Like Yourself   作:心愛さん

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第6話 癒しのひととき

 ステーションに帰還。

 ドッキング申請を送り、許可を受諾。

 この流れにも大分慣れてきたな。

 あとは位置を合わせて慎重に船を近づけて……おや?

 駐車位置に船を近づけると、船の手動コントロールが効かなくなり、オート操縦に切り替わる。

 そしてそのまま、ディスカバラーはスムーズな動きでゆっくりと着陸した。

 ……そうか、埠頭で内部コンピュータにドッキングアシストを積んだから。

 これがドッキングアシスト。

 すごく便利じゃないか。

 手間が減るのもいいが、何より余計な気を使わなくていいのが良い。

 エンジンを切ってステーションに降り立ち、居住区画に向かう。

 俺と姐さんが暮らしている区画だ。

 ドックから居住区画へ通じるエレベータに乗り、ネームプレートのない部屋の呼び鈴を鳴らす。

 

「おかえり」

 

 待つこともなく、すぐにドアが開いて姐さんが迎えてくれる。

 もちろん、俺の方が先に帰ってる時は、俺も同じように姐さんを迎える。

 むしろ今までは俺が先に帰ってることがほとんどだったので、ちょっと新鮮な気分だ。

 これからは、こんな風に姐さんに迎えてもらう事も増えていくんだろうか。

 だとしたら、ちょっと楽しみだ。

 この瞬間の為だけに、どんな仕事でも頑張れそうな気になってくる。

 

「ただいま戻りました! 姐さん!」

「おー、仕事上がりなのに元気だねえ。若いっていいねえ」

 

 姐さんだって十分に若いくせに、そんな事を言ってくる。

 

「これくらい全然平気ですって。姐さんこそ、お疲れ様です! なんか通信でドンドンバンバン鳴ってましたけど、大丈夫でしたか?」

「うん。だいじょ……あ。いや……」

 

 ふと。何かを思いついたような表情で言葉を区切って。

 

「……いやー、実は結構大変だったんだー。もうクタクタかも。癒しておくれよー」

 

 そんなことを言って、ソファにごろんとダイブする姐さん。

 ……えっ。

 ……癒す?

 ……俺が!?

 ど、どうすりゃいいんだ、俺。

 考えろ、考えるんだ。

 まず、やりもしないで「できません」は無しだ。

 とりあえずやるしかない。

 仮に俺が、姐さんに癒してもらうとするなら。

 頭をなでなでして、ぎゅーって抱きしめながら「よくがんばったね、えらいね」なんて声をかけてもらえればイッパツで癒されること間違いなしだ。

 じゃあ、それでいいのか?

 本当にそれでいいのか!?

 どこかで何かを間違えてるような気がして、でも何を間違えてるのかが分からない。

 

「……すんません、できればヒントを」

「ぷっ、あははっ。ヒントってなにさー」

 

 面白そうに笑う姐さんを見て、ああ、からかわれてたのかと理解する。

 

「わ、笑わないでくださいよー。こっちは真剣に考えてんのに」

「ごめんごめん。困ってるたっくんが面白くてつい。じゃー肩揉んでよ。運転してたらこっちゃってさ」

 

 なるほど、そういうことか。

 早とちりして撫でたり抱きしめたりしなくて良かった。

 セーフ。

 

「ええもちろん。それくらいでしたら全然よろこんで」

 

 昔から体を動かしている方が合っている性分なのだ。

 ソファの横に回り込んで、うつ伏せに転がる姐さんの両肩に手を乗せる。

 そのままぐぐっと親指に力を込めると、その奥に硬くなった筋肉を発見する。

 

「うにゃああー。上手だねえたっくん」

「そうですかね? もっと強くしたり、弱くしたりもできますよ」

「ううん。今の強さで丁度いいよー。あー極楽」

 

