Like Yourself   作:心愛さん

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第8話 休日

 今日は珍しく、姐さんよりも早くに目が覚めた。

 昨日は遅くまで飲んでいたせいか、姐さんはまだ気持ちよさそうに眠っている。

 姐さんを起こさないように、そーっと布団を這い出ると、俺はキッチンへ向かう。

 ……たまに早く起きた時くらいは、俺が朝食を用意してみよう。

 キッチンに立つのも久しぶりだけど、まったく作れないわけでもない。

 上手に作れるかな。

 冷蔵庫を覗く。

 お、たまご発見。

 

 フライパンにたまごを割って、カチャカチャとかき混ぜる。

 これでスクランブルエッグの完成だ。

 ……あれ。ちょっと違う……?

 混ぜてからフライパンに移すんだったっけ?

 順番が逆だった?

 ま、まあ味はそこまで変わらないはずだからよし!

 さらにプチトマト。

 こいつをレンジでチンしてスクランブルエッグの隣に添える。

 あとは食パンにジャムを用意すればバッチリだ。

 

「おはよーたっくん。もう起きてたんだ? 流石若いねえ」

 

 ちょうど出来たタイミングで姐さんも起きてきた。

 

「はいっ! 朝ごはん作ったんで、良かったら食べてみてください!」

「お、気が利くねえ。それじゃ、寝癖だけ直してすぐに行くよ」

 

 そう言って化粧台に向かう姐さん。

 そのドライヤーの音を聞きながら、俺はコーヒーを用意する。

 元々はコーラの方が好きだったが、姐さんのマネをして飲んでるうちに俺もコーヒーを飲めるようになった。

 コーラの炭酸は一気に頭をシャキッ! とさせてくれるが、コーヒーはその香りと温かさでじっくりと頭を覚醒させてくれる。

 コーラにはコーラの良さがあり、コーヒーにはコーヒーの良さがある。

 どちらが良いとかではなく、どちらも良いのだ。最近はそんな風に思っている。

 

「お待たせたっくん。それじゃ、頂きまーす」

「はいっ! 頂きます!」

 

 そうして、それぞれが朝食に手を伸ばす。

 まず食パンから。

 片手で丁度いい大きさにちぎって、いちごジャムをちょんちょんとつけて口へ運ぶ。

 うん、美味しい。

 そういえば、食パンの食べ方にも人によっていろんな派閥があるらしいな。

 俺はこんな風に、1口サイズにちぎって食べるのが好きなのだけど、食パンは絶対にトースト派で、焼かずに食べるなんて無理って人もいる。

 姐さんはというと、いろんな具材を挟んだり乗っけたりしてサンドイッチにしたりピザ風にしたりしてくれる事が多い。

 そんな一手間が嬉しくて、やっぱり姐さんは最高である。

 

「あれ。このスクランブルエッグ。……ははーん、さては目玉焼き作ろうとしたら形が崩れて、咄嗟にスクランブルエッグにして誤魔化したなー?」

「え。いやまあ……そんなとこですかねー。味はちゃんと問題ないと思うんで!」

「うんうん。あたしもたまに失敗するから分かるよー。別に崩れてたって気にしないのに」

「そ、そうっすか? あははは」

 

 スクランブルエッグ自体を失敗したのさ。あはは。

 ……お店とかで出てくるフワフワのスクランブルエッグとか、すげーよな。

 どうやったらあんなの作れるんだろう。

 そんなことを考えながら、テレビを付ける。

 丁度、ニュース番組をやっていた。

 顔も名前も知らないどこかの誰かが襲われただの不祥事しただの、そんなどーでもいい話題がつらつらと流れている。

 多分、1時間後には全部忘れてる。その程度のニュースだ。

 

『続いてのニュースです。ゼノン保護団体を名乗る人物が幹線道路を塞ぎ、渋滞が起こっています』

 

 ……ゼノン保護団体?

