アナザーストライクウィッチーズ   作:バサル

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第2話 新たなる翼 前編

 扶桑国軍とネウロイとの戦闘が勃発し早1ヶ月。順々と戦況は変わりつつあった。

 

 日々増え続けていくネウロイの侵攻。それに対し扶桑軍側は、研究段階だった新兵器「ストライカーユニット」を使用し空を翔るウィッチ、ウィザード達を投入、侵攻してきたネウロイ達は残らず撃破されていった。しかし、それは空での話である。

 

 ネウロイの地上部隊は扶桑本土ではなく、大陸側に突如現れた。この地は今までネウロイ達の活動が度々目撃されていたウラルの山々に近く本来ならばもっとも警戒されるべきであったが、今までの敵の航空戦力が本土ばかりを狙ってきており、また観測班からもネウロイ達の侵攻は確認されていなかった為この地の扶桑軍の守りは薄く、とても守りきれるものではなかった。

 

 事態を重く見た扶桑軍は、急遽増援の地上部隊に加え本土航空防衛を任せていた空軍の約3分の1を投入。これにより、地上のネウロイ達の侵攻もある程度抑えられるかに見られたが――

 

 

 

 

 

 

 

 ――扶桑皇国大陸側  ウラル方面――

 

 

 ネウロイと地上軍が戦闘を繰り広げる戦場の森林の中、2人の兵士の姿があった。おそらくは十代半ばほどの年齢であろう彼らの姿は遠目から見ても満身創痍であり、その足取りは重い。

 

 特に少女の方は右足に怪我をしているらしく、少年に肩を貸してもらって何とか動けている状態だった。

 

 

「ごめんね、私の所為で……」

 

 

 自分が足手まといになっているのを自覚してか、俯いて謝る少女。その瞳は影がさし、絶望に染まりかけていた。それを察してか、少年の方は少女とは対照的に何処までも明るい表情で少女を励ます。

 

 

「別にお前の所為じゃないさ。それにこの状況だって、ちょっとした訓練だと思えば軽いもんよ」

 

「けど、あそこで私が無理に敵を追わなきゃこんな事には…」

 

 

 そう言って少女は「ごめんなさい」と繰り返す。

 

 

 現状2人の置かれている状況は芳しくない。2人は負傷したネウロイを追撃するために所属していた分隊からかなり離れてしまったのだ。森林地帯に逃げ込んだネウロイを追い、それに止めを刺したまではよかったが気付いた時には分隊と完全に逸れ、周囲をネウロイに囲まれてしまった。命辛々2人はその状況から逃げ切り、この森を抜け仲間達の元に戻ろうと移動を開始したのだが、逃げる途中にネウロイの攻撃により少女は右足を負傷。そして現在に至るというわけである。

 

 確かに少女が深入りをしなければこんな事にはならなかったであろう。しかし、それを止めず寧ろ撃墜スコアを得るチャンスだと考え、共に追撃を仕掛けた少年にはそんな少女を責める気には到底なれなかった。その気持ちを伝えようかと少年は考えたが、今の少女に話したところで先ほどの問答の繰り返しになるであろう事は容易に想像できたのであろう。話を一区切りさせ、希望的な話をする。

 

 

「まっ…安心しろよ、もうすぐ森を抜けれる。そうすりゃ分隊長達と合流できるさ」

 

「……うん」

 

 

 そう…「森さえ抜けれれば大丈夫。あの鬼神の如き分隊長のことだ、きっと周囲のネウロイ達を片付け自分達を助けに来てくれているに違いない。」少年達はその自分の中にある確信を信じ、共に歩き続ける。

 

 歩く事数十分、ようやく木々の隙間から溢れる光が大きくなっていき、少年は喜びの余り少女を担いで走り出す。顔を赤らめ、文句を言っている少女を尻目に森を抜ける少年……………だがそこには、少年の信じた希望は何処にも無かった。

 

 

「………噓、だろ?」

 

「あ………っ」

 

 

 そこにあったのは絶望、森を抜けた先の平地には仲間の姿など何処にも無く、居たのは異形の|怪異(ばけもの)だった。

 

 少年達に気付き寄ってくる怪異達、だがしかし疲れきった彼等に逃げる力は無く、取り囲まれ、唯死ぬのを待つしかない。

 

