「お疲れさま、たっくん。すごいよ、完璧だったね!」
「あ、はい。ありがとうございます!」
結論から言うなら。
ターゲット5つ。
俺は全て撃ち落とした。
反撃はなかったし、初めての仕事でも姐さんがサポートしてくれたので、冷静に対応できた。
無事に依頼を終えた俺たちは、報酬の受け取りに来ていた。
「ご協力、ありがとうございました。では約束の報酬です、鈴華さん。それと……たっくんさん、でよろしいでしょうか?」
「た、達也です!」
本気なのか冗談なのか分からないトーンで行政官に尋ねられ、慌てて名乗る。
「たっくん、今日が初フライトなんだ。いい仕事するでしょ、褒めてあげてよ」
「おや、それはそれは。お疲れさまでした。今後とも何かありましたら、ぜひお願いしますね。期待しています」
深々とお辞儀をする行政官。
偉い人に頭を下げられる経験なんてないので、どう答えたらいいのか迷ってしまう。
迷った挙句、「あ、ええと、はい」なんて曖昧に答えつつ、差し出された封筒を受け取った。
「初めての仕事で疲れたでしょ、たっくん。そのお金は全部たっくんが貰っていいよ」
「え! 姐さんの取り分は……!?」
「んー、あたしは隣で見てただけだし。頑張ったのはたっくんなんだから、気にしないで」
そう言われ、恐る恐る封筒の中身を確認すると。
ちょっと見たことのない額のお金が入っていた。
報酬金、しめて6万クレジット。
例えば30万クレジットもあればあのディスカバラーがもう1隻買えてしまうことを考えれば、とんでもない大金だ。
「え、いいんですかこんなに!? 見てただけって言っても戦闘機を用意してくれたのは姐さんだし、俺だけじゃ絶対にどうにもならない仕事だったのに、本当に……!?」
「いいんだって。謙虚なとこも可愛いねえ。今日はもう仕事はないから、ぱーっと遊ぶなり休むなりしておいで」
「は、はい! ありがとうございます!」
やっぱり姐さんは最高だ。
姐さんと一緒に仕事をしていると、時々、姐さんのことを悪く言う奴に出会うことがある。
あいつらには一体何が見えているのだろう。
こんなに優しくて頼りになって理解のある人なんて、他にいないのに。
この後の仕事がないのだって、俺のことを気遣ってくれてのことに違いない。
姐さんと別れ、町に繰り出す。
けどパーっと遊ぶって言っても、何をしようかな。
大金を手に入れた人間がパーっと遊ぶとするなら、まあ、酒か、女か、ギャンブルか。
女はないな。
姐さん以外の女と遊ぶ気になんてなれない。
ギャンブルも、ないか。
6万クレジットでも使い道に悩むのに、これ以上増やしてどうすると言うのか。
となると後は、酒かな。
ワルモノ退治してヒーローになって、大金もらって高いお酒でカンパイ。
うん、悪くない。サイコーだな!
俺は気分良くバーの扉をくぐって、カウンターに腰掛ける。
「ヘイマスター! この店で一番高いお酒くれよ! だーいじょうぶ、金ならあるんだって」
「承知しました。……ずいぶんとご機嫌ですね、お客さま。何か良いことでもありましたか?」
「んっふっふー、分かるぅー? ついさっき、デカイ仕事が終わったとこでさー」
「それはそれは。おめでとうございます。どうぞこちらを」
マスターが入れてくれたお酒を、ぐびっとあおる。
だが、自分で思っているよりも相当疲れていたらしい。
ろくに味も分からないまま、数分で俺は眠りに落ちた。
『やめてくれ! 嫌だ、死にたくない!』
コクピットに響く通信。
これは、夢か……?
『どうか、どうか慈悲を……!』
うるさい。
『見逃してくれっ、なんでもするから、頼むっ……!』
うるさいってんだよ。
『ねえ。キミは、自分のこと好きかい?』
……っ!!
