アナザーストライクウィッチーズ   作:バサル

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第3話 新たなる翼 後編

アナザーストライクウィッチーズ

 

 

扶桑海ノ三羽烏

 

 

 

 

 

 

第3話     

 

 

新たなる翼   後編

 

 

「それでは各員……試験飛行を開始せよ!」

 

 

 江藤の言葉に呼応するように、4人が一斉に魔法力を発動。発生した魔法陣と共に彼女達の身体は中へと浮き上がった。近くにいた整備兵たちは彼女達の進路上に障害物が無い事を確認し、出撃可能のサインを送る。

 

 それを確認した彼女達は、それぞれの僚機と共に空へと飛びあがった。

 

 

 

 その後は、各チーム共自分達の新しい翼の才能を確かめるべく、しばらくは自由に空を飛んでいる。

 

 智子と綾子は従来よりも圧倒的に速くなったそのスピードを噛み締めるように、武子は従来より軽快に曲がってくれるその旋回性を肌で感じるように…しかし、たった一人だけ浮かない顔をしている人物がいた。圭子である。

 

 

「…おいヒガシ、さっきから動きがぎこちないけどどうかしたのか?」

 

 

 その様子を案じて綾香がインカムごしに声を掛ける。ちなみに「ヒガシ」と言うのは圭子のあだ名である。読みが同じ苗字である武子と紛らわしいため、武子の事を「フジ」圭子の事を「ヒガシ」と呼び区別しているのだ。

 

 

「…なんでも無いわ。ちょっと違和感を感じただけ…まぁ初めて扱う新型ユニットだし、こういうこともあるわよ」

 

 

 対する圭子は、軽く手を振り綾香に問題が無い事をアピールしつつ、自分達の数百メートル先にいる2つの人影を見据える。

 

 どうやら智子達はある程度の慣らしを終わらせたようで、圭子達が仕掛けてくるのを待っているようである。

 

 

「ならいい…だが、頼りにしてるんだからしっかりして貰わないと困るぞ」

 

「ええ、任せときなさい。アンタ達が前に出て、後ろの敵は全部私が撃ち落す…何時も通りよ」

 

「上等…じゃあそろそろ行こうか。智子達を待たせても悪いし…なっ!」

 

 

 その一言共に綾香と圭子はスピードを上げ、真っ直ぐ前方の智子達へと向かっていく。

 

 それに呼応するかのように同じく真っ直ぐ前方へと進んでいく智子と武子。ほんの数秒前までは数百メートルあった両者の距離はみるみる縮まっていき、互いが空中で交差した瞬間…勝負が始まった

 

 

 

 まずは両者共に弾幕を張りつつの小手調べが続くかと思われたが、そのセオリーを破ったのは綾香だった。智子達とすれ違った側から素早く切り返し、悠々と背後を取ったかと思えば次の瞬間には颯爽と扶桑刀を抜き放ち、先手必勝とばかりに後方に付いていた武子へと強襲を仕掛ける。

 

 その行動に2人は少なからず衝撃を受けた。

 

 

「くっ………」

 

「ちょっと、正気なの綾香!?幾らなんでもいきなり突っ込んでくるだなんて…っ」

 

 

 悪態を付きつつも、即座に武子のフォローに回る。自分に目もくれず、武子へと突っ込んでいる綾香に照準を合わせトリガーへと指を掛けた瞬間…

 

 

「避けなさい智子ッ!!」

 

 

 武子の叫び声が、インカム越しに智子の耳へと響き渡った。その声に驚きつつも咄嗟に身体を捻らせ回避行動を取る智子、その瞬間智子が今まで居た位置に1発のペイント弾が通過する。

 

その弾丸を放った人物は無論、完全フリーになっている圭子である。まるで今は挨拶代わりだとでも言いたそうな笑みを浮かべつつ、智子と武子を狙っていた。

 

 

「あっぶな~……相変わらず良い腕してるわね、圭子」

 

「アンタねぇ~…今完全に相手の術中に嵌ってたでしょ?熱くなって勝てる相手じゃな……チッ…」

 

 

 智子の油断に武子が悪態を付く間も無く、再び綾香の猛攻が始まった。圭子の援護射撃に注意を配りつつ応戦する智子と武子。しかし接近戦で2体1の状況にも関わらず、綾香は2人をきっちり押さえ込んでいた。更に2人の注意がが散漫なった隙を突いてくる

