山手線とは、ロマサガ2とはいったい……うごごごご   作:葛城

6 / 21
第5話: 他意は無い、知らんけど

 

 

 

 

 今更な話をするわけではないが、俺は『同化の法』が大嫌いである。

 

 

 理由は、『神の知識』によって、いかに『同化の法』が摂理を捻じ曲げて行われる延命法なのかってことを知っているから。

 

 言うなれば、俺たち長命種と呼ばれる人間は、魂の寄生虫だ。

 

 この世界の生命体は、俺たちという例外を除いて、肉体と魂はセットだ。

 

 肉体がやられたら、例外なく死ぬ。

 

 それが、定めだ。

 

 どれだけ強い生物だろうが、同じだ。俺たち人間が天敵と定めたアリたちですら、肉体が死ねば、そのまま終わりだ。

 

 そう、アリたちですら、そうなのだ。

 

 それに対して、俺たち長命種と自称する人間たちはどうだ。

 

 即死でなければ、自殺しようと思ってなければ、『同化の法』が使えない状態に陥ってさえいなければ、いくらでも復活できる。

 

 怪我を治すのではなく、他の生物の器を奪い取って回復するという手段で。

 

 定めに対して、真っ向から逃げ続けている。

 

 それも、他者の器を奪い続け、寿命という生命のタイムリミットすらも無視して。

 

 そのおぞましさに比べたら、まだアリの方がはるかにこの世界の生物としては正しいのだ。俺たち長命種に子供は居ても、老体が居ないのが、その証拠。

 

 だから、俺は『同化の法』が嫌いだ。

 

 もしも、俺が何らかの形で負傷したり病に罹ったりしたり、この命が尽きようとしても……俺は、俺のままに死にたいと本気で思っている。

 

 

「……『吸収の法』、だと?」

 

 

 そう、思っているからこそ……俺は、ノエル隊長から告げられたその術法に、それ以上の言葉を無くした。

 

 

 ……簡単にまとめると、だ。

 

『吸収の法』とは、俺たち長命種が生み出した『同化の法』を発展させ、強化した秘法だ。

 

 内容はいたって単純。

 

『同化の法』は、あくまでも延命の手段(傷などを治すのはオマケ)に対して、『吸収の法』は、相手のすべてを取り込んで自らのモノにするというもの。

 

 すなわち、『取り込んだ相手の知識や能力を得る』ことで、肉体を強化し続けるという、『同化の法』には無かった効果が追加された秘法である。

 

 

 だが、しかし。

 

 

 一見すると、メリットしかないように思えるその秘法だが……大きな欠点が一つある。

 

 それは、多くの生物を取り込めば取り込むほどに強くなれるのだが、『取り込んだ相手の記憶や経験の影響を受ける』という、無視できない欠点だ。

 

 例えるなら、『殺人鬼を取り込めば、殺人行為に忌避感を覚えなくなり、それどころか殺人行為に快楽を感じるようになる』、などだ。

 

 そのため、このデメリットを抑えるためには、吸収する相手を吟味し、吸収を行うたびに、己の心身に異常が起こっていないかを入念に確認して……いや、もうどうでもいい。

 

 

「……俺はごめんだな。『同化の法』ですら嫌なのに、『吸収の法』だと……おぞましすぎて、涙すら出てきそうだよ」

 

 

 どれだけ御託を並べようが、俺にとってはそれ以上でもそれ以下でもなかった。

 

 もちろん、ノエル隊長は、ただ強くなりたいとかそんな理由で、その話を出したわけではない。

 

 ぶっちゃけてしまえば、アリに勝つ手段がそれしかないからで……というのも、だ。

 

 以前から俺が危惧していた事で、どうやらノエル隊長たちも同様に危惧していたことなのだが……やはり、戦況をひっくり返すのは不可能だった。

 

 なにせ、アリ共の巣は地下にある。そのうえ、増える速さも俺たちの比ではない。

 

 局所的な勝利を重ねてきたとしても、全体で見たら俺たち人類は負けっぱなしなのだ。

 

