Like Yourself   作:心愛さん

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第2話 残響

「お疲れさま、たっくん。すごいよ、完璧だったね!」

「あ、はい。ありがとうございます!」

 

 結論から言うなら。

 ターゲット5つ。

 俺は全て撃ち落とした。

 反撃はなかったし、初めての仕事でも姐さんがサポートしてくれたので、冷静に対応できた。

 無事に依頼を終えた俺たちは、報酬の受け取りに来ていた。

 

「ご協力、ありがとうございました。では約束の報酬です、鈴華さん。それと……たっくんさん、でよろしいでしょうか?」

「た、達也です!」

 

 本気なのか冗談なのか分からないトーンで行政官に尋ねられ、慌てて名乗る。

 

「たっくん、今日が初フライトなんだ。いい仕事するでしょ、褒めてあげてよ」

「おや、それはそれは。お疲れさまでした。今後とも何かありましたら、ぜひお願いしますね。期待しています」

 

 深々とお辞儀をする行政官。

 偉い人に頭を下げられる経験なんてないので、どう答えたらいいのか迷ってしまう。

 迷った挙句、「あ、ええと、はい」なんて曖昧に答えつつ、差し出された封筒を受け取った。

 

「初めての仕事で疲れたでしょ、たっくん。そのお金は全部たっくんが貰っていいよ」

「え! 姐さんの取り分は……!?」

「んー、あたしは隣で見てただけだし。頑張ったのはたっくんなんだから、気にしないで」

 

 そう言われ、恐る恐る封筒の中身を確認すると。

 ちょっと見たことのない額のお金が入っていた。

 報酬金、しめて6万クレジット。

 例えば30万クレジットもあればあのディスカバラーがもう1隻買えてしまうことを考えれば、とんでもない大金だ。

 

「え、いいんですかこんなに!? 見てただけって言っても戦闘機を用意してくれたのは姐さんだし、俺だけじゃ絶対にどうにもならない仕事だったのに、本当に……!?」

「いいんだって。謙虚なとこも可愛いねえ。今日はもう仕事はないから、ぱーっと遊ぶなり休むなりしておいで」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 やっぱり姐さんは最高だ。

 姐さんと一緒に仕事をしていると、時々、姐さんのことを悪く言う奴に出会うことがある。

 あいつらには一体何が見えているのだろう。

 こんなに優しくて頼りになって理解のある人なんて、他にいないのに。

 この後の仕事がないのだって、俺のことを気遣ってくれてのことに違いない。

 姐さんと別れ、町に繰り出す。

 けどパーっと遊ぶって言っても、何をしようかな。

 大金を手に入れた人間がパーっと遊ぶとするなら、まあ、酒か、女か、ギャンブルか。

 女はないな。

 姐さん以外の女と遊ぶ気になんてなれない。

 ギャンブルも、ないか。

 6万クレジットでも使い道に悩むのに、これ以上増やしてどうすると言うのか。

 となると後は、酒かな。

 ワルモノ退治してヒーローになって、大金もらって高いお酒でカンパイ。

 うん、悪くない。サイコーだな!

 俺は気分良くバーの扉をくぐって、カウンターに腰掛ける。

 

「ヘイマスター! この店で一番高いお酒くれよ! だーいじょうぶ、金ならあるんだって」

「承知しました。……ずいぶんとご機嫌ですね、お客さま。何か良いことでもありましたか?」

「んっふっふー、分かるぅー? ついさっき、デカイ仕事が終わったとこでさー」

「それはそれは。おめでとうございます。どうぞこちらを」

 

 マスターが入れてくれたお酒を、ぐびっとあおる。

 だが、自分で思っているよりも相当疲れていたらしい。

 ろくに味も分からないまま、数分で俺は眠りに落ちた。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

『やめてくれ! 嫌だ、死にたくない!』

 

 コクピットに響く通信。

 これは、夢か……?

 

『どうか、どうか慈悲を……!』

 

 うるさい。

 

『見逃してくれっ、なんでもするから、頼むっ……!』

 

 うるさいってんだよ。

 

『ねえ。キミは、自分のこと好きかい?』

 

 ……っ!!

 

 

 

 

「うるさいってんだよ!!!」

 

 俺は、自分の怒鳴り声で目を覚ました。

 バーのカウンターで突っ伏して、そのまま寝てしまったらしい。

 

「たっくん、大丈夫? だいぶうなされてたみたいだけど」

「あ、姐さん……」

 

 キョトンとした表情で俺の顔を覗き込む姐さんと、目が合う。

 いつの間にか、時計の針はすっかり夜を指していた。

 何やってるんだ、俺は。

 姐さんに心配をかけるなんて。

 自分が情けなくなる。

 

「あの。姐さん。……姐さんは自分のこと、好きですか?」

「うん。もちろん」

 

 迷うことのない即答。

 

「そ、そうですよね! やっぱ姐さんは変わらないですね!」

「どうしたー? 前にも同じこと聞かれた気がするぞー?」

 

