──『七英雄ダンターグ』と、同じく七英雄ダンターグとの死闘は、それなりに長く続いた。
なお、死闘というのは、けして誇張ではない。
俺たちがやってきた時は『七英雄ダンターグ』は押されていたが、それはあくまでも一時的……さすがは、七英雄と自称するだけのことはある。
その巨体に見合うパワーは相当なモノで、並みのモンスターなら踏みつけられて即死、受ければ瀕死間違いなしな強烈な体当たりは、ダンターグであっても、大ダメージは必至である。
そのうえ、タフネスさも見た目通りにとんでもない。
多少なり身体が傷付こうがビクともせず、怖気づくどころかどんどん狂暴性を増していき、終いには、洞窟が怯えて震えるぐらいの雄叫びが幾度となく響いていた。
なんでそんなに叫ぶのかって、そりゃあ、単純に効果があるからだ。
これは実際に体感しないと分からないが、『音』ってのは戦いにおいて重要な役割を持つ。
個人戦や団体戦に限らず、音は時に相手を威圧し、あるいは竦ませ、動きを鈍らせる……ゆえに、試合なんかで大声を出すのを禁じられるのは、それだけ効果があるからだ。
実際、怒鳴り合いなんかでも、とにかく大声を出し合ったりして相手を威圧させようとするだろう……ちゃんと、意味があるのだ。
音というのは、結局のところは情報であり、脳へとダイレクトに刺激が届く。
野生動物なんかでも視力はそこまでではなくても、聴覚は非常に発達している個体が多いのは、原始的ではあるが、それだけ理由がある……のだけれども。
「おい、服の中に顔を突っ込んで俺を盾にするな、背中がくすぐったいだろうが」
『うるさいわね、耳を塞いでもうるさいんだから、ちょっとは協力しなさいよ』
「俺だってうるさくて堪らねえんだよ」
『私はマシになったから、我慢しなさい』
そう言われても、我慢していたら俺の鼓膜が死んでしまう。
焼け石に水程度の感覚で、薄く俺たちの周囲を囲うように影で膜を作る……ちょっとだけ、マシにはなった。
しかし、場所が場所だけに、『七英雄ダンターグ』の雄叫びは、それはもうすぐに嫌気が差すぐらい、ほんとうにやかましいモノであった。
そりゃあ、モンスターも怯えて逃げ出すわ。
並みのモンスターなら、雄叫び一つで身が竦むどころか、気絶してもおかしくない(というか、一部は気絶していた)ぐらいの迫力だ。
ロックブーケも背に腹は代えられないと俺の服の中(背中側だけど)に頭を突っ込んででも音から逃げようとするわけだ。
さて、そんな音による攻撃が仕掛けられている中で……しかし、ダンターグはやっぱり、頭までダンターグだった。
言うなれば、トランス状態ってやつだろうか。
強敵との戦いに身を置いたダンターグにとって、『音』なんていう小細工は一切通用しない。
脳に届いたとしても、それを自動的に脳がシャットアウトしてしまい、どれだけ叫んでもダンターグは欠片も効きやしない。
それどころか、無意味に雄叫び攻撃を繰り返す相手に、『いつまでも、つまらない技を使っているんじゃねえ!!』って、勝手に怒りを露わにする始末。
理不尽にも程があるとはこの事で、なんで攻撃したら、その攻撃のやり方が気に食わんとキレられるのか……あ。
(……なんか思い出した……そういえば、どの世界だったかに居たな……ダンターグが、満面の笑みで戦っていたやつ)
名前は思い出せないが、なんか妙にダンターグと馬が合ったというか、顔を合わせるたびに、なんかお互い大好きだろって感じで殺し愛していたやつ。
「なあ、ロックブーケ、思い出さないか。ほら、妙にダンターグと馬が合って、顔を合わせるたびに『ぶち殺す♡』みたいなことしてきたやつ」
『……あ~、なんか居たわね、得物が斧のやつでしょ? 言っている事が支離滅裂過ぎて、ダンターグ以外みんな理解できなくてドン引きしていたっけ?』
「そうそう、なんか戦っている最中、いきなり『アイテムなんぞ使っているんじゃねえ!!』ってめたくそにブチ切れて狂暴化し始めたよな」
『あったわね……あと、『運が良かったな、今日の俺は紳士的だ』って呟いた直後、『ぶち殺す!』ってキレたの見た時、もう意味が分からなかったわ』
「あったなあ……そういえば、自分で殴り倒して気絶した相手に、『いつまで寝てんだ!?』って踏みつけに向かったっけ……」
