山手線とは、ロマサガ2とはいったい……うごごごご   作:葛城

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知っている人は分かるネタバレタイトル


第13話: 野生の七英雄

 

 

 

 ──ルドン高原。

 

 

 それは『ティファール』より下った先にある高原の名前であり、ルドン地方にあるから、ルドン高原。

 

 高度こそあるけれども起伏が少なく、なだらかに広がるその山地には、数多くのモンスターが跋扈している。

 

 起伏が少なく人が通りやすい道は、言うなれば、モンスターも通りやすいということ。

 

 なんの準備もせずに、あるいは腕に覚えも無しに突っ込めば、高確率でモンスターの餌になる、危険な行路だ。

 

 

 そして、そのルドン高原を超えた先にあるのが、『ナゼール地方』。

 

 

 ここまで下ると気候も景色も一変し、吹きつける風は強い冷気を帯びて、雪が頻繁に見られるようになる。

 

 ここまで来ると、モンスターに限らず人の姿も少しばかり環境に適応し、比較的大柄な人が多くなる。

 

 そして、そこからさらに南に下れば、人が通るにはかなり危険を伴う山脈と、『ナゼール海峡』と呼ばれる場所にぶつかる。

 

 その海峡は普段から氷塊が流れているほどの極寒地帯だが、まれに天候要素が重なると分厚い氷の床が形成され、海峡を歩いて渡ることができるのだとか。

 

 ちなみに、渡った先にあるのは『氷海』と呼ばれている極寒地帯であり、寒さはさらに増して、装備無しでは半日と生きてられない環境となる。

 

 ここまで下れば、生息している動物やモンスターもこの場所に適したやつしかいない。

 

 かなり凶悪なやつが居るらしいけど、10数年に一度姿が確認できるぐらいしか見かけないから、そもそも接敵することもない。

 

 そんだけ厳しい環境だから人が移り住むことなんて無いし、そのおかげでナゼール地方に住む者たちですら何も知らない秘境なのだとか。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 俺たちは今、『ナゼール地方』にある、『サイゴ族』が住まう村へと来ていた。

 

 理由はまあ色々とあるが、一番大きな理由は単純に好奇心である。

 

 やっぱりさあ……色々あるけど、旅ってのは辛いこともあるけど、楽しい気持ちもあるんだよな。

 

 定住する安心感も良いけど、その時にしか見れない光景と時間を進むのも、捨てがたい楽しみなわけで。

 

 俺たちが辛く苦しい旅路の中でも、それでも諦めずに世界を旅し続けられたのは、ひとえに、そういう事に楽しさを覚えるようになったからだと思う。

 

 

 実際、俺だけじゃない。

 

 

 なんだかんだ皆はスービエの事ばかり言うけど、俺は知っているんだ……あいつらも、それなりに楽しんでいたって事を。

 

 なんていうか、アレだよ。自然の豊かさに、ありのままに生きる命の輝きに浸るってやつ? 

 

 俺たちは色々な世界を見て回ったけど、酷いところは本当に酷かった。

 

 世界が砂漠に覆われて、人の命がとにかく軽く、生きたまま燃やされている人間の傍で大笑いしている、狂ったやつらが跋扈している世界があれば。

 

 世界には自然に満ちていたけど、10数年ごとに召喚士の命を犠牲にしてつかの間の平穏を得て、失う悲しみにすっかり慣れてしまった世界があれば。

 

 あるいは、宇宙から飛来した星に寄生する怪物によって、星そのものが食い殺され、完全に荒廃してしまい、ミュータントに怯えて地下で餓死する日を待つしかない世界もあった。

 

 本当に、俺たちが受けた追放なんてのが生易しく思えてくる、そんな過酷な世界がいくつもあった。

 

 俺たちはまだ、怒りの持って行き先があった。まだ、抗える力があって、脱出できる手段もあった。

 

 でも、そういう世界で生きていた者たちは、それがなかった。

 

 どれだけ苦しくても、どれだけ辛くても、どれだけ悲しくても、逃げられずに戦い続けるしかないやつがほとんどだった。

 

 だから……なのかどうかは、分からないけれども。

 

 俺たちを追放した大神官たちに対する恨みを、どこか捨てきれていなかったみんなも、いつの間にか……憎しみに歪んだ顔をしなくなり、笑顔を浮かべる頻度が増えた。

 

 だから……俺も、旅をするのは好きだ。

 

 辛い事もあったけど、楽しい思い出もよみがえってくる。

 

 それは、ロックブーケも同じなようで、寒い寒いと文句を垂らしつつも、広大な雪景色を穏やかに眺めていたし、雪の間から姿を見せた野ウサギを見て、笑うこともあった。

 

 

「やだこれ、美味しい……!!」

 

 

 そして今は、ナゼール地方にて生息している固有種である、『ムー』と呼ばれている牛(?)の味に、目を輝かせていた。

 

 そう、俺も初めて知ったのだが、この地域に暮らす人々の生活を支えているムーという名の牛は、マジで美味かった。

 

