元の世界に戻るまで、俺たちは色々な世界を旅した。
それこそ、よく生きて来られたなってぐらいの世界もあって、まさしく激動と言い表すほかない世界もあった。
その過程で、俺たちの性格というか、考え方も、例外なく影響を受けて、追放前とは大なり小なり異なっている。
たとえば、ノエル隊長。
追放される前は真面目一辺倒でまさしく英雄といった感じだったけど、長い旅路の中で色々と悟ったというか、気付いたというか。
世のため人のためって根底は変わっていないけど、以前のように自分の身を粉にして……っていう自己犠牲な考え方はかなり薄れている。
自分を犠牲にしたって何も変わらないどころか、むしろ相手を増長させてしまうってのを身に染みたって感じなようでね。
今回のゴブリン討伐も、『七英雄クジンシー』という存在があったから動いただけで、そうじゃなかったら巣へのダイレクトアタック作戦には参加しなかったと思う。
ワグナスも、理想だけじゃなくて清濁併せ吞む……ってやつ?
清らか一辺倒だと逆に何事も破綻してしまうって悟ったっぽくて、汚い事をしてでも目的を達成させるのも致し方ない時もある……てな感じ。
意外と、ボクオーンも影響を受けている。
追放前は法律家をやっていたからなのか、けっこう言い回しが独特というか、皮肉な言い回しが多かったけど。
異世界には、あまりにもぶっ飛んだやつがそれなりに居るってことを知ったからなのか、けっこうアクティブな事をするようになった。
どれぐらいアクティブかって、あいつ……『マリオネット』っていう、人形を操る能力を持っているんだけど。
それ使って、一人で人形劇を公開して、なんか有名な劇場に呼ばれて披露してスタンディングオベーションで拍手喝采……みたいな。
いや、でもね、マジであれは見ごたえあるんだよ。
元々法律家だったからなのか、根気良く細部を詰めることに慣れているらしくて、そのうえ凝り性でさ。
最初は手のひら大の人形劇だったけど、気付けば等身大サイズで、造形もどんどん本物に近くなって、衣装もそうだし、声まで術を使って作り始めて。
最終的には『ボクオーン人形歌劇団』なんてのを作って、知っている人からサインを求められたり……ってな具合になったから、いやあマジで人って変わるもんだって思ったよ。
あまり変わっていないのは、スービエかな。
スービエはもともと自由気質というか、思った時に動くのが吉って考え方っぽくて、心の赴くままに動くのは変わってない。
それでもまあ、空気を読むときは読むし、必要ならばと我慢することも覚えたから、けっこう変わったんだろうって……ん?
……ダンターグ?
あいつは、何も変わってない。
いや、もうね、マジで何も変わっていない。東に強いやつあれば戦いに出向いて、西に強いやつあれば戦いに出向いて。
寝言で『俺より強いやつに会いに行く……フガフガ』って呟いているのを聞いた時は、こいつ本物だって戦慄したぐらいには裏表ないよ。
……そう考えると、ロックブーケもそんなに変わっていない気が……いや、変わっているところは、ちゃんと変わっている。
追放前の、心底男をなめくさった態度を表には出さなくなったし、あいつ基準で失格判定食らった男でも、そいつなりに頑張っていたら、そこは認めるようになったし。
炊事洗濯だって、最初の頃は酷いもんで常にブチブチ文句たらたらだったけど、徐々に不満を零さなくなった。
滅多に作らないけど、気が向いた時は自分から料理を作る。まあ、料理補助とかいう名目で小一時間は付き合わされるけど。
洗濯の際、汚れを綺麗に落とした時はフフッとドヤ顔になっていたし、意外と根っこの面倒見は良いのか、子供から好かれやすいっぽいし。
「くっさ、私ここで待機しているから」
「……まあ、いいけど」
「討伐が終わったら、ちゃんと湯あみしなさいよね」
「頼まれなくても、するよ」
ただ、それでもロックブーケはロックブーケであり、いざゴブリンの巣へ突入……という直前で、そんな事を言い出した。
いや、まあ、気持ちは分かる。
