アナザーストライクウィッチーズ   作:バサル

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第一章 扶桑海ノ三羽烏
第1話 初出撃


 人類は、遥か昔から「怪異」と呼ばれる化物達との戦いを繰り広げていた。

 

 怪異は、その存在を数々の神話などに名を残している。例えば須佐能乎命によって退治されたとされる、8つの首を持つ大蛇「ヤマタノオロチ」などはその際たる例だろう。

 

 怪異がどういった存在なのか、何を目的としているか、それは誰にも分からなかった。しかし、それらは人類に敵意を持ち、人類の生存を脅かそうとしているのは明らかだったのである。

 

 人類は生き残るため、怪異と戦う決意をした。だが、それらは人類より遥かに圧倒的な力を持って、人類達を蹂躙していく。

 

 しかも怪異達は瘴気と呼ばれる人類に対して有害な物質を周囲に撒き散らすため、人類は近づくことも出来ないのが原状だった。次第に住処を失い追い詰められていく人類、だが彼らに1つの希望の光が舞い降りたのだ。

 

 それは偶然だったのか、はたまた神の思し召しだったのであろうか?「魔法力」と呼ばれる特殊な力を持つ少女達が世界各地に現れ、怪異との戦いに参加し、それによって押されていた人類は怪異達への反撃に打って出たのだ。少女達の力は決して攻撃的な物

ではなく、自分と周辺の人間を守る一種のバリアーのような物を発生させる程度の物であった。だがしかしその力よって、人類は今までただのワンサイドゲームだった戦いにおいて、立ち向かう術を得たのだ。また、怪異の出現もそう多くなく、出現したとしても一体か多くても数体のみであったので、かろうじで人類は撃退を続けてきた。

 

 そんな戦いを続けているうちに、今度は少年の中からも魔法力を扱える者が出てきた。彼らは少女達に比べ、圧倒的に出生率が低く、人々を守るための力の場を発生させることは苦手であったが、その代わりに魔法力を攻撃に転じることによって、怪異に大きなダメージを与えることができた。そうして力を持つ少年少女は互いに協力し、共に怪異を倒すべく戦いを続けていく。

 

 神話の時代は終わりを告げる頃には彼ら、彼女らの数も増え、いつの間にか魔法力を扱える少女をウィッチ、少年はウィザードと呼ばれるようになって言った。

 

 この頃には怪異達の数も増え、協力になっていったがウイッチとウィザードは共に怪異を退けるため手を組むようになり、それにより怪異との戦いは、人類側がかなり有利に戦えるようになっていった。こういった動きが、のちに国家による組織的な対抗勢力  つまり軍隊の基盤となったという説もあるが、事実は定かではない。

 

 こうして様々国が各々の手段を模索しつつ怪異と戦い、勝利を収めていく。また、20世紀初頭にはユーラシア大陸の東と西で多数の怪異郡と人類の戦いが起こり、ウィッチ、ウィザード達は対ネウロイ用の新しい兵器を使用して、かろうじでこれらを撃退した。のちにこの戦いは、「第一次大戦」と呼ばれるようになる。

 

 しかし、1939年に人類に対して本格侵攻を開始した存在はこれまでと大きく違った。

 

 第一次大戦時、その尖兵が最初に黒海周辺に出現したことから、人類はその地に過去に住んでいた伝説の怪異の名を借りて、それらをネウロイと命名する。ネウロイは空中に浮かぶ巨大な巣から飛来し、地上に青く光る花を持つ樹状構造物「ブラウシュテルマー」を打ち立て、人類の居住地を徐々に侵食していった。ネウロイ達の戦力はこれまでの比ではなく、人類はこのままただ消え去る運命かに見えた。

 

 だがしかし人類は、世界各国の軍隊とウィッチ、ウィザードを投入、決死の防衛を行った。その防衛の切り札として投入されたのが、かねてより研究されていた機械の力によって魔法力を増大させ、ウィッチ、ウィザード達の戦闘力と防御力を飛躍的に向上させるシステム、ストライカーユニットであった。このストライカーユニットの登場により、人類は再び生き残るチャンスを得たのである。

 

 

 

 