「うるさいってんだよ!!!」
俺は、自分の怒鳴り声で目を覚ました。
バーのカウンターで突っ伏して、そのまま寝てしまったらしい。
「たっくん、大丈夫? だいぶうなされてたみたいだけど」
「あ、姐さん……」
キョトンとした表情で俺の顔を覗き込む姐さんと、目が合う。
いつの間にか、時計の針はすっかり夜を指していた。
何やってるんだ、俺は。
姐さんに心配をかけるなんて。
自分が情けなくなる。
「あの。姐さん。……姐さんは自分のこと、好きですか?」
「うん。もちろん」
迷うことのない即答。
「そ、そうですよね! やっぱ姐さんは変わらないですね!」
「どうしたー? 前にも同じこと聞かれた気がするぞー?」
前にも同じことを聞いた。
その時も、姐さんは同じように答えた。
「もちろん」と。
俺は、そんな姐さんに憧れて。
俺も、そんな風に言えるようになりたくて。
だから、姐さんの背中を追い続けた。
姐さんの背中は、まだまだ遠そうだ。
時間は少し巻き戻る。
あんたの知り合いが酔い潰れてるから迎えに来いと、酒場のマスターから連絡が入った。
言われた通りに来てみると、カウンターに突っ伏す達也の姿。
「適正、あると思ったんだけどなあ」
達也の寝顔を見下ろして、呟く。
人を殺せる人間は、それほど多くない。
憎んでる相手なら殺せるかもしれない。
向こうから襲ってくる相手なら殺せるかもしれない。
けれど、憎んでるわけでもなんでもない無抵抗の相手を、仕事だからという理由で殺せる人間は、それほど多くない。
そしてこれは、訓練で克服できるようなものじゃない。
警察官でさえ、死刑囚の死刑執行ボタンを押せない。それが普通だ。
だから執行ボタンは、誰が押したか分からないようになっている。
死刑囚には電極のスイッチが3つ繋がれる。本物のスイッチが1つとダミーが2つ。
その3つのスイッチを3人の執行官がそれぞれ同時に押すことで、殺しの負担を分散する。
そういう仕組みだ。
バカバカしいとは思うけれど、本人が納得しているなら外野がどうこう言うものでもない。
せいぜい茶番を続けてくれればいいと思うだけだ。
あたしが欲しいのは、人を殺せる人間。
その点で、達也には見込みがあった。
社会を憎み、必死で世界に抵抗していた。
皆にバカにされて、悔しさを全身に滲ませて。
「初めて会ったのはいつだったっけ。……ええと、そうそう。確か3年前だったかな。警察官とカーチェイスをしてたんだっけ、たっくん」
あっさり捕まった彼の保釈金を払ったのは、あたしだ。
彼の趣味に合いそうな服をプレゼントしたら、想像以上に喜んでくれた。
簡単な手料理を作ってあげたら、満面の笑顔で食べてくれた。
きっと今まで、誰かから優しくされたことなんてなかったんだろうな。
ちょっと優しくしてあげただけで、こっちが驚くくらい簡単に、あたしに懐いてくれた。
後は武器を与えて、経験値を積ませるだけ。
全てうまくいくはずだった。
なのに。
達也は今、バーのカウンターで突っ伏して眠っていた。
「うーうー」と声にならない呻き声を上げながら。
「鈴華さん。彼にどんな仕事を? デカイ仕事が終わった、と話していましたが」
マスターが責めるような口調で尋ねてくる。
いやいや、そんな顔されましても。
「いやいや、簡単な仕事を任せただけだってば。初心者向けの、誰でもできるやつ。バックアップも万全の、マンツーマンで完全サポート体制でさ」
「誰でもできる、ではないでしょう。鈴華さんの同類なら、簡単でしょうけども」
いや同類て。人を人類以外の何かみたいに。
「うるさいってんだよ!!!」
「わっ」
びっくりした。
達也が目を覚まして、体を起こしていた。
自分の怒鳴り声で目を覚ますなんて、また随分と器用なことで。
「たっくん、大丈夫? だいぶうなされてたみたいだけど」
達也の顔を覗き込み、尋ねてみる。
「あ、姐さん……」
困った様子で視線を彷徨わせた彼は。
「あの。姐さん。……姐さんは自分のこと、好きですか?」
そんなことを聞いてきた。
以前彼は、自分のことが嫌いだと話していた。
自分のことが嫌いだなんて、そんな人もいるんだと驚いたものだ。
「うん。もちろん」
もちろん、あたしは自分のことが大好きだ。
世の中には、あたしのことを悪く言う奴もいる。
それはきっと、あたしとは価値観が根本的なとこで食い違っているからだろう。
あまりに自分とは異質なものを、人は好きにはなれない。
あたしが、どうにも他人を好きになれないのと同じように。
どれだけ愛想を身につけ、親しく接してみても、何かが違う。
そんな違和感がどうしても付き纏う。
自分のことを本当に理解できるのは、自分だけ。
だから逆に言えば、あたしだって自分のことだけは好きになれる。
「そ、そうですよね! やっぱ姐さんは変わらないですね!」
「どうしたー? 前にも同じこと聞かれた気がするぞー?」
前にも同じことを聞かれた。
その時も、あたしは同じように答えたはずだ。
「もちろん」と。
鈴華の姐さんの内心がちょっぴり垣間見える第2話、読んでいただきありがとうございます。
次回もどうぞお楽しみに。