 

「嫌……やだよぅ……」

 

 

 恐怖あまりその場で泣き崩れる少女、それを見た少年は少女だけでも逃がせないかと画策するが、恐怖で頭が回らずあまつさえ動けないのが現状であった。

 

 

「くそっ……ここまでなのか!?」

 

 

 怪異の砲身が少年達を捉える、そして辺りに響き渡る攻撃音。2人は目を瞑り死を覚悟していた……しかし、その瞬間が訪れる事は無かった。恐る恐る少年が目を開ける、するとそこには自分達を狙っていたネウロイが銃弾にズタズタに引き裂かれ、砕け散っ

 

ていた。

 

 刹那、空から響く先ほどと同じ銃撃音。それに気付いた少年が空を見上げると、そこには空を翔ける戦巫女達の姿があった。

 

 ストライカーユニットと呼ばれる装備を持って空を翔け、人類の敵を打ち破っていくその名は―――

 

 

「機械化航空歩兵……」

 

 

 少年は思わず、思ったセリフを口に出していた。そして、自分達を追い詰めていたネウロイ達を容易く撃破していくその様に、強い羨望と感謝の念を抱く。

 

 その助かった命の有難さを噛み締めて。

 

 

 

 

 

 

 

アナザーストライクウイッチーズ 第一章

 

 

扶桑海ノ三羽烏

 

 

 

 

 

 

第2話      

 

 

新たなる翼   前編

 

 

 

 

 そんな少年が見上げる空の上では、粗方の敵を倒した彼女達が基地へと帰還準備をしていた。

 

 

「ふう~…任務完了。相変わらず面白味の無い仕事だったわね~」

 

 

 無事地上部隊の支援活動を終えたにもかかわらず、何処か不満げな表情の扶桑海の巴御前こと穴拭智子少尉。

 

 

「コラ智子、気を引き締めなさいよ。ここはまだ戦場よ?」

 

 

 そんな智子の態度に苦言を通す、扶桑海の隼こと加藤武子少尉。

 

 

「まぁまぁ、もう周囲には怪異も居ないみたいだしちょっとぐらいは許してあげなよ武子」

 

 

 そして、そんな武子をやんわりとした笑顔で宥めつつ地上にネウロイが残ってない事を確認する、扶桑海の電光こと加東圭子少尉。

 

 のちに扶桑海の三羽烏と呼ばれる彼女達が、戦場で任務をこなす様になって1ヶ月の時が過ぎた。初陣の際は多少のぎこちなさのあった彼女達も、今ではある程度余裕を持って戦闘が行えるほどに成長している。

 

 3人はその後、地上にネウロイの姿が見えないことを再確認、この空域を離脱した。

 

 

「それにしても、最近は地上支援の任務が多いわね~」

 

 

 基地へと帰る途中、突如智子が口を開く。

 

 

「仕方ないでしょ、地上の方は敵の数が段違いな訳だし」

 

 

 その問いに答える武子は、ふと地上を眺める。

 

 この辺りの地域は扶桑軍の基地も近いため割と平和だが、これが少しウラル山脈方面へと近づくと状況は一変する。悠然とそびえるウラルの山々からやってくるネウロイ達。その数には際限と言うものが無く、扶桑軍の陸戦部隊の善戦も空しくその侵攻はジリジリとこちらに迫ってきている。このままではジリ品になるのは明らかであったが有効な打開策がある訳でもなく、事態は泥沼な総力戦へ片足を突っ込んでいた。

 

 

「……それは分かるわよ、けどこう毎回毎回救援要請を出されちゃ私達の負担がつのるばかりじゃない。もう少し陸戦部隊の人達が頑張ってくれないかしら?」

 

 

 いかにも不満タラタラといった具合で愚痴を零す智子。それを聞いていた圭子はすかさず智子をちゃかしにかかった。

 

 

「またまたぁ~、そんなこと言って実際は最近空戦の方がご無沙汰なのが納得いかないだけでしょ?」

 

「それはっ……」

 

 

 圭子に痛い所を付かれ、狼狽する智子。

 

 