 人類の希望を繋いだストライカーユニット。しかしこれが初めて正式に実戦に投入されたのはこの時を遡る事2年前、1937年。ユーラシア大陸の東端に位置する島国「扶桑皇国」でのことであった。第1次大戦終結より20年近くを経て、人々がネウロイの恐怖を忘れ始めていた時代…だがしかし、彼等の魔の手は人類へと着々と伸びて来ていたのである。

 

 のちに「扶桑海事変」と呼ばれたこの戦いにおいて、鬼神のごとき活躍を世界に轟かせた3人の少女がいた……これはその少女達とその周りの人間達が、自分の祖国を守るために戦った記録を記すものである。

 

 

 

 

 

アナザーストライクウイッチーズ 第1章

 

 

扶桑海ノ三羽烏

 

 

 

 

 

 

第1話       初出撃

 

 

 

 

 

 

1937年 7月8日    ――扶桑陸軍飛行第一戦隊宿舎

 

 

 

「扶桑陸軍飛行戦隊」 

 

 扶桑陸軍が誇る飛行師団で、その隊員のほとんどが機械化航空歩兵と呼ばれるストライカーユニットを装備したウイッチ、ウィザードで構成されている。ちなみに数多くある部隊の内、その8割近くがウィッチのみで構成された部隊。残りの2割はウィザードの

部隊となっている。

 

 ここは、その第一部隊に所属するウイッチ達の宿舎の中1室。中では二人の少女が椅子に座って会話をしていた。

 

 

「ねえねえ聞いた?なんでも昨日、ついに怪異(ネウロイ)の侵攻があったんですって」

 

 

 そう言って長い黒髪を棚引かせる少女は、隣の少女に少々興奮気味に話しかける。彼女の名は穴拭智子。扶桑陸軍飛行第一戦隊所属、階級は少尉、年齢は14歳。戦闘では主に扶桑刀による近接戦を得意とする。

 

 

「らしいわね。前々から存在は確認されてたけど、ついに本格的に仕掛けてきたって訳ね。それで、敵の戦力は?」

 

 

 そんな智子とは対照的に、あくまでクールに返す髪を肩口辺りに切りそろえた少女。彼女の名は加藤武子。扶桑陸軍飛行第一戦隊所属、階級は智子と同じ少尉で、年齢は15歳。戦闘では智子と同じく近接戦を好むが周りのことを第一に考え、サポートに回ることが多い。

 

 彼女達が話題にしているのは、昨日あったネウロイと扶桑軍との戦闘で、侵攻時偶然演習を行っていた海軍航空部隊が応戦、これを撃破したとの報告である。

 

 

「本隊と別働隊、両方とも3体。合計6体だったみたいね。しかも全部が飛行型だって。やっぱりウラル山脈方面から飛んできたのかしら?」

 

「いくらなんでも情報が少なすぎるわよ、まだそう決め付けるには早いんじゃない?」

 

「これでついに私達も実戦に投入される可能性が増えてきたわね。こうしちゃいられないわ、もっと訓練をつんで強くならないと!!」

 

「……聞いちゃいないわね」

 

 

 いつの間にか立ち上がり、意気揚々と手持ちの木刀を素振りしている智子を見て、武子はため息をついた。ともあれいまだ実戦経験の無いこの二人にとって、このネウロイと扶桑海軍の戦闘は興味を引かれるものであった。そしてそれは彼女達だけに限らず、この世界のほとんどのウイッチ、ウィザードにも言えることである。なぜならばこの頃の戦場を任されるウイッチ、ウィザードのほとんどがが、戦場を駆けたことの無い少年少女ばかりであった。その理由は2つあり、1つは先の大戦から20年間、この国への怪異からの侵攻はほとんど無く、あってもごく小規模なものばかりで戦闘を経験する機会がほぼ皆無に等しかったこと。もう1つは彼ら、彼女らの戦士としての寿命の短さである。魔法力を持つ者は、その力のピークが大抵10代であり、10代後半、ないし20歳以降は急激にその力が衰えていき、最後は魔法力自体を失うのである。時に、20代を超えても一切魔法力を失わない者も存在するが、その存在は極めて稀である。

 

 その後しばらくは素振りを続ける智子の掛け声だけが辺りに響き、武子は持っていた本を開き読書を楽しんでいたが、不意に智子が

 

