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──まあ、そんなわけで、だ。
「それで、どうする?」
「ふむ……どうする、とは?」
「このまま未開のこの世界を冒険して命を終えるか? それとも、この世界で『同化の法』で生きるか? あるいは、次元を渡って元の世界に戻るか? ってな話」
「待て、戻るとは……いや、戻れるのか?」
驚いた様子のみんなに、俺は頷いて説明をする。『神の知識』の話をしたから、言葉を選ばないで済むのは楽だ。
で、説明する中身だが、事はそう難しくはない。
俺たち7人は次元の壁を無理やりこじ開けられ、そこを通って別世界へと転送されたわけだが……実は、別世界への移動はそう難しい事ではない。
世界というのは卵の殻のように次元の壁に覆われているが、全てが同じ強度になっているかと言えば、そうではない。
場所によっては非常に薄くなっているところもあるし、場合によっては穴が開いていたりする時もある。
いわゆる、神隠しって言われる現象が、それだ。
当人が気付かないうちに、その穴を通って別世界に移動してしまったり、あるいは壁を破ってしまって……といったパターンだ。
と、なると、だ。
それを使って俺たち人類全員が避難出来たのでは……と、そこまで聞いた段階だと思うかもしれないが、実はそう上手くいかない。
なんでかって、自然発生する穴は、人ひとりが通れるぐらいのサイズしかなく、開いても短時間で勝手に閉じてしまうからだ。
そのうえ、穴は常に同じ場所にあるわけではない。
ある程度、穴が開きやすい場所というのはある。
しかし、必ず空いているわけではないし、むしろ、閉じている期間の方が長い。穴が開くタイミングも、普通は分からない。
少なくとも、俺のような『冥術』に適性があって、『神の知識』である程度は事前知識が無いと、穴が開く兆候すら感じ取れないだろう。
そのうえ、穴を通った先に、元の世界があるかも分からない。ぶっちゃけてしまえば、毎回ランダムである。
俺の場合は気配というか、痕跡を辿ってある程度は選択できるが……まあ、それでも一発で戻れはしないし、下手したら何百年、何千年と掛かるかもしれない……というわけだ。
「ちなみに、俺は元の世界に戻るつもりだ」
「しかし、戻ってもおそらく向こうは大災害で、人が生きられる環境では……?」
「それでも、さ。生まれ育った世界で死ぬ。それが自然の定めだからな」
俺の言葉に、ワグナスとノエルは考え込むように唸った……その横で、「しかし、貴方の場合は寿命が足らなくなるのでは?」ボクオーンが話を切り出した。
確かに、ボクオーンの疑問はもっともだ。
俺はみんなとは違って、『同化の法』を使わない。多少なり自前で若作りは出来るが、その寿命は短命種よりは長生きって程度。
生きるのに飽いて自殺したり、魂の寿命を迎えて終わるのを除けば、数千年……数万年を生きる者だって、珍しくはないのだ。
それを考えれば、元の世界にたどり着く前に寿命が尽きてもおかしくないのでは……そう考えるのは、極々自然なことだろう。
だが、しかし……実は、次元を渡った者の肉体に限らず、持ち込んだ物は、とある変化が起こる。
それは、半端な不老であり不変だ。
言うなれば自然死しない、仮初めの不死。
腹は減るし喉も乾くけど、肉体は老化せず病気にもならない。外傷などで物理的に破壊されない限りは、命が保たれ続ける……そういう存在になる。
要は、強い衝撃などを与えない限りは半永久的に劣化しない、という身体になるわけだ。
「だから、おとなしくして何も起こらなければ、俺たちは不老のまま何千年何万年と肉体を移動することなく生きられる……だが、そんなの俺はまっぴらごめんだ」
そう、俺は自然のままに長生きしたいだけであって、世界を渡った副作用による延命などしたくはないのだ。
「いずれ死ぬなら、故郷の大地で死にたい。そのために、俺は元の世界に帰りたい」
それを、俺はキッパリと告げた。
俺は一生肉体の寿命に怯えるままで良い。
そうあるべきだと思ったから、俺は一人でも、この世界から脱出するつもりであった。
……。
……。
…………けれども、だ。