 この状況を打破するためには、アリ共のボスであり、アリを生み出す唯一の個体……クイーンを倒す以外にはない。

 

 

 だが、アリ共の巣は地下だ。

 

 

 待ち構えているあいつらを蹴散らし、あいつらのフィールドの中で勝利を掴まなければならない。

 

 そのうえ、巣を移動されないためにも、相手が移動する前に短期決戦にて決着をつける必要があり……それを成すためには、純粋に個としての戦力が足りない、というわけだ。

 

 俺たちがいくら強くとも、クイーンの元にたどり着くまでには相当に疲弊するし、俺の弓矢だって、狭い巣穴の中では持ち味が消えてしまう。

 

 つまり、現状は詰んでいるのだ、どうしようもなく。

 

 そのうえ、異常気象の影響は日を追う事に増していて……どうやら、1年と経たないうちに、未曽有の大災害が発生するらしいのだ。

 

 なるほど、それは焦る。

 

 リスクがあるどころか実験段階にすら至っていない、開発したばかりの『吸収の法』を使用するべきでは……という話が出てくるのも、納得である。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 場所は、前線の拠点……ではなく、ノエル隊長の自宅だ。

 

 この場には、俺たち以外の他に、ノエル隊長の恋人(?)であるオアイーブと、ノエルの幼馴染であるサグザーという名の男が居た。

 

 計9人、部屋が広いので狭苦しい感覚はないけど……いや、そうじゃない。

 

 

「クジンシー……確かに、寿命教のおまえには受け入れがたい事だとは思う。だが、これしかタームに勝つ方法はないんだ」

「アリ共よりおぞましいナニカに成ってまで、か?」

「──クジンシー! あんた、お兄様とワグナス様になんて生意気な口を!」

「生意気だろうが何だろうが、こればかりは一歩も引かん」

 

 

 俺がそう言えば、ノエル隊長とワグナス……ではなく、同じく話を聞いていたロックブーケが俺に突っかかってきた。

 

 いつものように、ロックブーケが俺の足を蹴る。

 

 でも俺は、構わず少しその場を離れる。「ちょ、ちょっと!」いつもの俺と反応が違うからなのか、服の裾を掴んで止めようとしてくるが……無視する。

 

 台所よりコップを二つと桶を持ってきて……その間、ロックブーケは律儀に俺の後を付いて行き、グイッグイッと引っ張り続けているが……それも無視する。

 

 それから、俺は全員に見えるようにそれらを置いて、並べたコップに並々まで水を注ぐ……視線が集まる。

 

 ロックブーケに視線で促せば、如何にも私は不機嫌ですと言わんばかりに唇を尖らせながら、俺の隣に座った……のを見てから、俺は話を始める。

 

 

「分かっているだろうが、『同化の法』ってのは、つまりこういうことだ」

 

 

 左のコップの水を桶に捨てて、右のコップの水をキッチリ注ぐ。

 

 

「短命種の中身がすっかり押し出され、長命種の中身が収まった。古いコップから、新しいコップへ……だが、ノエル隊長の言う『吸収の法』ってのは──」

 

 

 空いているコップに水を注ぎ……それを、ギリギリまで入っている方のコップへと注ぐ。

 

 当然ながら、水は溢れる。

 

 コップは桶の中に置いてから注いでいるから、テーブルは濡れない……いや、俺の言いたいことはそこじゃない。

 

 

「魂は、混ざり合う。どれだけ同じように見えても、元の魂じゃない。そして、混ぜる量や種類が増えれば増えるほど、元の姿を必ず失っていく」

「……そのリスクを軽減するためにも、吸収する相手を吟味する必要がある」

「吟味なんて何の意味もない。魂が混ざった時点で手遅れなんだよ。それに、己が変わっていると自覚すら出来ないだろうよ」

 

 

 俺の言葉に、ボクオーンが待ったを掛けた。

 

 

「それは、どうしてですか?」

「逆に聞くが、『同化の法』ですら、なんの影響も受けていないとどうして誰も疑問に思わないんだ?」

「と、言いますと?」

「年老いた体から、年若い体に移った時……あんたら、一度ぐらいはおねしょしたことがあるだろ?」

 

