扶桑陸軍飛行独立第十戦隊、部隊長である藤井元大佐が選りすぐったウィザード達のみで結成された特殊部隊。それは扶桑陸軍にとってある意味もっとも特殊な部隊である。
この時彼等と戦っていたネウロイと呼ばれる化け物、それに対抗するために必須と言われている魔法力を持つ少女達通称ウィッチ、しかし…彼女達の様に魔法力を持つ者は少年達の中にも居たのである。だが彼等の存在はあまり認知されることは無かった。それは何故だろうか?
理由は幾つかあったが、その最大の要因は大きく分けて2つあった。その1つは彼等の出生率の低さである。元々出生率の低いウィッチよりも尚低く、当然軍に在籍するその数も圧倒的にウィッチに劣っていた。
そして……もう1つの理由は、彼等の魔法力適正の低さにあった。確かに彼等は魔法力を持って生まれてきたがその力は大半がウィッチの半分以下ほどしかなく、飛行適正があったとしても敵の攻撃を受けきれるほどのシールドを貼る事が出来ない等とてもウィッチと共に戦えるような物ではなかった。
当然彼等は軍本部からもそれほど期待されず、その僅かな飛行適正を持った者達で構成されたこの独立第十戦隊もお荷物部隊とレッテルを貼られていた。
しかし……お荷物が何時までもお荷物で居るとは限らない――――
ストライクウイッチーズ零外伝
扶桑海ノ三羽烏
第4話 独立第十戦隊
1937年8月――― 扶桑陸軍飛行第一戦隊に新型ストライカーユニット「九七式戦闘脚」が配備されてから2週間が経った。隊全体の機種転換を行うには航続距離や配備された数の問題により厳しいのが現状であるが、この隊のエースである 穴拭智子 加東圭子 加藤武子 黒江綾香の4人はこの二週間で徹底的な完熟訓練を行い、いずれ来るであろう機種転換に備える日々を送っていた。
そんなこの部隊の隊長である江藤敏子は、ふと廊下の窓から外を眺めつつ物思いにふけっていた。
「達磨の鬼教官…か」
「…?どうしたんですか隊長?」
ふと廊下で独り言を呟く江藤を見て、智子は心配そうな顔で声を掛けた。
「ん?…ああ、なんでもないさ…ちょっと昔の事を思い出してな。所でお前の方こそ新型の調子はどうだ?」
それをなんでもないぞとあしらう江藤。序に手持無沙汰だったのか、その右腕で智子の頭クシャクシャと撫でまわす。
「ちょっ…たっ…隊長~!?」
「フフン…折角苦労して分獲って来た戦利品だ、後はお前達の戦い次第だぞ」
突然の事にたじろぐ智子を他所に、江藤の手は止まらない。暫くの間良い様に弄ばれていた智子だが、その何時もと変わらぬ江藤の姿を見てその顔に笑顔が戻った。
「っ~///…分かってます、私達に任せてください!」
「当然だ馬鹿者!何たってお前達はこの私が直々に鍛えてるんだからな、そうでなくては困るさ。しかし…大変なのはこれからだぞ、今はまだ奴等も大した活動は見せてないが日に日に発見報告は増えてきているからな。ほら、こんな所で油売ってないでさっさと訓練に戻らんかっ!」
「っ!…はっ…はいっ…それでは中佐、失礼します!」
慌てて訓練に戻る智子を眺めつつ、江藤は自然と笑みをこぼす。訓練したての頃、一刻も早く彼女達を物にするため江藤は血反吐を吐くようなスパルタ訓練を課していた。日がな一日空を飛び回り、地上に降りるのは補給と食事、後は寝る時ぐらいという苛酷な環境を彼女達は泣き言を漏らす事もなくよく付いてきてくれたものだと思い返す。
「アイツ等ならきっと…いや、私もまだまだ抜かれるつもりはないな。やれやれ…私としたことがホントに……らしくもない……」
そう呟きつつ、江藤は廊下を再び歩き出す。すると向こうからこちらへと走ってくる者が居た。息も絶え絶えになりながらも自分を見つけると何とかここまで駆け寄ってくるその人物は、つい先日から新型ユニット運用のアドバイザーとして三宅坂から送られてきた杉山晶少尉であった。
「はぁ…はぁ…やっと……見つけました………江藤中佐……」
たっぷり10秒ほど使ってやっとの事言葉を紡ぎ出す晶。その姿を見て江藤は溜息をついた。