「……私も、朽ち果てるならば元の世界が良い」
「──っ! へえ、ワグナスがそんなことを言うとは思わなかったぜ」
まさか、リーダーであるワグナスが真っ先に賛同の声をあげるとは、思わなかった。
むしろ、俺一人だけで、この場を別れるとばかり思っていたからこそ、余計に……それは他の奴らも同様で、誰しもが驚いた様子でワグナスを見やった。
復讐を行うために戻るのではなく、朽ち果てるならば元の世界に……俺でなくとも、いったいどういう意味なのかと視線を向けるのは当たり前だろう。
「……あくまでも仮説の段階だったのだが、今の話を聞いて確信した」
仮説……首を傾げるみんなに、ワグナスは一つ頷いた。
「クジンシー……私たちの世界を襲った天変地異の原因は、我らの祖先が編み出し、私たちが使っていた……『同化の法』だな?」
……正直、俺は心底驚いたね。
まさか、そこに気付ける人が居るとは……『神の知識』が無かったら、俺なら何千年経とうがその足掛かりすら手が届いていなかっただろうから、余計に。
「昔、その事をテーマにした論文に目を通した事があってな。後に危険思想として存在しないモノになったが……おおまかに、世界はある種のシステムで綿密に構築され、生死すらもシステム上の一つに過ぎないという内容だった」
「……ガイア理論を基にした論文ですね、私も読んだ覚えがあります。斬新なテーマでしたから、覚えていますよ」
思い出したのか、ボクオーンが感慨深そうにうなずいた。「ガイア……なにそれ?」首を傾げるロックブーケに、ワグナスはかみ砕いて説明する。
ガイア理論とは、星を一つの生命体と仮定し、その星に住まうすべての生命体やすべての現象は、星を構成する一つの命である……というのが、大まかな考え方である。
局所的にマイナスなことが起これば、別の場所でプラスなことが起こり、逆にプラスなことが起これば、別の場所でマイナスなことが起こり……帳尻が合わされ、バランスは保たれる。
暑ければ汗を掻き、寒ければ身体が震え、腹が減れば食べ物を摂取し、取り過ぎれば食欲を無くし、コンディションを水平に保とうとする。
それはまるで、生物が自らの生存のために、身体を常にニュートラルな状態に合わせるかのような話であり、星もまた生物と同じである……という話だ。
「その論文の著者が、最後にこう残していた。『同化の法は、この星の、世界のシステムを根本から狂わせる。循環するはずの生命が何時までも循環されない、いずれ、何らかの形でこの星はソレを解決しようとするだろう』……と」
そこで、ワグナスは……思い悩むように、俯いた。
「その時は、なんとも飛躍的な論文だなと思っていたが……今にして思えば、すべて辻褄が合う」
「前触れが一切感知されなかったタームという天敵の出現と、まるで人間を捕食するために設計されたかのような身体の構造」
「それまでに比べて、爆発的に勢力を増すと共に出現地域が拡大した、モンスターたちの存在」
「それまでの気象データでは一切の説明が付かない異常気象、三日ごとに氷点下と猛暑が行き来するのは、あまりにも異質」
「それらが全て、ガイア理論を基に考えれば……いくらかの説明が付く。いや、それ以外には考えられない」
「我ら人間は、世界から異物と認識されたのだ」
「すべての理は、我らには無かった。言うなれば、我々は排除されまいとしぶとく世界にしがみ付いた病原菌だった……というわけだ」
……。
……。
…………沈黙が、俺たちの間に流れた。
誰も彼もが、黙ったままだった。否定の言葉を、あげなかった。
ワグナスも、ノエル隊長も、ボクオーンも、スービエも、ダンターグも……ロックブーケすらも、押し黙ってしまった。
そりゃあ、そうだろう。
世界なんざ知ったこっちゃねえって考えならともかく……あのダンターグですら、バーサーカー気質ではあるけど、だからといって、それだけではない。
自分たちの存在そのものが、まさか世界そのものから疎まれていただなんて……俺ですら、最初にそれを知った時はショックが強すぎてしばらくうまく寝られなかったのだ。
ましてや、ワグナスたちは同胞の手で追放されてすぐに、その事実を知った。受けたショックは、俺の比ではないだろう。