 なんと言えば良いのか、ジューシーな味わいってやつ。

 

 燻製にしたり、干し肉にしたり、色々と保存食にするらしいのだけど、俺たちは運が良かった。

 

 なぜなら、たまたま村を訪れた時に、ちょうど解体したムーの肉で宴会が開かれていた時だったからだ。

 

 こういう場合、全ての肉を保存食にするわけではない。

 

 燻製肉や干し肉もまた違った味わいで美味いのだが、やはり、保存処理をする前の肉の方が美味い。

 

 なので、解体したその日に食べて、余った分を保存食にするのが一般的だが……俺たちは、ちょうどそのタイミングで村にご到着したってわけだ。

 

 もちろん、タダで宴会には参加できない。

 

 料金として、俺は『影』から物資を出して、物々交換という形で肉を購入し、調理場を使わせてもらうという形で、宴会に参加したわけである。

 

 

 ちなみに、交換品の中で特に男連中から喜ばれたのは『酒』である。次に、タバコの類だ。

 

 武器も興味を引かれたが、刃物などは手入れをしないとあっという間に駄目になってしまうのを知っていたようで、そこまでではなかった。

 

 

 女連中からは、『砂糖』が喜ばれた。

 

 服は、ちょっとサイゴ族の好みから外れていたようだ。

 

 まあ、ここの暮らしだとあっという間に破れたり汚れたりするから……それよりも、中々手に入らない甘味の方が、良かったようだ。

 

 

 なお、ロックブーケの分は見た目があまりにもアレだから、かなり格安レートで済んだ(むしろタダにしようとした男連中が、女連中から睨まれていた)ことを、ここに報告しておく。

 

 何時の時代も、どの世界でも、美人ってのは得である。

 

 おかげで、こいつと一緒に行動すると、得をする時と損をする時とが交互に来たりして、それが面倒事に発展する時もあるから、時々はこっそり離れるのが──ん? 

 

 

「ほら、あんたも食べなさいよ」

「……おう」

 

 

 こちらに気付いていないっぽいので、こっそり背後を通り過ぎようとしたのだが、いつの間にか伸ばされた手が俺の服を掴んでいた。

 

 さすがに、この状況で無理やり離れようとするとめちゃくちゃ不機嫌になるし、なんならけっこう傷付いたって顔をするから……でも、座るところないじゃん。

 

 

「ちょっと、お隣に一つズレてくださいな」

「え、も、もう、しょうがねえなあ~(デレデレ)」

 

「そっちのお兄さんも、隣にズレて。連れが座れないの」

「ったく、仕方ねえなあ~(デレデレ)」

 

 

 と、思ったら、隣に座っているやつだけでなく、その隣に居るやつ、その隣へと声を掛け、あっという間に席が空いた。

 

 

 ……こいつって、マジで魔性の女だよなあ。

 

 

 見た目もそうだけど、こいつって自分の見た目の良さを心底熟知しているから、極々自然に相手をその気にさせたり、操ったりするのが得意だ。

 

 今だって、こいつは相手の肩に手を置いて、絶妙な距離感で要求を通したし、その隣に居たやつにも、絶妙な声色で気分を和らげ、断るのが大人げない……みたいな空気を作り出した。

 

 これで、魔力の後押しによる魅了術『テンプテーション』を放ってくるのだから……さすがは、七英雄というやつだ。

 

 ──とりあえず、空いた席に腰を下ろす。

 

 

「ほら、美味しいわよ」

 

 

 途端、そっと横から差し出されたムーの串焼き肉を受け取った俺は……向けられる視線を前に、パクリと一口。

 

 

「……やっぱ美味いわ、これ」

「でしょう?」

 

 

 そして、自分が育てたわけでもないのに自慢げな様子のロックブーケが、にっこりと笑ったのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、翌日。

 

 

 『影』から取り出した大型野営テント(超・魔改造済)にて……自慢するわけじゃないけど、このテントはすごいぞ。

 

 折り畳み式で、普通に組み立てると少し大変だが、俺は影を使って瞬時に終わらせるが……とにかく、すごい。

 

 内部に、異世界の技術がたっぷり使われているおかげで、実質小さな家を設置するようなものだ。

 

 極寒の地域でも非常に暖かく、湿気も程よく外へと逃がし、並みのモンスターの突進などを受けてもビクともしない魔術的なバリアを必要に応じて自動的に発動する。

 

 また、内部に組み込まれた装置によって飲料水だけでなく、広くはないけどシャワーを浴びることだって出来るし、時間は掛かるけど入浴も可能である。

 

 もちろん、トイレも……まあ、そんなわけで、だ。

 

 とにかく、そこで夜を過ごした俺たちは、ここまで来たのだからということで、村よりさらに下り……ムーと共に暮らす人たちが暮らす村へとやってきた。

 

 まあ、そこは村というよりは仮住まい的な越冬地といった感じで、時期を見て移動し、今回はたまたまその時期が被った……というわけなのだけど。

 