『あった、あった。あまり見たこと無いぐらいにお兄様が怒って殺しに行ったのに、それを満面の笑みで出迎えるやつだった……え、いま、ダンターグってそんな顔をしているの?』
「しているぞ、身体のあちこちが怪我しているのに、満面の笑みだ」
そう話せば、ギュッと腰に腕が回された。
むにゅ、と腰に当たる柔らかい感触……それが二つ、ぽよんと広がる。ほんとコイツ、胸デカいよな、そのうえ張りもある。
自分からこんな感じでスキンシップする分には何もしてこないのに、俺から腹いせに揉むとキレて電撃放ってくるんだから、女心ってのは良く分からん。
『ねえ、もう帰りましょうよ~』
「もうすぐ終わるだろうから、我慢しろよ」
『えぇ~……』
そんな俺の気も知らず、グイグイと後ろに引っ張られる感覚……と思ったら、グンッと背中から押される感触、広がる柔らかさ。
う~ん、デカい。
ロックブーケは、女性の中でもけっこう背が高い。
ちゃんと姿勢を合わせていたならともかく、中腰の半端な足の置き方では、俺を引っ張るなんて不可能に近い。
だから、押したり引いたりして、とにかく俺を動かそうとしているのだろうが……こりゃあ、世の男が血迷うわけだ……と、思っていると。
『ば、バカな、このダンターグ様が……こ、こんな、取るに足らない雑魚に……!!』
「がはははは!!! その雑魚に殺されるキサマも、所詮は雑魚の内の一匹に過ぎなかったわけだ!!」
そうこうしているうちに、決着が着いたようだ。
巨大な胴体に深々と突き刺さる、野太く鋭い槍。
一目で致命傷だと分かるソレを抜くことも出来ない『七英雄ダンターグ』は、恨み言を一つ二つ残してから……淡い光と共に爆散し、血の一滴もその場に残らず跡形も無くなったのであった。
……。
……。
…………そうして、静かになった、その場所で。
「ふう、ふう、ふう、やはり、強敵との戦いは血が滾る……俺にとって、戦いこそが生きる目的だ……!!」
全身汗だくかつ、全身のいたるところから流血し、青あざを作っているのに……ダンターグは、恍惚の笑みで勝利の余韻に浸っていたのであった。
なんだろう、うん。
(こいつ、マジでブレねえよなあ……ノエル隊長ですら途中から遭遇するたび嫌そうに顔をしかめていたアイツ相手に、ず~っと満面の笑みで突撃していったからなあ……)
こんなことを思うのはダメかもしれないけど、正直なところ。
「ダンターグ」
「ふう、ふう……ん、なんだ、おまえらも居たのか」
「やっぱおまえ、夜中に子供が見たらしばらく魘されるタイプの──いっでぇ!?」
「相変わらず、口の減らんやつだ」
思うがままに感想を述べたら、脳天に拳骨を落とされたのであった。
ちなみに、ロックブーケは素知らぬ顔で俺から離れていて、バカを見るような眼差しを俺に向けていたのであった。
……。
……。
…………まあ、とはいえ、だ。
戦っている姿を見ている俺たちからしたらドン引きな姿でも、事情を知らない者からしたら、全身に傷を負いながらも、モンスターを討伐した功労者だ。
見た目からして歴戦の戦士だと誰もが思う風貌のダンターグが、そんな姿になってまで討伐してくれた……という図なわけだ。
ムーの越冬が出来ず困っていた村の人たちは、ダンターグにとても感謝し、その手を固く握って何度も頭を下げていた。
大して、ダンターグは普段通りの……まあ、うん。
ダンターグからしたら、この村の頼み事なんてのは、物の次いでだ。
ただ、強いモンスターが居るから戦いに出向いただけで、この村の事が無くても勝手に洞窟に向かって、勝手に殺し合って終わらせていただろう。
でも、村の人たちはそんなことを知る由もないから、涙混じりの感謝の言葉と共に、約束通りに『ムーの肉』をごそっと渡してきた。
「ほれ」
それを、ダンターグはノータイムで俺へと放った。反射的に、俺はそれを受け止めた。
「は? いや、俺は何もしていないが?」
思わず首を傾げる俺に、「ほら、傷むわよ」ロックブーケから軽く足を蹴られたので、『影』の中へ……そんな俺に対して、だ。
「俺が持っていたところでほとんど腐らせるだけだ。それなら、後で飯でも作れ。残った分はおまえたちで食え」
「いや、でも、これはお前が貰った真心みたいなものだろ?」
「俺がそう決めたのなら、なにも問題はないだろう」
チラリ、と。
ダンターグの視線を受けた村人が、笑みを浮かべて頷く。