ゴブリンの巣って、元々は自然の洞窟とかに住み着いたり、ゴブリンが掘り進んで広げたモノだったりするんだけど……臭いが、ね。
俺はまあモンスターの解体とかでそういう異臭悪臭なんかには慣れているけど、ロックブーケは……ねえ。
追放前に比べて色々と性格が丸くなったっぽいけど、根っこは女王様気質っていうか、嫌と思ったらノエル隊長の言葉でも、中々首を縦に振らない。
そのノエル隊長も、可愛い妹がゴブリンの巣穴に入らないことを咎めたりはせず、仕方がないなあ~って感じで流していた。
まあ、ノエル隊長の気持ちも分かるのだけど。
これがけっこうキツイ相手だったらロックブーケは我慢して付いてくるし、ノエル隊長も考えるだろうけど、相手はゴブリンだ。
正直、俺たちのうちの一人でも、余裕で制圧出来るような相手だ。
面倒なのは数だけで、単体の戦力は相手にならない。
油断するわけじゃないけど、不意を突かれても対処出来る。油断するわけじゃないけど、ダンタークなんて大あくびして、欠片のやる気も出していなかった。
……。
……。
…………だからって話じゃないけど、討伐はめちゃくちゃスムーズだった。
たぶん、『伝承法』にて受け継いだジェラール皇帝の肩慣らしというか、馴染ませる意味もあってなんだろうけど……いや、でもアレすごいわ。
俺は『魂』を見られるから分かるけど、戦闘を一度挟むたび、目に見えてジェラール皇帝の動きが洗練されていくのがね。
それに加えて、ジェラール自身の能力が+されていくから……討伐を終えた頃になると、剣さばきや足運びが明らかに別人ってぐらいに良くなっていた。
……で、その翌日。
電光石火ってやつで、ソーモンを根城にしている『七英雄クジンシー』の討伐作戦が始まった。
まあ、討伐作戦とは言っても、内容は正面突破による、ゴリ押しである。
それもまあ、致し方ない。
根城にしているのが城だったなら攻め方が考えられるけど、今回の場合は、デカい館……つまり、豪邸ではあるけど、それだけだ。
当然ながら、大勢の人が宿泊できるような作りにはなっていても、攻め込まれることなんて想定していない。
だから、扉とか施錠されていても蹴破って突破は簡単で、下手したら壁をぶっ壊して中に入ることだって不可能ではない。
あえて面倒な点を挙げるならば、館どころか町全体に、『七英雄クジンシー』の部下と思われるモンスターがうようよしている……ぐらいだろうか。
まあ、そのモンスターも忠実なる部下というよりは、力で抑えつけて命令を下している……という感じなので。
「……つまらん」
それこそ、館の正門前でダンターグが立っているだけで、街中をうろついているモンスターは怯えて近寄らなくなった。
ダンターグには悪いが、こういう時、威圧出来る迫力をもっているダンターグは便利だ。
生き物としての摂理で動くモンスターたちからしたら、命を賭してまで付き従うなんて方が不自然だ。
ましてや、心酔しているならともかく、無理やりともなれば……さもありなん、である。
とはいえ、それはあくまでも外に居るモンスターに対してだ。
さすがに、館の中に居るモンスターは物理的にダンターグの姿が見えないから、威圧もクソもない。
まあ、ダンターグが本気になったら建物なんて関係なく威圧出来るけど……今はしない。
ワグナス曰く、『それをすると、七英雄クジンシーとやらが逃げてしまうからな』だとか。
逃げるのかなって俺は思ったけど、街中の弱小モンスターの統率すらまともに出来ていない時点で、その可能性は高いんだとか。
「……あ、ここ隠し通路あるじゃん。へえ、壁の取っ手がこうで……おお、やはりね」
まあ、それはそれとして、だ。
俺は弓矢で最低限の援護をしつつ、何気なく見つけた隠し通路を通って、奥に隠されていた、いかにもな宝箱を見つけた。
中を開けたら、立派に装飾が施された箱の中には『指輪』があって、その下には……大量の硬貨がぎっしり敷き詰められていた。
硬貨は別として、それは中々に魔術的な力が込められた指輪だ。
俺は専門家ではないので詳細は不明だが、強い力を感じ取れた。
なんで見つけられたのかって?
