山手線とは、ロマサガ2とはいったい……うごごごご   作:葛城

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第12話: 奥様は、見た

 

 

 

 

 鉱山の中に住み着いたモンスターはまあ、首都アバロン周辺のモンスターよりいくらか強かった。

 

 

 たぶん、この洞窟内で厳しい食物連鎖が繰り広げられたせいか、それとも、元々このあたりのモンスターが強いのかは知らないけど、とにかく強かった。

 

 

 でもまあ、正直なところ、どんぐりの背比べってやつかな。

 

 

 リザードマンっていうモンスターとか、クソデカいお化け蛙とか出て来たけど、俺にとっては大した違いがなかった。

 

 そりゃあ、洞窟内は弓矢が使いにくいけど、使えないわけじゃない。あと、俺は別に素手でも剣でもある程度は戦える。

 

 少なくとも、この『宝石鉱山』に住み着いたモンスター程度なら、片手間にぶち殺せるぐらいには余裕があった。

 

 ていうか、力を入れすぎると洞窟が崩れるから、そもそも本気を出せないっていうか。

 

 うっかり『小剣技:ファイナルレター』を使ったら、間違いなく俺たち生き埋め確定だから……むしろ、周りを傷つけないよう倒すことに集中したぐらいである。

 

 

 そして、俺にとってモンスターの事よりも大変なのは、宝石(というか、原石)の回収作業の方だ。

 

 

 いくら『影』があるとはいえ、手ぶらで入って手ぶらで出てきて、ドカドカっと原石を持ち帰ったら……間違いなく、余計な騒ぎになってしまう。

 

 俺の能力は色々と使い勝手が良い反面、その使い勝手を利用しようとする者が後を絶たない。

 

 命の危険という問題ではなく、その手の輩は本当に次から次へと、後から後から無限にやってくるから、本当に始末に負えない。

 

 だから、今回のようにわざわざリュックを背負って片手にツルハシという、ありふれた格好でのを突入余儀なくされていたわけだ。

 

 

「はあ、はあ、はあ……うへぇ、しんど……」

「だらしないわね、まだリュックの半分ぐらいじゃないの」

「おまえ、今日だけでも、3回目のトライだぞ……さすがに、俺だって息切れしてくるって……」

「ダンターグなら、ゲラゲラ笑いながら往復しているところよ」

「あの体力バカと一緒にするな」

 

 

 当然ながら、疲れる。

 

 いくら『神の知識』にて鍛えているからとはいえ、限界はある。

 

 むしろ、パンパンに鉱石を詰めたくそデカいリュックを背負って二回往復している俺の体力の方を、褒め称えるべきではないだろうか? 

 

 一般的な炭鉱夫だと、一回潜って出てきたら、翌日は身体を休めるところを、俺は一日にもう2回だぞ。

 

 しかも、俺は『ティファール』に来てから、一日も休まずに、だ。いくらなんでも、疲れて当たり前だ。

 

 

 ……冷静に考えたら、俺はなんで休まずやっているのだろうか? 

 

 

 なんか酒場とかで毎日のように『一発当てるぞ!』ってな声が聞こえてくるから、焦ってしまうからだろうか。

 

 別に金が欲しいってわけじゃないけど、金が無くて困る事に比べたらはるかに取るに足らないから……まあ、それはそれとして、だ。

 

 後ろで見物しているだけのロックブーケは涼しい顔で、俺一人汗だくである。そのうえ、素知らぬ顔で革袋の吸い口より水分摂取ときたもんだ。

 

 

 さすがに、今日はここで止めておこう。

 

 

 そう判断した俺は、ため息と共にツルハシを下ろした。少々マナーは悪いが、服を脱いで上半身裸になる。

 

 身体から蒸気がむわっと立ち上る感覚と同時に、ヒヤッと身体が冷える感覚に、俺は息を吐いた。

 

 

「…………」

「おい、俺にもくれ、喉が渇いた」

 

 

 ロックブーケより受け取った革袋を手に取り……全部、飲み干す。

 

 飲み終えてから、「あ、すまん、全部飲んじゃった」と頭を下げたら、「仕方ないわ、あんた汗だくだもの」と、特に気にしてはいなかった。

 

 

 さて、帰り道だ。

 

 

 手早く『影』より取り出したタオルで身体を拭いつつ、新しい服を着る。

 

 正直なところまだ身体が熱いのだけど、素肌でリュックって擦り傷だらけで大変な目に合うから我慢するしかない。

 

 

 ちらりと視線を向ければ、だ。

 

 

 これで今日は切り上げると俺が判断したのを察したのか、俺が脱ぎ捨てた衣服をロックブーケが手早くかき集め、自分のカバンに詰めていた。

 

 それぐらい『影』に入れたらって前に尋ねたら、『必要でもないのに汚れ物を影に入れるな』って言われて、納得したのはけっこう前だ。

 

 付き合いが長いからなのか、汗で汚れた衣服も気にせずカバンに入れるし、それを洗濯したりもする。

 