 

圭子の援護射撃、ジリジリと2人は追い詰められていく。

 

 

「くぅ……けどそれなら……圭子を先に落としちゃえば終わりでしょ!!」

 

 

 ならばと一旦綾香の突破を諦め、武子への狙撃体制に入って無防備な状態の圭子を狙おうと動く智子。しかし……

 

 

「それは……させないっ!!」

 

 

 まるでその行動を読んでいたかの如く、綾香はすぐさま智子へと肉薄し扶桑刀で斬りかかる。堪らず智子はこちらも扶桑刀で応戦するが、完全に防戦一方である。ならばと智子は武子に期待するが、そちらは圭子の牽制攻撃が集中しており、武子もまた攻めあぐねている状況であった。

 

 

「うそ!?……このぉ~……っっ!!」

 

「どうした智子、威勢の良い事を言ってた割には対した事無いんじゃないか?」

 

 

 一向に打開できない状況に苛立ちを募らせる智子、その様子を見て武子はこの状態は危険と判断した。

 

 

「智子…このままじゃ完全に向こうのペースだわ、一旦距離を取って様子を見るわよ」

 

 

 圭子の狙撃に注意しつつ、ペイント弾で綾香を牽制し智子の退路を確保する武子。しかし当の智子は明らかに納得いかない様な表情である。

 

 

「くっ……けどこのまま退いたんじゃ癪じゃないっ!せめて……」

 

「状況を良く見なさい、こういう時すぐ熱くなるのがアンタの悪い癖だって何度も言ってきたでしょ?良いからここは私の言う事を聞きなさい!」

 

「うぅ……」

 

 

 結局2人は一旦綾香から距離を離しつつ、体勢を立て直す。対する綾香は無理に二人を追おうとせず、圭子との一定の距離を保ちつつ二人の次の行動を待っていた。接近戦を得意とする綾香が前線で暴れつつ相手の注意を引き、後衛を担当する圭子がその隙を狙い撃つ。戦闘のセオリーとでも言うべき陣形である。

 

 

「無理に追って来る気配も無し…か、おかげで作戦を練る時間ぐらいはありそうだけど……余裕を見せてくれるわね」

 

「それに綾香…なんか今日は何時もにも増して動きが良くない?いくらなんでも私達2人が押さえ込まれるなんて……」

 

「そう言われると確かにそうね…綾香は接近戦を得意にしてるけどそれにしたって…………そうか!」

 

 

 智子の言葉にしばらく考え込んでいた武子、その後納得したかの様に声を発する。

 

 

「えっ……何、どうしたの武子??」

 

「…智子、綾香の固有魔法よ……あれならこの状況のアドバンテージは絶大だわ」

 

「……あっ!」

 

 

 「固有魔法」とは、ウィッチ・ウィザードの中でも限られた物が持つ特殊な能力の事である。その能力の形態は様々であるが、一説にはその能力を持つ者の意思や趣向が影響していると言われている。そして綾香の持つ固有魔法は「特性把握」と呼ばれるもので、その能力は例え始めて使用した装備でもその特性や出力バランス等を明確に理解し、その性能をフルに発揮出来ると言うまさにこの状況には打って付けの能力である。

 

 

「「特性把握」であの機体のポテンシャルを引き出してるって事ね、通りで綾香の動きが良く見えるはずだわ……けど、裏を返せば私達もコイツの性能を理解すればアレぐらいの動きが出来るようになるって事……!」

 

「まっ…この訓練中には難しいかもしれないけどね、問題はどうやってこの状況を打破するかだけど……恐らく私達が2人揃って全力で綾香に挑めば倒せるはずよ、けど……」

 

「確実に今の綾香は数秒持ち堪えてくる……それでその数秒が命取りって事…でしょ?」

 

 

 そう、幾ら綾香の動きが自分達よりも向上してるからといって完全な2体1で遅れをとるほど彼女達の腕に差は無い、2人が全力で一点突破を狙えば流石の綾香もひとたまりも無いであろう…しかし、それは圭子を完全にフリーにする事と同義である。他の3人に比べて扶桑刀による接近戦があまり得意でない圭子だが、彼女の中距離からの見越し射撃においてダントツの精度を持っているのだ。