 

「おいっちに。おいっちに。見敵必殺。見敵必殺!!っと…武子も身体動かしたりしないの?もしかしたら、この後私達にも出撃命令があるかもしれないし、ウォーミングアップしとかないといざって時に身体動かないわよ?」

 

 

 と、一層素振りのペースを上げ武子に問いかける。それに対して武子は、あくまで視線は本に向けたままその問いに答える。

 

 

「もしそうなっても出撃命令が下るのはおそらく海軍さんの方でしょうね、向こうはすでに実績を上げてるわけだし。それに…」

 

「それに?」

 

 

 ここで武子は本を閉じ、視線をちゃんと智子に合わせ少し怒気を強め、皮肉混じりに続ける。

 

 

「そうやって無駄に体力を使って、いざ本番で力を十分に発揮できなかったら意味が無いでしょ。特に智子、貴女はそういう空回りをよく起こすわよね」

 

「うっ……」

 

 

 痛いところをつかれ、狼狽する智子。生真面目で堅物、だがそれゆえに視野狭窄に陥りやすいこの親友のことをよく分かっている武子は、諭すように言葉を続ける。

 

 

「ねえ智子、焦ったってどうしようもないのよ?怪異が本格侵攻してくるのなら、近い未来に私達が出撃する時もくるわ。けど、私達はその時のためにずっと訓練を重ねてきた、その事実はどうやったって無くなることは絶対無い。だから私達はその時が来ても、いつも通りにやって、ちゃんとこなして行けばいいのよ」

 

 

 その言葉を受け智子は、手にしていた木刀を仕舞い、椅子に座りなおした。そして少し頬を染め、バツが悪そうに俯く。

 

 

「…ありがと、武子」

 

「ん、そういう素直な気持ち…忘れないでね智子」

 

 

 そうして再び訪れる静寂。その静寂を破ったのは、ドアを開けて現れた扶桑人には珍しい茶色がかった髪の色をしたショートカットの少女であった。

 

 

「送れちゃってごめんね~」

 

「圭子、どこ行ってたのよ?訓練終わったら、ここで集合って話だったでしょ!」

 

 

 新たに現れた少女に対して、智子は気持ちを切り替え、先ほどまでのようにテンション高く接する。彼女の名前は加東圭子、2人と同じく扶桑陸軍飛行第一戦隊所属の少尉で、年齢は16歳。戦闘では中距離からの見越し射撃を得意とし、その精度はかなり高い。

 

 穴拭智子、加藤武子、加東圭子。この3人は部隊の中でもかなり昔からの仲で、3人一緒に行動することが多かった。

 

 そして、遅れたこと咎めるている智子を武子がなだめ、圭子に遅れた理由を聞いた。すると圭子は、今までの飄々とした表情を改め、真剣なまなざしで2人に話し始めた。

 

 

「2人の耳にも既に届いてるとは思うけど、昨日海軍さんと怪異による戦闘があったわ。結果これを撃破、敵の本土上陸は無かったそうだけど、これを期に奴らが本格的に攻めてくる可能性が高まったわ。で、さっき中佐宛てに上から命令が来たそうよ。私達飛

 

行第一戦隊も明日から警戒シフトに組み込まれるわ」

 

 

 圭子の言葉に、2人は一瞬固まった。しかし、すぐに気を取り直す。

 

 

「っ!!………上等よ、むしろやっと機会が来たって感じね!」

 

 

 凛とした表情でそう言い切る智子、しかしその腕はセリフとは裏腹に僅かに震えているのを圭子と武子は見逃さなかった。しかし2人はあえてそのことを指摘せず、微笑を浮かべる。

 

 

「…そうね思ったより早かったけど、ずるずると先延ばしになるよりはこうやってスパッと決まったほうが清々しいわ」

 

「そーゆー事。それに何時までも訓練だけじゃ、カッコつかないもの。私達の力は、もう十分怪異に通用するってとこ見せてあげましょう!」

 

 

 そう言って圭子は、自分の右腕を2人の前に突き出した。その意図を理解した、2人も同じように右腕を突き出す。その夜彼女達は自分達の祖国を、大事な人達を守るため、命を掛けて怪異と戦う事を誓ったのである。その後、彼女達に出撃命令が下ったのは

