「今日も張り切って稼いでいこーっ」
……と、言ってはみたものの。
さて、何の仕事がいいかなーと。
あたしはタブレットを操作して依頼を探してみる。
採掘船の護衛の依頼が出ていた。
……ほほう。
これは丁度いいかもしれない。
昨日の『戦利品』の調子も見ておきたいし、これにしよう。
「どうですか、姐さん。良さげな仕事ありました?」
「うん、あったよ。採掘船の護衛だって」
「護衛、ってことは本格的な戦闘になるんですかね? 俺のディスカバラーで、どうにかなるっすかね」
「ふっふっふ。そこは心配ご無用。一緒にドックまで来てよ。見せたいものがあるんだ」
ぱちり、とウインクをひとつ。
いたずらっ気なお姉さんを演出してみる。
「すげぇ、でけぇ……」
目の前の船を見上げて感嘆の声を漏らす達也。
「じゃじゃーん。これが昨日手に入れた戦利品、『ドラゴン レイダー』でーすっ」
そんな彼に、得意げに手に入れたばかりの船を自慢してみる。
『ドラゴン レイダー』。
中型艦船に分類される戦闘艦、コルベットの1種だ。
全体的にゴツゴツとしていて、赤を基調としたデザインがかっこいい。
遠目に見るとこのゴツゴツが、龍の鱗のようにも見える。
「やべえ。どうしたんですか、この船! どこで手に入れたんです!?」
目を輝かせる達也。
期待通りの反応でこちらも嬉しくなるね。
コルベットとは中型戦闘艦の中でも、速度と火力に優れた艦種。
中でもこの『ドラゴン レイダー』はスプリット族と呼ばれる種族によって作られた傑作機だが、アルゴン星系では扱っていない。
そもそもスプリット族とアルゴン連邦は戦争中の関係なので、当然ではある。
「運が良かっただけだよ。昨日たっくんが通信してくる少し前に、スプリットの海賊に襲われてたんだけどね。返り討ちにしたら、『船ごと置いていくから見逃してくれ』って。また1つ、宇宙が平和に近づいたね」
悪は滅び、正義が力をたくわえる。
いいことするって気持ちがいいな。
この宇宙には、幾つもの脅威が存在する。
海賊もそうだし、ゼノンと呼ばれる機械生命体、カークと呼ばれる外宇宙生命体もそうだ。
さらにアルゴン連邦と戦争中にあるスプリット族に、パラニド族もそう。
厳密にいうならスプリットとパラニドに関しては全てが敵ってわけでもなく、仲良くできている派閥もあるのだが……少なくとも海賊、ゼノン、カークの3つに関しては明確に敵と断言して構わない。
「なるほど。それで昨日の通信で戦闘音が。さすがっす、姐さん!」
「それでさ、たっくん。今日はこのドラゴン レイダーのタレットの操縦、お願いしたいんだ」
「タレット……つまり副砲ですね。ええ、やってみます!」
話しながら、大きく口を開くハッチへ続くスロープを進んでいく。
小型なら梯子を引っ掛ければヒョイと登れるが、中型くらいになるとそう簡単にはいかない。
このスロープだけでも20メートルはあるだろうか。船全体の全長は80メートルくらいになると思う。
小型艦と中型艦では、文字通り格が違う。
それが、昨日1日乗ってみたあたしの感想だ。
スロープの終着点に待つエアドックに設置されたエレベータから、コクピットへ。
離陸すると今のスロープが自動で格納され、着陸すれば再びスロープが現れる仕組みだ。
戦争中の敵ながら、スプリット族の造船技術は頭1つ抜けている。
「うわあ。これが中型船のコクピット……! すげえ、広い! 座席が3つもありますよ!!」
「中央がパイロット席で、その左右がそれぞれ砲座と、誘導コンソールだね。それじゃ、砲座は任せたよ」
「はいっ!!」
達也が砲座に座るのを確認し、エンジン点火。
ドックから離陸し、ナビを起動する。
離陸の動作だけでも、小型とは感覚が全然違うな。
感覚なのでうまく言葉では表現しづらいのだけど、例えば小型がフワッと離陸してギューンと飛ぶ感覚だとするなら、中型はグオォオンっと浮かび上がってゴゴゴゴーっと加速する感覚だ。
……なんだろう、自分で言っててなんだけど、語彙が達也と同レベルというか。
今まであたしは自分のことをそれなりに賢い方だと自負していたけど、案外おバカさんなのかもしれない。
「うおおー、すげー! なんかこう、小型の船とは全然違うっすね! グオォオンって浮かんでゴゴゴゴーって進んでくみたいな! ヤバイっすね!」
「……そうだね。ヤバいね」
さすがたっくん。
息ぴったりじゃないか。
「姐さん、まもなく目的地です!」