 

 

「なんとかして1体1の状況に持ち込む……それぐらいしか私達に勝機は無いかもね、一旦懐に入り込めれば圭子は何とか倒せる…それまでもう1人が綾香を抑えていられれば…」

 

「後は全力で綾香にぶつかれば良い……って訳?確かに筋は通ってるけどリスクが大きすぎるわ、圭子だってその事はちゃんと考えてる筈だし下手に粘られたらその間に各個撃破されちゃうわよ……」

 

 

 智子の案に明らかに難色を示す武子。唯でさえ幾ら後方支援を気にしながらとはいえ2人掛かりで綾香に抑えられている現状なのだ、圭子を倒しに行っている間にもう一方が綾香に倒されないなどという保障は何処にも無い。

 

 

「けど…他に案は無いでしょ?」

 

「っ~………はぁ……仕方ないわね」

 

 

 しかし智子の言うとおり他に案が浮かばないのも確かな現状である、結局武子は智子の案を了承せざる負えなかった。ため息を付きつつも縦に首を振る。

 

 

「よし…決まりね、じゃあ私が綾香を食い止めるからその間に……よろしく!」

 

「はいはい…ってちょっと智子!?そんな勝手に……」

 

「任せて、武子が圭子に肉薄できるまでの隙…絶対作ってあげる!」

 

 

 言うが早いか綾香に向かって吶喊していく智子、それを見て武子は溜息をつきつつも自分の役割をこなす為に後に続く。

 

 

「まったく……まあでも後は私がフォローすればいい…か、いつもの事ね」

 

 

 何よりこのままやられっぱなしなのが我慢ならないのは武子も一緒である。たかが訓練、されど訓練……彼女達にとって空戦はどんな形であれ自らの誇りを掛けた真剣勝負なのだ。

 

 

 

 

 

 

「うわ~……皆さん初めてのユニットで良くあそこまで動けますね~」

 

「まっ…伊達に私が鍛えてないからな、しかしあのユニットは素晴しい…」

 

 

 その頃下で模擬戦を眺める杉山晶少尉は、彼女達の対応力を見て呆れ半分驚き半分と言った表情をしていた。その表情に江藤は苦笑しつつ、新型ユニットの性能に感嘆を漏らす。

 

 

「そうでしょう?海軍には少し先を越されてしまいましたが、宮藤理論を元に開発されたこの97式は海軍の96式に決して引けを取りません!何よりこの機体の最大の特徴である旋回性能の高さはきっとこの戦いに一石を投じると思います」

 

 

 フフン、と胸を逸らし誇らしげに語る晶。どうやらこの97式の事を相当気に入ってる様子である。

 

 

「そうあって貰いたいものだな、何せ現状私達は海軍の奴等に遅れっぱなしだ。君達には一刻も早くこの97式の量産体制を整えて欲しいね」

 

 

 そう言ってため息を付く江藤、その言葉を聞いた晶の表情が見る見る曇っていく。

 

 

「う~……分かってはいるんですが、陸軍で宮藤理論を使用した機体はこの97式が初めてですから…中々すんなりと行かないのが現状なんですよね。現在97式はここともう一つの部隊に支給されているのですが、そのデータによってこれから量産されるか否かが決まりそうです」

 

「なるほどな、つまり私達の運用しだいと言う訳か……しかしここともう一つ?それは何処の部隊だ?」

 

「はい、えっと……あっ!」

 

 

 江藤の問いにしまったといった表情をする晶。

 

 

「えっと……その事についてはその~…課長代理から内密にするように…と、このプロジェクトは陸軍の中でも最高機密扱いで…」

 

「なに、問題ないよ。荒木の方には私から話しておくさ」

 

 

 なんとか話を切ろうと事情を説明する晶だが、それを江藤は居に返した様子は無かった。更にあろう事か自分の上司にまで話が及ぼうとしている事で、晶の顔はどんどん青ざめて言った。

 

 

「いや……その……そういう問題じゃないんです……そもそもこの話をしたって課長代理に知れたらボク…」

 

 

 何とか紡ぎ出した言葉……しかし……

 

 

 

「そう堅くなる必要も無いだろう?同じ陸軍同士だしなっ」

 

 