 

 その瞬間、ピタッと空気が止まった。

 

 

「──あんたねえ!」

 

 

 俺の横で、頬を赤くしたロックブーケが腕を抓ってくる。「これは、とても大事なことだ」けれども、俺は構わず……話を続ける。

 

 

「馴染んでいない体と、魂との間に生じる肉体の誤動作……しばらくすれば、自然に治る。それが、定説だ」

「それで?」

「あくまでも、新しい肉体の扱い方に慣れていないだけ。魂は何一つ変わっていないが、それでも意図せぬ動作をする。なら、本元である魂が変化したら……いったい、どうやってそれを治すんだ?」

「それは……」

「魂を移しただけでも、肉体からの影響を無視できない。ましてや、魂そのものへ影響をもたらす術となれば……その手段は止めるべきだ、本当に取り返しがつかなくなる」

「……なるほど、確かに。そのリスクを考えれば、『吸収の法』は時期尚早か」

 

 

 ボクオーンは納得した……だが、ノエル隊長とワグナスは、納得しなかった。

 

 

「……だが、もはや一刻の猶予も無いのだ」

「ツケが来ただけだ、遅いか早いかの違いでしかない」

「──クジンシー!!」

「アリを倒したところで、異常気象が来るぞ。たった数か月の時間を稼ぐために、人間であることすら止めるつもりか?」

 

 

 怒りをあらわにする二人に、俺はキッパリと告げた。

 

 と、同時に、俺の言葉を聞いた二人以外のメンバーが……いや、一人だけ、サグザーだけは俯いただけ……なるほど。

 

 明らかに反応が異なる二人に、他のメンバーが……ロックブーケが、ノエル隊長へ縋るように問いかけている。

 

 

 さすがに、この状況で誤魔化すのは不可能と思ったようで……二人は、ぽつぽつと話し始めた。

 

 

 その内容は……アリの事ではなく、日に日に規模を増している『異常気象』のこと。

 

 以前から、異常気象という言葉では説明が付かない規模の災害が多発し続けていて、その調査を行っていたのだが……つい先日、非常に酷な事が判明した。

 

 それは、多少前後はするが、おおよそ半年後に、これまでとは比べ物にならない……もはや、天変地異と称しても過言ではない大災害が発生する、というもの。

 

 その大災害を止める手立てはなく、規模があまりにもデカすぎて、耐え忍んで待つのは自殺行為。

 

 術を使って耐え忍んでも、万に一つも助からない……それほどの災害が確実にやってくる。

 

 それゆえに、大神官を始めとして上層部は、別世界への退避を計画している……で、そこにどうして『吸収の法』が出て来たのかというと。

 

 

「……つまり、上層部は都市部の中心地に住まう自分たち以外を捨て石にしか見ておらず、自分たちさえ助かるなら、他の町に住まうすべての人々がアリに食われても問題なし。そのことを許せないお二人は、少しでも被害を減らし、退避する人を増やせるようアリを討伐したい……と、考えているわけですか」

 

 

 ボクオーンが、二人の話を簡潔にまとめた。

 

 そして、話し終えて色々と観念したのか、二人は困ったように頭を掻いて……俺をジロッと睨んできた。

 

 なんともまあ、心外な。

 

 

「冷静な二人がどうしてこんな先走った事を考えているのかと思ったら……やっぱり、ヤバいレベルの異常気象が来るわけか」

「……カマを掛けられた、か」

「そんなんじゃないっすよ。ただ、ここ最近は本当に異常気象なんて生易しい言葉ではおさまらない事が起こっていたでしょ」

「……なるほど、おまえはどうも変なところで抜け目がないやつだ」

 

 

 俺の言葉に、二人は苦笑をこぼし……けれども、それでも、二人は意思を曲げなかった。

 

 

 ──だが、俺たちは『吸収の法』を使う、と。

 

 

 リスクは承知のうえで、それでも、二人は告げる。

 

 自分たちは、この国を、人々を、守りたいのだと。

 