 

「……うわあ」

 

 姐さんがそのニュースを見て、露骨に嫌そうに眉を顰める。

 顔も名前も知らないどこかの誰かのニュースにわざわざ姐さんが反応すること自体、ちょっと珍しい。少し気になったので、話を促してみる。

 

「……なんなんですか、そのゼノン保護団体って。姐さんの知り合いです?」

「知り合いじゃないし、知りたくもないよ。機械にも人権があるとかなんとか言いながら、美術館の絵画に絵の具ぶっかけたり、道路で寝そべったりしてるご立派な連中だよ。立派すぎて意味わかんないよね」

 

 ……なるほど、意味わからん。

 ちなみにゼノンってのは宇宙の脅威となる機械生命体で、何人ものパイロットが奴らのせいで命を落としている。

 そもそも大昔の宇宙戦争で戦った敵がゼノンなのだ。そんな全宇宙の脅威を保護とか、頭の中にプリンでも詰まってるんじゃないだろうか。

 画面の向こうでは、ゼノン保護団体のおっさんがギャーギャー喚いていたが、道路を塞いでいる理由は最後まで分からなかった。

 姐さんがピッとリモコンを押してチャンネルを回すと、新作スイーツの話題になった。

 

「あっ。美味しそうっすね、あのスイーツ。やっぱ姐さんも、あーいうの興味ありますか?」

「んー。スイーツかあ。あたしは食べないかなあ。太るの嫌だし、栄養だってなさそうだし」

「……あ、そっすか」

 

 いや、俺も食べないけどさ。あーいう店、入ったことも入ろうと思ったこともないけどさ。

 そもそも姐さんって、何が好きなんだろう。

 仕事以外の趣味の話とか、ほとんどした事がない。

 かと言って仕事人間ってわけでもなさそうなのが謎なところ。

 

「姐さんって、趣味ってあります? 休みの日とかどう過ごしてるんですか?」

「え? 別に特別なことはしてないよ。星空を眺めたりしながら、ゆっくり体を休めてることが多いかな」

「…………」

 

 いや、うん。否定する気はないよ?

 綺麗だよな、星空。

 ただ、一言だけ言わせて欲しい。

 休み方下手すぎるだろ、姐さん!!

 

「姐さんっ! スイーツ食べに行きましょうっ、スイーツ! 今テレビでやってたやつ!」

「え、どしたの急に。私は別に」

「俺が食べたくなったんです! 男1人じゃ入りずらいんで、一緒に来てくださいっ!」

 

 意外だねえ、などと言いながらも身支度を整える姐さん。

 ぼんやりと空を見つめて過ごす姐さんを想像するとこっちが悲しくなる。

 

「そういうたっくんは、普段は何してるの?」

「俺っすか? 俺はバイクの雑誌眺めたり、サーキットのレースの中継見たりですかね」

「ああ。なるほど。そういえば初めて会った時も、バイクで飛ばしてたねえ。戦闘機に乗れるようになった今でも、やっぱり憧れるんだ?」

「そりゃそうですよ。直接風を感じられるんですから。バイクと戦闘機じゃまったく別物ですって」

 

 そんな話をしながら、部屋を出てお店に向かう。自分のバイクなんて持ってないので、徒歩で向かう。

 もしバイクがあれば、後ろに姐さんを乗せて2人乗りで、なんてのも憧れるんだけどな。

 

「……バイク、買っちゃう?」

「……えっ!?」

「ほら、昨日はたっくん頑張ってくれたし、おかげで沢山稼げたし」

「そんなの当然ですけど……いいんすか!? 本当にいいんすか!?」

「うん。そんで、新車に乗ってスイーツ食べに行こうよ。運転はよろしく」

「は、はいっ! もちろん!」

 

 近くのバイクショップをスマホで検索する。

 カタログを見て、買いたいバイクはもう決めてあるのだ。

 在庫は……あった。整備もされていて、すぐに乗れる状態だ。

 今はほとんどのお店が整備をドローンに任せている中、このお店は店主が直接工具で整備しているらしい。

 バイクどころか戦闘機の整備だってドローンがしてくれるこの時代に、昔ながらの職人って感じでカッコいいよな。

 

『エリック工務店』

 