「まっ、智子の気持ちも分かるわよ。確かに私達はあくまで空戦部隊。本業がずっとご無沙汰だと勘も鈍ってきちゃうし、あんまり面白くないわよね~」

 

「…でしょ?」

 

 

 どうやら、現状に満足してないのは圭子も同じなのだろう。己が心境を吐露する圭子に、智子も続く。

 

 

「だけど、それこそ仕方の無い事だわ。現状飛行型怪異に対する対処はほとんど海軍さんの舞鶴部隊がやってる訳だし。陸戦部隊の人達に当たるのはお門違いでしょ?」

 

 

 しかし、その後武子が言った正論に2人はぐうの音も出ない。

 

 同じ空戦部隊で、現在は同じ基地に所属する彼女達。それが何故、任されている任務がこうも違うのか?それには、大きな理由があった。

 

 扶桑帝国舞鶴海軍航空隊。彼女達こそあの7月7日、突如現れた飛行型ネウロイ達と交戦し撃破した部隊なのである。この功績と経験を上層部に買われ、彼女達は最新型のストライカーユニットを優先的に配備される「実験的最精鋭部隊」という扱いを受けていたのである。必然的に彼女達は、より高度な実践データが取れるよう空戦任務が優先的にまわされるという訳だ。

 

 その後暫くは沈黙のまま飛び続ける3人だったが、その沈黙を破ったのは圭子だった。 

 

 

「……舞鶴部隊かぁ~、あの子達が使ってる新型ストライカー、ほんと使いやすそうよね」

 

 

 そう呟きつつ、圭子は舞鶴部隊が使用しているそのストライカーのスペックを思い出す。すると、その話題に食いついてきたのはやはり智子であった。

 

 

「96式ね…性能面でもそうだけど、なによりこの重っ苦しい発動機を背負わなくても良いって言うのが羨ましいわ」

 

 

 そう言って智子は、今も背中に背負っている発動機を恨めしそうに睨みつける。

 

 

「確か、宮藤理論を応用した初めてのユニットだったかしら?詳しい事はよく知らないけど、それを考えた宮藤博士は相当な人物でしょうね。あの理論は世界のストライカーユニット事情を一変させるって整備兵が騒いでたわ」

 

「うぅ…、何でそんなすごいユニットが舞鶴部隊にはかなり前から実戦配備されてるって言うのに、私達のユニットは旧式の95なのよ~~~!!」

 

 

 武子が補足を言い終わる前に、遂に悔しさに耐え切れなくなった智子が癇癪を起こした。

 

 

「わわっ…ちょっと智子落ち着きなって!」

 

「あ~…もぅ!!貴女って子はいつもいつも!!」

 

「うわぁーん、私達だって新型ユニットさえあればもっと戦えるのにぃ~!!」

 

 

 すぐに智子を宥めに入る2人。こう言った流れも最近はほぼ日常になって来たため、この癇癪を宥めるのも実に手馴れたものである。

 

 その後、3人はとるに足らない会話を続けつつ基地へと帰還した。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…無事帰還っと、時刻は2:30…お腹も空く訳だわ。ちょっと遅めだけど、昼食にしましょうか」

 

「お腹も空いたけど…それより私は早くシャワー浴びたいわね」

 

「その前に任務終了の報告書、ちゃんと纏めときなさいよ~?」

 

 

 無事宿舎へと帰還した3人。そしてそこには、1人の少女が彼女達の帰りを待っていた。

 

 

「お~、おかえりなさい。3人とも無事に帰ってきて何より」

 

 

 3人を見て、すぐに笑顔で駆け寄り出迎える少女。彼女の名は黒江綾香、3人と同じく扶桑皇国陸軍飛行第一戦隊所属のウィッチであり、少し短めの黒髪と少々長めのモミアゲが印象的である。

 

 

「あれ、綾香?」

 

「貴女、今日は出撃シフトに入ってないから釣りに行くって言ってなかったかしら?」

 

 

 今朝、自分達が任務のため出撃する際釣竿を持って意気揚々と出かける彼女を見ていた智子と武子は、綾香が宿舎に帰ってきている事に驚く。黒江綾香は大の釣り好きで、朝から出かけたら夜までぶっ通しで釣りに興じているのがザラにあるため、昼間に帰って来るのは予想外だったのだ。