 それぐらい俺がやるよって言ってはいるのだけど、『どうせ自分の分も洗うから、効率的でしょ』の一言で終わらせてしまう。

 

 いや、やってくれるのは有り難いのだけど、気心知れた相手とはいえ、ロックブーケに洗ってもらうのはちょっと恥ずかしいというか、何というか。

 

 付き合い自体は相当に長い年月なんだけど、ソレはソレ、コレはコレ、というやつだ。

 

 

 ただ、良いのかね……とは思う。

 

 

 女王様気質で、男と言えばノエル隊長とワグナスってぐらい気位が高いのに、俺の衣服なんて洗っていたら、変な誤解をしてしまうやつが出てくるだろう。

 

 こいつ、気にするところは細部まで気にするのに、変なところで俺以上に無頓着なんだよな。

 

 この前だって、平然と俺の下着と自分の下着を一緒に洗っていたし、なんなら普通に干していたし、そもそも宿だって同じ部屋ときたもんだ。

 

 

 服とか下着は、分かるんだよ。

 

 

 俺たちの衣服っていうか、下着とかって異世界の技術を使って作ったりしているから質が良いんだけど、洗い方とか分からないままゴシゴシ擦ると破れたりするから。

 

 あと、部屋を一緒にする必要ないじゃん……って思うわけだが、ロックブーケより『そういう無駄遣いは嫌いよ』と言われて、押し通されたのは記憶に新しい。

 

 ロックブーケ、豪華絢爛なモノは好きだけど、札束をばら撒くような無駄な散財ってけっこう嫌がるんだよな。

 

 それこそ、一般月収分の衣服とかを平気でおねだりしてくるし、宿とかでも高めのやつを指定するけど、別に高いから良いってわけじゃないし。

 

 見た目だけで大して美味くない料理とか、素材が希少なだけでデザインが悪いとか、そういうのには1クラウンも払いたくないようなケチさを見せたりする。

 

 

 言い換えれば、納得出来たらポーンって札束を放るタイプの女なのだけど……まあ、それで、だ。

 

 

 結局、同じ部屋に泊まっていることや、俺の服も洗っているところから、『ティファール』のおば様連中から『熱々のご夫婦ね』とからかわれるぐらいで。

 

 おかげで、顔どころか全身真っ赤にしたロックブーケからグチグチと怒られたけど……それでも、改めようとはしないんだよな。

 

 ……これ、逆に男に見られていないってパターンだな。

 

 

「ほら、行くわよ」

「へ~い」

 

 

 道中は後ろで眺めてくるだけで終わるけど、帰る時は手伝ってくれる。

 

 具体的には、ツルハシぐらいは持ってくれる。

 

 見た目は華奢な女に見えるが、伊達に七英雄の一人ではない。

 

 そこらの剣士なんぞ足元にも及ばないほどに小剣を巧みに操る女だ、ツルハシぐらい、物の数ではないということだ。

 

 

(はあ、風呂に入ってさっぱりして……この前原石は送ったし、もう少し南の方へ行ってみるかな? たしか、ルドン高原……だったかな?)

 

 

 そうして、俺は鼻歌をうたいながら前を行くロックブーケを見やりながら……今後の事を考えるのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ざわざわと、姦しくも喧騒と表現するほかない空気に満たされたソコは、『ティファール』にある共同浴場である。

 

 

 鉱山の町というのは、基本的に砂埃にまみれる生活といっても過言ではなく、また、業務上衣類だけでなく身体が汚れるなんてのは日常茶飯事である。

 

 それゆえに、そういった町では公衆浴場の数が他の町よりも多く、広さも規模も大きいのが当たり前であった。

 

 湯場は男湯と女湯に分かれていて、男はだいたい午前と午後に分かれて入るのが暗黙の了解になっていた。

 

 

 なんでかって、単純に男女比の割合で男の方が多いからだ。

 

 

 もちろん、人数を想定して男湯の方が広めに作っているのだけど、それでも人が増えると手狭になるわけで……ちなみに、女湯は午後のみである。

 

 洗濯などは明るいうちにしないと乾かないし、家事も明るいうちに……さて、場所を戻すが、時刻は午後だ。

 

 その日の女湯は、比較的若い女も来ていた。

 

 まあ、若いとは言っても、年齢的には30歳前後と、10歳以下。

 

 年頃の女は、身を守るために集団でまとめて入って来るのが暗黙のルールになっていて、この場にはいなかった。

 

 鉱山で栄えている町である以上は、どうしても荒っぽい男も集まってくる……つまりは、そういう事だ。

 

 

 

 ……そんな中で、一人の女が入って来る。その瞬間、一瞬ばかり喧騒がやわらいだ。

 

 

 いったいどうして? 