それは、俺の『冥術』が関係している。
『冥術』というのは、生き物の負の力、闇の力とも表現される暗黒の力であり、その力は本来誰しもが持っている力でもある。
それゆえに、人は無意識に『冥』の気質を発散している。
たとえば、そう……誰かを監禁しているとか、そこで殺人を犯しているとか、あるいは、盗んだ金を溜め込んでいるとか、そういう事をしている時。
それは、桁が上がれば上がるほど、価値が上がれば上がるほど、繰り返せば繰り返すほど、どんどん濃くなっていく。
つまり、裏金とか隠し財産とかを企んでいると、そこに『冥』の気質が溜まっていくわけで……俺のような『冥術』使いからすれば、一発でそこにナニカがあるなってのが分かるのだ。
これ、けっこう便利なんだよな。
山賊のアジトとか襲撃した時、ボスがこっそり隠しているやつもすぐ見つけられるし、同様にヤバい気配している道具とかも見つけられるし。
そして、今回も俺はそれっぽいのを感知して、そそくさと隊列を離れ……残された冥の気配を頼りに、後ろめたい代物を手にしたわけである。
「ワグナス、さっき通った部屋の隠し通路の先に、いかにもな感じで溜め込まれていた硬貨と指輪を見つけたぞ」
「……おまえは。まあ、お前が見つけたということは、そういう事なのだろう」
とりあえず、ワグナスに話は通しておく。
毎回、ワグナスは苦笑を浮かべるが……ちなみに、そのワグナスから話を聞いたジェラール皇帝一行もかなり驚いていた。
なんでかって、普通に帝国が把握していない裏金だったから。
正確な金額は知らないけど、俺が見た硬貨の形や材質を話したら、『おそらく、20万クラウンは……』とのことだった。
20万クラウン……どれぐらいかは知らないけど、かなりの金額になるのだろう。
なにせ、ジェラール皇帝ニンマリなご様子。
皇帝一行も、ニンマリ。
湧いて出たお金だからね、そりゃあテンションも上がる。国の運営において、金は無くて困る事はあっても、有って困る事はそんなに無いからな。
……ちなみに、ノエル隊長もその話を聞いていたけど、苦笑しただけで何も言わなかった。
以前ならもっと顔をしかめていたけど……とまあ、そんな感じで色々と逸れつつも、俺たちは……いよいよ、『七英雄クジンシー』の前に立った。
『くっくっく、のこのこと死にぞこないが、むざむざ殺されに来た……なに? なんだと、その姿は……お、俺なのか?』
「ちょっと待てぇ! どう見ても別人通り越して別種だろ!? 鏡見ろよ、1から10まで全部違うだろ!?」
マジで、意味が分からなかった。なんで同じと思ったんだ、こいつは。
『ど、どうやって俺の姿を……な、何者だキサマ!? 答えないなら、タダでは済まさんぞ!!』
「聞けよ! 泣くぞ! そっくりと言われた俺の方が泣くぞ!! どういうことだよ、まったく!!!」
『し、しかも、後ろに居るのは……ワグナスに、ノエルに、ボクオーン、スービエ……ロックブーケまで!?』
「聞! け! よ! 似てねえだろ!?」
そして、俺は心底驚愕している『七英雄クジンシー』に思わず怒鳴りつけ、地面を踏み鳴らしたのであった。
……ちなみに、だ。
さすがに俺たちの経緯までもは話していないので、何も知らないジェラール一行は、ポカンとした様子で困惑していて。
「あはははは!!! あははははは! だめ! お腹いた、いたいぃ!! あははははは!!!!!!」
ロークブーケは耐えきれず床に横たわり、お腹を押さえたままバタバタと足をばたつかせ……それはもう、館の外に響くぐらいの大爆笑であった。
「ロックブーケ、そこまで笑ってはいけぶふぅ!!」
「そうだぞ、俺たちには分からないがそっくぶふぅ!!」
「見た目で判断するのは愚か者のしょぼほう!!」
「うむ、そういうのは品が無いというやつぶははは!!!」
なお、他の4人も耐えきれないご様子であった。
ちなみに、ボクオーンはとある劇場からオファーを受けて人形劇を開催し、その後には人間がやる劇が公開され、それはもうご満悦に観客席から観ていたのだが
とあるタコの来襲によってめちゃくちゃになり、「あのタコ許すまじ」という言葉を残したとか