山手線とは、ロマサガ2とはいったい……うごごごご   作:葛城

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第2話: 差し引き、ギリギリマイナスだとか……

 

 

 

「あんたも災難だな、せっかく出られたのに、前線行きとはな」

「上手く生き残ったら、酒でもおごってくれよ」

「そうだな、安酒ぐらいはおごってやるよ」

「おかげで、生きる目的が一つ増えた」

 

 

 ──さて、5日間の反省を経て牢屋を出されたわけだが……次の俺の行き先はもう決まっている。

 

 

 それは、ターム討伐隊への強制参加である。

 

 だから、たった5日間で釈放されたわけだなと、俺はらしくもなく苦笑いを零すしかなかった。

 

 小銭の窃盗とかならともかく、思想犯認定されての投獄ともなれば、下手したら死刑……良くても、むち打ちなどの痛みを伴う刑が科せられる……らしい。

 

 そうならなかったのは、ターム討伐隊の人員が不足していて、思想犯だろうがコソ泥だろうが、前線に出さないとあっという間に押し切られてしまうから……らしい。

 

 

 募集の場所では次回まで待てと言われたが……ああ、そうか。

 

 

 アレは、一般募集。

 

 こっちは、強制徴集というわけか。

 

 

(そりゃあ、犯罪者っていう大義名分ってやつがあるからなのは分かるけどよ……)

 

 

 輸送用の馬車……お世辞にも乗り心地が良くないソレに乗せられた俺は、乗り合わせている他のやつらの顔色を見やり……一つ、ため息を零した。

 

 これまたお世辞にも、顔色がまともなやつは一人としていない……それも、そうだ。

 

 俺は『神の知識』と、長年それを頼りに鍛錬を続けてきたが、それがない人たちからすれば、アリどもの相手は実質的に自殺と変わりない。

 

 実際にアリを目にしたことがない者でも、アリと戦ったやつらの末路、これまでの討伐隊の状況を見聞きしていたら……そりゃあ、顔色も悪くなる。

 

 俺だって、もしも『神の知識』無しでこの場に居たら……震えあがって顔色を悪くしていただろう。

 

 あるいは、成りあがってやるとか、見返してやるとか、そんな事を呟いていたかも……まあ、考えるだけ無駄か。

 

 

(……しかし、半端なやつを押し込んでも、食われてアリを増やすだけにしかならんとは思うが……どちらかと言えば、口減らしが目的か?)

 

 

 俺は、そこらの適当なモンスター(食えるやつ)とかを狩って食っているから大丈夫だが……思い返したら、都市というわりにはあまり活気がなかった気がする。

 

 都市に来たのが初めてだから、もしかしたら、アレが普通で、俺が想像を膨らませ過ぎていただけかもしれないけど。

 

 よくよく見れば、乗り合わせたこいつらも、あまり食事が取れていないのか痩せているやつが多い。

 

 

 これはけっこう、珍しい事だ。

 

 というのも、俺たちには『同化の法』がある。

 

 

 肉体的な不調……さすがに、ちょっと怪我した程度で使うやつは稀だけど、やせ細るような状態になったら、ほとんどのやつはさっさと身体を乗り換える。

 

 俺が生まれ育った村ですら、そのために数名ほど短命種と言われている奴隷を、まるで常備薬のように抱えていたし。

 

 言い換えれば、こいつらはそれすら出来ない状態にあったわけだ。

 

 犯罪者として長く投獄されていたのか、それとも、どうせ死ぬからと食事などを抜かれていたから……あるいは。

 

 

 ──乗り換えるための短命種の数が少なくなってきて、回ってこなくなった……か。

 

 

 そこまで考えたあたりで、俺は静かに首を横に振って思考を切り替えた。

 

 そもそも、アリとの戦いで犯罪者を優先的にとか、そんな生ぬるい話を今更考えている時点で、正直ドン引きだ。

 

 

 だって、あまりにも平和ボケが過ぎるから。

 

 

 最初、事情を知らなかったので、まだそこまでではないって思っていたけど、蓋を開けてみたらそんなレベルをとっくに超えていた。

 

 戦況が劣勢になっているなんてのは、もう情報としては古過ぎる。

 

 もはや、敗北確定まで秒読み……そんな段階に至ろうとしていることに、大半の人たちが目を向けていないし、想像すらしていない。

 

 おそらく、『同化の法』にて限定的な不死を手に入れてからあまりにも長い年月を経たせいで、心のどこかで『自分たちが敗北するわけがない』と思い込んでしまうせいだろう。

 

 でも、現実は変わらない。もはや、人間に逃げ場は無い。

 

 勝つか負けるか、食うか食われるか、生き残るか滅ぼされるか、既にそういう段階に入っているということに、大半の者たちが他人事みたいに受け止めている。

 

