Like Yourself   作:心愛さん

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第4話 五分後の戦場

『ドッキング許可を受諾しました』

 

 コクピットに、ドッキングの許可を知らせる音声案内が響き渡る。

 ドッキング申請。

 よそのステーションに船を停める際に必ず必要になる手続きだ。

 そもそもステーションとは、この広い宇宙空間に建造された人工施設。

 ほとんどの人間は、このステーションで暮らしている。

 ステーションの建造理由は、防衛、もしくは商売。あるいはその両方。

 宇宙の脅威から人々を守るための要塞として。

 宇宙に溢れる天然資源を加工して利用するため。

 そんな目的のために莫大な予算を投じて建設されたステーションに船を停めるなら、まず申請して許可をもらう必要があるわけだ。

 例えていうなら、インターホンのベルを鳴らしてドアを開けてもらう感覚に近い。

 ステーションから転送された誘導データに従い、船をドックに移動させる。

 前後、左右の位置調整をして、ゆっくり降下。

 ……いつもこの操作の時は緊張する。なんなら飛び立つ時よりも緊張するくらいだ。

 船は離陸するより、着陸する方がずっと難しい。

 それはシミュレーションで分かっていたはずだが、実際の機体だとその緊張感が何倍にもなる。

 なにせ、ドックでは何人もの整備士が生身で働いているのだ。

 うっかりひいてしまいました、で済まされるわけがない。

 

『ドッキングに成功しました』

 

 無事にドッキングが成功したことを知らせる音声案内。

 ふう、と息をつく。

 

「お疲れ様です! 荷物、運び出してよろしいですか?」

「え、あ。ああ。頼むよ」

 

 こちらが声をかけるより先に、整備士から声をかけられ、積んできた食料品を運び出してもらう。

 こういったやりとりは、まだ慣れないな。

 

「運び出し完了しました! クレジットは鈴華さんの口座に振り込んでおきますね。こちらが明細です」

 

 整備士の人から渡された明細書に目を通すと、確かにクレジットが振り込まれたことが記されていた。

 買取価格から元のステーションの販売価格を差し引いて、しめて30クレジット。

 それが鈴華さんの口座に振り込まれたと。

 

「30クレジットかあ。そっかー……」

 

 昨日の6万クレジットを見た後だと、やっぱりちょっと少ないな、と感じてしまう。

 いや決してこのステーションがケチというわけじゃない、昨日がおかしかったのだ。

 行政機関から直々に依頼された殺しの報酬と、食料品の輸送ではこれくらいの差があって当然だ。

 ましてこのディスカバラーは輸送機ではなく、偵察機。

 速度に特化するため、装甲も貨物容量も限界まで削減されている。

 30クレジットは、まあまあ妥当な金額だ。

 

「あ、あのさ。この辺りで、何か他に仕事ない? 例えばこのステーションで余ってる在庫の輸送とか」

 

 まあまああ妥当とはいえ、今日の稼ぎはこれだけでした、じゃちょっとカッコ悪すぎる。

 合流時間の夕方まで、しっかり仕事を探さないとな。

 

「え、うーん。そうですね」

 

 言いながら、手元のタブレットを操作する整備士。

 ポチポチと操作すること、数秒の後。

 

「……3つほど紹介できます。1つは輸送依頼。ただし運んでもらうのは人です。乗客を乗せて指定の場所まで運んでください。2つ目は観測衛星の設置依頼。定点観測用の人工衛星を、指定した場所に投下してください。3つ目は殺し。組織的犯罪グループが潜入したステーションがありますので、それの始末です。どれがいいです?」

「そんなにあるの!? じゃ、じゃあ全部……いややっぱり2つだけ、輸送と衛星のを受けようかな」

 

 べ、別にビビッてねーけど!?

 ただ、欲張って集合時間に間に合わないとマズいじゃん!?

 まずは練習って言ってたし、今はできることを確実に増やしていくターンだから!

 だから別にビビッてねーし!

 誰に対してか分からない言い訳を、内心でペラペラと並べておく。

 

「ありがとうございます。報酬の振込はどうなさいますか? 鈴華さんの口座か、あるいは直接あなたへのお支払いもできますが」

「ああ、そりゃもちろん姐さん……いやえっと、鈴華さんのとこに振り込みでいいよ。分前は直接姐さんと話すからさ」

「そうですか。こちらとしてもその方が、手続きが楽で助かります。はい、手続き終わりました。詳細情報をディスカバラーに転送しましたので、後はよろしくお願いします」

 

 ポーン。という電子音と共にモニターにターゲットが表示され、思わずびくりと体が硬直する。

 え、いや。

 殺しは受けてないよな。

 断ったよな、俺。

 恐る恐るモニターを確認すると、そこには。

 

『ターゲット:輸送依頼人 ジェフ 通話が可能です』

 

 との表示。

 び、ビビらせんじゃねえよ、まったくよ。

 そんなことを思いながら通信を繋ぐと、モニターにスキンヘッドのイカつい兄ちゃんが映し出される。

 いやまあ、イカつさだったら俺も負けねえ自信あるけど。

 ……負けてねえ、よな?

 

「おお! あんたが依頼受けてくれたやつか! そのディスカバラーがあんたの船か? ああサンキューな、すぐに向かうよ。いやー助かったぜ、すぐに行く!」

 

 通信終了。

 こちらがほとんど話さないうちに、向こうから通話を切られた。

 ……ええと、ここで待ってりゃいいのか、俺?

