え込み、相手の右腕に突き立てた。シールドは予想以上に頑丈な素材だったのか、敵機の白い腕は瞬く間に拉げる。突き飛ばし、キャノンを足下に叩き込んでやれば、さしもの連邦のモビルスーツも、ひとたまりも無いらしい。脚部が崩れた。その勢いでこちらに掴み掛かってきたが、イースはホバーを最大出力にすることで引きずり回した。周囲の敵部隊も誤射はしたくないらしく、狙いを定められずにいる。

「おらおらおら! お前のせいでみんな撃てないんだとさ! うはは!」

 関節部が摩耗しきって使い物にならなくなったところを見計らい、イースは周囲の瓦礫に敵を叩き付けた。敵機はそのまま瓦礫に突っ込み、イースのドムキャノンを手放した。

 すると敵機のスネから、誤作動なのかビームサーベルらしきものが飛び出てきた。イースはそれを奪う。

 ……四肢を切り落とされたそれは、もはや単なる赤い塊でしかなかった。エネルギー供給が持続しないためか、ビームサーベルはすぐに消えた。その円柱状の粗大ゴミを赤い塊に叩き付ける。それからシールドを拾い上げ、コックピットハッチらしき部位を塞ぐ。

「そこでお祈りしてな!」

 イースは満足げに笑いながら、通信を入れる。

「野郎共! 隊長機は完全に潰した。中身はあとで楽しもうぜ」

《ゲスだなあ……》

《コブラ1もそう思うでしょう? 私も何故、こんな奴と組まされるのか甚だ疑問で……》

 味方ですらこれだ。敵機は隙を――当然、イースがわざと与えてやった猶予だ――覗って攻撃してくるかと思いきや、こちらの手元が狂うのを恐れたのか、一度も来なかった。結果は上々だ。相手は恐怖しているのだ。このイース・バローネという存在に!

 下腹部に背徳的な熱が立ち上るのを、イースは自覚せずにはいられなかった。

 

 

 

 

「一応、覚悟しておいて下さい。アルバ少尉が撃墜されたわ……」

「何……?!」

 医務室でその報せを聞いたエリオット・ノークス大尉は、飛び込んできたデニータ中尉の放った言葉に血の気が失せた。それからすぐに、側頭部両端から込み上げる熱で、身体が独りでに動く。

「どうして行かせたんだ……! あいつを行かせたのはお前か!」

 気が付けばエリオットはベッドから飛び起き、デニータの胸倉を掴んでいた。止めに入っていたらしい眼鏡の男――沿海地方の難民の一人、ニコライ・クレイトフが、その場に立ち尽くして思案している。デニータはそれを一瞥してから、エリオットの両腕を握りかえしてきた。

「……突き飛ばされたのよ! 私も、迂闊だった」

 エリオットは慌ててデニータを解放する。彼女は襟元を指先で直しながら、そっぽを向いた。その顔は苦い。

「すまん……」

「……でも、コックピットは無事らしいです。予備機のジムはしっかりキープしてあります」

「そこまで判ったらもう充分だ。伝えてくれて、ありがとな」

 エリオットは点滴の針を引っこ抜き、お馴染みのカーキ色に彩られた制服を羽織る。格納庫へ向けて歩みを進めた。

「……止めないんだな」

「だってもう今更でしょう? それに冷静に考えたら、場末のみそっかす部隊で軍規に煩くする意味なんてありませんもの」

「何だよそれ。俺への当てつけか?」

「解釈はお好きなように。大尉殿。友軍が援護に来るまでの辛抱です。その隙にアルバ中尉の救助を」

「ああ」

 医務室のエタノール臭から解放されたエリオットは、まだ痛む肋骨を押さえながら格納庫へと走った。擦れ違った者達は皆一様にぎょっとした顔で見返してきたが、エリオットはそんなことにかまける余裕など無かった。