「杉山少尉か、どうしたそんなに息を切らせて?とりあえず呼吸を落ち着けてから話せ」
「はっ…はい!!…すぅ~…はぁ~……」
江藤の言葉を受け、晶はオドオドしながら深呼吸を行う。しばらくはそれを見守っていた江藤であったが、次第に仮にも軍人であるにもかかわらずこの体力の低さは問題なのでは無いのかと考え始める。空いた時間があればこの子を鍛えてやるのも良いかもしれない。と、そんな事を思考している内に晶の方も段々と落ち着きを取り戻してきた。すかさず江藤は声を掛ける。
「どうだ、少しは落ち着いたか?」
「はい…何とか、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません…」
「それは結構、それで私に何か用があったんじゃないのか??」
江藤の言葉に唯でさせシュンとしていた晶の顔が更に曇る、どうやらあまり良い知らせではないようだ。
「それが……先ほど大尉から伝令がありまして、江藤中佐…貴女達に頼みがあると」
「ほぅ…?」
おそらく晶の言う大尉とは、この子の直属の上司である荒木省吾大尉の事であろうと江藤は当たりをつける。以前三宅坂で新型ユニットをこちらへ譲渡してくれたのが何を隠そう彼で、聞いた所によると編成動員課課長代理をしているらしい。なんでも前任者が急遽亡くなってしまった為元々補佐役をこなしていた彼が臨時に代理を勤めることとなり、軍務に支障が無かったためそのままになっているらしい。…なんとも適当な話だと江藤は独り言ちる。ともあれ彼にはユニットの件では恩がある、頼みがあると言うのなら聞かない訳にもいかないと言うのが江藤の出した結論だった。
「とりあえず話を聞こうか、私達…と言う事は智子達にもと言う事だろう?ならば話を聞かない事には答えの出しようも無い」
「分かりました…では――――――」
晶から語られた頼み事…それは江藤にとってもかなり複雑な頼みであった……。
数日後、江藤にからの召集を受けた智子、武子、圭子、綾香はブリーフィングルームへと集まっていた。各々の表情は様々で、遂に新型を実戦で試せると満面の笑顔を浮べる者。表情こそ平然を装っているが、内面から来るワクワク感を抑えきれぬと言った様子の者。その二人の様子を見てため息をこぼす者。その者の肩を叩きつつ苦笑いを浮べる者。誰が誰かはあえて語るまい。
そんな様子の彼女達が待つ事数分。不機嫌そうな江藤とその後ろで何やら不安気な表情を浮べた晶が入ってきた。
「よし…お前達集まってるな?」
江藤の一声に即姿勢を正す四人。簡単な敬礼と答礼を返し、すぐさま本題へと入った。
「さて、まずはお前達をここに呼んだ理由だが…」
「はいは~いっ!!遂に新型の実戦投入が決まったんですねっ!?何時ですか!!??」
突如、江藤の声を遮り興奮冷めやらぬと言った表情で声を荒げる智子。その様子を見てやれやれと呟きつつ苦笑いを浮べる江藤。
「はぁ…待ちなさい智子!今隊長が説明してる最中でしょ?ほら、ちゃんと大人しく聞くっ」
直後、隣に控えていた武子が智子を抑えに掛かる。最初はムッとした表情で振り向いた智子も、その武子の表情を見てただならぬ物を感じたのか大人しくなった。そして智子が大人しくなったのを確認した江藤が話を続ける。
「まずはじめに言っておくが、今回集まってもらったのは実戦の話じゃないぞ。まあ…お前達にとっては似たようなものかもしれんがな。単刀直入に言うとお前達にはとある部隊と模擬戦をしてもらう。まあ幸い相手が居る基地はここから目と鼻の先だ、今から準備して移動すればまあ今日中には着けるだろう」
「えっ…今から行くんですか隊長??」
それまでゆっくり話を聞いていた圭子が口を開いた。その口調は少し上ずっており、急な話に戸惑っているようである。他の二人も似たような表情だったが唯一人、智子の瞳は明らかにキラキラと輝いている。
「ああ、お前達も早く新型ユニットを実戦投入したいだろう?模擬戦はそれを早めるためにはまぁ…必要な措置と言えるだろう。ちなみに、既に必要な物資等は移動準備が完了している。後は私達の準備が終われば即出発だ。さて…何か質問はあるか?」