「……だからこそ、私は元の世界に戻る。そして、我らへの罰に巻き込まれた者たちを……助けてやりたいと思う」
だからこそ、その言葉がワグナスの口から出た時。
「責任を取らなければならない。せめて、元の世界に取り残された者たちがどうなったのかを見届けなければ……そのために、私もクジンシーと共に行こうと思う」
ああ、本当の英雄ってやつは、こういう人のことなんだろうなって、俺は本気で思った。
『神の知識』が有っても、俺はそこまで考えなかった。それを、ワグナスは知識無しでその答えを導き出した。
ああ、だからこそ、ワグナスは俺たち七英雄のリーダーなんだと……俺は今更ながらに納得した。
「……そうだな。全員が転移していないのは既に確定している。生きているかどうかではない、見届ける責任が俺にもある」
そして、それはワグナスだけではない。
ノエル隊長のその言葉に、スービエが朗らかな笑顔で賛同し。
ボクオーンは何時ものように皮肉染みた言い回しで賛同し。
ダンターグも、『こんなつまらん場所など、俺の死に場所ではない』と、斜め上な角度から賛同し。
ロックブーケも、ワグナスとノエル隊長と一緒にって……こいつ、ぶれねえなあ。
「ゆえに、クジンシー……お前が頼りだ」
「ん?」
「別世界へと続く道は、お前しか見つけられない。また、別世界への転移を繰り返すたび、私たちの身にどのような変化が起こるか……それは、分かるか?」
言われて、俺は少し考え……首を横に振った。
正直なところ、移動してからでないと分からない領域だ。
さすがに即死するようなことはないが……何かしらの変化というか、今とはまた違った状態になるのだけは確定している。
──だが、それでも……俺は、いや、俺たちは、この世界に留まるという選択を取りはしなかった。
何故ならば、俺たちは七英雄。
英雄は、凱旋してこそ英雄なのだから。
……。
……。
…………それから、どれだけの月日が経っただろうか。
元の世界へ戻るための俺たちの旅は、当初から予想はしていたが……やはり、平坦な道のりじゃなかった。
──例えば、海を渡った先の大陸にあると分かった俺たちは、なんとか原住民の手を借りて船を造り、航海に乗り出したわけだが。
「──来るぞ!! デカい波だ、テンションが上がるなあ!!」
「バカじゃないの!? バカじゃないの!? やっぱあんた特大のバカじゃないの!?」
「ロックブーケ! スービエに構うな、風を操って気流を和らげろ! このままだと船が転覆する!!」
「ぎゃああああ!!! サメ型モンスターが乗り上げて──ライフスティール!! 死ねぇ、てめえは今日の飯だ!!」
「がはははは、この程度の雨風で俺を殺そうなんぞ、1000年早いわ!!!」
「がんばれロックブーケ!! 堪えろ、もうすぐ嵐を通り抜けるぞ!!」
「はあ、はあ、頭脳担当の私に、なんて重労働を……!!!」
俺たちが乗る船がまるまるすっぽり収まるぐらいの巨大な波を前に、高笑いでテンションを上げまくるスービエの姿があったり。
その背後で、半泣き&必死の形相で風を操るロックブーケと、阿鼻叫喚の地獄絵図に四苦八苦する俺たちの姿があったり。
──例えば、比較的文明が発達していて、今回の世界は気を抜いて行けそうだわ……と安堵していたら。
「……え、なに、死食? 300年に一度、その年に生まれた命が……へえ、ずいぶんと物騒な話だな」
「いや、すまない。私たちは住んでいたところがかなり田舎の方でな、それでも戦乱に巻き込まれ、当てのない旅をしていたところなんだ」
「はあ、それにしても、急な雨に当たって肌寒いわ……クジンシー、あんたも早くこっちに来なさい、寒いでしょうが」
「300年毎に……しかし、600年前は魔王が、300年前には聖王が……今回の死食が起こって、もう15年……じゃあ、生きていたら15歳か」
「ふん、15歳ならば、まだまだヒヨッコか、つまらん……」
『──あ、あの、馬を貸してくれませんか?』
「ほう、美しいお嬢さんだ。年若いが、どこぞの領主の娘か、貴族の娘か、立ち振る舞いに品を感じますね」
「そうだな、金髪でやたらと可愛い、男が放っては──いっでぇ! 足を踏むなよ、お前の靴ってブーツだから痛いんだぞ」
