終焉行きの奇跡列車   作:神凪 湊斗

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※本作は心理描写、独白多め、やや重めの内容になります。不定期更新ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。


第1話

ぴゅーっと、音だけでも寒くなる風が聞こえる。辺り一面雪景色。吐く息は白に染まり、そのまま消えていく。

こんな時は外に出るのさえ面倒くさくなるのだが、珍しく俺は外出していた。

「…ちっ、階段あんのかよ…。」

雪に靴が食い込むような感覚を覚えながらも、蹴り飛ばすようにして階段を上がっていく。    

何段あるか分からない段差を超えたら、殺風景でしかない、墓場が目の前に現れた。

静かな場所は嫌いではないが、ここは嫌いだ。とにかく嫌い。だが、世話になった奴らが死んだ以上、墓参りに行かないのはどうかと思い、こうして足を運んだ次第だ。

「…はぁ…。」

どさっと、かつて親友だった…まぁ正確にいえば上司なのだろうが、俺にとっては親友、といった方が近い。

とにかくかつて親友だった想真の墓の前に腰を下ろした。

「……。」

何処か手持ち無沙汰で落ち着かないのもあり、ポケットからハイライト(タバコ)を取り出し、持っていたオールライターで着火する。

寒さの影響か、少し力を込めてチャッカレバーを押すと指が赤くなった。

――くっだらね。 

少しイラつき、放り込むようにしてハイライトを咥えて吸うと、独特の重厚な味わいが口内に止まらず、喉にまで広がる。

ふぅ…と灰色の息を吐き出す。これまでの出来事も全て、この煙と共に空気中に消えてしまえば良いのに。

あーイライラする。

ここでやけ酒でもしてやろうか。

 

『あんま飲みすぎんなよ〜』  

 

耳鳴りと同時にあいつの調子の良い声が流れ込んでくる。   

過去の記憶のはずなのに、その声はやけに鮮明で、まるで隣にあいつがいるような感覚に襲われる。そんなはずはないのに。

あいつは死んだんだ。確かに。俺の目の前で。

 

『…もう、疲れたんだ。』

『全部、全部。』

 

あぁ。そうだ。あいつは――。

…じ、さつ、したんだっけ。

「…っ…」

思い出したくもない記憶。辞めろ、辞めろ。止まれ。せっかく、せっかく忘れてきた所なのに。

「…死んでまでお前は俺の頭を蝕んで来んのかよ…」

あぁ、あぁ。視界が揺れる。ぼやけてぼやけて良く見えない。

「…えい。」

トン、と何か温かいものが俺の肩に触れる。敵襲か、と咄嗟に身構えたが、そこにいたのは敵でもなんでもなく琥珀だった。

これから誰かとパーティでもすんのか?と言いたくなるほど、酒等の娯楽品を持てるだけ持っている。  

「…何だお前かよ。」

「私で悪かったですね。」

拗ねたような声色でありながらも、俺の隣に座る琥珀。今にもはち切れそうな袋から、ゴソゴソと何かを取り出そうとしている。

「…ありました。」 

取り出したのは日本酒と小さい盃。想真の隣にそびえ立つ虎次郎の墓にそれを置いた。

「…日本酒だけじゃなく、何故盃…?」

「虎次郎さんは貴方と違って、酒をラッパ飲みしないんですよ。ちゃんと盃に注がせて飲むタイプ。」

「古くせぇ、一昔前のじじいかよ。」

「貴方だけには言われたくないと思いますよ。」    

ははっと掠れた声で笑い、盃に日本酒を注ぐ琥珀。その手が何処か震えてるように見えたのは俺の気のせいだろうか。

何処か切なげで、今にも泣き出しそうな表情をしているように見えたのは、俺の気のせいか?

…いや違うか。琥珀は虎次郎に随分世話になったといっていた。

いくら合理主義の塊の琥珀でもそこを簡単に割り切る事はできないのだろう。   

「……。」

何も言わず、持ってきた供えものを次々違う墓に供えて行く琥珀。こまめな事で、1つ1つの墓に手を合わせて回っている。

そうだった。こいつ、結構仲間には情が深いんだった。普段の冷徹な面だけが目立って記憶に残っていたが、こういう所もあるのだ。

だからこそ、余計に辛いだろう。俺よりこいつらといた時間が長かったのだから。           

「…最後ですね。」

そう言って、ワインを手に取ってある墓に向かう。その墓とは――――

組織を裏切った、リアの墓だった。

「おい…」

一瞬、こいつは正気か?と疑ってしまった。だって、リアは、あいつは…虎次郎を殺した張本人なのだから。

「……。」

俺の声など気にもとめないのか、あるいは聞こえてないのか、ワインをリアの墓に供えた琥珀。

少し力が込めてあるように感じなくもない。

「…はぁ。貴方、持ってるワインの種類が多すぎるんですよ。」

「おかげで供えるワインを選ぶのに随分と時間がかかってしまった」

そこにリアがいるのかというように、墓に話しかける琥珀。もちろんあいつは想真に殺されてもう居ないのだが。

「…いつも貴方はそうですよねぇ。約束をすぐ放り出して、自由奔放に違う事をして、私を振り回す…。」

「私がどれだけその行動に迷惑を感じていたか、貴方は分からないでしょう?」

ぽた、と雫が地面に落ちる音が聞こえた。その雫は地面に染み渡り、やがては消えてゆく。人の命のように。

「…また勝手に…っ、自由な…行動をして…消えて…行って…っ」

「あ〜、清々します!!」

「もう貴方に振り回される事はないんですから!!」

強がるような声色ではあるものの、何処か脆く、震えていて、落ちる雫の量も増えていく。今日は雨の予報など無かったはずなのに、琥珀の周りは水浸しだ。

「…ほんとに、ほんとに…」

「…何も言わず、消えていかないでくださいよ…。」

強がる気力など、とうに消え失せ、膝を抱え込んで文句を言う声は聞こえなくなってしまった。聞こえてくるのは嗚咽のみ。 

…リアは俺達にとっては悪で、琥珀にとってはただ1人の親友だったのかもしれない。

分からない。俺には分からない。

あまりにも過ごす時間が少なすぎた。それぞれの事を深く知る前に散ってしまったのだから、何が悪なのか、正義なのか、断定する事は不可能だ。知らなすぎる。あいつらの事を。