 その努力は江藤の一言でバッサリと両断された。ついでにバシバシと晶の背中を叩いて追撃を図る。刹那、晶の悲鳴が木霊した。

 

 

「ひゃぁーっ!?……わっ……分かりました!分かりましたから叩かないでください~…話します、話しますよ~っ」

 

 

 涙目になりつつ、懇願する晶。よっぽど江藤の張り手が痛かったのか、嗚咽を漏らしつつ渋々と語りだした。

 

 

「う~……えっと…独立第十戦隊です…」

 

「……!」

 

 晶の告げた部隊名を聞いて、江藤の顔に驚きの表情が浮かんだ。

 

 

「……第十戦隊…確か藤井大佐が部隊長をされてるウィザード部隊だったな」

 

「おや、藤井大佐をご存知でしたか」

 

「……ああ、昔あの人の教導を受けた事があってね。そうか…あの人の部隊か……」

 

「……あの~…江藤中佐?」

 

 

 急に物思いに耽った様に沈黙する江藤を見かねて、顔を覗き込む晶。

 

 

「…ん?…ああ、スマンスマン。ちょっと昔の事をね、しかし何でまたウィザード部隊に新型機を?」

 

 

 心配そうな晶の顔を見て、江藤はポンポンと晶の頭を撫でながら尋ねる。等の晶は頭を撫でられたのが恥ずかしかったのか、顔を俯かせながらボソボソと語る。

 

 

「……確かに、効率良くデータを取るならばウィザード部隊より優秀なウィッチの居る部隊の方が適任でしょう。ですが………いえ、これは課長代理の指示なのでボクにはなんとも言えないです、すみません…」

 

「そうか、ならばその辺りの話は今度奴に会った時に直接するとしよう……ハハハハ、今から楽しみだな♪」

 

 

 申し訳無さそうにしている晶に対し、豪快に笑いながら次にその課長代理に会った時どうしてやろうかと想いを巡らせていく。

 

 

「あっ…あの~…………う~……またあの時みたいに強引なのはダメですよー?」

 

 

 それを察してか、晶は心配そうに江藤に釘を刺す。ちなみに、あの時と言うのは江藤が新型ユニット確保の為三宅坂に直訴しにやって来た時の話である。その晶の不安そうな表情から、そこで何があったのかはもはや語るまでも無いであろう。

 

 

「分かっているさ、君達には随分と融通して貰っているからな、出来るだけ迷惑を掛けない様善処するさ……そして………必ずやその期待に答えてみせる!私と私の部下達がね」

 

 

 しかし、対して江藤の表情には先ほどまでの緩んだ物は無く、何処までも頼りになる毅然とした戦士の顔がそこにはあった。それを感じた晶からも自然と不安の色が消えていく。

 

 

「はい…信じてますよ♪そしてそんな貴女達をサポートする為、ボク達も努力を惜しみません!」

 

 

 江藤の決意に対して満面の笑みで返す晶。そして二人の視線は夜空で華麗な戦いを繰り広げる彼女達へと再び向けられるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方状況を有利に運んでいる綾香は、距離を取った智子達を警戒しつつもこの戦闘を心から楽しんでいた。

 

 

「こいつは良い、思ったように良く曲がる…おまけにキューゴーよりも断然に足が速い、コイツを完全に使いこなせるようになれば怪異なんかに負ける気はしないな!そう思うだろ、ヒガシ」

 

「そう…ね、確かにこの性能には目を見張るものがあるわ。思ったよりクセも無いみたいだし、慣れるのも早そうね……と」

 

 

 突如圭子の目付きが変わる。その先に見据えるのは自分達の練習相手である2人の姿、その2人の動きの変化を見てすぐさま綾香の後方へと下がりつつ三十八式を構える。

 

 

「フフン、流石にもうこっちのアドバンテージに察しが付いてるだろうが……だからと言ってこの状況が覆る訳でもない、このまま押し切る」

 

 

 そう呟きつつ、扶桑刀を構え直す綾香。その表情は現在の智子達には無い余裕に満ち溢れていた。

 

 

「けど、油断だけはしないでよね~…ここまで有利を取っておいてポカでやられたんじゃ洒落にもならないし…って、また2人がかりで来る気?てっきり二手に分かれてくると思ったけど」

 

 