 

 答えは、入って来た女が、この町でも二人と居ない、とんでもねえ美女だったからだ。

 

 

 空の色を思わせる艶やかな青い髪を腰まで伸ばしたその女は、慣れた様子で受付にお金を払い……脱衣スペースへと入って来る。

 

 自然と、女性たちの視線が集まる……理由は一つ、その女性が、あまりにも美しいからだ。

 

 女性の中では長身の身体にはシミ一つ無く、ぼろん、と服の下から飛び出てきた乳房は、単純なデカさだけでもこの町で1,2を争うサイズ。

 

 言い換えれば、腰の細さや形や肌の張りを考慮すれば、問答無用で殿堂入りを果たす代物だということ。

 

 そのうえ、腰から下のむっちり具合は、ラインを見極めて意図して絶妙にあつらえたかのような……当然、指先に至るまで、ケチを付ける点が一つもない。

 

 その女の名は、ロックブーケ。

 

 つい先日、ふらりと旦那と一緒にこの町を訪れ、若い衆だけでなく、ジジババの話題すら搔っ攫っている、とんでもない美女である。

 

 

「こんにちは、ロックブーケちゃん、今日は少しお早いのね」

「あら、おばさま。ええ、そうよ。クジンシーのやつがへこたれちゃったから、今日はもうお終いよ」

「相変わらず、ロックブーケちゃんは綺麗ねえ。なにか秘訣とかあるのかしら?」

「さあ? 私って生まれながら美しいから」

 

 

 風呂場の視線を独り占めしかけているロックブーケに話しかける者が、ちらり、ちらり。

 

 仲良くなりたいとか、それだけではない。単純に、美しい者に対して向ける視線に、男女の違いなどありはしないのだ。

 

 

 ただ、髪を洗っているだけ。

 

 ただ、身体を洗っているだけ。

 

 ただ、浴槽で身体を温めているだけ。

 

 

 それだけなのに、気付けば周りの視線を独り占めしてしまう。たとえ、同性だとしても。

 

 人間、あまりにも別格な存在を前にすると、嫉妬を通り越してしまうというものだ。

 

 言い方は悪いけど、比べられるほど自己評価が高くない限りは、『もうあの人は別格』と判断し、同じレベルで見ない、アレだ。

 

 自分の事を『生まれながら美しい』なんて言うやつ、普通なら『なんだこいつ?』と反感を持たれそうなんだけど。

 

 ロックブーケほどの美貌ともなれば、『ま、まあ、あんたほどの別嬪さんが言うのなら……』と、周りが納得してしまう。

 

 良くも悪くも、突き抜けた美女というのは、そういう存在であり。

 

 お先に……そう言って、さっさと入浴を済ませてしまえば……後に残るのは、ロックブーケの美貌に当てられた女たちであり。

 

 

「……本当に、ロックブーケちゃんは綺麗だわ」

「ほんと、ほんと。あの子、本当は貴族の娘とかじゃないの?」

「貴族の娘が、こんな場所に来たりしないわよ」

「貴族でも、あんなに綺麗だったら噂になっているわね」

「あんなに綺麗なのに、男の趣味はけっこう地味ね。男が放っておかないわ、アレ」

「あら、奥さん。あんな感じの男ほど、夜がすごかったりするのよ」

「そうそう、もしかしたら、私の腕ぐらい太くて長いかも」

「それだけじゃないわ、あの旦那さん、けっこう紳士的よ。ぶっきらぼうなところもあるけど、優しいんだもの」

「あははは、それはロックブーケちゃんも放そうとしないわけね」

「でも、ロックブーケちゃんが泊っている部屋から、そういう声はしないって話よ」

「あら、そうなると、意外と淡泊なのかしら? けっこう冷え込んでいるとか?」

「違うわよ、奥さん。あれ、むしろ付き合いはだいぶ長いと思うわ」

「え、どうして?」

「このまえ、私見ちゃったの。町の外れにある大樹のあたり、とても日が暖かいでしょ?」

「そうね」

「そこでね、旦那さんが昼寝をしていたんだけど……そこにね、ロックブーケちゃんも居て」

「ふんふん」

「寝ている旦那さんをね、それはもう優しい目で見つめていたの。あたし、年甲斐もなくドキドキしちゃったわ」

「きゃ~! (ちょっと野太い声)」

「それを言うなら、ロックブーケちゃん。このまえ、旦那さんの衣服を洗濯しているところを遠目で見たのだけど」

「ふんふん」

「きょろきょろと周りを見回したかと思ったら、こっそり旦那さんの服に顔を埋めて……恋する乙女だったわ、アレは!」

「きゃ~! (だいぶ野太い声)」

 

 

 女の漢字を集めると姦しいという文字になるのと同じく、女たちの下世話な雑談が盛況になるのも、必然であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………一方、その頃。

 

 

(……う、うぜぇ)

 

 

 旦那さん、とおば様連中から呼ばれているとある男は、街の若者(特に、男連中)から、とてつもなく嫉妬が込められた視線を向けられ……ちょっと、辟易していたのであった。

 

 

 

 

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