 

 

「はは~ん…大方ボウズでツマラなくなったってとこでしょ?」

 

「ん?そこそこ釣れたぞ、さっきまとめて炊飯係の人達に渡してきたけど」

 

 

 勘繰りを入れてくる圭子に対して、綾香は笑顔で返す。因みに蛇足だが、彼女が釣って来る魚類は支給される物資より鮮度が段違いなので方々の兵士に喜ばれているらしい。

 

 

「江藤中佐からの呼び出し。何でも私達4人に話があるみたいだな」

 

 

 そう言って3人に事のあらましを説明する綾香。

 

 どうやら彼女によると、どうやら釣りをしている最中に宿舎へ呼び戻されたらしい。その後、智子ら3人も呼ばれている事を知りどうせならと彼女達が戻ってくるまで待っていたとの事であった。

 

 

「ふ~ん…中佐からの呼び出しねぇ。良い話か悪い話か…不安だわ」

 

 

 その説明を聞き、苦い顔になる圭子。今の戦場の状況を見る限り、悪い話の可能性が高いからである。

 

 

「シャワー……はもう少しおあずけね、はぁ…」

 

「中佐も私達が任務明けなのは知ってるでしょうし、そう長話でもないわよきっと。ホラ、さっさと行って終わらせちゃいましょう」

 

 

 愚痴を漏らす智子をフォローしつつ、行動を促す武子。しかし任務明けに即呼び出しと言う事もあって、3人の顔は暗い。それを察してか、綾香は自分の持っていたカバンから弁当箱を取り出す。

 

 

「それより、お昼まだだろ?さっき魚を届けるついでにおにぎり作ってもらったから、今の内に食べるといい」

 

 

 差し出されたおにぎり。それを見た3人のお腹が、きゅぅ~ と空腹を知らせる。

 

 

「綾香…」

 

「貴女って子は本当に…」

 

「愛してる~♪」

 

 

 黒江綾香。その性格は大らかで明朗快活、そしてなにより気配りの出来る大変良い子である。

 

 

 

 

 

 その後、彼女達はおにぎりで空腹を癒した後、江藤中佐の元へ向かった。

 

 

「ん、3人とも任務ご苦労。黒江も釣りの邪魔をして悪かったな」

 

 

 赴いた彼女達を労う言葉を掛ける江藤。その表情は明るく、彼女の達の中にいい話である期待が高まる。

 

 

「さて、それじゃあ早速本題に入ろうか。喜べお前等、今回は最近じゃ珍しいいい話だぞ。以前から上にせっついていた新型ユニットが4機届いた。無論、宮藤理論を応用した次世代ユニットだ」

 

「ほっ…ほんとですか中佐!?」

 

 

 江藤の言葉に、思わず声が裏返る智子。その瞳はキラキラと輝いており、興奮を抑えきれないのか今にも江藤に飛びつきそうな勢いである。隣に立つ圭子と綾香も、抑えようと努力はしているようだが内心興味心身なのはバレバレである。恐らく魔法力を発動している状態なら、その尻尾は激しく振られてる事であろう。

 

 その様子に呆れつつも、武子は江藤に質問する。

 

 

「よく許可が出ましたね?前の話だと、当分無理そうでしたけど」

 

「ああ、あまりにも話の分からん奴等だったからそろそろブン殴ってやろうと思ってた所だ」

 

 

 どうやらその時の事を思い出したのか明らかに不機嫌になる江藤。普通であれば、軍隊で部下が上官を殴るなど言語道断であるが、彼女だと本当にやりかねない。4人の思考は、この時完全に一致した。

 

 

「…まぁその事はいい、結局その時は何時ものように平行線のまま話は終わったんだが、帰り際に参謀本部の奴に出くわしてな。歳も近そうだって事でそいつに現状を話したら新型の先行量産分を少々こちらに流してくれたのさ」

 

「流してくれたって…まさか中佐、その人を脅して無理やり……」

 

 

 江藤の言葉に顔が青くなる武子。先ほどの件もあり、まさか本当に…と勘繰ってしまう。

 

 

「馬鹿者、幾ら私でもそんな事するか!!話して見れば、割りと話の分かる奴でな。快く承諾してくれたさ」

 

