ゲーム世界転生〜現代ダンジョン世界かつ1900年開始で生き残るには〜 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
第一次世界大戦における最大の海戦……ユトランド沖海戦。
1916年5月31日から6月1日の2日間に渡って行われた海戦である。
日本海軍所属である比叡と榛名も戦力として出撃するべきではないかという意見がイギリス側で起こっていた。
「かの巡洋戦艦は侍の国が我が国が最新の技術で造った金剛を正確にコピーしている。先の海戦(ヘルゴラント沖海戦)を見るに、練度も申し分ない。ドイツが海戦を挑んできたら日本海軍を参加させるべきだ」
そんな意見が普通に上がっていたが、とある戦いの戦訓で多国籍による作戦は入念に準備を行っていないと危険であるというのがイギリス海軍では主流であった。
ガリポリの戦い。
開戦時海軍大臣を失脚へと追い込んだオスマン帝国との一連の戦闘であり、イギリスはオスマン帝国を早期に降伏させることでバルカン半島に第三戦線を構築しようと企んでいた。
その戦いのためにイギリスはフランス海軍と協力してオスマン帝国の首都であるコンスタンティノープルを戦艦の火力を用いて脅す計画を立てたのだが、イギリス海軍とフランス海軍の連携ミスや言語の違いにより突入タイミングがズレる等が起こり、更にドイツ潜水艦による攻撃やオスマン帝国が機雷をばら撒いていたのに接触して旧式の戦艦が何隻か沈んでしまった事があった。
まぁガリポリの戦いの本質はその後の陸戦でイギリス軍がオスマン軍に大敗し、夥しい戦死者を出した結果チャーチル大臣は責任を取る形で辞職した。
なので多国籍軍は危険であるという認識によりユトランド沖海戦では日本海軍は戦列から外されたが、戦闘の様子を記したレポートは早い段階で入手することに成功した。
遠征に来ていた転生者により詳細情報が纏められると、転生者のネットワークで日本本土に居る転生者にも共有され、多くの戦訓を得ることに繋がった。
ユトランド沖海戦はドイツ海軍の戦術的勝利、イギリス海軍の戦略的勝利と見られているが、結局大本営が立てた作戦目標を達成できるかどうかが大切で、敵戦力をどれだけ削ったとかは結果に付属してくる価値でしかない。
史実日本軍はこの優先順位を間違い続けた結果、陸でも海でもボコボコにされてしまった。
勿論作戦を実行するための戦力とその戦力を整える国力、資源の有無等は色々あるが、とりあえずユトランド沖海戦での戦訓は
・戦艦というのは強力であるものの、より安価な兵器(機雷、魚雷、潜水艦)により沈めることが可能な費用対効果の悪い兵器である
・防御力や継戦能力を軽視した艦は簡単に沈む(イギリス海軍の損害の多くは戦艦よりも防御力が劣る巡洋戦艦を戦艦同様の運用をしたことによるもの)
・イギリス海軍が提唱していた速度は装甲に匹敵するという考えより、ドイツ海軍の重装甲思想の方が戦闘時は役に立つ
・艦隊行動を行えない低速艦は以後の近代戦には通用しない
・早期に敵を発見し、遠方から打撃を与えることが重要である
という学びを日本軍は得たのだった。
これにより広い太平洋で行動するんだったら航空機や潜水艦による索敵と攻撃で遠距離から敵を行動不能にし、高価な戦艦は見せ札として無理の無い範囲で保有するのが良いというのが転生者達の助言により海軍上層部でも検討されることになる。
ちょうど良く空母に関するレポートが軍艦設計ニキから上層部に提出されることになる。
「料理長ニキ、料理を作ってもらって悪いな」
「いえ、士官用の食事を作るのも私の役目ですので。それに皆さんは無理難題を言わないので助かりますよ。ビーフシチューであればイギリスでも食材の調達が可能なので」
「かれこれ2年もイギリスに滞在しているのか……そろそろ霧島と天城、高雄と交代か?」
金剛型巡洋戦艦は史実では4隻であったが、この世界では6隻に増加していた。
1番艦金剛、2番艦比叡、3番艦榛名、4番艦霧島……ここまでは史実と同じ艦名であったが、5番艦は天城、6番艦は高雄である。
性能は2番艦の比叡をモデルにした同型艦であり、Jハイテンやマナタイトタービンにより軽量化と大出力を両立していた。
細かい差異はあるものの、ほぼ同じ性能である。
比叡と榛名の船員達も危険海域であるイギリス近海で作戦行動を続けていて疲労が溜まっており、イギリス、日本両国で比叡と榛名は6月をもって帰国する了承が取られていた。
「戦闘経験を得ることやイギリスの各種艦艇や建造施設のデータ、拿捕されたドイツ潜水艦のデータ等有用な情報は多く集まった」
「イギリスでこれだからな。それよりも強力になるアメリカ海軍から日本を守るには軍縮条約によってアメリカとイギリスの海軍力を制限しつつ、戦艦枠を犠牲に空母と巡洋艦の枠数を確保、戦時には空母に改修できる規格化された大型輸送船の建造、そして条約では縛れない潜水艦や航空機、レーダー、ソナー、そして砲弾の高性能化」
「やるべき事は多い。来たるべきアジア戦争の防衛計画を改めて練る必要がある。ゲームでも無数のパターンがあるからな」
「なるべく友好国を作り、有事の際には協力してもらえる体制の構築だろうか」
「となるとアジアでは数少ない友好国タイのテコ入れが必要になるな。あと戦艦を欲している南米のチリに輸出用戦艦を販売して建造データを得るか」
「南米のチリ、ブラジル、アルゼンチンはこの大戦で欧州に食料や資源輸出でボロ儲けをしていたからな。資金はあるだろう」
「あとは韓国か」
「陸軍はソ連誕生により赤化が始まる大陸の防波堤としてテコ入れするらしいが」
「ロシアによる搾取で独立の機運が高まっているからな。あの国は一度恨みを持つと数世紀は恨み続けるが、勤勉で近代化できれば十分に戦力になる。それに日本は大陸に一切手を出していないから関係性も良好だ。独立に手を貸せば、同盟国足りうるポテンシャルはある」
「しかし、海軍戦力は送るのは反対だ。経済水域で揉めるぞ」
「なに、韓国には陸軍国として自立してもらおう。問題は中国だ」
「国民政府が想像以上にアメリカと接近している……か」
「アメリカからしたら大戦が終結後、新しい巨大市場を欲するだろう。内戦を続けている中国の肥沃な大地はフロンティア精神を刺激するには十分だ」
「そうなると日本は中国、フィリピン、ハワイ、アラスカでアメリカに包囲される形になるのか……」
「アメリカを日本に上陸させないためにはアラスカを除く3拠点の早期無力化を達成しないといけないわけ……か」
「判定勝ちとしても、次は世界市場での経済戦争ですか……史実日本と違いダンジョンという無限の資源地がありますが……厳しい戦いになるでしょうな」
「海軍としては核の火を手に入れる前にアメリカと講和が結べれば最高であるが……」
「やはり、技術力を高めて、航空機を用いた新戦術で戦うしか無いな」
海軍ニキ達は国の将来のために覚悟を決めるのであった。