「ふん! そんなところに足を置いているのが悪いのよ!」
「……ワグナス」
「仕方がないんだ、ノエル。何時かは、巣立っていくものなんだ」
「し、しかし、ロックブーケにはまだ早い……」
「ノエル、受け入れるんだ。なに、クジンシーは悪い男ではない、そうだろう……」
どういうわけなのか、その世界では300年に一度とんでもない現象に見舞われ、しかも、ちょうど魔の勢力が活発化していた時期だとかで、たいへんな苦労に見舞われ。
──例えば、今度こそ落ち着いた(モンスターが居るにしても)世界で、今回こそのんびり行けそうだぞと思っていたけど。
「……そういえば、なんか遠くの方で、どでかい隕石が落ちたらしいな」
「後回しでも良いだろう、あまりこの世界の人たちに干渉するのは止めた方が良い。この世界の事は、この世界の者たちで、それが基本だ」
「……それは俺も賛成だが、どうやら、そうも言っていられないぞ。どうも、この世界の次元の壁は不自然だ」
「どういうことですか、クジンシー」
「なんというか、膜が張られているというか……あれだ、世界の中に、意図的に作られた壁があって……部屋を分けられているというか、そんな感覚がする」
「つまり、これまでと同じく、一筋縄ではいかない、と?」
「がははは!! 中々楽しいぞ、この世界のモンスターはずいぶんと歯ごたえがある!!」
「それは俺にも分からん……だが、素直に事は運ばないだろうよ」
『うっふ~ん♡』
「この世界のパブは、だいたい踊り子が居るのですか、ずいぶんと恰好が派手ですね」
「クジンシーはパブに来るたびピアノの練習をするのだな……最初の頃よりは上手くなったんじゃないか?」
「習うより、慣れろ──うぉ、あの子、おっぱいでっけぇ……」
「そっちの子よりも、隣だ。あの腰つき、海の出だな、肉付きが違うぞ」
「……ん? ロックブーケはどこだ?」
「あいつなら、さっき小走りで店の奥に行ったぞ──おい、それを寄越せ、美味いからな」
「ダンターグ、新しく頼めば良いだろう。行儀が悪い──は?」
『うぉぉぉ────!!!!????』
「ろ、ロックブーケ????」
「ノエル、落ち着け。ただ、踊っているだけだ、それだけの事だ」
「ほほう、こうして改めて見ると、やはりロックブーケのスタイルはそこらの女に比べて抜きん出ているな」
「そうだな、やっぱロックブーケは美人だ──ちょ、おい待て、手を放せロックブーケ、俺はダンスなんて踊ったこと──」
「がははは、死にかけたカエルのようなへっぴり腰だな! 腰を使え、腰を!」
「ロックブーケが上手な分だけ、クジンシーのへたくそ具合が強調されていますね」
「…………」
「ノエル、飲むんだ。そういう日だってあるさ」
結局、紆余曲折の果てに大冒険に同行する形になったり。
とにかく、色々な事があった。
けれども俺たちは、幸いなことに一人として欠けることなく旅を続けられ……そして、俺たちは帰ってきた。
七英雄が、帰ってきたのだ。
……。
……。
…………そして、俺たちは……かつてないほどに困惑し、面食らう事になった。
まず、困惑した原因は、俺たちは帰ってきてすぐに、とある噂を耳にしたことから。
それは、『七英雄がやってきた……が、各地で騒乱を巻き起こしている』、というもの。
当然ながら、俺たちに心当たりは無い。
たまたま通り名が被っただけなのかとも思ったが、七英雄の名が俺たちと一致していることもあって、状況が分からなかった。
「……オアイーブ?」
「……の、ノエル? 本当に、ノエルなの?」
そして、面食らった原因は、二度と会えないと思っていた、ノエル隊長の恋人(?)であるオアイーブと、ばったり出くわした際に。
「……本物だ」
「え?」
「私が大好きな……ノエルだぁ……う、うぅ、うぅぅ~~~」
「ど、どうしたんだ、オアイーブ? 何があったんだ?」
何がどうなっているのかは知らないが、オアイーブはノエル隊長を抱きしめたかと思ったら、ボロボロと……子供のように泣き出したからで。
「……どういうことよ?」
「知らん、俺はバカだからな」
当然ながら、ロックブーケから脇を突かれた俺には、何も分からなかった。
道中はダイジェスト
さすがに、番外編が過ぎるのでね