それから1週間後の事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 早朝けたたましくなるサイレンの音に、仮眠中だった智子は飛び起き、状況を把握しようと耳を済ませる。すると、伝令兵が大声で叫ぶ声が聞こえてきた。

 

 

「敵襲―――――!!方位二〇三!!数五!!」

 

 

「…来たわね、怪異ッ!」と呟きつつ、その声を聞くと同時に智子は、着ていた寝巻き代わりの綿入れ半纏を脱ぎ捨て、すぐにウィッチ用の飛行服に着替える。見た目は白の巫女衣装に下半身は丈の短い赤い袴。そして両腕と両足にウィッチ用の手甲と脚甲を付けて完成。これらを合わせて扶桑皇国陸軍のウィッチの正装である。着替え終わると、そのまま格納庫まで走る。ただでさえ、出撃までは時間がかかるのだ。少しでも早くつかなければならない。

 

 そうして智子が格納庫に着くと、待機シフトだった圭子と武子はすでに着いていて、部隊長の江藤敏子中佐から現状報告を聞いていた。慌てて智子も「遅れました!」と一声掛け、その中に入り中佐の話を聞く。

 

 

「現状確認されているのは、飛行型が5機だ。既に海上の空母「加賀」から偵察隊の二式艦上偵察機が出撃し、その報告からこちらに向かっていることが確認されている。よって我々は直ちに出撃、海上で敵怪異を撃破する」

 

 

 江藤の命令に、一同は「了解」の言葉で答える。その言葉に満足した江藤中佐は、さらに続ける。

 

 

「結構。武子は私の僚機に入れ、智子は圭子とだ」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

「りょーかいです!」

 

「任せてください!」

 

「それでは、各人出撃準備!!」

 

 

 そして智子達は、出撃準備へと入った。

 

 

 格納庫の一角、カタパルト付近では、専用の台座に彼女達の現在の「魔法の箒」が設置してある。正式名称 川滝 95式戦闘脚。ほぼ最初期に作られたストライカーユニットである。

 

 このユニットは、未だ実験段階の装備のためさまざまな問題点があった。その内の1つが、装着にかかる時間の長さである。このユニットは、足に装着する本体とは他に、魔導エンジンを搭載したランドセル型のユニットを背負う必要がある。これがとても重く

 

、普通の人なら背負うのも一苦労という代物だ。更にはこの背中のユニットが邪魔で、両腕の動きが少し制限されてしまうこともかなり致命的だった。だがしかし、ストライカーユニットのバックアップ無しでは、戦闘に支障をきたしてしまうのも事実なので我慢するほか無い。

 

 智子は即ストライカーユニットを整備していた人員に声をかけ、出撃準備を進めた。台座の上に立ち、足にストライカーユニットを装着。次に背中に魔導エンジン付きのユニットを背負い、自身の魔法力を解放する。その瞬間、智子の足元に魔方陣が現れ、ス

トライカーユニットが起動。それと同時に智子の頭と御尻にキツネ耳と尻尾が生えた。

 

 これが現代のウィッチ、ウィザード双方に共通する特徴の1つである。彼女、彼達は1人に付き1匹、使い魔と呼ばれる様々な動物達と契約し、使役することで自分の魔法力のコントロールをサポートさせることができる。使い魔を使役している間は、今の智子の

ように使役している使い魔と同じ耳と尻尾が現れる他、ウサギの場合なら耳がよく聞こえる、ネコの場合夜目が利くなど、使い魔となった動物の特性を得ることもできる。

 

 これである程度の出撃準備が完了。次に戦闘用装備を整備兵から受け取る。メイン武装の十一年式軽機に予備弾倉、そして接近戦用の扶桑刀を背中のユニットスペースに固定し終了。最後に、空で他のウィッチと連絡を取るためのインカムを装着しすべての工程が終了する。その後、整備兵全員に離れるように指示を出し、長機である圭子の出撃を確認後、智子も戦場へと続く大空へと飛び立った。

 

 

 

 

