「…この悲劇はリアが虎次郎さんを手にかけてから始まりました。」
「悲劇を変える為にはリアが虎次郎さんを手にかけるのを阻止する必要があります。」
「出来れば戦闘は避けたい。戦闘になれば、私や貴方はリアには勝てません。」
「…そこで、説得という手段です。」
作戦会議、とは言われたものの、俺はまだ全体像を掴みきれていなかった。
だが、琥珀の次の言葉で、その意味を思い知らされる事になる。
「あいつを説得するには、あいつについて知っておく、あの思考になってしまう理由を理解する必要性があります。」
「ですが、普段のあいつの動向を見るだけでは、私達の主観的なものになってしまい、真の意味での理解は難しいでしょう。」
「…そこで、客観的な情報を得る為に、色々と調べてきました。」
「…これが調べる上で見つけた、1部の資料です。」
すっ、と資料なるものを俺に差し出す琥珀。それは最近創られたように小綺麗ではあるが、所々破られている箇所があり、情報が得ずらい。
だが、ページをめくっていくと、1ページだけ破られていない、綺麗なページを見つけた。
――――リア・ロンラ・スフォルツァについての資料
リア・ロンラ・スフォルツァはイタリアの名門貴族として生まれた。
ミラノ郊外の平野に城を構え、外からは噴水が見える。バロック様式のアート的美しさの感じる城ではあるが、温かみはない。
彼の城に入れた調査員は誰1人として居なかった。無惨な姿で帰ってくる事はあったが。
スフォルツァ家の長女、ルクレツィア・ロンラ・スフォルツァと長男、リア・ロンラ・スフォルツァの瞳はいずれも高貴さを感じさせるワインレッドの瞳。
しかし先祖を辿っても、スフォルツァ家の者がワインレッドの瞳をしていたという記述はない。 おそらく、突然変異だと言われている。
2人が手にかけた被害者の血がそのまま瞳の色になっているという噂も絶えない。
彼の手によって犠牲になった人々は低く見積っても、600人は優に超える。
更にそれだけでは飽き足らず、半世紀前、明らかに存在していた天使、という種族を絶滅に追い込んだ。
最低最悪の殺戮事件であった。
彼については未だに多くが謎で残されている。
――――――
「……うげ、あいつ、そんな事してたのかよ…。」
「…そう断言するのはまだ早いですよ。」
「どういう事だよ?」
「…この資料を見て、何か疑問に感じる事はありませんか?」
「疑問?」
琥珀にそう問い掛けられ、資料をもう一度読み込む。1字1句、逃さぬよう、しっかり、しっかり。
(…あれ?)
「姉の情報、少なくね?」
リアは出身、リアは出生地、被害人数、裁判記録まであるのに対し、リアの姉は名前と瞳の色のみ。こんなにもリアの事が調べられているのならば、少し姉についての情報が出てきてもおかしくはないのだが…。
「…リアの姉、ルクレツィアについての資料や情報を私なりに探ってみました。」
「ですが、どの資料を見ても明かされているのは瞳の色と名前のみ。それ以外の情報は何処を探しても無い。」
「私の調査不足、という事も否定は出来ませんが、普通は少し調べれば出てくるはずなのです。」
「…まるで、意図的に削られたような…。」
そう独り言のように呟くと、琥珀は黙り込んでしまった。しばらくの間、沈黙がこの空間に訪れる。
だがふとした時に琥珀の顔が上がった。
「…まだ疑問はあるんです。」
「…まだあんのかよ。」
「ええ。」
琥珀は資料を俺からそっと取り上げ、とある部分を指で指し示した。
ーー半世紀前、明らかに存在していた天使という種族。
「…まず、天使って存在していたのでしょうか?」
「は?」
「…存在していたという証拠は今の所、資料の記述のみ。それを裏付ける実物の物がありません。」
「後から創られた創作、という可能性もあるでしょう?」
「これをそのまま信じるには…あまりにも胡散臭い。」
それに、と言葉を続ける琥珀。
「…何故リア1人が600人を手にかけた、と明言出来るのでしょう?」
淡々とした口調でありながら、妙に聞き手の心臓を突き刺すような声色。
ドクン、と心臓が鳴る音が聞こえた。
「あいつを擁護してる訳ではありません。リアが人間を手にかけた、という事実は本当でしょう。」
「ちゃんと裁判記録もありますしね。」
ヒラヒラと裁判記録の紙を弄ぶように揺らす琥珀。ここだけ見ると余裕綽々に見えなくもないが、表情は以前として厳しいままだ。
「…ですが裁判記録もどれも破られていましてね。」
「綺麗なものがこれしかなかったんです。」
謎の応酬。琥珀が口を開く度に、謎が次から次へと増えていく。
「…この殺戮騒動の裏にはルクレツィアが多少なりとも関わっているのでは?」
「…でも、それを裏付ける証拠もねぇじゃんか。」
確かに言われてみればその通りなのだ。そうなのだが、俺の胸の内には納得より先に別の違和感が突き刺さっていた。
「…そうですね。断定は出来ません。」
「あくまで私の考えとして述べただけです。」
持っていた資料を丁寧に仕舞う仕草を見せる琥珀。
「…そろそろ食堂へ戻りましょう。」
「長い時間居なくなっては怪しまれる種となります。」
パチッともう一度琥珀が指を鳴らすと、やはり一瞬で景色が食堂へと切り替わる。そこには誰も人影は見当たらず、俺達だけ…のはずだった。
「…え?」
――ーリア?
私自身、ミステリー小説をあまり読まないので、書くのにかなり苦戦しました…。
次回、少し不穏ですね。