「はいは~い!!」
江藤の言葉にいち早く手を上げたのは智子であった。この際新型ユニットをめいいっぱい動かせるのであれば模擬戦でも良いのであろう、先ほど武子に窘められた事も忘れたのかまたテンションが上がり気味である。
「それで、相手は何処の部隊の子達なんですか?陸?それとも海??」
「ん、まあ当然の疑問だな。だがその事については……杉山少尉、頼む」
江藤に話を振られ、おっかなびっくりと晶は一歩前へ出た。
「はっ…はい……え~と…ですね、今回皆さんが模擬戦をしていただく相手は独立第十戦隊です。ご存知ですか?」
晶の口から出た部隊名に、智子達4人は首を傾げる。その空気を察してか、すぐさま晶は補足説明に入った。
「独立第十戦隊と言うのは、藤井始大佐率いるウィザードのみで構成された特殊部隊ですね。ちなみに、今回貴女達にテストして頂いてるキ27、中島、九七式戦闘脚をあちらの部隊も使用しています。本来ならこのまま二部隊別々から送られたデータを下にこのユニットの採用を検討する予定だったのですが……色々と上の意向が重なり…今回合同訓練をしていただく事になりました」
そう言いつつ、「はぁ」と溜め息を付く晶。口に出す勇気は無いようだが、今回の急な要請には納得しかねているようだ。そんな晶の心情はつゆ知らず、智子達の間には動揺が走っていた。
「えっ…ウィザードってあの?そもそもその人達ちゃんと空飛べるの??」
ウィザードと聞いて、明らかに肩を落す智子。それもそのはずである。この時代においてウィザードの認知度はほぼ無く、戦場で活躍できるだけの実力を持つウィザードなどほんの一握りの存在である。智子も軍に居る間に陸軍の中にも男で魔法力を持つ者が存在すると言う話は聞いた事があったし、それらしき軍人が施設の廊下を歩いているのを何度か見た事もある。しかしその者達が戦場に出ていると言う話は聞いた事が無く、そもそもユニットを穿いて飛行訓練をしている所すらも見たことが無いありまさなのだ。
「確かウィザードって飛行適正がある子でもシールドを張れるだけの魔法力すら無い子が殆どって話でしょ?……う~ん……」
そう呟きつつ、険しい表情になる圭子。最悪飛べるなら模擬戦をする事も可能であろう。しかしもう何度も戦場で怪異達と死に物狂いの戦いを繰り広げている自分達と飛ぶのが精一杯なウィザード達とでまともな模擬戦になるのかと、口には出さないもののその目が訴えていた。
「貴女達ねぇ…相手が誰かなんて関係ないでしょ?それが任務なんだから、ちゃんとこなすまでよ」
「ん…フジの言うとおりだな、それにウィザードがどんなものか…この機会に見極めるのも面白いんじゃないか?」
そんな二人を見て苦い顔をしつつ任務と割り切って居る武子と、前情報を気にする事無く今回の模擬戦を楽しむ心積もりの綾香。4人の任務に対するモチベーションは真っ二つに割れていた。そんな空気を察してか、晶はおずおずと引っ込んでしまう。そんな空気を吹き飛ばしたのは江藤の一言であった。
「お前達の考えている事はまぁ…分からんでもない、だがこれが上から来た命令である以上私達のする事は一つだけだ。彼らと模擬戦をし…そして勝て!」
その気迫に様々な表情をしていた智子達も真剣な表情となり、様子を伺っていた晶もホッと胸をなでおろす。
「…よし、では早速準備に取り掛かるぞ。出発はヒトフタマルマル、恐らく向こうには1週間近く滞在する事になるだろう。各自それを想定して準備に当たるように、以上だ」
説明を終えブリーフィングルームを出て行く江藤。傍に控えて居た晶もそれに付いて部屋を出て行く。残された4人もまた次々と部屋を出て行き、各々に割当てられた部屋で準備を始めた。
「はぁ……なんでこんな事になっちゃったのかしら。模擬戦をするにしてももう少しマシな相手を選んで欲しいわ」