 対して後方で援護する圭子は冷静に2人の次の行動を警戒すべく自慢の鷹の目を光らせる。智子のすぐ後ろに武子が連なる形でこちらへと接近してきている、その動きに変化する気配は無い事から圭子は2人が先程と同様に綾香を2人がかりで狙ってくると判断する。ならば…

 

 

「綾香、そのまま迎え撃って。後詰めの武子は私が牽制するからその間に智子をお願いね」

 

 

 圭子はすぐさま目標を武子に定め、綾香に指示を飛ばす。なぜならば射撃を獲物に通す基本はいかに相手の不意を撃てるかである、そのセオリーで行けば今の智子は論外だ。前衛でしかも正面から来ている以上、綾香は勿論圭子の射撃も警戒しているのは確実だからだ。その点武子の方は後詰め位置、智子と綾香が戦っている内に綾香の隙を付こうと動いてくる確率が高い、そしてその場合綾香に集中して圭子への警戒が薄れる可能性も十分である。更に言えば、もし武子が綾香を智子に任せて圭子を落とそうと動いても、その出鼻を挫けるという二重の意味で圭子のその判断は的確であった。

 

 

「任せろ、さあもう一太刀行こうか智子!!」

 

 

 綾香も圭子のその判断に同意し、もうすぐ眼前まで攻めて来るであろう智子へと飛び立った。みるみる内に距離が縮まるっていく、しかし2人の速度は緩まない。互いにの構えるのは扶桑刀、その初太刀に意識を注ぎ込む。そして…その2人の距離がゼロになる瞬間、すれ違い様に扶桑刀が打ち合う甲高い音が辺りを駆け巡った。

 

 

 キィーーーーーーン

 

 

 初太刀はまったくの互角、両者ともすれ違い様に敵の吹流しを斬る事は適わずそのまま仕切り直しになるかと思われた……が、それを許さない存在が居た。無論、智子のすぐ後ろに付いていた武子である。智子に意識が向いている今が好機と手持ちの十一年式を構え、トリガーを引き絞る。放たれる大量の(ペイント)弾、しかしその攻撃は紙一重の所で綾香に回避されてしまった。

 

 

「くっ…でもまだ……!?」

 

 

 舌打ちをしたい気持ちを抑えつつ、追撃を行おうとする武子。しかし、それを許す鷹の目では無かった。すぐさま響く銃声、危険を感じ追撃を中止する武子。つい先程まで自分が居た位置に飛んできた攻撃を見て、武子の頬に冷や汗が滲んだ。

 

 

「私をフリーにするのは良いけど、その危険性もちゃんと考慮しとかないと…ね♪」

 

 

 不敵な笑みを浮かべ、余裕を見せる圭子。しかしその眼光は、鋭く武子を捉えていた。

 

 

 そこから先は最初の光景の焼き回しである。ユニットの性能をフルに発揮し、智子よりも若干速く状態を立て直す綾香。武子には目もくれず、そのまま智子への追撃に入る。なぜならば…

 

 

「悪いけど…狙わせないわよ!!」

 

 

 突如響く銃声、武子を狙う三十八式から放たれる銃弾…ボルトアクション式とは思えないほどの頻度で撃ち出されるそれは相手を落とすためでは無く勢いを殺ぎ時間を稼ぐための配置である。今、完全に狙われていると意識させ、武子の標的を綾香から完全に自分に向けさせる。しかしそれは武子に近づかれて不利になるリスクの高さと隣り合わせの戦法である。護衛無しに敵前衛との1ON1…後衛のセオリーからは外れた行為だが、圭子は自分の判断を疑わない。その稼いだ時間の間にケリが付くと信じているのだ。

 

 

「流石ね圭子良い腕してる、けど……」

 

 

 圭子の攻撃を回避しつつ武子は一瞬智子の顔色を伺う。綾子の猛攻を受けつつ防戦一方であったがその顔は……

 

 

 

 

 ――――今の内に決めてきなさい―――――!