 

 ガハハ、と豪快に笑う江藤。その様子に武子もホッとしたようだ。

 

 

「ふむ…意外ね。参謀本部の人達って皆堅物のエリートってイメージだったけど、話の分かる人もいるのね~」

 

「それ酷い偏見じゃないか?確かにエリートも多いってよく聞くけど、エリートだからって皆堅物って訳じゃないだろ」

 

 

 一方圭子と綾香は、その物資を流してくれた人物に興味を持った様子である。

 

 

「そんなのどうでもいいじゃない。それより中佐、その新型ユニットって今はどこに!?」

 

「ハハハ、落ち着け穴拭。整備班に即使えるようにと頼んでおいたから、そろそろ準備も出来てるだろう。早速格納庫に行こうか」

 

 

 そして江藤以下4名は格納庫へと赴く事になった。

 

 

 

 格納庫では、既に4台の新型ストライカーユニットがセットされており、その周りで世話しなく動き回る整備兵と、その中で一際背の小さい人物があれやこれやと指示を送っている。

 

 その人物は、やってきた江藤達の姿を見るや急いで此方へと走って来た。だがしかし、本人は恐らく全速力で走ってきているつもりなのであろうがその足は遅く、走っていると言うよりは、トコトコ駆けてくると言った表現の方が合う感じだ。

 

 

「ふぅ……お待ちしておりました……江藤中佐。97式……全機整備完了です。あと少しで……試験飛行が可能ですよ」

 

 

 しかも、体力も無いのか江藤の下まで来る頃には肩で息をしている具合だ、一度深呼吸してから江藤に報告を行っているが、まだ呼吸が乱れているのか所々が途切れ途切れである。服装からして陸軍所属の軍人なのであろうが、それを見た智子達4人の視線からは、この子は本当に軍人なのだろうか?と言う疑問視が滲み出ている。

 

 

 

 

「了解した、流石の手際だな。では早速試験飛行の準備を頼む」

 

「おっ……お任せください!」

 

「あっ、あの~……中佐、その子は一体…?」

 

 

 どんどん話を進めていく2人に、置いて行かれまいととっさに話に割り込む武子。

 

 

「お~…そういえばこの子の事をまだ説明してなかったな。」

 

 

 しまったと言った表情の江藤、すると江藤にこの子と呼ばれた人物は4人に向き直り、自分の自己紹介を始めた。

 

 

「申し送れました、ボクは扶桑帝国陸軍参謀本部第1部編成動員課所属の杉山晶少尉です。皆さんよろしく願いしますね」

 

 

 挨拶と共に4人にお辞儀をし、満面の笑みを浮かべる晶。どうやら呼吸は何とか落ち着いたらしい。

 

 

「杉山少尉は、今回の新型ストライカーの扱い方を我々にレクチャーするために三宅坂から送られてきたアドバイザーと言うわけだ。そして杉山少尉、こいつらが私の直属の部下で、今回のユニットを使わせようと思っている4人で右から加藤武子少尉、加東圭子少尉、穴拭智子少尉、黒江綾香少尉だ」

 

 

 江藤の自己紹介に合わせて、4人は揃ってよろしくお願いしますと少尉に返す。

 

 

 その後晶は試験飛行の最終準備をするためだろう、ユニットの元へと戻っていった。その隙隙に圭子が隣に居た智子に対して耳打ちを始める。

 

 

「なんかカワイイ子が来たわね。本当に参謀本部所属なのかしら?」

 

「さあ…かなり良い所の出なんじゃないの?」

 

 

 そう言って智子は、晶の容姿を改めて観察する。まず服装は、上だけ見れば一般的な陸軍の物ではあるが、下は扶桑海軍などで支給されている短パンよりもかなり短いものを履いている。多少アンバランスな格好だが、ほとんどローレグに近いズボン(・・・)を着用している彼女達である。特に変には思っていないようだ。次に容姿だが、圭子の言うように非常に可愛らしい顔立ちをしている。少々短めに切りそろえられた髪はボーイッシュな印象を与えるが、不思議とよく似合っている。背はとても小さく、4人の中でも一番背の小さい智子よりも更に一回り小さい。その所為もあってかなり幼く見えるが、階級が少尉な所を見ると少なくとも智子達に近い年齢なのだろう。