 前にも同じことを聞いた。

 その時も、姐さんは同じように答えた。

 「もちろん」と。

 

 俺は、そんな姐さんに憧れて。

 俺も、そんな風に言えるようになりたくて。

 だから、姐さんの背中を追い続けた。

 姐さんの背中は、まだまだ遠そうだ。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 時間は少し巻き戻る。

 あんたの知り合いが酔い潰れてるから迎えに来いと、酒場のマスターから連絡が入った。

 言われた通りに来てみると、カウンターに突っ伏す達也の姿。

 

「適正、あると思ったんだけどなあ」

 

 達也の寝顔を見下ろして、呟く。

 人を殺せる人間は、それほど多くない。

 憎んでる相手なら殺せるかもしれない。

 向こうから襲ってくる相手なら殺せるかもしれない。

 けれど、憎んでるわけでもなんでもない無抵抗の相手を、仕事だからという理由で殺せる人間は、それほど多くない。

 そしてこれは、訓練で克服できるようなものじゃない。

 警察官でさえ、死刑囚の死刑執行ボタンを押せない。それが普通だ。

 だから執行ボタンは、誰が押したか分からないようになっている。

 死刑囚には電極のスイッチが3つ繋がれる。本物のスイッチが1つとダミーが2つ。

 その3つのスイッチを3人の執行官がそれぞれ同時に押すことで、殺しの負担を分散する。

 そういう仕組みだ。

 バカバカしいとは思うけれど、本人が納得しているなら外野がどうこう言うものでもない。

 せいぜい茶番を続けてくれればいいと思うだけだ。

 あたしが欲しいのは、人を殺せる人間。

 その点で、達也には見込みがあった。

 社会を憎み、必死で世界に抵抗していた。

 皆にバカにされて、悔しさを全身に滲ませて。

 

「初めて会ったのはいつだったっけ。……ええと、そうそう。確か3年前だったかな。警察官とカーチェイスをしてたんだっけ、たっくん」

 

 あっさり捕まった彼の保釈金を払ったのは、あたしだ。

 彼の趣味に合いそうな服をプレゼントしたら、想像以上に喜んでくれた。

 簡単な手料理を作ってあげたら、満面の笑顔で食べてくれた。

 きっと今まで、誰かから優しくされたことなんてなかったんだろうな。

 ちょっと優しくしてあげただけで、こっちが驚くくらい簡単に、あたしに懐いてくれた。

 後は武器を与えて、経験値を積ませるだけ。

 全てうまくいくはずだった。

 なのに。

 達也は今、バーのカウンターで突っ伏して眠っていた。

 「うーうー」と声にならない呻き声を上げながら。

 

「鈴華さん。彼にどんな仕事を? デカイ仕事が終わった、と話していましたが」

 

 マスターが責めるような口調で尋ねてくる。

 いやいや、そんな顔されましても。

 

「いやいや、簡単な仕事を任せただけだってば。初心者向けの、誰でもできるやつ。バックアップも万全の、マンツーマンで完全サポート体制でさ」

「誰でもできる、ではないでしょう。鈴華さんの同類なら、簡単でしょうけども」

 

 いや同類て。人を人類以外の何かみたいに。

 

「うるさいってんだよ!!!」

「わっ」

 

 びっくりした。

 達也が目を覚まして、体を起こしていた。

 自分の怒鳴り声で目を覚ますなんて、また随分と器用なことで。

 

「たっくん、大丈夫? だいぶうなされてたみたいだけど」

 

 達也の顔を覗き込み、尋ねてみる。

 

「あ、姐さん……」

 

 困った様子で視線を彷徨わせた彼は。

 

「あの。姐さん。……姐さんは自分のこと、好きですか?」

 

 そんなことを聞いてきた。

 以前彼は、自分のことが嫌いだと話していた。

 自分のことが嫌いだなんて、そんな人もいるんだと驚いたものだ。

 

「うん。もちろん」

 

 もちろん、あたしは自分のことが大好きだ。

 世の中には、あたしのことを悪く言う奴もいる。

 それはきっと、あたしとは価値観が根本的なとこで食い違っているからだろう。

 あまりに自分とは異質なものを、人は好きにはなれない。

 あたしが、どうにも他人を好きになれないのと同じように。

 どれだけ愛想を身につけ、親しく接してみても、何かが違う。

 そんな違和感がどうしても付き纏う。

 自分のことを本当に理解できるのは、自分だけ。

 だから逆に言えば、あたしだって自分のことだけは好きになれる。

 

「そ、そうですよね! やっぱ姐さんは変わらないですね!」

「どうしたー? 前にも同じこと聞かれた気がするぞー?」

 

 前にも同じことを聞かれた。

 その時も、あたしは同じように答えたはずだ。

 「もちろん」と。




 鈴華の姐さんの内心がちょっぴり垣間見える第2話、読んでいただきありがとうございます。
次回もどうぞお楽しみに。
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