 

 

 

 

 このチャンス、絶対耐え切ってみせると言う気迫に満ち溢れていた。

 

 

「ふふっ…私が戻ってくるまでにやられてたらタダじゃおかないわよ…智子!!」

 

 

 そして武子もまた自分の相方が耐え切る事を信じつつ、眼前の圭子へと迫る。中距離を維持したい圭子は後退しつつ武子へと見越し射撃をを続けるが、その代償として綾子達との距離が開き完全な一対一の構図へとなっていった。

 

 

 

 

 

 

「フッ…ヒガシの頑張りは無駄には出来んな、悪いが智子…このまま決めさせてもらう!」

 

「っ…!」

 

 

 遂に綾香が完全に智子の後ろを取った。構える扶桑刀は今にも智子の吹流しを切り裂かんと唸りを上げる。必死に引き剥がそうと右へ左へ飛び回る智子だったが、完全に張り付いた綾香を引き剥がす事は出来ない。

 

 

「往生際が悪いぞ智子!」

 

「うっ…煩いわね…アンタこそ、いい加減離れなさいよ!!」

 

 

 口ではまだ悪態を付いている智子であったが、段々と疲れてきているのが見て取れるようであった。明らかに先程よりもキレの無い動き、ジタバタと不規則に動かす左右の足。もはやこれまでと綾香は扶桑刀を握り直し、トドメを刺さんと加速する。しかし、これで諦める智子では無い。

 

 

「くっ……こんなので……」

 

「悪いな今回は…私の勝ちだッ!!!」

 

「こんなので……終れる訳無いでしょーーーッ!!」

 

 

 響き渡る智子の叫び。しかし綾香は既に智子を捉えている。構えられた扶桑刀、綾香の渾身の一撃が今まさに放たれた!。しかしそこに智子の姿は無い。その事実に、綾香が明らかに狼狽する。

 

 

「何ィ!?…そんな、智子は何処へ…」

 

「後ろよっ!でりゃぁぁぁぁっ!!」

 

 

 直後、綾香の真後ろから響く凛とした声。その時綾香は全てを察したがもう既に遅い、その剣先は綾香の吹流しを完全に捉えていた。

 

 一閃、智子の一撃が綾香の吹流しを完全に切り裂かれる。これぞ智子がもっとも信頼を置く機動、ツバメ返しだ。両足のストライカーが打ち消しあうトルクを意図的に乱し、そこで生み出したトルクを利用して後ろ返りの要領で宙返り。一瞬でピンチをチャンスに変える機動である。

 

 

「ふっふ~ん…油断大敵ね綾香?」

 

 

 ヒラヒラと斬りおとした吹流しを掴みつつ満面の笑みを浮かべる智子、対する綾子は顔を伏せ「やってしまった」と呟くのが精一杯である。

 

 

「まさかここまで追い詰めておきながら逆転を許すとはな…私もまだまだ修行が足りん…」

 

「えっへっへ~♪これでウチの部隊で誰が格闘戦最強かはっきりしたわね」

 

 

 今の一戦がよっぽど嬉しかったのか、完全に調子に乗る智子。

 

 

「…むっ…何故そうなる?第一今までの戦歴で言えば……」

 

「ふふ~ん…何時でもリベンジ、受け付けるわよ?」

 

 

 綾香の反論も聞く耳持たず、言いたい放題である。そして…

 

 

「……やれやれだな智子、しかし……だ」

 

「…えっ?」

 

「油断大敵…それはお前も同じだろう」

 

 

 直後、智子の身体にペイント弾が炸裂した。

 

 

 

 

 

 

「ほんとアンタって子は……あの状況で普通調子に乗る?2ON2だって事完全に忘れてたでしょ」

 

 

 それから数分後、模擬戦が終わり静けさを取り戻した空の下では完全に呆れた表情の武子による説教が繰り広げられていた。無論その相手は言うまでも無く

 

 

「うっ……それ確かに申し訳ないないとは思うけど…」

 

 

 先程の調子に乗った姿とは打って変わり、滑走路の真ん中でションボリ蹲っている智子に対してである。

 

 

「こっちはアンタが大口叩くから信用して分かれたのに……」

 

「でっ…でも武子だって圭子に完全に逃げ切られて負けちゃった訳だし…」

 

「…何?」

 

 

 完全にお説教モードに入った武子の睨みが、智子の反論を押し潰す。

 

 

「なんでもない……ごめん」

 

「まったくもう……」

 

「まっ…まあまあ、もう良いじゃないですか!終わったことですし…それに皆さんの実力はよく見せてもらいました。貴女達になら安心してこの97式を預けられます!」

 

 