 ソファに突っ伏してるので表情は分からないが、その声から満足げな様子が伝わってくる。

 不思議とこっちの疲れまで取れてくるようだ。

 成果がその場ですぐに、目に見える形で返ってくるのはいいな。

 単純な俺には、これくらい分かりやすい方がいい。

 ぐにぐに。

 もみもみ。

 少しずつ位置をずらして、背中近くから首の根元あたりまでほぐしていく。

 

「ありがとー。かなり楽になったよ。意外な才能だねえ」

「そ、そうっすか? 俺も今日運転してたんで、自分の場合に当てはめて疲れたとこをマッサージしただけなんすけどね」

「ああ、なるほど。たっくんもお仕事お疲れ様。じゃあ今度はあたしが揉んであげよう!」

 

 えっ、いいの!?

 思わず飛び上がりそうになる。

 いや、実はあまり凝るような体質じゃないせいで、マッサージの良さはよく分からないというか、肩揉まれても俺はくすぐったいだけなのだけど、姐さんが俺のために何かしてくれるというその気持ち自体が嬉しかった。

 欲を言えばぎゅーっと抱きしめてくれればマッサージ以上に癒やし効果バツグンだろうと思うのだが、それを言うとドン引きされそうだし。

 まあマッサージでいいよな。

 

「じゃ、じゃあお願いします」

 

 姐さんが起き上がったソファに、姐さんに背中を向ける形で腰掛ける。

 後ろから姐さんが手を乗せて。

 ぐにぐに。

 もみもみ。

 うん。やっぱりくすぐったい。

 思わず変な力が入って首をすくめてしまう。

 

「おっと、強すぎたかい? 痛かったかな」

 

 いえいえ全然大丈夫です、と答える。

 正直にくすぐったいと言ってしまうと、この時間が終わってしまうような気がして、それはとても勿体無い。

 ぐにぐに。

 もみもみ。

 最初の頃よりいくらか刺激にも慣れてきて、だんだん肩の力も抜けてきた。

 そうなるとくすぐったさは薄れ、反対に姐さんの手の温もりや慎重な手つきをはっきりと感じ取れるようになってくる。

 最初に首をすくめてしまったせいで、強いのは苦手と思われたらしく、あくまでソフトタッチで慎重にコリを探す姐さん。

 その繊細さから、やっぱり女性なんだなあって意識してしまう。

 ……なんか、いいなあ。

 背中付近から、首の付け根あたりまで。

 俺と同様に、少しずつ位置をずらして。

 自分ではあまり凝らない体質だと思っていたのだけど、数分のマッサージの後にははっきり自覚できるくらいに肩が軽くなっていた。

 

「どう? 少しは楽になってるといいけど」

「あ、はい! バッチリです!」

「そ。なら良かった」

 

 満足げに頷く姐さんと、ハイタッチを交わす。

 姐さんを癒して。

 姐さんに癒されて。

 最強の永久機関が完成しちまったな。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 翌朝。

 今日も姐さんが用意してくれた朝食を口に運ぶ。

 ちなみに今日はサンドイッチだ。

 姐さんの食事は、なんと言うか、質素。

 いや別に文句があるわけじゃなく、むしろめちゃくちゃ美味しいんだけど、大金を稼いでいる人の食事のイメージからは遠いというか。

 普通、お金を稼ぐ理由って、もっと美味しいものを食べたいとか、おしゃれしたいとか、そんな感じじゃん?