俺たちとダンターグの関係性を話したわけではないが、態度からして知り合いであるのを察したようで……まあ、うん。
双方が納得しているなら、拒否するのも……なので、受け取った俺は。
「テントは用意するけど、明日はどうするんだ? いったん戻るのか?」
「いや、まだまだ俺の身体は疼いているからな」
「ああ、そう。それじゃあ、せっかくだしシチューでも作るよ」
「パンは、たっぷりあるんだろうな?」
「あるよ、腹が破けるほどにな」
そう答えれば、ダンターグは擦り傷がある顔で、ニマッと笑ったのであった。
……さて、さすがに遠出をしている俺たちは、ダンターグと別れた後はアバロンに戻ることにした。
元々、『宝石鉱山』に関することが目的であり、既に俺を通じてアバロンとティファールの間には交流が生じている。
なので、もう役割を終えたわけだが……だが、しかし。
まっすぐ戻るのも、つまらないなあ、とは思った。
なにせ、見るところはいっぱいあった。
数千年の時を経たこの世界は、俺たちが知る世界とは根底から一変していて、あの頃にはなかったモノがあって、それは気候とて例外ではない。
一年を通してそこまで激変することはないが、春には春の景色が見られ、冬には冬の景色がはっきりと感じ取れた。
同じ場所なのに、春に見た時には雑草ばかり生えて大して面白みがなかったところが、冬に訪れた時には花を咲かしているなんてのも、珍しくはない。
正直、せっかく生まれ故郷の世界に戻ったわけだし、もうちょっと色々と見て回りたい気持ちがあった。
それはロックブーケも同じらしく、「しょうがないわね~」とあきれた様子ながらも、けっこう楽しそうに俺に付いてきた。
「嫌なら、先に帰ってもいいぞ」
「バカね、おバカなあんたを一人にしたら可哀そうでしょ」
いちおう、声を掛けておいたのだが、あっさりそう言われてしまい……そんなわけで、俺たちはしばらくブラブラと見て回ることにした。
幸いにも、村は色々な場所にある。
『ティファール』や『ソーモン』のように比較的大きな町以外にも、泊まれるところや交流する場所はいっぱいある。
アバロンから見ると、どうしてもこの二つのように規模が大きな街や、何かしら国に有益なモノがある、そういう重要度の高い街ばかり出てくるが、それだけではないのだ。
たとえば、規模こそ小さいけど、長閑に生活を営んでいる村もあれば、モンスターを倒すことを成人の儀として受け継がれているなんて村もあって。
正直、飽きが来ないなあ……という思いがあった。
また、旅をしている中で推測というか、体感的な仮説が一つ生まれて……それは、『七英雄』と俺たちの関係である。
──結論から語るなら、『七英雄』と俺たちは、ある種同じ存在であり、その影響が俺たちにも出ているのではないか……という仮説である。
その理由としては、他の世界を旅していた時と同じく、元の世界に戻って来た俺たち二人が、一向に年を取った気配がなかったからだ。
いくら俺が(実は、ロックブーケも)自己流の延命を行っているとはいえ、限度がある。
いくら老化を抑えているとはいえ、1000年も2000年も生きられるわけがない。
旅をしている中で、多少なり老けてもよさそうなのだが……その兆候が全くなかった。
つまり、本来起こるはずの事が起こらず、俺とロックブーケの中で、何かしらのバグが生じているのでは……という話だ。
……ちなみに、ロックブーケはまったくそういった部分を考えすらしていないっぽい。
まあ、古代人の中には、何千年どころか何万年も生きているやつってそう珍しくはなかったし……もともと、時間の感覚が人間とはまったく違う。
俺にとっては1年2年は大きな時間の流れに感じるけど、俺以外のみんなは、下手しなくても10年20年なんて『つい、この間の出来事』でしかないって感覚だったし。
異世界を旅していた時も不老状態だったおかげで『老い』を意識することはなかったし、あっても他人事だったから、気付かなくてもなんら不思議じゃないけど。
実際、俺は体感的に『もう、8,90年ぐらいは経っているんじゃないか?』って分かっていて、ずいぶんと長く旅をしたもんだなって思っていたけど。
ロックブーケの感覚だと、『あら、もうそんなに?』ってな感じで、言われて初めて時の流れに目を向けた……ってな感覚が近いんだと思う。
……話が逸れたが、いちおうは、だ。