「よし、まだいる!」

 格納庫に辿り着くや、予備機のRGM-79正式量産型ジムへと一目散に駆け寄る。整備員に掴まれたら「内線で医務室にデニータ中尉がいるから確認しろ」と言えば、数秒後には通してもらえた。整備員は釈然としない表情ながらも「死んだら喧嘩の相手が居なくなりますよ」と口を尖らせた。十中八九、ライナー・メルツ技術大尉のことだろう。エリオットは苦笑交じりに整備員の肩を叩き、それから再び歩みを進めた。

 階段に差し掛かったところで汗が噴き出てきたのを無視し、コックピットへと飛び込む。しかし、出撃しようとしたものの、武器が無かった。慌てて外部音声を起動する。

「射撃武器は!」

「頭のバルカン砲だけですよ!」

 装備確認の機能呼び出しを操作すると、確かにあった。新型機の教習は受けているので、使い勝手は知っている。しかし、複数のザクやドムを相手にこれとビームサーベルだけで立ち向かえというのは蛮勇に過ぎるというものだ。

「ふざけんな! 予備くらいあるだろう! どこやった!」

「さっきフッ飛ばされた格納庫! 運が悪かったんですよ!」

 ――よりにもよって!

 これで問い質せばスペースが無かったとでも言い訳するのだろう。水掛け論だ。エリオットはこれ以上の問答は時間の無駄だと判断しつつ、周囲を見回す。先程破損させた両腕パーツを吊したクレーンがあった。

「これ、借りるぞ」

 整備員達が反論する前に、クレーンを引き千切った。それを左腕に巻く。

「メルツ大尉には、修理は俺がやると伝えてくれ」

 

「エリオット・ノークス大尉、出るぞ!」

 

 

「ゴート1、再出撃」

《隊長、良いのですか》

 

「お前は引き続きゴート3および4の面倒を見てやれ。俺は、リタを救出する」

《こちらアロー1、貴殿が守備隊のリーダーですか?》

 若い女性の声だ。おそらく彼女らが、デニータ中尉の言っていた増援だろう。通信ウィンドウの横には機体の型式番号が振られていた。RX-77ガンキャノン……両肩にその名の通りキャノンを装備した、砲撃戦に特化したモビルスーツだ。

「こちらゴート1、貴隊の協力に感謝する。訳あって、指揮はゴート2に引き継いでいる」

《リタという方を救出されるのですか……》

 アロー1の声音は、少しばかり不満を含んでいるように思えた。

「思うところはあるだろうが、他に方法が思い付かん。それに、大切な人なんだ」

《……公私混同では? いえ、この話は後にしましょう》

「たまには、やんちゃをさせてくれ」

 さて、反撃開始だ。正式量産型ジムのインターフェースは、先行量産型に比べて大きく進化している。面倒な手順なしに、スイッチ一つで事が運ぶ分、今までより格段に即応性が上がったと感じた。

 ――贅沢なモビルスーツだな。一通りは充実してると来たもんだ。

 バルカン砲の牽制射撃で敵のザクを何機か退けつつ、前へ前へと進む。反撃で放たれたザクの銃弾が、自機の左肩を穿つ。

「ただ、装甲が脆いな」

 だからなおさら、はやく辿り着かねばならなかった。進退窮まったジオン軍は何をしでかすか判らない。得てして彼らは、やりすぎてしまう。エリオットの故郷が、そうされたように。

 エリオットは、ドムを庇った一機のザクが武器を取り落としたのを確認し、次の邪魔者へと接近した。

 エリオットは逃げ遅れたザクにワイヤー付きフックを放り投げ、肩口の関節部分に引っ掛ける。動きが止まったザクに、増援でやってきたガンキャノン部隊より砲弾が放たれる。果たしてそれは直撃し、眼前のザクは木っ端微塵になった。