 上空で全員と合流した彼女達は、先ほどの江藤中佐の指示通り、ロッテ2組によるシュヴァルム隊形に移行。敵怪異が侵攻してきている空域へと向かった。目標の怪異達はまだ見えないが、各人武器の安全装置を解除。いつでも戦闘を始められる用意をする。

 

 

「いいかお前ら。先日の海軍の報告によると、敵は小型でこちらの武装も十分通じるとのことだ。何も心配することは無い、訓練でも優秀だったお前達だ、いつも通りにこなせば楽に片付けられるだろう」

 

 

 全体通信で、江藤の声が届く。その言葉に自分を鼓舞させる。「あの中佐が認めてくれているんだ、自分達なら大丈夫だ」と。

 

 江藤はウィッチの中でも珍しく、実戦経験を持つ数少ない人物である。一時期、海外のネウロイ出現地域に自ら向き、義勇兵として戦闘を経験してきたのだ。その経験を生かされ、今では中佐に昇進。この飛行第一戦隊の隊長を率いているのである。

 

 

「えへへ…中佐のお墨付きもらっちゃった」

 

 

 嬉しそうに笑う智子。

 

 

「だからって調子に乗って隊列乱したりしないでよ、智子」

 

 

 そんな智子を見て、少しからかう様な笑みを浮かべる武子。

 

 

「そうそう、あくまで私が長機なんだからね。私の背中、預けたわよ」

 

 

 そしてそんな2人のやり取りを見て、クスクスと笑っている圭子。何時しか彼女達の中にあった、初実戦の恐怖が薄れていった。戦場でのユーモアは、そのまま余裕に直結する。時にそれは油断となるが、この状況下において、彼女達にはプラスに働いた。

 

 その時、江藤の声が響いた。

 

 

「敵発見!!各自戦闘態勢!!」

 

 

 その言葉に、3人は前方を見る。すると遥か彼方に、黒い点のような物が見えた。おそらくアレが、接近中のネウロイなのだろうと判断する。

 

 

「まずは私が仕掛ける、武子着いて来い!!」

 

「は…はい!」

 

 

 江藤は十一年式を構え、黒い点に向かって吶喊していく。慌ててそれに着いていく武子を確認し、圭子も智子に指示を出す。

 

 

「私達も行くわよ。中佐の吶喊をカバー、アイツらの上空からクロスで討ち取るわ。しっかり着いてきなさいよ!」

 

「りょーかい。後ろはしっかり守ってあげるわ!」

 

 

 手持ちの十一年式を構えしっかりとした返事を返してくる智子に、圭子は笑顔を返す。

 

 

「うんうん、信頼してるわよ~」

 

 

 そして2人も、前方の2人に置いて行かれないように高度を上昇させつつ、移動を開始した。

 

 

 

 

 彼女達が攻撃準備を進める中、敵ネウロイは悠然と飛行を続けていた。その外形は金属に覆われまるで航空機のような形をしていて、周囲に重い威圧感を放っている。陣形はよくある扇形で、未だ彼女達の接近を気づいている様子は無い。

 

 その時、幾つかの銃撃がネウロイ達を掠めていく。丁度怪異達の扇陣形の左方面から攻めてきた、江藤の攻撃である。その後ろには武子がぴったりと追従していて、江藤中佐の背中を守っている。突然の攻撃の主を確認した怪異達は、まるで怒り狂ったように隊列を乱し、攻撃を仕掛けてきた江藤達に向かって襲い掛かる。それに対し、江藤は冷静に対処。回避行動を取りつつも襲い掛かってきた怪異の見据え、孤立しがちな一機に狙いを定める。

 

 

 「視えてるな、圭子!あの遅れている奴だ、確実に仕留めるぞ!!」

 

 

 その命令に対し、返事代わりだと言わんばかりに江藤が目を付けていたネウロイの頭上から無数の銃撃が降り注いだ。無論、上空で待機していた圭子とそのサポートをする智子の攻撃である。その銃撃によってネウロイは翼部分にダメージを受け、明らかに動きが鈍る。その隙に近づいた江藤と武子が正面から銃撃を仕掛け、ダメージに耐えられなくなったネウロイは、跡形も無く砕け散った。「まずは一機」その場にいる全員がそう叫びたい気持ちを抑えつつ、油断する事無く戦場を見据える。

 