「了解。ああ、見えてきたね。あの採掘船かな?」
トラベルモードを解除。
前方に採掘船を目視で確認する。
ちなみに採掘船について少し解説しておくと、宇宙の採掘は惑星の地表で行われるものとは少しイメージが異なる。
宇宙での採掘は、鉱石やシリコンといった資源を含む小惑星を、小惑星ごとレーザー兵器でドカーンと爆破して散らばった資源を回収するダイナミックなものだ。
目の前の採掘船も、そういった船の1つ。
採掘専用のレーザー兵器を備え、資源回収に特化した中型船だ。
『よう! 護衛を引き受けてくれたんだってな! 待ってたぜ!』
「お待たせ。あとは安心していいよ」
通信終了。
しばらく採掘船の仕事を見守る。
どーん。どーん。
鉱物を含んだ小惑星が、採掘船によって粉砕される。
「このまま、何事もなく終わってくれたら楽なんすけどね」
「そうだね。けどまあ……」
『警告。敵性反応、カーク接近。距離10キロメートル』
「やっぱり、こうなるかなっ!」
レーダーに表示された反応に向けて舵を切る。
「10キロ!? 近すぎませんか、ついさっきまで近くに何もいなかったのに!!」
「これがカークの厄介なとこだね。独自のワープ技術を駆使して、どこにでも現れる」
カーク。
外宇宙生命体。
多角形の不思議な機体は、昔、ファンタジーな冒険映画で見た魔法使いのバリアのようにも見える。
言葉は通じず、その目的も、そもそも目的があるのかも不明。
ただ宇宙のすべての知的生命体に対して攻撃的であり、採掘船を襲う習性があることのみ知られている。
「たっくん、射撃用意。射程に入り次第撃ってよし」
「はいっ!」
達也の返事を聞きながら、まっすぐレーダー反応へと向かう。
まずはヘッドオンでいいかな。
射程圏まで、残り5キロ。
ここでブレーキ、静止してカークを待ち構える。
射程まであと3キロ。2キロ。1キロ。
「発射っ!」
「おっしゃあーっ!!」
主砲ボルトリピーター六門、副砲フラックタレット二門。
計八門の武装が火を吹く。
ボルトリピーターは、いわゆる戦闘機用のマシンガンだと言えばイメージしやすいだろうか。
鉛玉をばら撒いて制圧する火力特化の兵器。弾を打ち切った後のリキャストが隙になるものの、そこさえ我慢できるなら頼もしいことこの上ない。
そしてフラックタレット。こちらは高射砲のイメージが近いかも知れない。
小型の爆弾を空中に投げ飛ばすような武器だ。
そうそう直撃するような武器ではないものの、敵機の近くで爆破できれば副砲としては十分な火力となるし、運よく直撃すれば当然大ダメージを与えることができる。
だが、そんなカタログスペックよりも何より気に入ってるのは。
ダダダダダダッ! バーンッ! バーンッ!
「おっしゃあ! 1機落としましたよ姐さんっ」
「うん。やったね」
と、このちょっと騒がしいくらいの戦闘音。
いかにも戦場って感じでアガるよねっ。
……あれ。
「…………」
なんだろう、妙な違和感。
いやカークやドラゴンレイダーの装備に対する違和感じゃなくてね。
「どうしました、姐さん? もう1匹もやっちゃいましょう!」
「……うん、そうだね」
回頭、一斉射撃。
ダダダダダダッ! バーンッ! バーンッ!
撃破。
技術も何もない、機体の性能で圧倒する戦い方。
私は楽で好きなんだけど、達也の好みではないんじゃないかなーと思っていたのだ。
実はそれを確かめたくてドラゴンレイダーに乗せてみたのもあるのだけど。
「すげーっすね、この機体! めっちゃ強えっすね!」
……まあ、パイロットとしてはこっちの方が頼もしい。
その後も何度かワープして襲ってくるカークを機体の性能で捩じ伏せて、鉱物を積んだ採掘機をステーションまで護衛し、依頼完了となる。
『サンキューな! 助かったぜ!』
「ええ、また稼がせて頂戴ね」
採掘船の通信士にそう答え、振り込まれた金額を確認する。
報酬20万クレジット。
……おおー。さすがに私も、少し頬が緩んじゃうかも。
隣を見てみると達也も、にまーっと顔を綻ばせていた。
多分、私も同じような顔になってると思う。
「……じゃ、今日はこれくらいで切り上げて飲みに行こっか、たっくん!」
「はいっ! お供しますっ!」
うん。
お金があるって素晴らしいな。
第7話、お読みいただきありがとうございます。
次回は第8話……ではなく。幕間の物語となります。
そちらもどうぞお楽しみくださいませ。