話の流れから察してはいたが、やはり『七英雄ロックブーケ』はエイルネップの人たちを魅了して操っていたようだ。
ロックブーケの魅了を解いた時、ちょっとばかりひと悶着があって、落ち着くまで時間は掛かったが、落ち着けば心優しい人たちばかりであった。
なお、ひと悶着の部分は言うまでもなく、『女王様』の見た目がこっちのロックブーケと同じ……という言い回しだと怒られるので、言い直そう。
『七英雄ロックブーケ』の見た目が、人によってはこちらのロックブーケにそっくりだと思われるせいで、また来たのかって感じで怖がられたのだ。
まあ、それも少しばかり話をすれば、見た目がそっくりなだけで別人だというのを分かってくれて……ただ、少しばかり気になる点がある。
それは、いったい村人たちはどこで本物と偽物を見分けて、違うと判断したのか……という点だ。
今さらな話だけど、『七英雄ロックブーケ』の見た目は、何も知らない第三者からしたらまず見分けられないぐらいにそっくりである。
俺たちぐらい付き合いが長くなれば、話し方の癖とか、立ち振る舞いとか、視線に宿る感情とか、ちょっとした部分での違いですぐに見分けるのは簡単だ。
でも、それは俺たちだから分かるわけで、俺たち以外では無理な話だろう。
ならば性格とか話し方とかって話になるけど、それだと相応に時間を必要とするはず。
俺たちは初めから別物だと分かっているから気付けるけど、何も知らない人たちからしたら、まず疑いからスタートするわけだ。
『七英雄ロックブーケ』がどんな性格をしていたのかは分からないが、魅了術が解除されてからの反応を見る限り、かなりひどい性格をしていなかったように思える。
実際、村人たちの話を聞く限りは、だ。
1.『とにかく美人で、何かを探していた』
2.『村の中でも美男子以外には酷い態度だった』
3.『顔は良いしスタイルも良いけど、態度が悪い』
4.『思い通りにならないと、魔物をけしかけられた』
5.『とてもキレイな人だけど、冷たい目をしていた』
など、半ば誇張しているのではってぐらいの話がポンポン出て来た。なお、全部本当だった。
また、子どもに対してはかなり辛辣だったっぽいようだ。
従順に褒め称えてくる子供に対してはそうじゃなかったらしいが、そこらへんの機微に疎く言うことを聞かない子供に対しては、平気な顔で蹴り飛ばしたりなどしたとか。
なるほど、美しいモノに対してはマシな対応を取るけど、それ以外は冷たい対応、出会った頃のロックブーケに近いのかもしれない。
男女があまり分かっていない子供に対しては、魅了術が効いても思うような行動を取らないから扱いも悪い……か。
そりゃあ、魅了術を受けた全員が口を揃えて『酷い女だった』と評価するわけだ。
それでもなお、酷い対応を取られた者からも、見た目だけは百点満点と言われるあたり、さすがはロックブーケと……なんか話が逸れたので、戻そう。
とにかく、だ。
それだけ性格に違いがあるにしても、前提条件があまりにも悪かったから、しばらくは遠巻きにされるか、下手したら追い出されるかのどちらかだと思っていた……のだけど。
「お姉ちゃん、すごい上手いじゃん!」
「ふふん、こう見えてお姉さんは剣も嗜んでいる武闘派だもの」
「次は俺な!」
「ずりー! ぼくの番だろ!」
「もう、喧嘩しないの。ほら、一緒に飛ぶわよ、そ~れ!」
……なんだろう、その日の夕方には、なんかガキんちょ共とめっちゃ仲良くなっていた。
具体的には、なんか縄跳びみたいな事をしている。ツルを編んで伸ばしたロープが回転する中を、ぴょんぴょん子供たちと跳ねている。
やっている事はそれだけだが、なんかめっちゃ子供たちから懐かれている。諸事情からエイルネップには男の子しか居ないので仕方ないにしても、なんか懐かれるまでがくそ早い。
おかげで、村の男たちの視線も和らいでいる。ついでに、俺に対する警戒心もけっこう解かれている気配がする。
それで良いのかって思ったが、子どもがあれだけ気を許しているのなら……というやつなのだろうか。
……いや、まあ、何度も言うけど、ロックブーケは美人である。
そして、『七英雄ロックブーケ』はともかく、こっちのロックブーケは別に子ども嫌いというわけじゃない。
いや、むしろ、ロックブーケは、のびのびと過ごしている子どもを見るのは好きな方で、頼まれたら遊んであげるぐらいには優しい。
もちろん、生意気な子どもには脳天に拳を手加減して落とすが……とはいえ、最初の頃のロックブーケはそうじゃなかった。
変わったのは、異世界を旅していた道中……何時頃からなのかは覚えていないが、気付いたら今みたいになっていた。
正直、無理もないと思う。
異世界には、子どもが子どもらしく生きられず、それなのに、武器を手にして死んでいく子どもを数え切れないほど見てきた。
いちおう言っておくが、平和な世界もあった。
だが、平和ではない世界もあった。今朝に話した子どもが、その日の夜には死体で見つかったなんてこともあった。
そんな日々の中で、ロックブーケだけではない。みんなが、大なり小なり影響を受けていった。
実際、何時からだったから……俺たちの誰もが、長命種だとか短命種だとかなんて言葉を口に出さなくなった。
あまりにも長すぎる生に飽いて、短い一生の者たちに心を焼かれ、その命を費やした……俺たちよりも長い時を生きていた者たちが居た。
逆に、短い一生を憂いて不老不死を求め、長き時を生きても何一つ良いことなどないと嘆く声を聞き流し、そのまま破滅していった者たちが居た。
そして、短い一生をさらに燃やして、未来を創るために戦って……散って行った者たちも居た。
そんな者たちを見て来たから、なのだろう。
何時しか、ロックブーケは俺たち以外にもちゃんと笑顔を向けるようになった。
見下した態度も取らず、時には自分から頭を下げて教えを乞うなんてこともしたし、子どもは子どもらしくするものよと、自ら命を賭けて動いた時もあった。
(そういえば、顔を真っ赤にして、種泥棒とかゴミクズ王子だとか、珍しくブチ切れていた時もあったっけ……あいつ、元気かな?)