 あまり戦況や事情を知らない俺ですら、『タームとの戦いが始まってから引き分けこそあれ、勝利は数える程度しかない』という話を聞けたぐらいだ。

 

 それなのに、いまだ他人事の感覚で『勇敢な誰かがなんとかしてくれる』という平和主義が大多数の時点で……まあ、うん。

 

 

 ……俺みたいな犯罪歴が無いだけの怪しいやつですら、危険を伴うとはいえ荷運びの仕事があったぐらいだ。

 

 

 たぶん、原因は一つじゃない。

 

 細々とした要因がいくつも重なって、今のような状況になっただけ……まあ、つまるところ。

 

 

「……もう、俺たち人間はお終いってわけか」

 

 

 ポツリと零した結論に、乗り合わせたやつらが俺に視線を向けて来たが……俺は構わず、目を瞑ったのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、それから約二日。

 

 

 交代制で休憩を行い、最低限の飲食を済ませ、そろそろケツから感覚が消え始めたぞと思い始めた……そんな頃だった。

 

 ようやく、俺たちを乗せた馬車が止まる。

 

 ここまで連れて来た兵士に急かされながら、馬車を降りれば……これがまあ、中々に酷い光景だった。

 

 見たままを語るならば、簡易的な拠点、といった感じだろうか。

 

 対人間とは違い、アリどもの機動力は人間の比ではない。

 

 城を立てて防壁を作ったとしても、地面を掘り進んでくる時もあるから、アリどもを相手にする場合の拠点は、速やかに移しやすい簡易な物が良い……らしい。

 

 そもそも、空を飛んで移動してくる個体が居る以上、どっしり腰を据えて拠点を構築したとしても、その上や左右から飛び越えられてしまったら意味が無い、とのことだ。

 

 

 ……バカな俺にも分かる、ちゃんと勝とうと考えられている。

 

 

 口減らしだけでなく、本当にアリをどうにかしたい、どうにかしようと思っている人がいるのか……その事実が、少しばかり沈んだ気持ちを浮上させてくれる。

 

 

(……血の臭いがうっすら漂ってくる)

 

 

 と、同時に、ひときわ大きなテントの中からうっすら嗅ぎ取れる血の臭いに、俺は思わず顔をしかめる。

 

 いくら『同化の法』があるとはいえ、そうポンポンと使い続ければ、スペアボディである短命種はあっという間に枯渇する。

 

 だから、よほど偏屈なやつではない限り、ちょっとぐらいの怪我なら包帯でも巻いて自然治癒させるし、そこらへんは短命種と同じだが……言い換えれば、だ。

 

 前線のここにはスペアである短命種を連れてきていない、あるいは、連れて来たそばから枯渇してしまう、か。

 

 もしくは、あまりにも短期間に『同化の法』を使用すると副作用が出てくるから、ストップが掛けられた、かもしれない。

 

 

 ……俺はしたことが無いから分からないのだけど。

 

 

 どうも、適切なタイミングで使えば致命傷の状態からでも復活できるらしい『同化の法』だが、身体を乗り換えると、馴染むまでそれなりに時間が掛かるらしい。

 

 日常生活を送る分には問題ないらしいけど、激しい動きや魔力の操作に対する感覚にズレが生じるらしく……つまるところは、だ。

 

 ここでは、テントの外にまでうっすら臭いが漂うような状況になっても『同化の法』を使用しない、使用できない……そんな状況が常態化している、というわけだ。

 

 

(生きたままアリどもの巣に連れていかれるか、その場で食われるか、あるいは……とにかく、治癒術での対症療法しか出来ないってわけだ)

 

 

 ──なるほど、いよいよもって、敗北の足音が傍まで聞こえてきたぞ。

 

 

 なんともやるせない気持ちでテントを外から眺めていると、「──列を乱すな!」引率のやつに頭を小突かれた……痛いだろ。

 

 とはいえ、悪いのは俺なので、頭を下げてから小走りで列を追いかけ……ちょうど俺が追い付いたあたりで、この前線拠点のリーダーを務める男が、軽い演説を行っていた。

 

 

 その男の名は、ノエル。

 

 

 どうも、ターム討伐の精鋭部隊である『赤竜隊』の隊長を務めているらしく、なんか周りから小さく歓声があがった。

 

 ……精鋭部隊の隊長というだけあって、気配が他とは違う。遠目にも実力が察せられるし、顔立ちも精悍だから、さぞ女にモテそうだ。

 

 俺が『神の知識』をもとに鍛錬を行っていなかったら、1000回戦って1000回とも一瞬で気絶させられている……それぐらいの強さを感じ取れた。

 

 ちなみに、演説の内容は……自分たちを鼓舞する言葉と、タームとの戦いに対する心構えや、簡単な戦術の指南だ。

 