 敵は、今の攻撃で上空にいる圭子と智子の存在を確認したらしく、2機同士の分隊に分かれそれぞれの方向に襲い掛かってきた。すぐさま僚機である武子と智子は、長機の後ろに付き長機が後ろを取られ無い様バックアップ、そして長機である江藤と圭子は、向かってくる怪異の迎撃。本格的な、ドッグファイトへと移行した。すぐさま全員に、江藤からの指示が飛ぶ。

 

 

「いいか、奴らの主兵装は十分にこちらのシールドで防御可能だ。攻撃されても焦るなよ。1機1機の性能はそう高くない。確実に1機ずつ落として行け!」

 

 

 その指示のすべて聞く前に、圭子の前方にいた2体の敵が同時に攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「くっ…」

 

 

 舌打ちをしつつ圭子はすぐさま右腕を突き出し、魔法力を集中。すると、目の前に自分の体をゆうに包めるほどの魔法陣が現れた。敵が仕掛けてきた攻撃は、この魔方陣に阻まれ圭子に届くことはなかった。

 

 

「圭子!!」

 

 

 すかさずバックアップをしていた智子が前に出て、十一年式で敵を攻撃する。心配そうに圭子の様子を伺う智子を見て、圭子は「大丈夫、大丈夫」と笑みを浮かべる。

 

 

「中佐の言ってた通りあいつ等の攻撃は大した事無いわね、シールドで十分止められる。けど、流石に2匹同時で突っ込まれてきたら少し面倒だわ」

 

 

「そうね、ならいっその事こっちも2人同時に突撃して…!」

 

 

 言うが早いか、今にも背中の扶桑刀を抜き放ち吶喊して行きそうな智子。その様子から相方が熱くなってきている事を感じた圭子は、すぐさま宥めにかかる。

 

 

「まあまあ、それもいい考えだとは思うけどね。でもどうせあいつ等の攻撃はちゃんと見てればこっちに届くことは無いんだから、もう少し安全策で行きましょ」

 

「安全策…?」

 

「ええ、私がシールドを張りつつあいつ等の注意を引くから、智子がどっちか一方を闇討ちで仕留めなさい。1体2になれば、後はゴリ押しで何とかなるわ」

 

「…分かった、けど気をつけてよ」

 

「任せときなさい、それじゃあまた後で!」

 

 

 そう言って圭子は、敵の注意を引くため陽動行動を開始。手持ちの三十八式で牽制、食いついてきた敵2機を確認し即方向転換、逃走を開始した。

 

 

「それにしても簡単に乗ってきたわね。中佐の初撃の時といい、おつむの方はそう良い訳でもなさそうだわ」

 

 

 意地でも自分を落とさんとばかりに攻めてくる敵を見て、圭子は独りごちる。そして視線の隅にこちらへ近づいてくる智子を確認。逃げるのをやめ、シールドを張って敵をさらに引き付ける。

 

 逃げるのをやめた圭子をに対し、これ幸いと攻撃を続けながら突撃する敵2体。しかし、その一方を死角から接近してきた智子がありったけの銃撃を浴びせた。

 

 

「ナーイス、智子!!」

 

 

 智子の攻撃を受け、動きが鈍った一方を圭子は狙い撃つ。圭子の放った三十八式の弾丸は見事敵の中心に直撃、そのまま敵はバラバラに砕け散った。「残り1体」そう思った圭子が、もう一方を見据えようとしたその時

 

 

「きゃあ!?」

 

 

 智子の悲鳴が辺りに響いた。

 

 すぐさま圭子が智子を確認すると、智子の持っていた十一年式が暴発したようだ。彼女の持っている十一年式軽機関銃は、現在扶桑に支給されてる武器の中でもかなり連射性がよく非常に重宝されている武器だが、壊れやすいという厄介なデメリットも持ち合わせているのだ。ギリギリの所でシールドを張った智子にケガは無いようだが、爆発の余波でバランスを崩している。ともあれ智子にケガが無いことに安堵する圭子。

 

 しかしその行動は、どうしようもない隙となった。やられた仲間を気にすることも無く、残った一方はそのまま圭子に突撃。それに気づいた圭子が回避行動を取ろうとするが、それはあまりに遅すぎた。