だから、今のロックブーケは……特に、子どもに向けるその眼差しが、かつてとは比べ物にならないぐらいに優しい。
ゆえに、敏感な子どもたちが、それに気付いて心を開いて……あれ、いや、そうじゃない、また話が逸れ──っと。
「……どうした、ぼうず」
袖を引かれた感覚に視線を向けたら、なにやら男の子が……年齢的に、5,6歳ぐらいだろうか?
屈んで視線を合わせたら、その子はモジモジと……恥ずかしがっているというよりは、なんだろう、思い出そうとしている……と、思ったら。
「ねえ、おにいちゃん」
「なんだ?」
「おにいちゃんって、おとうちゃんなの?」
「…………???」
──困ったぞ、初手から難解な質問が飛び出してきた。子供特有のやつだ。
これの何が困るって、子どものコレは言葉が足りていないだけで、子どもなりに考えた末での質問だったりする場合が多いからだ。
だから、雑に扱ったり、誤魔化したりすると、子どもは時に敏感にソレを感じ取るから……だから、ちゃんと答えねばならない。
「あ~、その、なんだ。俺はお父ちゃんってやつじゃないぞ」
「おとうちゃんは、おとうちゃんじゃないの?」
「おとうちゃんじゃないぞ、おにいちゃんだ。もしくは、おじさんでも構わないぞ」
「おにいちゃんは、おじちゃんじゃないよ」
「そうだな」
「おにいちゃんは、おとうちゃん?」
「違うんだよなあ……」
困った、会話がループし始めた。
誰か通訳を頼もうかとも思って周りを見回したら、こちらを見ていた男たちは一人の例外もなく、口元を押さえて笑みを噛み殺している。
そりゃあ、そうだな。俺が逆の立場だったら、同じように笑うのを我慢していただろう。
最後の頼みの綱と思ってロックブーケの方を見やれば、いつの間にか縄跳びを止めてこちらに背を向けて、腹を押さえているのが見える。
……あの女、俺が困っているのを遠目で見て笑うのを誤魔化してやがる。
その証拠に、ちらっと俺の方を見た瞬間、ブフッと吹き出して背を向け……負けない、俺は七英雄のクジンシーなのだから。
「あのな、ぼうず。俺はおにいちゃんだ、お父ちゃんってやつじゃないぞ」
「そうなの?」
「ああ、そうだよ」
「おじちゃんじゃないんだよね?」
「そうだな」
「じゃあ、おねえちゃんは、おかあちゃんなの?」
「おっと、新要素が追加されたか……」
──ブフォ! と。
なにやら吹き出す音と共に、遠目にも分かるぐらいにロックブーケの背中が震えていたが……まあ、それは他の男たちも同様だけど。
「あ~、その、おねえちゃんってのは、誰なんだ?」
「おねえちゃんは、おねえちゃんだよ」
「おう、そうだな……あ~、じゃあ、おねえちゃんってのは誰か、指差してくれねえかな?」
「人を指差しちゃダメって、お母ちゃんに言われたから」
「そうきたか……」
「でもね、おにいちゃんはたすけてくれたから」
「教えてくれるのか?」
「それはダメ」
「ダメかぁ……」
……よほど、俺は困った顔をしているのだろう。
ペシペシと樹木を叩いてうずくまっているロックブーケの背中が、いよいよケイレンってレベルで震えているのが見える。
周りの男たちも、はっきりと笑い始める者が現れ……とはいえ、さすがに埒が明かないと思ってくれたようで、一人が助け船を出してくれた。
それで、分かった事なのだが。
どうやら、『おねえちゃん=ロックブーケ』ということらしい。
それから、これまでの会話を踏まえたうえで、俺はしばし考え……ようやく、答えを導き出した。
「あ~、そのな、ぼうず」
「うん」
「俺と、おねえちゃんは、夫婦じゃないぞ。つまり、お父ちゃんとお母ちゃんじゃない、お兄ちゃんとお姉ちゃんってわけだ」
「そうなんだ」
どうやら、正解だったようだ。
周りも俺の発言でようやく分かったのか、微笑まし気な様子で子供を見ていた……のを確認してから、俺は。
そっと、子どもの耳元に顔を近づけ。
『──でもな、ここだけの秘密なんだけど、本当はお父ちゃんとお母ちゃんなんだ、俺たちって』
『そうなの?』
『そうだよ。だから、聞いてこいって言ってきたおまえの兄ちゃんや父ちゃんに、そう言ってきな』
『うん』
子どもにだけ聞こえるように、そう告げた。
──うぇっほ!? えっほ!? えほ!? げっほ!? えほ!?