 ヒットアンドアウェイを繰り返していたジオンのモビルスーツ部隊は、ここにきてようやく己どもの不利を悟ったらしい。目に見えて攻勢を弱めていた。

「世話になる」

《いいってことでさあ。それより、さっさとフィアンセを助けてやって下さいよ》

「ああ」

《軍曹、無駄口は慎んで下さい》

《あいよ。若女将はお堅いねえ……》

 瓦礫に鎮座する陸戦型ジムの残骸の、そのコックピット正面にはシールドが突き立てられていた。そう簡単に流れ弾でくたばらないように、コックピットハッチから脱出できないようにするためだろう。実際、陸戦型もとい先行量産型は正式採用モデルとは構造が大きく異なっており、カセット式のコックピットではない。ハッチが塞がれてしまえば、脱出にはかなりの手間を要する。シールドをどかし、ハッチの開閉ボタンをマニピュレーターで操作する。それからエリオットは自らのジムのハッチも開いた。

「リタ!」

 リタ・アルバ少尉のジムへと身を乗り出し、覗き込む。彼女は膝を抱えて泣いていた。彼女はこちらを見上げると、涙の溜まった両目をよりいっそう潤ませた。

「ノークス大尉――!」

「リタ、乗れ! ナイト様が守ってやる!」

「……はい!」

 手を差し伸べ、こちらのコックピットへと引き上げる。自機のハッチを閉じながら、彼女を膝の上に座らせた。

「ちょっと狭いが、我慢してくれよ」

「カトラス作戦の時よりはマシですよ」

「あんな積み荷はもう御免だよな」

「ええ」

 互いに顔を見合わせる。

「ごめんなさい。大尉のモビルスーツ、駄目にしてしまいました……」

「いいよ。お前が生きていてくれた。それでいいんだ」

 

 

 

 

 イースは歯噛みした。折角盛り上がっていた気分に水を差されたのだ。すぐ真後ろで、フリードリヒ“マザーファッカー”ファルサー大尉が被弾していた。

「てめえ、俺を庇いやがったな」

《君は後方警戒を疎かにする悪癖がある!》

「余計なお世話だよ、マザーファッカー!」

 ドムキャノンの装甲なら、ビームでもない限りは一発貰った程度では大破に至らない。わざと粉塵を舞い散らしているのだから、ビームが来たとしても充分に威力を減衰させられる筈なのだ。それに、ある程度は“におい”でわかるのだから、避けるのもたやすいというものだ。チームワークを真に理解しているならば、この場を任せて他を当たれば良かったというのに、この青二才はその程度の道理も理解してくれない。

《まだ予備が居たとは! くそ、なんて気迫だ!》

 更に苛立たせるのは、その青二才のマザーファッカーが至極どうでも良い内容の独り言を呟きながら、急造のモビルスーツを相手に苦戦していることだ。

「んなもん、間に合わせだろ。焦ってんじゃねえ」

《砲撃?! 戦車部隊は分断されていた筈! くそ、友軍がまた一人やられた!》

「聞けよおお!」

 挙げ句、老人の性交渉よりも“のろま”な砲弾に当たって、焦燥感を丸出しにするという痴態を晒していた。彼のザクは両腕を吹き飛ばされている。あれではもう、何もできまい。

《チャドの奴、墜とされた! スカベンジャー隊は体勢を立て直す!》

「クソが! クソが! 足引っ張んじゃねえよ、カスども!」

 イースがコンソールに拳骨を喰らわせた瞬間、ドムキャノンの足下を巨大な砲弾が穿ち、泥の飛沫が上がる。イースは着弾地点や飛沫の立ち方から瞬時に逆算して、サブモニタにズームした画像を表示させた。

「――ああクソッタレ! 最高にクソッタレだ!」

 ヘルメットを脱ぎ捨て、銀髪を振り乱す。自棄を起こしたくもなるというものだ。よりにもよってモビルスーツ三機の増援、それも“大砲付き”がやってくるとは。フリードリヒが被弾して、左腕を落としたのは彼らの仕業なのだ。しかも、見たことのない戦闘機編隊までが、増援でやってきていた。チャド――あの盛りの付いた猿野郎――のドップは、おそらく奴らに墜とされた。