 そこへ横でハラハラしながら見ていた晶が割り込んだ。因みに対戦相手だった綾香と圭子は面倒になる前にと既に宿舎に引き上げており、江藤は先程の模擬戦を最後まで見届けた後、整備班達と共に97式について色々と話し込んでいる。

 

 

「で…ですが、今日は皆さん慣れないユニットでの空戦でお疲れでしょう?とりあえずこの辺にして、宿舎に戻って休んでくださいっ…ね?」

 

 

 その必死な姿に毒気を抜かれたのか、武子は大きなため息を1つした後引き下がる。

 

 

「やれやれね…実戦じゃこんな事ナシにしてよ、智子?」

 

「!…勿論よ、あの97式があれば百人力っ!怪異共なんて全部私が叩き落しちゃうんだからっ!」

 

 

 許してもらえる雰囲気を感じて、さっきとは一変自信たっぷりに言い切る智子。それを見た武子からは「この子本当に反省してるのかしら?」と言う呟きが漏れる。

 

 

「ふぅ~……良かった……」

 

 

 対する晶も、何とか場が落ち着いたことにホっと胸をなでおろすが

 

 

「そういえばえっと…晶少尉?」

 

「っ…ひゃぃ!?」

 

 

 突然顔を覗きこんできた智子にビックリして声が裏返る。

 

 

「何よ…そこまで驚く事無いでしょ?」

 

「ごっ…ごめんなさい…」

 

「別に謝らなくて良いけど…まあ良いわ、暫くはここに居るんでしょ?じゃ…改めて、これからよろしくね!」

 

 

 ニッコリと微笑みつつ、握手を求める智子。その光景に少し怯えていた晶も笑顔を返し、智子の手をギュッと握り返した。

 

 

「ん…じゃあ宿舎に帰りましょ!早くシャワー浴びた~い!」

 

 

 ガッチリと晶と握手を終え、そのまま脱兎の如く宿舎の方角へと走り出す智子。

 

 

「はっ…はい!…えっ?……まっ…待ってくださ…あわわわっ!?」

 

 

 晶が焦って智子を追いかけようとした瞬間、その足は縺れ盛大にバランスを崩した。倒れる!そう思ってギュッと目を瞑る晶だったが、その身体が地面にぶつかる事はなかった。ゆっくりと目を開けると、そこには苦笑しつつ晶の身体をガッチリと支える武子の姿があった。

 

 

「はいはい、気をつけなきゃダメよ晶…さんで良いかしら?」

 

「あっ…はい、ありがとうございます……っ///」

 

「じゃっ…私達も行きましょうか、あの子に置いてかれちゃいそうだし。そうそう、宿舎に戻ったら貴女の事も色々聞かせて頂戴ね♪」

 

 

 そう言って、ゆっくりと智子の後を追う武子。後ろを少し照れた様子で晶が付いていった。

 

 その後、辿り着いた宿舎にて彼女達による壮絶な質問攻めに会うことをこの時の晶は知る良しもなかった。

 

 

 

 

―――三宅坂 扶桑陸軍参謀本部―――

 

 

 

 扶桑陸軍参謀本部、そこは扶桑陸軍の中枢とも言えるべき場所であり、大掛かりな作戦の立案から人材の確保、また資材調達に至るまでそのすべてがここを通して行われる。その重要な拠点の第三課、主に人材や機材の調達配備を任されている部署の一室で、1人の男が黙々と書類整理に追われていた。

 

 

「……やれやれ、事は上手く運ぶようになったとは言えこう忙しくては…な」

 

 

 しばらくして、書類との格闘が一息ついたのか目を揉むしぐさをして少し休憩を入れた。彼の座る椅子は第三課の課長が座る物であり、この事からも彼が第三課のリーダーであることは疑うべくもない。しかしその肩章の表す階級は大尉。本来参謀本部の課長には佐官が就く物であり、この光景は異常と言えた。

 

 

「フッ…ともあれボヤいた所で仕事は終わらん、今は最善を尽くすのみ……それに……」

 

 

 ふと、彼は書類の山近くに埋もれかけていた1つの封筒へと手を伸ばし、中の書類を一枚一枚読み始めた。

 

 

「扶桑陸軍飛行第一戦隊……か」

 

 

 彼の呟きが、その部屋の中に不気味に響いた。

 

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