その時、気管に唾でも入ったのだろう。
最大級にゲホゲホと咽るロックブーケの背中が見えたが、とりあえず、大丈夫っぽいのを見てから、ポンと子供の背中を押してやれば、トテトテっと走り出した。
その先には……俺の視線の意味に気付いて、ちょっと気まずそうな男たちが居た。
やはり、誰かに言われて俺のところへ来ていたようだ。
いくらなんでも、あれぐらいの歳の子がいきなり聞いてくるわけがない……そう疑った俺の直感は、当たったようだ。
(直接聞くのが
まあ、いつもロックブーケは俺を盾にして『雑多な男(byロックブーケ)』を遠ざけていたし、これぐらいは良いだろう。
いまだ、ゲホゲホと咳き込んでいるロックブーケの背中を見やった俺は……一つ、笑みをこぼしたのであった。
……。
……。
…………翌日、エイルネップの村人たちは、村を離れていた女たちを連れて来て……また、ひと悶着が起こった。
今度の場合は、男たちだけの時よりも激しいモノだった。
なんでかって、女たちが村を離れていた理由は、『七英雄ロックブーケ』に操られていた男たちから逃げるため。
現在は女たちだけの村、『アマゾネス』にて生活していたらしく、男たちから『七英雄ロックブーケ』が倒されたという話を聞いて、戻って来た……という流れなのだけれども。
当然ながら、そこにロックブーケが平然と立っていたら、『騙したなお前ら!?』って怒り出すのも、自然な流れであった。
ていうか、下手したら今度こそ殺し合いになりかねないような流れに……と、思って、本当に警戒していたのだけど。
「ち、違うんだ、本当に俺たちを操っていたやつは死んだんだよ!」
「じゃあ、あの女はなんなんだよ! 同じ名前、同じ顔じゃないか!」
「たしかに同じ名前だけど別人なんだ! そもそも、あの人は奥さんで、隣の男が旦那さんなんだ!」
「はぁ!? 旦那ぁ!?」
「本当なんだって! 夫婦なんだよ、あの二人は!」
なんだろう、妙な展開になってきたぞ。
異世界では幾度となく男避けのために俺を盾にしていたから、今回も同じようにやっただけだが……どうしよう、冗談だったと誤解を解くべきか?
でもなあ……ここで誤解を解いたら、それはそれで、別人だと証明するのが難しくなるし……ちょっと、色々と調べたことも……あ~、ま~、仕方ないか。
チラリ、と。
ロックブーケを見れば、別にどっちに転んでも良いかなって感じで、特に気にした様子もなく言い争いを眺めて……なので、だ。
ギュッ、と、その肩に腕を回し、抱き寄せた。
瞬間、ガチっとロックブーケの身体が固まったような気がした……怖くて見られないけど、おそらく、察してくれていると思うので、俺は先に告げた。
「見てのとおり、夫婦で~す」
それで、ようやく分かってくれた(?)のか、ひとまず男女の言い争いは終わって、納得してくれたのであった。
……。
……。
…………なお、この後、「いきなりビックリさせるな!」ってビンタを食らった……まあ、いいけど。
その時の、ロックブーケの姿を見た者たちの反応
エイルネップ男「夫婦だろう? (ロックブーケさん、クジンシーさんに抱き寄せられた瞬間、顔真っ赤になってカチコチに固まってる……)」
アマゾネス「そうだな、夫婦だね(照れ隠しにビンタしているけど、その後しばらく、めちゃくちゃ頬が緩みっぱなしじゃん……)」
若いエイルネップ男「俺も、あんな美人の嫁さん欲しいなあ(良いなあ、あんな美人に俺も好かれたいなあ……)」
若いアマゾネス「お姉さまから聞いたけど、ぜったいにクジンシーさんに色目使っちゃダメだって……みんなも気をつけようね」