 

 

「……まぁ前線に出るよりは、本部でデスクワークしてる方があの子には向いてそうね」

 

「確かに…あんまり体力無さそうだしね~」

 

 

 率直な感想を述べた智子に対し、圭子も苦笑いしつつ同意した。

 

 

 

 

「さて、それではこの97式…試作名称 キ27、中島、九七式戦闘脚の説明を始めますね」

 

 

 その後すぐに最終調整も終わり、江藤達5人は試験飛行前に晶から運用するためのレクチャーを受ける事となったのだが…

 

 

「まずはこの97式の特長ですが、見ての通り従来の95式と違い発動機を内部に格納していることにあります。俗に言う「宮藤理論」が用いられた陸軍初のストライカーユニットですね。そのため発動機を背負って飛ぶ必要が無く、使用者に対する負担がかなり軽くなっています」

 

「――――っ!」

 

 

 晶の説明が続くごとに、明らかに智子の態度が挙動不審となっていく。説明に夢中になっている晶と、張本人の智子以外の人物はその事に気付いているようで、明らかに呆れ顔である。

 

 

「更に長島製マ1乙魔導エンジンを搭載したことにより、最高速度は時速460キロ。事実上、95式より60キロほど最高速が速くなっています。この事は運用の際にも注意しておいたほうが……あの~穴拭智子少尉、ちゃんとボクの説明聞いてますか?」

 

 

 そして遂にその事に気付いた晶は、困った顔で智子に指摘する。

 

 

「えっ!?あ……ちゃんと聞いてるわよ!」

 

 

 一方指摘された側の智子は反論したが、不自然に泳ぐ視線、どもりがちな声、そして明らかに挙動不審なその姿は所見の晶でも分かるぐらいに狼狽している。

 

 

「…ほんとですか?」

 

 

 晶のジト目な視線が智子に突き刺さる。その視線にとうとう耐えられなくなったのか、智子は俯いてしまった。それを見かねてか、江藤から助け舟が入る。

 

 

「すまないな杉山少尉、だがウチの子達は言うより実際に触らせて見るほうが頭に入るクチでね。とりあえず、機体に触らせてやってくれ」

 

「…仕方ありませんね、分かりました。では整備班の皆さん、これより試験飛行を始めますので、ウィッチの方々の補助をお願いします。皆さんは先ほどボクが説明したとおりにユニットを装備、試験飛行へと移ってください」

 

 

 江藤の言葉に苦笑しながら晶が答え、智子達四人と整備兵にあれこれと指示を始めた。

 

 その言葉を受け、智子が真っ先にユニットの元へ走り出した。そしてその真新しいユニットをしみじみと眺め、挙句には頬ずりを始めた。

 

 

「うわ~、これが新型ユニットなのね!ん~♪」

 

 

 周りで若干引いている整備兵も全く意に介している様子もない。

 

 そんな智子を放って置いて、残りの3人は着々と発信準備を進めていく。従来の95式ならば10分程度掛かっていたこの作業も、セットされているユニットを足に装備するだけでOKなこの97式ならばあっと言う間である。

 

 

「へぇ~、海軍さんの96式を見てたから分かってたけど、やっぱり早いな」

 

「最近だと同時に出撃命令が出ても私達がもたもたしてる内に海軍さんはささっと出撃してたものね。正直智子じゃないけど、私もあれはちょっとキツかったな」

 

「でもこれで、お荷物扱いされる事も無くなると思えば…ね。…ってちょっと、智子!貴女何時までそうしてるつもりなの?」

 

 

 3人とも、すぐに準備を終え後は智子を待つだけとなった。その様子に流石に焦ったのか智子もすぐにユニットを装備し、準備を終える。

 

 その様子を確認した晶は、試験飛行を開始すべく4人に声を掛けようとして――――

 

 思わず自分の目を疑った。

 

 

「えっと~……なんで皆さん、訓練用のペイント銃と扶桑刀を装備してるんですか?」

 

 