 それとも船の外に出て、営業スマイルの1つでも浮かべた方がいいのだろうか。

 ビジネスマナーってのがどうにもよく分からない。

 とりあえず客とケンカしてはいけないことだけは学んだ。

 ヘラヘラ笑ってナメられたら、姐さんの顔に泥を塗ることにもなりかねないし、どっしりと構えてた方がいいだろうか。

 何せスキンヘッドだし、こーいうヤツにナメられたらマズいよな。

 けど挨拶もできないなんて評判が立ったら、やっぱり姐さんの仕事に支障が出たりしないか?

 どうすりゃいい、どうするのが正解なんだ!?

 

 その時、外部からの通信がディスカバラーに繋がる。

 発信元は……姐さん!!

 

『や。お仕事は順調かい、たっくん』

「は、はい! 無事、輸送終わりました!」

『うん。こっちでも入金、確認したよ。やるじゃん、仕事が早いねえ』

「いえそんな、当然ですよこれくらい!」

 

 事故りそうになったことは、言わないでおく。

 もうさっきのような失敗はしないし、心配かけたくないからな。

 

『うんうん。頼もしい限りだねえ。それで、何か他に仕事はありそう?』

「あ、はい。今、人を送り届ける仕事を受けて……あ、来ました! あの人です!」

『あの人って言われてもあたしからは見えないけど……まあ、頑張ってるみたいで何よりだ。お客さんとは仲良くしとくんだよ。愛想よくしてたらチップがもらえることもあるから』

「はいっ! それじゃ、失礼します!」

 

 通信終了。

 それと同時に、ジェフが乗り込んでくる。

 

「待たせたな、兄ちゃん。今話してたのは、あんたの恋人か?」

「えっ! こ、恋……!? 違います、違いますって! そんなんじゃ……!」

「あっはっは、隠すな隠すな! その反応でもうバレバレだっての。いいじゃねーか、仕事の合間に恋人と電話。いいねえ、青春だねえ」

「うっ、本当にそんなんじゃ……もうっ、出発しますよっ!」

 

 離陸、発進。

 

「ええと、それで、目的地は……」

 

 ナビゲーションを確認してみる。

 必要な情報は全て転送されているから、目的地も自動で表示される。

 

『目的地:駆逐艦 ベヒーモス E級』

 

「駆逐艦まで……って、ええ!? 駆逐艦!? あんた、駆逐艦の船員なのか!?」

 

 駆逐艦。

 それは大型の主力戦闘艦となる艦種だ。

 艦船には大きさによって4つの区分があり、それぞれ小型、中型、大型、特大型となる。

 このディスカバラーは小型偵察機。

 民間船と比べたら相当大きなこれも、区分としては小型だ。

 それに対して駆逐艦ベヒーモスは大型。

 甲板にこのディスカバラーを4隻ほど露天駐機できるスペースがあるといえば、その大きさが想像できるだろうか。

 その主砲はまさに大砲。

 偵察機の100倍を超える装甲と圧倒的な火力で戦場の主役を務める、正真正銘の戦闘艦だ。

 

「そうそう。けど昨日はちーとばかし酔っ払っちまって、寝過ごしちまってな。気づいたら出撃時間過ぎてやんの。いやー、送ってくれて助かったぜ」

「……え、ああ。そうなんですね」

 

 ……あれ、なんだろう。

 この人、急に全然すごくない人に見えてきたぞ。

 駆逐艦の船員って、案外誰でもなれたりする?

 俺でもなれるんじゃねえの?

 そんなことを考えている間に、目的のベヒーモスが見えてきた。

 神話の怪物の名をもつその巨体が放つオーラには、さすがに圧倒される。

 近づくのがちょっと怖いくらいだ。

 十分に距離をとって減速、刺激しないようにゆっくりと接近して、ドッキング申請を送る。

 

『ドッキング許可を受諾しました』

 

 誘導に従って位置調整、露天駐機スペースにドッキング。

 ふう。これで一仕事終わりだ。

 

「おう、ありがとよ! 艦長っ、こちらジェフ、ただいま着任しました!」

「おせーよ! いつまで寝てんだ大馬鹿野郎! この方への報酬は、テメーの給料から引いとくからな!」

「そんなっ!?」

 

 当たり前だバカ、と捨て台詞を残してこちらに歩いてくる駆逐艦の艦長。

 銀髪を短く刈り揃えた、精悍な顔立ちの青年だった。

 俺より少し年上だろうか。

 でも『艦長』の言葉のイメージよりは若い。

 

「あんたも、こんなバカのためにありがとな。これが明細だ」

 

 手渡された明細を確認すると、2万5千クレジットが入金されていた。

 

「ありがとうございます!」

 

 すごく大金なんだけど、昨日1度6万クレジットを見ていると耐性がつくな。

 焦ってつっかえることもなく、冷静に対応できるぜ。

 

「じゃあな、兄ちゃん」

 

 艦長はそう言ってヒラヒラと手を振るのだが……せっかくの駆逐艦。

 もう少し堪能したいという欲が湧いてくる。

 

「あ、あのー。もし良かったらなんですけど、少し船の中、見て回ってもいいですか? 俺、こんなデカい船初めてで。中がどうなってるか、見てみたいんです」

「あん? あー、やめとけ。すぐに離れた方がいいぜ。この船は5分後に戦闘区域に突入予定だ。生きて帰れる保証がなくていいってんなら、好きなだけゆっくりしてていいけどよ」

「!! おおおおお先にししし失礼しますっ!!」

 

 輸送依頼、やっぱりこええ。




第4話、お読みいただきありがとうございます。
ようやく世界観が広がってきましたね。次回もどうぞお楽しみに。
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