俺なりに、『神の知識』にて、この原因を探ろうとはしたのだが……残念ながら、バカな俺には分からなかった。
なんでかって、『神の知識』は望んだモノがそのまま手に入るような代物ではないからだ。
例えるなら、地平線の彼方にすら対岸が見えない巨大な川から、目的の魚だけを1匹釣り上げるようなモノだ。
当然ながら、俺にそんな器用な事は出来ないし、やろうと思ったら川の広さに意識が拡散して自我を失ってしまう。
なので、俺に出来るのは時々えいやっと網を放り投げて、食べれそう、使えそうな魚が居たら、ちょろっと捕まえる……その程度のこと。
だから、俺だって分からないモノはまったく分からないし、意味不明な事だったのが実は答えだった……ということだってあるわけで。
「もうそろそろ、みんなの様子を見に戻るか」
結局、こういう話は知恵者なワグナスに聞くのが一番かなって思ったわけで。
「そうね、ちょっと遠出しましたし、ワグナス様やお兄様の顔を見たいわ」
ロックブーケはロックブーケで、古代人らしい感性で、サラっとあっさり旅を止めることに同意したのであった。
……。
……。
…………で、まあ、アバロンに戻って来たわけだが……案の定というか、首都の様子もけっこう様変わりしていた。
全体的な建物の色合いもそうだが、首都を囲う外壁が真新しくなっていて、首都を出発する前に見た兵士たちの顔ぶれが一変していた。
当然ながら、知っている顔ぶれは一人としていない。
自分勝手ながら、俺はけっこう寂しく思えた。
ロックブーケも普段は気にも留めないけど、こういう形で時の流れを実感すると、「あら、けっこう様変わりしたのね」ちょっと寂しそうな顔をした。
幸いにも、時の流れを経ても俺たち二人の事は情報が残っているようで、名を名乗れば、ちょっとばかり驚かれはしたけどスムーズに城の中に入る事が許された。
「あ、ワグナス」
「久しぶりだな、二人とも。二人旅はどうだったのだ?」
「中々良いもんだったよ。あ、お土産いる? 20年前のワインだけど、これは時の流れを外に合わせて熟成させているぞ」
「ははは、相変わらずなやつだ。まあ、有難くいただこう」
そして、久しぶりの再会である。
俺は片手を上げて挨拶をしただけだが、「ワグナス様、お元気そうで何よりです!」ロックブーケは子供のようにはしゃいで、ギュッとワグナスに抱き着いた。
「ロックブーケも元気そうで何よりだ。相変わらず、子供のように軽やかで元気を貰えるよ」
「まあ、ワグナス様ったら。私はこう見えて、もう立派な大人ですのよ」
「ふふふ、そうだな」
俺とは違い、なんとも女の扱い方がスマートというか、何というか。
ポンポン、と親しみを込めて抱きしめ返したロックブーケの背中を叩いて放し、次いで……改めて、俺たちを見やった。
「帰って来たばかりだが、私たちの近況を知りたいのだろう……来なさい、私の私室にて話そう」
それから、俺たちを案内するのであった。
「そういえば、ワグナス様。お兄様は、いらっしゃらないのですか?」
「ん? ああ、そうか。ノエルなら、30年ほど前にオアイーブと共にアバロンを離れたぞ」
「え、そうなの?」
「ああ、仲睦まじい様子でな、とても幸せそうだったぞ」
「ふ~ん……まあ、お兄様もまんざらではないご様子だったし、いいけど」
「ちなみに、ボクオーンは20年ほど前に『七英雄ボクオーン』の姿を見てとんでもなくショックを受けてな。あんなの私じゃないってアバロンを飛び出して、行方知れずだ」
「え?」
「『あんな芸術性の欠片もない陰湿で誇大に自信過剰なのが……私?』といった感じでな。もしも、ボクオーンに会うことがあったら、『七英雄ボクオーン』の話は振らないように……」
「えぇ……」
「あと、ジェラール皇帝は30年ほど前に崩御して新たに伝承されているから、気を付けるように」
「ワグナス様、話の優先順位がおかしくてよ?」
道中、とんでもない爆弾発言を先出しして。
ひっそりと年代ジャンプ
数十年も経てば、思い思いに外へ飛び出しますわな
目的の世界に戻れたわけですし、七英雄のことは気になりますけど、そのためだけに生きているわけでもありませんし
元ゲームですら、けっこうバラバラに動いておりましたし(ブレないダンターグ)
なお、ダンターグと殺し愛をしたやつの名は明かしませんけど君をぶち殺すRPG