暗殺者、高度育成高校へ入学   作:阿院修太郎

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1話

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「……ふわぁ、よく寝た」

 

高度育成高等学校、1年Dクラス。

窓際の特等席で、銀髪の少年――キルア=ゾルディックは、猫が伸びをするように大きく腕を上げた。

 

壇上では担任の茶柱佐枝が、この学校の特殊なルールについて説明を終えたところだった。

手元の端末には、つい先ほど振り込まれたばかりの「10万ポイント」という数字が表示されている。

 

「10万……。へぇ、結構太っ腹じゃん」

 

オレは特に深く考えず、その数字を眺めた。

オレに言わせれば端金だが、高校生の小遣いとしては破格だ。だが、彼はその裏に隠された「学校の意図」を深読みしようとはしなかった。

 

ま、ゴンもいないし、家の連中の目もないし。しばらくはここでノンビリさせてもらうかな

 

今のオレにとって重要なのは、この学校がどれだけ「自由」か、ということだけだ。

 

「入学初日から居眠りとはいい度胸だな。キルア=ゾルディック」

 

茶柱先生の冷徹な視線が、教室の空気をピリつかせる。クラスメイトたちの視線が、一斉に窓際のオレに集まった。オレは動じるどころか、眠たげな眼をこすりながら小さく肩をすくめた。

 

「あはは、ごめん先生。そんなピリつかないでよ、そんなだとハゲちゃうよ」

 

オレは悪びれる様子もなくヘラっと笑ってみせた。

 

「面白い冗談だ。入学式の後個人面談といこうじゃないか」

 

茶柱先生の眉間にシワを寄せる。

 

「……あーあ。ヤバいこと言っちゃったかな?」

 

オレは頭の後ろで手を組み、笑顔を取り繕った。

 

茶柱はこれ以上何か言うこともなく、教室へでていく。

 

「……お前ずっと寝てたけど話聞いてたのか?」

 

声をかけてきたのは、死んだ魚のような目をした少年だった。

 

「ん? ああ、別に。オレはキルア。よろしくな、隣人さん」

 

「綾小路清隆だ。よろしく」

 

表情を一切変えずに言う。

 

こいつもなんか訳ありってたちか。ま、詮索はするつもりはないけど。

 

「皆、少し話を聞いて貰らいたい。僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから今から自発的に自己紹介を行って、1日も早く皆が友達になれたらと思うんだ 入学式まで時間もあるし、どうかな?」

 

いかにも優等生な好青年が話を切り出した。

 

「さんせー!やっぱりみんなの名前は知っておきたいもんね!」

 

好青年の一言にクラスの女子も続々と賛同する。

 

「僕は平田洋介。気軽に下の名前で読んで欲しい。趣味はスポーツ全般で、特にサッカーが好きだよ。部活でもサッカー部に所属するつもりなんだ。よろしく」

 

平田洋介の爽やかな自己紹介が教室に響き渡る。

 

「……あいつ、モテそうだな」

 

「そうだな。ああいう奴がクラスの中心になっていくんだろうな」

 

オレがボソッと言ったことに対して綾小路は相変わらず無表情で応じる。

 

それから自己紹介を流れるように行われていく。

なんて言うか曲者が多くいる印象だ。

 

「じゃあ、次はキルア君、お願いしてもいいかな?」

 

平田に水を向けられ、クラス中の視線が再び俺に集まる。さっき茶柱に軽口を叩いたばかりだからか、好奇心や警戒心の混じった視線が刺さるけど、そんなのは慣れっこだ。

 

オレは椅子をガタつかせて立ち上がると、ポケットに手を突っ込んだまま、軽いくたびれたような笑みを浮かべた。

 

「キルア=ゾルディック。趣味は特になし。ま、適当に仲良くしてよ。よろしくね」

 

毒にも薬にもならない普通の自己紹介をして席につく。

平田は次の人に促す。

 

「あ、綾小路清隆です。その……得意なことは特にありませんが……皆と仲良くなれるように、頑張りますので、よろしくお願いします」

 

綾小路の、なんとも言えない「やる気があるのかないのか分からない」自己紹介が終わり、教室には微妙な空気が流れた。平田がフォローするように拍手をする。

 

「失敗したー」

 

綾小路は小声で自身の自己紹介に対して言葉を漏らす。

 

入学式という退屈な儀式を終え、体育館から解放された生徒たちが三々五々、思い思いの方向へ散っていく。

 

「ふぅ……。ようやく終わったか」

 

オレは校門近くの街路樹に背を預け、あくびを噛み殺した。隣には、相変わらず感情の読めない顔をした綾小路が立っている。

 

「……で、綾小路。お前、これからどうすんの? 寮に戻ってさっきの『失敗した自己紹介』の反省会か?」

 

キルアが少し意地悪な笑みを浮かべて尋ねると、綾小路は視線を遠くへ向けたまま答えた。

 

「……放っておいてくれ。それより、お前こそいいのか? 茶柱先生に呼び出されていただろう」

 

「ああ、そういやそんなこと言ってたね。……ま、バックれてもいいんだけど、初日から目をつけられすぎるのも面倒だし。ちょっと顔出してくるよ」

 

オレは軽く手を振ると、軽やかな足取りで校舎へと引き返す。

 

オレが職員室近くの応接室に入ると、そこには腕を組み、不機嫌そうに窓の外を眺める茶柱佐枝の姿があった。

 

「……来たか。バックれると思っていたがな」

 

茶柱先生は窓の外から視線を外し、ゆっくりとこちらに向き直った。

 

「ひっでー!もう少し信用してくれよ」

 

「その態度を改めろと言っている。ここはお前の家ではない」

 

茶柱の眉がぴくりと動く。

 

「えー、細かいなぁ。別に壊してるわけじゃないだろ?」

 

オレは適当な空椅子を勝手に引き寄せると、背もたれを前にして跨るように座った。

 

「お前はこの学校をどう思っている?」

 

「どうって?」

 

「10万ポイントの意味も考えず、居眠りをし、担任を愚弄する。普通、多少緊張するものだ」

 

「そりゃ先生が怖いから?」

 

「……ふざけるな」

 

ぴしゃりと切り捨てられる。

 

「別にさ。学校なんてどこも似たようなもんだろ? 授業受けて、テストして、卒業して。ここが特別って言われても、まだ実感ないし」

 

「では、先ほどの“10万ポイント”についてはどう思う?」

 

オレは頭をかきながら、少しだけ考える素振りを見せる。

 

「あー、あれ? ラッキーって感じ」

 

「忠告しておく。この学校は“実力主義”だ。与えられるものには必ず意味がある。軽率な行動は、自分の首を絞めることになる」

 

「へぇ」

 

オレは適当に相槌をうつ。

 

「用件はそれだけ?」

 

「……ああ。今日はな」

 

「じゃ、オレ帰っていい?」

 

茶柱は無言で頷いた。

 

部屋を出ると、廊下の空気が少しだけ軽い。

 

「ふぅ」

 

ま、なんとかなるだろう。

 

とりあえず――お菓子でも買うか。

 

ただの「自由な高校生」として、この奇妙な学園生活を楽しもうと決めていた。

たとえ、その日常が砂上の楼閣であったとしても。

 

 

 

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