そう呟きつつ、慣れた手つきで荷物を纏めて行く智子。怪異との戦いが始まってからというもの、任務の為基地から基地を転々とする事が度々あった彼女達にとってこういった荷造りは慣れた物であった。軍服、飛行服、寝巻き用の綿入れ半纏、後はトレーニング用の木刀に換え用のズボン等々…必要最低限必要な物のみがカバンへと詰め込まれていく。
「ふぅ、まあこんな所かしら……?あれは…」
大凡必要そうな荷物をカバンに詰め込み終えた智子がふと窓の外を見ると、そこには圭子と綾香の姿があった。二人とも何やら真剣な表情をしており何かを話し込んでいる様子である。その様子が気になった智子が近づき窓を開けようとすると ―コンコン― と扉をノックする音が響く。2人の事が気になった智子であったが、訪問者を迎えるべく声を掛ける。
「はーい。鍵なら開いてるわよ、どちら様?」
智子の声を受け、ガチャリと扉が開く。そして部屋に入ってきたのは武子だった。
「私よ、こっちも準備が終わったから様子を見に来たんだけど…取り越し苦労だったみたいね」
粗方の荷物を纏め終えた智子を見て、苦笑する武子。
「まあね、流石にこう何度も引越し続きだと慣れちゃうわよ~。それに今回はまたここに戻ってくる訳だし、尚更ね」
武子に笑顔で返しつつ、智子はチラッと窓の外を眺める。しかしそこにはもう二人の姿は無かった。一体何の話をしてたんだろう…と智子の心に小さな疑問が残る。
「智子…どうかしたの?」
そんな智子の様子を察してか、心配そうに見つめる武子。あわてて「なんでもないっ!」と返す智子だが、武子にはその顔がぎこちなく映った。その理由に心当たりがあったのか、先程とは一転怪訝な表情を浮かべながら智子に詰め寄る武子。
「はぁ……貴女ねぇ、まだ相手が
武子の剣幕にたじろぐ智子。
「えっ!?あっ…いや…別にそう言う訳……でもあるけど…」
何とか否定しようとするも、その指摘もまたあながち間違いではないので言葉を濁す結果となった。ジト目でこちらを見る武子に目を合わす事もできない。項垂れた様子の智子を見て武子は「はぁ…」と溜息を一息付くと、言葉を続けた。
「…そりゃ私だって不安な部分はあるわよ、その人達の錬度がどの程度までなのかも一切分からないわけだし…けど、その部隊を率いてる藤井始って人の名前は聞いた事があるわ」
「えっ…その人知ってるの武子??」
意外な武子の言葉に驚く智子。
「ええ、と言っても噂程度だけどね。なんでもウィザードにしてはかなりの魔法力を持ってるみたいよ。、しかも江藤隊長みたいに海外支援を受けてネウロイと戦闘をした事があるとか」
「へぇ~…じゃあ少なくとも私たち位の魔法力はあったって事?ふ~ん♪」
ウィザードの中にもそれなりの実力を持った者が分かって明らかに上機嫌になる智子。今は魔法力を使っていないため見ることが出来ないが、使っていればその尻尾はブンブンと振られていた事であろう。その様子が容易に想像できたのか、武子の顔にも自然と笑みがこぼれる。
「…って、何で笑ってるの武子?」
何故笑われているのか理解できず、キョトンとした顔をする智子。「なんでもないわよ」と武子に誤魔化され、イマイチ腑に落ちない様子であるが話は続いていく。
「けど、その時に受けた傷の所為で実戦を退いたそうよ。今では昔の経験を生かして戦闘教官をしてるって聞いてるわ。とても厳しい人らしくて、付いたあだ名が達磨の鬼教官……」
「えっ…?」
「達磨の鬼教官」その一言に反応する智子。何処かで聞いた事がある気のする言葉だが、何処で聞いたかはどうにも思い出す事が出来ない。
「あら…貴女も何処かで聞いた事あったの、藤井大佐の事?」
「う~ん…何処かで聞いた事ある気がするんだけど……その達磨の鬼教官ってあだ名。…まあでも思い出せそうに無いししょうがないわ」
しばらく考え込んでいた智子だったが、思い出せない物は仕方が無いと割りる事にした。その後武子と他愛の無い会話を続けている内に集合時間まじかとなり、二人は荷物を纏め部屋を後にした。
そして江藤敏子、穴拭智子、加藤武子、加東圭子、黒江綾香、杉山晶の6名は現在独立第十戦隊が駐屯する基地へと移動を開始した。その先に待つウィザード達への期待と不安を胸に。