 まあ、俺を含めてほとんどのやつらは、集団で戦うやり方なんて学んだことがないし、集団での実戦経験も無いから、当然といえば当然な話だ。

 

 で、ちょっとばかり詳しく説明するならば、だ。

 

 

 一つ:とにかく、巣に連れて行かれるとアリの数を増やすだけなので、絶対に単独での行動は避けること。

 

 二つ:とにかく武功などは考えず、一匹ずつ確実に仕留めることを念頭に動くこと。

 

 三つ:倒したと思っても死んでいない場合があるから、確実に頭を潰すまではとにかく気を抜かないこと。

 

 

 おおよそ、この三つだ。

 

 

 とにかく、と何度も念押しするだけあって、守れないやつが多いのだろう。

 

 いや、まあ、命を賭した戦場なんだから、そんなの頭から吹っ飛んで当たり前だが……ああ、だから、何度も念押しするわけか。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 そんな演説という名の講習を終えて、いざ実践……休ませてくれよって思ったけど、テントの向こうで痛みで呻いている声が聞こえたから、そんなことも言えず。

 

 ノエル隊長とやらは中央より、俺を入れた4班は横から不意を突く形で……という作戦になった。

 

 こういう時、俺たちみたいな捨て駒こそ中央からではって思ったけど、ノエル隊長はそうしなかった。

 

 なんでも、『いくら犯罪者とはいえ、無駄に捨て石にするのは違う』ってことらしい。

 

 冷酷というか、合理的というか……なんとなくだけど、囮にして戦うってやり方が納得できないから……なのかもしれない。

 

 

(なるほど、ノエル隊長って周りから慕われるわけだ……)

 

 

 そうまでして隊長自ら前に出ようと(それも、真正面に)するのだ……さすがに、俺も知らぬ存ぜぬではいられない。

 

 

「『瞬速の矢』+『連射』」

 

 

 なので、微力ながら俺なりに頑張ってみる。

 

 『瞬速の矢』は、目にもとまらぬ速さで相手を打ち抜く速射の技。

 

 合わせる『連射』という技は、一体の相手に超高速で連続的に矢を打ち込む技。

 

 この二つを合わせれば、どうなるか。

 

 答えは、横から降り注ぐ雨のように、膨大な数の矢がアリどもへと殺到するってわけだ。

 

 ぶっちゃけ、『ミリオンダラー』を使った方が楽なのだけど、アレはこういった集団戦闘だと味方まで被害が及ぶから……まあ、そんなわけで、だ。

 

 傍から見たら、俺の両腕はブレてどのように動いているかすら……それほどのサイクルで放たれる矢は、瞬く間にアリどもの命を狩り尽くす。

 

 その勢いは、迎え撃とうとしていたノエル隊長の足を止めるほどで。

 

 結局、何時もより張り切ったおかげか、今回の戦いは負傷者こそ出たが、犠牲者0の大勝利に終わったのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、まあ、アレだ。

 

 

 俺としては、褒美も何もいらないし、マジで義理を果たす程度の感覚でやったわけなのだけど、その後ノエル隊長に捕まった。

 

 なんでも、『赤竜隊』にもいない見事な弓さばきと、その有用性に気付いて、とにかく声を掛けよう……ってな感じらしい。

 

 別にこのまま討伐隊に入るのはやぶさかではないが、俺ってば田舎者だし、教養なんて無いし、エリートたちと足並み揃えてっての苦手だ。

 

 だから、最初は断ろうとしたのだけど、ノエル隊長からの説得に、ずいぶんと熱が入っている。

 

 是が非でも俺を討伐隊から逃がさないぞ……そんな言外の熱意を嫌というほど感じ取れた。

 

 

「そんなのは些細な問題だ。教養があればアリどものは退くのか? そんなわけがない……必要なのは武力、それだけだ」

「そうは言っても、懲役代わりに討伐隊に組み込まれた犯罪者だからなあ、俺は……」

「ははは、それこそ、些細な問題だ。さすがに大量殺人犯ともなれば、私一人の一存ではどうにもならないが……違うのだろう?」

「そりゃあ、なあ。さすがに、それなら俺は死刑になっている」

「いちおう聞いておくが、せいぜい窃盗か暴行ぐらいだろう? それぐらいならば、なんとでも出来る」

「そうか? まあ、捕まった理由は思想犯で、いわゆる『寿命教』を広めようとした罪ってことらしく──」

 

 

 でも、そんな熱意を以てしても駄目だったようで。

 

 

 心苦しいが……すまない。

 

 

 そんな言葉で濁していたけど、俺は都市に帰還するまでの間、ノエル隊長直々の監視の下で、ひ~こら前線で働詰めの刑に処されたのであった。

 

 どうやら、さすがに思想犯はアウトだったようだ。

 

 これが赤竜隊のやり方かと、俺はノエル隊長を睨むばかりであった。

 

 

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