 

「……はあ、なるほど。他所から来たモンスターが、移動する時に使っている洞窟に住み着いて、困っている、と」

「ああ、そうなんだ。見ての通り、ムーは全身が体毛で覆われ、それが冷気を防いでいるのだから……言い換えれば、寒い場所でしか生きられないんだ」

「つまり、なんとかしてそのモンスターを倒すか、移動してくれないと、ムー達の移動が遅れて、下手したら死んでしまう……と」

「そうなんだ、旅のお方……不躾な話で申しわけないが、なんとか出来ないか? 報酬に、ムーの肉を用意しよう」

「それは構わないのだが、どうして初対面の俺たちに?」

「俺たちは大自然と共に生きている。大自然は嘘をつかない、ただ俺たちが気付いていないだけ」

「??? つまり?」

「相手が嘘つきかどうか、邪悪な存在かどうか、すぐ分かる。貴方達は信用できる、そう思ったからこの話をした」

「……う~ん、そういう言い回しをされると、どうにも断り辛いなあ」

「ダメか? 倒せないと判断したら、様子を見てくるだけでもいい。実は、既に一人頼みを引き受けてくれた御方がいるのだが、戻って来なくて心配なんだ」

「ああ~……なるほど」

 

 

 マジで困って頭を掻けば、「良いんじゃない、受けたら」成り行きを見ていたロックブーケが、ニヤニヤと……とまあ、そんな流れで、だ。

 

 

 ──俺たちは、件のモンスターが道を塞いでいるという洞窟へと足を踏み入れたわけ……なのだが。

 

 

 不思議なことに、話に聞いていたモンスターの姿はまったくなかった。

 

 正確に言いなおすのであれば、死骸はあった。

 

 まだ死亡してそんなに時間が経っていない。

 

 冷気でカチコチに凍り付いているが、どのモンスターも一突きで絶命していたり、あるいは一撃貰って即死……みたいな死に方をしていた。

 

 ……はたして、これはどっちなのだろうか? 

 

 ここに住み着いたモンスターがあまりに強すぎてこうなっているのか、それとも、先に入ったやつが戦った跡なのか……まだ、判断しかねる光景だ。

 

 

「どっちだと思う?」

「私は、先に入ったやつ。勝ったら美味しいココアを淹れてね」

「じゃあ俺は、モンスターが強い方で」

 

 

 結局、入口近くではなんの詳細も分からないと判断した俺たちは、洞窟の奥へと向かう。

 

 モンスターの死骸は転々と続いていて、惨劇を免れたモンスターもすっかり怯えているようで、俺たちと目が合った瞬間、例外なく逃げ出した。

 

 

 ……これは、本当にどっちなのだろうか? 

 

 

 注意深く耳を澄ませないと分からない程度だが、奥の方から地響きというか、雄叫びのような音が聞こえてくる。

 

 はたして、モンスターか、戦っている人か。

 

 いちおう、万が一を想定して俺は『影』より剣を取り出し、ロックブーケも小剣を構え……徐々に大きくなってくる騒音に紛れるように、接近し。

 

 そして……俺たちは、目撃した。

 

 

『──ば、バカな!? このダンターグ様が、俺に扮した偽物に、押されるだと!?』

「がははは!!! 同じ名を持ちながら、なんて体たらくなやつだ!! 所詮は雑魚を吸収して力を得たつもりになっているにすぎんのだ!!!」

『ふ、ふざけるな!! この、この七英雄ダンターグ様が、キサマのような下等種族に後れを取るなんぞ……ぜったいにありえないのだ!!!』

「ならば、証明してみろ!! せいぜい、この俺を楽しませるんだな、七英雄ダンターグ様とやら!!!」

『グゥォオオオオオ!!!!』

「うははははは!!!」

 

 

 片方は、象の身体に巨人が融合しているかのような巨体で迫りくる、まさしく力の化身のような、人語を介するモンスター。

 

 片方は、いっさいの無駄なく鍛えに鍛えこまれた肉圧によって、空間すら歪んで見える……なんか見覚えのあるバトルジャンキー。

 

 そこは、まるで真夏に迷い込んだかのような熱気と、汗の臭いと、戦いの臭いが充満していた。

 

 その戦いの片隅には、おそらく……この巨大モンスターが来る前はボスを気取っていたと思われるトカゲモンスターが、プルプルと震えて……あ、うん。

 

 

「……帰りましょうよ」

「いや、いちおう、結果は見届けようぜ」

「なら、さっさと助太刀して倒しましょうよ」

「止めとけ、ダンターグのやつ、ぜったいキレるから」

「……怒るかしら?」

「ぜったいに怒る。水を差すなって、むこう一年は不機嫌になるぞ」

 

 

 心底やる気を無くして、今にも踵をひるがえしそうなロックブーケをなだめつつ……俺は、互いにぶつかり合う筋肉の波動に、真顔になるばかりであった。

 

 

 

 

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