 そう看板の掲げられたお店では、工務店の名の通り、バイクだけでなくラジオや電算機、なんの用途に使うのか分からない謎の機械まで、様々な機械を扱っていた。

 商品のラインナップがややレトロに偏っているのは、店主の好みだろうか。

 

「ごめんくださーい」

 

 と声をかけると、店の奥から店主らしき男性が顔を出す。

 油でやや汚れた作業着と、そんな作業着がまったく似合わないアイドルのように整った顔。金髪の髪は俺と同じだが、俺だとどうしてもチンピラっぽくなるのに比べて、彼はどこぞの王子様のような雰囲気がある。

 王子様のような雰囲気があるだけに、やっぱり汚れた作業着がまったく似合わない。

 

「やあ、どうも。お待たせしてゴメンなさいね。何かお探しで?」

 

 凛として透き通った声。絶対に工務店よりアイドルやってる方が向いてると思う。

 

「あ、はい。バイク買おうと思ってて。買いたいのはもう決めてるんです。KAWASAKIのNinja ZX-4Rってやつ!」

「おー、いいねえ。僕も好きだよ。Ninjaいいよねえ」

 

 店主がガレージから、鮮やかなグリーンの塗装のバイクを引っ張ってくる。

 ハンドルが低めの、フルカウルのスポーツバイク。全体的にすらっと纏まったシルエットの中で、唯一無骨なほどに大きいマフラーが強い存在感を主張している。

 

「おおおおおっ!」

 

 カタログでどんなバイクかは知ってはいたけど、手の届く距離で直に見るとやはり違う。

 これが、俺のバイクになるのか。

 

「ちょーっとだけ待っててね。点検だけ済ませちゃうから」

 

 店主はそういうと、工具を片手に慣れた手つきでエンジンやブレーキの点検を行っていく。

 この店主って呼び方もどうにも似合わなくて、どちらかというと『社長』って呼んだ方がしっくりくる顔立ちなんだよな。けれどその使い込まれた作業着や慣れた熟練の手捌き、何より整備中の真剣なまなざしは完全に職人のそれで、どう呼んでいいか少し迷う。

 

「ん、おっけー。可愛がってやっておくれよ」

「はいっ! ありがとうございます、店長……いや、社長?」

 

 迷いをそのまま声に出すと、彼は少し苦笑いをして。

 

「あー。僕のことは『エリックさん』でいいよ。従業員もいなくて僕だけでやってる店だし、趣味で機械いじってるだけなんだから。アフターサービスも受け付けてるから、何かあったらすぐに相談においで」

 

 そんな店主……エリックさんにもう1度お礼を言い、会計を済ませてバイクにまたがる。

 その後ろに姐さんが乗り、ぎゅっと腰に抱きついてくる。

 途端に心拍数が跳ね上がるのは、姐さんの温もりゆえか、新車の興奮ゆえか。

 答えは分かりきっているのにあえてすっとぼけて、曖昧に誤魔化しておく。

 

「じゃ、じゃあ、エンジンかけますね」

「うん。大丈夫だよ」

 

 エンジンキーを回す、と同時に、シートの真下にあるエンジンが激しく回転し、マフラーから熱気が溢れ出る。

 

「楽しそうだったね、たっくん」

「ええ、まあ。昔から憧れてましたから、やっぱり」

 

 今はもう戦闘機にだって乗れるのだけど、それとこれとはやはり別物だ。

 シートの真下から伝わるエンジンの駆動、直接肌に感じるマフラーの熱気。

 何より、店主のエリックさん。本当に仕事が好きで楽しんでいるのが所作の節々に滲み出てて、なんだか同好の士と出会えたような嬉しさがある。

 

「ちょっと飛ばしますよ。しっかり掴まっててくださいね、姐さん!!」

「わっ、速い速いってばー!」

 

 文句を言いつつもやはりちょっとだけ楽しそうな姐さんの声を聞きながら、俺ははしゃぐようにバイクを飛ばした。

 スイーツ店には、少し遠回りしていこうかな。




 第8話、読んでいただきありがとうございます。X4:Foundations、9.0のアップデートがきましたね。
 次回の投稿が遅くなりそうな予感をはらみつつ、なるべく遅くならないように努力する所存であります。
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