 

 

 

 

 

「うっ……これだから十一年式は嫌なのよっ!…っそれより圭子は!?」

 

 

 なんとかバランスを取り直すことに成功した智子、すぐさま仲間の姿を探す。すると視界の隅に移った圭子の姿を確認した。そして、そのすぐそばまで接近した敵の姿も。

 

 

「圭子逃げてー!!!!」

 

 

 声を張り上げて叫ぶ智子。しかしその次の瞬間、圭子のすぐ目の前まで接近していた敵が圭子の張ったシールドに真っ向から突っ込んだ。シールドを張っていたとはいえその衝撃は凄まじかったようで、圭子はまるでダンプに跳ね飛ばされたように弾け飛び、

そのまま地上へと急降下していく。

 

 すぐさま圭子を追うために急降下していく智子。しかし敵は、その道を塞ぐかのように智子の目の前に立ちはだかった。

 

 

「邪魔よっ!!どけぇー!!」

 

 

 対する智子は、扶桑刀を抜いて応戦。両者はまるで絡み合うように巴戦を繰り広げる。

 

 その戦闘は互角のように見えたが、仲間の事で頭がいっぱいな智子は、完全に目の前の戦いに集中することが出来ない。

 

 

「くっ…早くしないと圭子が……早くコイツを倒して、圭子を助けないと!」

 

 

 そう考えれば考えるほど、刀に焦りが表れ思うように戦うことが出来なくなっていく。そうして次第に智子は追い詰められついには、敵に完全に後ろを取られてしまう。

 

 

「しまった!?」

 

 

 この距離ではシールドを張ったとしても先ほどの圭子のように突撃してきた敵に跳ね飛ばされてしまうだろう。必死に敵の攻撃を回避していく智子、しかしこんな回避はそう何度も続かない。次第に体力も限界に近づいてくる。段々と動きが鈍くなってきた智子を、敵はとどめとばかりに狙い撃ちしてきた。「ここまでか」と疲れから意識を失いかけていた智子の耳に、突然激しい叱咤の声が聞こえた。

 

 

「コラー!!諦めてるんじゃないわよ!!」

 

 

 その声に、失いかけていた智子の意識が現実へと引き戻される。

 

 

(今のは…圭子の声!?)

 

 

 果たしてそれは幻聴であったのだろうか、だがすぐに智子は思い直す。

 

 

(今はそんなことどうでもいい、圭子の言うとおりだ…私は自分の人生を、こんな所で諦めてたまるかぁー!!!)

 

 

 必死で両足をバタつかせ、何とか敵の攻撃を回避しようと試みる。

 

 迫る敵の攻撃、あと少しで智子に当たるといった所で奇跡が起こった。突然智子の身体が浮き、まるで宙返りするように敵の頭上を飛び越え、後ろへと移動する。

 

 突然の動きに智子を見失う敵。書く言う智子も何が起こったのか分からず唖然としていたが、突然目の前に現れた敵に握り締めてた扶桑刀を振り上げ、一刀両断にした。

 

 

 

 

 敵を倒した後も、智子はしばらく何が起こったかが分からず固まっていた。しかしすぐに先ほどの声の事を思い出し、辺りを見回す。

 

 

「圭子、ねえ無事なの圭子!!返事してよぉー!!」

 

 

 すると、すぐ近くから声が帰ってきた。

 

 

「そんなに叫ばなくても…聞こえてるわよ」

 

 

 すぐ様智子が声のした方を向くと、武子に肩を貸してもらっている状態の圭子がバツが悪そうに苦笑いをしつつこちらを眺めていた。

 

 

「…心配かけてごめんね智子。けどこの通り、特に酷い怪我もないし無事よ」

 

 

 そう言って謝る圭子の隣で、武子が呆れた様に続ける。

 

 

「まったくビックリしたわよ。江藤中佐と敵を1体倒したと思ったら、圭子が降ってくるんだもの。それを見た中佐が「残り1機は私だけで十分だから、すぐに圭子を助けて智子の所に行け」って言ってくれてね。それで圭子を拾ってここまで来たってわけ。まぁ中佐の事だし、もうすぐここに来るんじゃないかしら」

 

「………」

 

「智子…?」

 

 