 それもそのはずである、彼女達4人はユニットを装備するや否や補助をしていた整備兵に訓練用のペイント銃と扶桑刀、そして扶桑刀での撃墜確認をするために使うであろう吹流しを用意させ、すでに装備していたのだ。この97式は先ほど晶が説明したように従来の95式とはことなる理論によって作られている。そのため機体自体足回りや使用感も95式とはかなり違った物になっているのだ。そんな状況である、幾ら訓練といえど彼女達の訓練場所は空の上…ちょっとした事故でも、大怪我につながる可能性は高い。ゆえに本来ならその齟齬に慣れるため、何度か試験飛行を繰り返し行ってから実戦訓練に移るものと想定していた晶は、この状況に面食らってしまっていた。

 

 

「なんで…って、そりゃ実戦訓練もするからに決まってるでしょ?」

 

 

 そんな晶に、何でそんな当たり前のことを聞くのかと言った表情で答える智子。そんな智子の言葉に、他の3人も同意を示す。

 

 

「そうそう、ただ飛ぶだけってのもキライじゃないけど、時間は有限だもの……このユニットもさっさと使いこなせるようにしとかないとね~」

 

「まっ…どうせこうなるとは思ってたわよ。杉山少尉には段取りを崩しちゃって申し訳ないけど」

 

「盛り上がってきたねぇ~。久々に、面白い空戦ができそうだ!」

 

 

 4人とも様々な思惑があるようだが、いきなりの実戦訓練に対してそれほど無茶とは思っていないようだ。その後も晶が食い下がり4人に対する説得を試みたが、聞く耳もたれず結局は折れる形となった。晶はそのことに対して少々不満だったようだが、そこは隊長である江藤が上手くフォローをしたため渋々ながら納得したようである。

 

 そして4人は訓練開始前に、ペア決めを始めた。

 

 4人の実力はある程度拮抗しているため、普段はジャンケンで適当に決めることが多いのだが、ここで智子が1つの要望を入れてきた。

 

 

「はいはいはーい、私は綾香と敵がいい!」

 

 

 智子、まさかの綾香に対する宣戦布告。

 

 

「ん…私は別に構わないけど、なんで?」

 

 

 対する綾香は、その理由を図りかねている様子である。

 

 

「決まってるでしょ、今日こそはウチの部隊で近接戦が最強なのは私って所を見せてあげる!」

 

 

 手持ちの扶桑刀を早くも抜き放ち、綾香に突きつけながら堂々と宣言する智子。その表情からは先ほどまでの浮かれた様子は感じられず、どこまでも真剣な眼差しで綾香を見据えている。だがしかし…

 

 

「近接戦最強って……貴女ついこの前私に負けたじゃない」

 

 

 この武子が放った横槍によって、何とも言えない空気が場を支配した。

 

 居た堪れなくなった智子は、顔を真っ赤にしながら反論する。

 

 

「うっ………うるさいわよ武子っ!大体この前は偶々負けただけで、総合的に見たらきっと私の方が…」

 

「今までの貴女との戦歴は56勝54敗…私の方が勝ってるけど?」

 

「……っ」

 

 智子が反論を言い切る前に武子はにっこりと笑いつつ論破する。周りの人間にはその笑顔の裏に何やら黒い物を感じたが、誰一人として口にすることは無かった。

 

 

 しかし、結局他の案も無かったため智子の意見が採用され 綾香・圭子ペアVS智子・武子ペアで模擬戦を行う事となった。

 

 

「よし、準備も出来たようだし模擬戦を開始するぞ。ルールはいつも通りシールド使用は無し、互いに付けている吹き流しを扶桑刀で斬られるか身体のどこかにペイント弾を当てられたら撃破判定。相手チームの人間を全て撃破判定とすれば勝利…と言ったところだな。それと、一応言っておくが、これは試験飛行も兼ねてるんだ…お前等あんまり無茶な事はするんじゃないぞ?」

 

 

 ペア決めが終わったのを確認した江藤の声が、4人のインカムへと送られる。

 

 

「あんまりと言うか……絶対無茶だけはやめて欲しいんだけどなぁ………」

 

 

 その後にか細い晶の懇願の声は、4人からの肯定の声でかき消された。

 

 そして遂に、4人の新型機による試験飛行および模擬戦が開始された―――――

 

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