 その言葉を受けて……オアイーブは、悲しそうにノエル隊長の腕を引く。けれども、ノエル隊長は静かに頭を下げ……それを見て、オアイーブは目じりに涙を滲ませ、そっと手を離した。

 

 誰もが、何も言えなかった……いや、違った。

 

 

「──強くなれるのであれば、リスクなどどうでもいい。俺は『吸収の法』を使う」

 

 まず、ダンターグが手を挙げた。

 

 

「……そうですね。国を守り、人々を守る……そういう事があっても良いかもしれませんね」

 

 次に、ボクオーンが手を挙げて。

 

 

「俺はワグナスに従うだけだ。この俺の槍が人々を守るのもまた、運命の導きなのだろう」

 

 続いて、スービエも手を挙げる。

 

 

「ノエルお兄様と、ワグナス様のために、わたくしも……!!」

 

 そして、最後にロックブーケが手を挙げて……ギュッと、袖を強く引っ張られる。

 

 見やれば、ロックブーケの赤い瞳が……縋るように俺を見上げ……仕方なく、俺はため息を吐いて。

 

 

「『吸収の法』は使わない。だが、最後までお手伝いはするよ。それで死んでも、俺が選んだ事だ」

 

 

 そう、手を挙げたのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………正直なところ、俺はこの先、俺を含めて、このメンバーはろくな結末を迎えないだろうなあ……と、思っていた。

 

 

 なにせ、『吸収の法』は、正道を完全に逸脱した外道。外法の極みと言っても過言ではない、禁術だ。

 

 

 混ざった魂を元に戻す手段は、無い。

 

 俺は『冥術』に適性があるからこそ、余計に分かる。魂をただ引っ張り出すのとは、ワケが違う。

 

 この世界のシステムに、完全に逆らうも同じ。その規模は、『吸収の法』の比ではない。

 

 もしも、俺がこの世界でソレをやれる程になろうと思ったら、自我を失うまでモンスターを吸収し続けて力を手に入れるか、あるいは世界そのものを騙せるほどに……どちらにしろ、現実的ではない。

 

 

 それに、問題はそこだけじゃない。

 

 

 少なくとも、喉元が熱いうちは……そこまでして戦ってくれる俺たちを、人々は賞賛するだろう。

 

 しかし、喉元を過ぎてしまえば、人々はソレを忘れる。

 

 後に残るのは、全てを棚に上げて、俺たちを化け物扱いする民衆……そうなるだろうと、思っていた。

 

 

『……4、5、6、7……七人の英雄だ! 七英雄だ!!』

 

 

 だから、多くのアリどもを吸収し、そうして、無事にクイーンを撃破して都市へと帰還し。

 

 拍手喝采で出迎えるやつらを、俺は……とても冷めた眼差しで見つめ……だが、それでも、だ。

 

 

『──七英雄は、もはや人ではない。人の皮を被ったモンスターだ、いつ人を襲い始めるかは分からない、即刻処刑するのだ!!』

 

 まさか、異常気象のタイムリミットが始まる半年すら経たないうちに、大神官たちの策略で逆賊扱いされ。

 

 

『──七英雄を、異次元追放の刑に処す!』

 

 

 まさか、タームという人類未曽有の天敵を倒した俺たちを、大罪人として世界から追放するとは……バカな俺は、想像すらしていなかった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そして、別の次元へと転移させられた俺たちは……思わず、ガッツポーズをしたのであった。

 

 

「別次元……ヨッシャ! 別世界なら、世界のシステムが違うから、お前らの魂に混ざった異物を取り除けられるぞ──いっでぇ!!!???」

「この、おバカ!! こんな時に、そんな事を気にしている場合じゃないでしょうが!!!」

 

 

 けれども、どういうわけか、ロックブーケからガチ目に頭を殴られ……何故か、他の奴らもロックブーケを止めてくれなかったのであった。

 

 とても、大事な事なのだけど……まあ、いいか、さっさと戻してやろう。

 

 そう決めた俺は、わめくロックブーケを抱えて……異物よ出ろと、尻を叩きまくったのであった。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。