 黙り込みわなわなと肩を震わせ、固まっている智子に圭子が近寄り声をかける。すると智子は、ぐしゃぐしゃの顔に涙を浮かべ圭子に抱きついた。

 

 

「うわーん。よかった…よかったよぅ、圭子ー!!」

 

「智子……」

 

「…やれやれね」

 

 

 そうして2人は泣き続ける智子を抱きしめ、泣き止むまでずっとそうしていた。その後、余裕綽々といった様子で合流した江藤に状況を説明。智子が泣き止むのを待ってから、全員揃って基地へと帰還すべく移動を開始した。余談だが、この後3人揃って八方手を尽くし智子を泣き止ませるまで実に30分近くかかったという。

 

 

 

 

 基地への帰還途中、不意に武子が智子に問いかけた。

 

 

「そういえば智子。貴女何時から「ツバメ返し」なんて高等機動を覚えたのよ?」

 

「あ、そうそう。私もそれを聞きたかったのよ!あんな隠し玉を隠してるなんて、智子も人が悪いわね~」

 

 

 どうやらその疑問は圭子も抱いていたらしく、一緒になって聞いてくる。しかし当の智子は、何のことか分からないといった様子だ。

 

 

「え??ちょっと待ってよ2人とも!いったい何のこと??」

 

「何って、貴女が最後に怪異の後ろを取った機動の事よ。覚えてないの!?」

 

「うっ…うん、あの時は無我夢中で何がなんだか…」

 

 

 心底呆れたといった表情で捲くし立ててくる武子に萎縮し、智子は途切れ途切れに答えた。

 

 そんな智子の様子を見て、江藤は豪快に笑う。

 

 

「はっはっは。私はその動きを見てないから何とも言えんが、無意識の内に「ツバメ返し」をやってのけるとは…智子、お前は将来大物になるかもな」

 

「ね~。ほら武子、私達もがんばらないと智子に置いてかれちゃうわよ!」

 

「はぁ…どうせまぐれでしょ」

 

 

 勝手に3人だけで納得する様子を見て、納得できない智子は江藤に疑問を口にする。

 

 

「江藤中佐、その「ツバメ返し」って結局何なんですか?」

 

「ん?…そうだな、海軍では別名「捻り込み」と呼ばれている戦闘機動だよ。本来、両足で打ち消しあってる戦闘脚のトルクを一方向に限定することで、そのトルク自体を利用して通常動作では不可能な急制動をかける事ができる。陸軍の中でもできる人間はかなりかぎられる高等機動だよ」

 

 

 江藤の説明を聞いて、どうしてそんな事が自分に出来たのかを考える智子。そして、結論に至った。

 

 

(あの時、敵の攻撃を避ける為に両足をバタ付かせたわ。もしかしたら、それでたまたま両足のトルクが…)

 

 

 考え込む智子を見て、透かさず江藤が声をかける。

 

 

「まぁしかし、たまたまにせよ一度出来たんだ。これから先、練習してみれば物に出きるかもしれないぞ。そうすれば、お前にとって心強い力になることは間違いない」

 

「は…はい!がんばります!!」

 

 

 

 

 

 

 その後彼女達は、無事全員揃って基地へと帰還。初めての実戦を、無事成功させることができた。

 

 この後敵の侵攻は激しさを増し、扶桑軍と怪異の戦いは泥沼へと向かっていく。そんな戦闘の中で、彼女達は目覚しい戦果を見せ扶桑の英雄と持てはやされるようになったと言う。

 

 

 

 

指揮官としての経験を積む一方で自らも扶桑刀による居合い技で数々の戦果をあげた

 

別名       「扶桑海の隼」    加藤武子

 

中距離からの見越し射撃を得意とし扶桑海事変中最高の撃墜スコアを叩き出した  

 

別名       「扶桑海の電光」   加東圭子

 

 そして……

 

得意の格闘戦と戦闘機動「ツバメ返し」を持って扶桑海事変中、一番の活躍を見せた

 

別名       「扶桑海の巴御前」  穴拭智子

 

 

 人々は彼女達を持て囃し、いつの間にか彼女達は3人併せてこう呼ばれていたという。

 

 

 

 扶桑海ノ三羽烏

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