 けれど姐さんは高額な食事に傾倒する様子はまるでないし、ここ最近の朝食を並べても、目玉焼き、茶粥、サンドイッチ。

 殺しまでしてお金を稼いでる人のイメージからは、ちょっとズレる。

 そんな疑問を、姐さんに直接ぶつけてみた。

 

「あの。姐さんってなんでこんな仕事してるんです?」

「ん。こんな仕事って?」

 

 あ、聞き方間違ったかも。

 仕事に文句があるような言い方になってしまった。

 

「ああすいません、悪い意味じゃなくってですね。ただ、昨日も戦闘があったんですよね、姐さんは。そんな危険を冒してまでお金を稼ぐのは、どうしてかなーって」

 

 ちなみに俺が今の仕事を続ける理由は簡単だ。

 この仕事を続けていれば、姐さんと一緒にいられるから。

 そして姐さんが喜んでくれるから。

 男が命をかける理由なんて、それだけで十分だ。

 

「んんー。そうねえ。うまく伝えられるか分からないんだけど……例えばたっくん、昨日食料の輸送を終えて、30クレジットが入金された時、どう思った?」

「どう……って」

「正直さ、ショボいなーって思ったでしょ」

 

 うっ。

 まあそれは、そう。

 大金をもらっても使い道に困るが、それはそれとしてあまりに少ないと、なんか、こう、ね。

 決して金の為に働いてるわけじゃないんだけど、正直ちょっと思っちゃうよね。

 ショボいなーって。

 

「私はさ。気持ちよく働きたいだけなんだ。自分の得意なことで、役に立って。みんなが喜んでくれて。たくさんのお金をもらって。そのお金で買ったサンドイッチを、信頼できる仲間と食べる。どんな腕ききシェフのフルコースよりも、こんな朝のサンドイッチの方が私は好きなんだよ」

「へえ。そういうもんですかね。腕ききシェフのフルコースなんて食べたことないんで、ちょっと想像つかないですけど」

 

 けど、食事は何を食べるかよりも、誰と食べるかの方がずっと重要だってのは分かる。

 姐さんと食べる食事は、過去に食べたどんな食事よりも比較にならないくらいに美味しいのだ。

 

「後は、そうね。これは将来の夢みたいなものだけどさ。お金が貯まったら、いつか惑星に降り立ってみたいなーって思うよね」

「惑星、ですか?」

 

 あー、なんか歴史の授業で習ったことあるな。

 大昔、俺たちの先祖は『地球』って呼ばれる惑星で暮らしていたのだとか。

 ところが、800年ほど前に突然起こった宇宙戦争によって、艦隊丸ごと1つが地球への帰還手段を失い宇宙に取り残された。

 その生き残りの子孫が、俺たちアルゴン人だ。

 それから800年。

 宇宙に取り残された人々は近くの惑星を人が住める環境に整えた。

 それこそ気が遠くなるような時間と天文学的な資金や資源を投入して。

 今は『アルゴンプライム』と呼ばれる惑星に、1部の裕福な一族が暮らしているという。

 

「惑星って、あれでしょ? 上流階級のお貴族さまが暮らしてるっていうとこでしょ? なんか肩凝りそうで、俺はあんまり憧れないっすねー」

「まあ、アルゴンプライムはそうかもね。けどさ、まだ誰も手をつけてない惑星を、私たち自身で開拓できたとしたら。それはまた話が変わってくるよね」

「……俺たち自身で、惑星を? ……えっと、あの。……できるんですか、そんなこと?」

「できるかどうかは、やってみないと分からないけどね。少なくとも、昔それを成し遂げた人がいる。自分の足で大地を踏みしめてみたい。川のせせらぎや山の梢をこの身で感じてみたい。たっくんは、そんなふうに思ったことってない?」

 

 ……やべえ。めっちゃ楽しそうじゃん。

 山ってあれだろ、鳥とか飛んでるんだろっ!?

 衛星放送でしかみたことないけどっ!

 

「……めっちゃ面白そうじゃないですか、それ! いいですね、やりましょう姐さん!! それで、何が必要なんですかね。開拓って」

「んー、信頼できる科学者とのコネとか、色々と必要なものはいっぱいあるけど。まあまずはお金かな。ってことで今日も、張り切って稼いでいこーっ」




第6話、読んでいただきありがとうございます。
次回の7話は鈴華姐さん視点でお送りする予定です。
お楽しみに。
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