――扶桑陸軍独立第十戦隊駐屯基地―― 訓練用グラウンド
「ジョー!お~い!!ったく…こんな所に居たのかよ…」
だだっ広いグラウンドを一人の少年が走っている。一般的な扶桑陸軍の軍服を着たその少年は、どうやらグラウンドの隅で仰向けになって空を眺めている少年を呼んでいるようだ。
「……?」
ジョーと呼ばれたその少年は、走ってくるその少年を一瞥すると興味を無くした様にまた空を眺め始めた。その態度に怒りを覚えたのか先ほどよりも一段と速さを増した少年は………そのまま仰向けになっている少年にとび蹴りをかました。
「かはっ!?……何を……する?」
「何を?じゃねえよこの不良軍人がっ!!テメェ今オレを無視しやがっただろっ!?あぁっ!?」
とび蹴りがクリーンヒットした後、息も絶え絶えに言葉を紡ぐ仰向け少年。どうやらダメージは相当なようだ。しかしそのまま胸倉を掴まれ、無理やり引き上げられた。何とかこの状態を打開しようと言葉を紡ぐ。
「別に…無視はしていない。唯めんどくさそうだったから……」
「……殺す」
しかしその言葉は火に油だった。怒りで我を忘れたマジ切れ少年と何とか呼吸を整えた仰向け少年のバトルが始まって数分後。遅れてやってきた2人の少年に何とかマジ切れ少年を引き剥がして貰った頃には二人ともボロボロな状態だった。
傍から見れば何処にでも居る中学生に見える彼ら、しかし彼らは普通の中学生ではなかった。生まれつき魔法力を持ち、異形の怪物ネウロイと戦うべく日々訓練を積む彼らの事を軍ではウィザードと呼称する。
「ったく…もうすぐお客さんが来るから態々迎えに来てやったって言うのによ~……」
ブツブツ呟きつつまだ怒りが収まらぬと言った少年。乱雑に切られた髪に鋭い眼光、身長も4人の中で一番高くとても威圧的な印象を受ける彼の名は稲垣勝夜。
「ふむ、お主の言いたい事も分かるがここで喧嘩をしてしまっては本末転倒であろう?客を前に生傷をこさえていては格好も付くまいよ」
そんな勝夜を嗜める遅れやってきた二人の少年の内の一人。完全に剃りあげた頭、痩せ型だが4人の中でも勝也に次いで2番目に高い身長。その着こんだ軍服よりも袈裟が似合いそうな彼の名は如月一馬
「まあまあ…ジョーも悪気があった訳じゃないよね?……ね~…?ほら、ジョーもちゃんと謝ろうよ!」
一馬と共に怒り収まらぬ勝夜を宥め様とあたふたしている遅れてやって来た少年の内の一人。キチっと短く切り揃えられた髪にややたれ目の瞳、身長は4人の中で2番目に低く気の弱そうな印象を受ける彼の名は宮川春樹。
「……悪かった」
そして口では謝りつつもその顔からは一切の誠意が感じられない少年。特に特徴が無いのが特徴と言った感じの平凡的な容姿、但しその身長は4人の中で一番低く下手をすれば小学生に間違えられそうな彼の名は上尾譲治。
「てめぇ……第2ラウンド始めてぇならさっさと言えや!何時でも乗ったるぞコラッ!!」
譲治の態度にヒートアップしていく勝夜。涼しい顔をしつつ少々距離を取る譲治。まさに一触即発と言った空気の中、その空気を破ったのはまるで地が裂かれんばかりの怒声だった。
「貴様らァァ!!!!何をやっとるかッッッッ!!!」
その怒涛に驚きすくみあがる3人。たった1人一馬だけは近づきつつあるその存在に気づいていたのか耳を塞ぎつつもこの後に起こるであろう事に備え身構えていた。そして怒声の主は一歩、また一歩とゆっくり譲治達の傍まで近寄り……一人一人を強烈な張り手で叩き倒した。
『ッッッッ!!』
強烈な張り手により倒れこんだ4人、しかし傷を確かめるよりも早く立ち上がり直立不動で姿勢を正す。そこに先ほどの様な空気は無くあるのは毎日の訓練で身に染みた軍人の顔……ではなく、目の前の男に対する恐怖がそうさせていた。
突如現れたこの人物こそが藤井始、独立第十戦隊を束ねる隊長でありこの4人の直属上官である。風貌は一般的な扶桑男性より頭一つ分ほど高く、とてもガッチリした体格も合わせて常に周りに緊張感を漂わせている。そして何よりもその目はまるで鷹を想像させるほど鋭く、一度でも睨まれた者は恐怖でその場に立ち尽くしてしまうだろう。