推察や分析する事でしか、今はあいつらの事を予想する事しか出来ない。

なんて無様だ。惨めだ。

 

 

『…うん。嫌いだった。君達の事なんてずっと、大嫌いだった。』

 

死に際のリアの言葉が頭に響く。

 

 

『…あ、最後の言葉だけど、琥珀に難しく考え過ぎないで、肩の力抜いてって伝えといて〜』

 

場の雰囲気をぶち壊すかのようなヘラヘラとしたリアの笑顔。

 

『あはっ』

『バイバイ。』

『もう二度と会いたくない。』

 

最後には銃口を自分に向けたまま撃てないでいる想真の手を促すように、自分で引き金を引いたんだっけ。

倒れた表情はいつものあいつの笑顔ではあるものの、何か感情が残ったような表情。

それを見た想真はどんな表情をしていたのだろうか。

あの時は生き残るのに、敵を倒すのに必死で、そこまで見れていなかった。

 

[考え直せ、想真っ…!]

想真が命を絶とうとした際、必死に、必死に止めた。想真の感情も無視して、俺の感情で突っ走ったような戯言を想真にかけ続けた。 

『…無理だ。』

『俺は仲間が死んで、ヘラヘラ笑える程馬鹿でもねぇし、立ち直って違う人生を歩める程、メンタル強くもねぇんだよ…。』  

そういう想真は諦めたような表情をしていた。脆く、弱々しい声。

あいつが初めて見せた弱み。

それを俺は自分の欲と感情で踏みにじった。

大事な奴の感情にさえ気づいてやれない、寄り添ってやれない奴の何処が親友だ。

そんなの、自分の都合いいように利用してる駒と同じじゃねぇか。

「……。」

想真の墓に向き直る。そういえば供えものをするのを忘れてたな。

自分のポケットに手を突っ込み、供えものを探す。 

「…けほっ、けほっ…」

「…風邪か?早く帰…」

「…は?」

琥珀が小さく咳き込む音が聞こえ、視線をそちらに向ける。

赤。赤。咳き込んで抑えた手に付着した、赤色の液体。もう見る事はないと思っていた。

「…お前、完治してなかったのかよ…。」

琥珀は持病がある。内臓関連のものらしいが、合併症として結核にかかるなんて。        

「…何度も言ってるじゃないですか。今の医療じゃ、この病気を治す事は不可能ですよ。」

手に付着した赤の液体を拭く事もせず、淡々と琥珀はそう言う。その声はどこまでも平坦で、もう治らないとでも言うような、そうこちらに思わせるような声だった。

「……死ぬ前に墓参りに行けて良かった。心残りがあったら、気持ちよく死ねませんからね。」

掠れた、でも全部諦めたような笑顔。最後に琥珀が見せたのは、そんな表情だった。

 

――――――――――――

 

「……あ〜〜?」   

周りの景色を見渡す。だが意識が膜のようにぼんやりしていて、いつものように上手く認識する事が出来ない。小針が頭を突くような痛みに顔を顰めながらも、何とか今いる場所を把握しようとする。

「…アルカディア騎士団の屋上?」

そうだ。アルカディア騎士団の屋上だ。

悪魔組織を壊滅させてから、もう機能はしていないが、1部分だけ欠けたまま直されていないフェンス、雑に置かれた寝袋。これを見て確信した。

「……。」

足を軽く上げて見る。そこには足場なんてものはない。ただ重力があるだけ。

そりゃそうだ。俺が立ってる場所はフェンスの外側なのだから。

「風、気持ちいな。」  

いつもはうっとおしく感じる寒風も、今は何故か心地いい。俺の背中を押してくれるかのようだ。

「もう良いか。」

全てを終わらせても。全部、全部、投げ出してしまおう。

俺はやり切った。与えられた仕事も全てこなしたし、役割も完遂した。自分の身を削ってでも、民衆の平和を守った。 

俺はきっと、今、酒で感覚がおかしくなっているに違いない。

良いのだ。これまで積み上げてきたものがあるのだから、自分の死に方を自分で選んだって、きっと誰も何も言わない。言われようが、今さらそれを聞くつもりは更々ないが。

「…じゃ、終わるか。」

ダ、ッと申し訳なさげにあった足場を蹴り上げ、重力へと身を任せる。 

ただただ、落ちていく。風が、空が、身体を包み込んでくれているようだった。

ふんわり、ふんわり。世界が現実味を帯びない。まるで、異世界のような…。

バシュッ、と何かが地面に叩きつけられるような音が最後にして、俺は意識を手放した。

 

――奇跡でも、起こったら良かったのに。

 

幻聴。幻聴の様なものが、聞こえた気がした。

 

 

『神の名の元に、その命が救われんことを。』

『異能力。』

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。次話から、じわじわと世界観と人物が見えてくる予定です。
感想等頂けたら、とても励みになります。
何気に自創作をネット等に公開するのが初めての為、とても緊張しております…。
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