《アナコンダより各機へ。生き残った連中は、全員ずらかるぞ》

「クソジジイ! 敵の援軍が来ないように輸送機は片っ端から墜としたって、さっき言ってただろうが! 嘘だったのかよ!」

《嘘じゃねえよ。あの時点ではな……とにかく、さっさとケツ捲らねえと、マジで皆殺しにされちまう。撤退支援は俺達の部隊が担当する。やれるな、コブラ1?》

《あー……了解! 規定通り、ヴェノム1ならびに2は俺の指揮下に戻る。ヴェノム2はコブラ2と共同で撤退支援攻撃を。俺とヴェノム1は二手に分かれて生き残りの背後を守る》

《ヴェノム1、了解!》

《コブラ2了解。で、ワッパの連中はどうするんです? 今しがた、指揮官がやられたみたいですが》

 退くなら退くで、そろそろ腹を決めるべきだという局面で、またフランコ少尉が余計なことを言い始めた。

《冷たい言い方になるが、それは彼らで指揮権を引き継いで、どうにか付いてきて貰うしかないな。連中の指揮権は、俺には無い》

《了解。勿体ないですねえ……》

 ヴァイパー小隊の面々は、誰もその発言の真意を追求しようとはしなかった。V作戦の化け物が三機もいるという渦中において、そんな余裕は無いためだ。或いは、初めから無意味な独白と切り捨てた者もいるかもしれない。

 ただ、イースは彼が何を「勿体ない」と言ったのか、確信めいたものを感じていた。彼は間違いなく、ワッパを捨て駒に使おうと考えたのだ。つまり「勿体ないですねえ……俺が隊長だったらあいつらを上手く使えたのに」という風に繋がる。

 そしてイースもまた、それを――悔しいことに――悪い作戦ではないと思っていた。国の為に命を尽くせというわけではない。少しでも基地の生産基盤に打撃を与え、次回の侵攻時に攻め落としやすくするにはそれが一番、理に適っているという考え方だ。

 削れてくぼんだビルに、自機を隠す。その横を二機のザクと一機のズゴックが撤退していった。ただし、武器は基地のほうへと向けたまま。彼らは基地と一定の距離が開いたことを確認すると、それからようやく背を向けて、全速力で撤退を始めた。

 ――妙に静かだな。

 イースは自機、ドムキャノンのハイパースコープを起動した。基地方面を確認しておきたかったのだ。

 敵のモビルスーツは合計七機で、赤いのが三機、白いのが四機だ。その全てが基地の周囲を固めることに集中しており、追撃してくる者は居なかった。逆に、戦車は活きがいい。じりじりとこちらに迫ってきては、しきりに戦車砲を放ってくる。こちらに戦力が殆ど残っていないことを見抜いていて、なおかつ自軍のモビルスーツの損害を減らそうという魂胆なのだろう。

「うざってえぜ」

 イースは舌打ち混じりに、自機のキャノン砲を赤いモビルスーツの一機へと撃ち放った。避ければ基地に直撃する弾道だった。

 しかし、その大砲付きは両腕を交差させて砲弾を耐え凌いでしまった。両腕が吹き飛ぶこともなく、着弾面に僅かな凹みを作った程度だった。

「――は?」

《ヴェノム2、余計な真似はするんじゃない!》

「わかってるよ……」

 ジャンゴ大尉の叱責する声も、イースの耳をすり抜けていた。ハイウェイをたちまち瓦礫に変えるキャノン砲が、こうも簡単に防がれてしまう。それは、火力と装甲に大きな隔たりがあるという、致命的な事実を示していた。

《お前とコブラ2で最後だ、もう下がっていい》

《コブラ2、了解》

「……」

《ヴェノム2、応答しろ。何かあったのか》

「いや? 下がればいいんだろ……」

 死ぬのは別に怖くないが、喉元に食らい付くことすら許されない状況下で一方的にやられるのは、気分が悪いというものだ。連邦軍のモビルスーツ特有の、あの無機質なバイザーが、まるでこちらを嘲笑っているかのように見えた。

 イースはシートを殴ってから、自機を転回させた。

 

 

 

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