「何やら騒いでいたようだが、貴様等ここで何をしていた?」
有無を言わさぬ
どちらにせよ地獄…その事実が4人の口を固く閉じさせる。周囲を包み込む静寂、強まる緊張感…その苦痛に4人が耐え切れなくなりそうな瀬戸際、先に口を開いたのは藤井であった。
「…まあいい、普段ならとことん問い詰める所ではあるが今は時間が惜しい」
藤井の言葉に4人は自分達が助かったのだという事実を何とか認識する事が出来た。それと同時に緊張が解れた為か張り手を受けた頬がジンジンと痛み出す。しかし頬を押さえたり姿勢を崩す事は許されない、何故ならば自分達の一挙手一投足がまたいつ地雷を踏み抜くか分からないためである。
「…隊長、時間が惜しいという事はそろそろ客人がこちらに来るという事でしょうか?」
未だ重苦しい空気の中勝夜が話題を変えようと藤井に質問を投げかける。対して藤井の表情は厳しいままであったが、淡々と質問には答えていく。
「そのはずだ、道中何かしらのトラブルでもない限り後1~2時間ほどで到着するだろう。事前に伝えたとおり明日から合同訓練を行い、最終日に彼女達とこちらから選抜した4人とで模擬戦を行う予定だ。……そして、その4人は貴様等で行こうと考えている」
そう言って4人を見据える藤井。その目には先ほどと同じ鷹の様な威圧感と共に4人に対する信頼感を感じる事が出来た。その言葉に、先程まで大人しかった彼らに再び火が灯る。
「任せてください隊長!オレが全員叩き落してやりますよ!」
藤井の信頼を感じ、テンションの上がる勝夜。
「こんな機会はまぁ、中々無いですからな。ウィッチの実力、勉強させて貰いましょう」
静かに笑みを浮かべつつ、まだ見ぬウィッチ達との模擬戦を糧と考える一馬。
「隊長の期待に……応えてみせます!」
ウィッチ達との模擬戦に不安を覚えつつも、掛けられた期待に懸命に応えようとする春樹。
「……やれる事はやりますよ」
少々の沈黙を置いて、表情を変えず唯淡々と返す譲治。
4人の反応は様々だが、模擬戦に対してはノリ気の様だ。その言葉に満足したのか、藤井の表情も緩み小さく笑みを浮かべた。
「うむ、しかしこれはあくまで訓練だ。我々の敵は
最後に陸軍式の敬礼を返し藤井は去っていく。残された4人は直立不動のまま藤井が見えなくなるのを確認し、宿舎へと向かっていく。
「へっ……やっとウィッチと本格的な実戦をするチャンスが巡ってきた訳だ。これでオレ達の実力が証明出来るぜ」
宿舎に戻る帰路の途中、高まるテンションを抑えきれず腕を鳴らす勝夜。何故ならば長年ウィッチとウィザードの格差に晒されて来た彼は、人一倍ウィッチとの模擬戦を望んできたのだ。確かに魔力量の多さではウィッチ達に数歩劣るかもしれないが、空戦技術を只管磨いてきた自分であればウィッチと互角以上の戦いが出来るはず。ならば実際に戦ってウィザードはここまで出来るのだという事を世界に知らしめたい、それが彼の目標であった。
「しかし、先程隊長も言ってた様に目標を謝るなよ?我等の敵はウィッチでは無いのだからな」
それを後ろから嗜める一馬。勝夜の気持ちをよく理解している一馬ではあるが、ウィッチを倒す事のみに集中してしまっては本末転倒である。あくまで彼女達は仲間、なればこそこの機会に彼女達と交流を深めるのも一興と考えた一馬であったが、今の勝夜には言っても無意味と判断し心に留めて置く。
「そうだね、今の勝夜だとウィッチの人達が来た瞬間に飛び掛っちゃいそうだし…」
いかにも不安げな顔で呟く春樹。それを察してか「いざとなれば全員で抑えかかれば良かろうと」一馬は春樹の肩を叩きつつ、その時が来ない事を祈るがなとひとりごちる。
「ったく…流石のオレでも会って早々飛び掛るかよ」
対して勝夜は、口ではそう言いつつも明らかに二人から目を反らす。ジト目を返す一馬と春樹。そんな彼らを見つつ譲治は一言呟いた
「やれやれ…」
刻々と迫ってくるウィッチ達との模擬戦。それに対し様々な思いを浮かべつつ、彼らは宿舎へと戻っていった。