アナザーストライクウィッチーズ   作:バサル

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第6話 それぞれの出会い

「…流石に寝付けないな」

 

 

 そう呟きつつ、黒江綾香は自分に宛がわれたベットからゆっくりと体を起こす。時刻は丁度深夜を回った頃だろうか、周りを見渡すと智子達は既に自分達のベットの上で寝息を立てている。

 

 明日から始まる訓練に備え、自分もさっさと寝るのが正解なのだろうが眠れないものは仕方がない。そう思考を切り替え綾香は仲間達を起こさぬ様静かにベットを降り立ち上がった。

 

 

「少し外を散「…流石に寝付けないな」

 

 

 そう呟きつつ、黒江綾香は自分に宛がわれたベットからゆっくりと体を起こす。時刻は丁度深夜を回った頃だろうか、周りを見渡すと智子達は既に自分達のベットの上で寝息を立てている。

 

 明日から始まる訓練に備え、自分もさっさと寝るのが正解なのだろうが眠れないものは仕方がない。そう思考を切り替え綾香は仲間達を起こさぬ様静かにベットを降り立ち上がった。

 

 

「少し外を散歩でもしてみようか、身体を動かせば眠くもなるだろう」

 

 

 よし、と行動方針を決め綾香は動き出す。そのまま部屋を出ようと考えた綾香だが、ふと今の自分の姿を確認し立ち止まる。幾ら深夜とは言えここは軍事基地なのだ。外には少なからず活動している者も居るだろう。流石に寝巻き代わりのズボン姿では格好が付かない、されど何時もの戦闘服を着るのも億劫である。

 

 しばらく思案した後、適当な上着を一枚羽織り綾香は部屋を出て行った。部屋を出る前に自分が寝付けなくなった原因にささやか(・・・・)な仕返しをして。

 

 

 

 建物から外に出てしばらく綾香はブラブラと歩き続けた。幾ら軍事基地とはいえ内地よりの為か、外を出歩く人間の姿はほとんど無い。唯少し先に見える格納庫の方では明かりがチラチラ見える為、恐らく整備兵達がこの時間でも頑張っているのだろう。少々興味があるが仕事を邪魔する訳にもいかないと諦め綾香は再び歩きだす。すると前方の草むらに人影を見つけた。どうしたものか考えた綾香だが、他にすることも無いのでその人物を少し観察する事にし、人影の方へと歩いていく。

 

 近くに街灯のような光源は無いが、月明かりのお陰で大よその姿は確認できる。どうやら背格好から見るに男性の様だが、ここの兵士だろうか?草原にどっしりと腰を下ろし、しきりに空を眺めつつ右手に持った何かを口元へと運んでいる。その行動を踏まえ、思い当たる事は…

 

 

「もしかして…酒でも飲んでるのか?」

 

 

 飲酒可能時間が厳密に決められている海軍と違い陸軍の兵士が飲酒しているのはそう珍しくも無いが、態々こんな時間に外でと言うことは相当物好きな人物なのだろうと結論づける綾香。そしてこの男性に少し興味が湧く。

 

 折角なので声を掛けて見ようと近づいて行くと、向こうもこちらの気配に気づいたのかこちらを振り向いた。遠目からでは分からなかったが、どうやらこの男性は思ったより年が若い様だ。恐らくは自分より少し上ぐらいか?等と綾香が考えていると、男性から声を掛けられる。

 

 

「ふむ…ウィッチがこんな夜中に出歩くとは少々物騒よな。どうされた?」

 

「ああ…邪魔をしてしまったかな?どうにも寝付けなかったから散歩してたんだが…」

 

「なるほど、それは難儀だな。かく言うオレもそのクチな訳だが…随分と美しいものが視えたのでな。先に陣取って楽しんでいる所だ」

 

 

 その言葉にふと彼が先ほどまで見ていた空を見上げる綾香。あまり気にしていなかったが確かに空には綺麗な月が浮かんでいる、恐らく満月だろう。

 

 綾香がしばらく月を眺めていると、男性は何かを綾香に投げて寄越してきた。お猪口である。綾香はそれをキャッチしつつ男性を見ると、男性は元からお猪口を二つ持っていたようで、先ほどから持っていた方のお猪口に酒を注ぎつつ口へと運ぶ。

 

 

「折角の月だ、シラフではつまらんだろう?」

 

 

 酒の入った徳利を突き出し、心底愉快そうに笑う男性。落ち着き払った印象を受けるが、その笑顔は年相応で無邪気な少年の様だ。その様子に少々毒気を抜かれた綾香であったが、直ぐに表情を崩し男性の真横に腰を下ろす。

 

 

「それじゃあ少し付き合わせてもらおうかな、けど君も未成年だろう?」

 

「何、軍人に子供も大人も関係なかろう。戦場に身を置くのだ…何時死ぬかも分からん中、それぐらいの自由は仏も許されよう。そら…」

 

 

 男性がお猪口に酒が注ぐ。綾香はやれやれと言った表情でそれを受け、2人は軽くお猪口を交わした。次いで男性が綾香に声をかける。

 

 

「さて…そういえば自己紹介がまだだったな。オレは独立第十戦隊所属、如月一馬と言う」

 

「!……私は 飛行第1戦隊所属 黒江綾香だ」

 

 

 独立第十戦隊、その名前はここに来るまでに何度も聞いた合同訓練を受ける部隊の名前である。つまり彼はウィザードなのだろう。そう考えつつ綾香は酒に口をつけた。酒を飲んだ事はそう多くないが、これは今まで飲んだ物より特別飲みやすい。恐らく中々良い酒なのだろう。

 

 

「黒江…綾香か、良い名前だな。では黒江と呼ばせて貰っても構わないか?」

 

「ああ、なら私は如月と呼ばせてもらうぞ」

 

「うむ、なんなら苗字で無く名前で呼んで貰っても構わんぞ。友は皆名前で呼ぶ…まあ初対面の女子に言う事では無いだろうが…」

 

 

 そう言って楽しそうに笑みを浮かべる一馬。酔っ払いの戯言と流されると思っていたのか、しかし相手は黒江綾香である。「そうか、そっちの方が呼びやすくて良いな」と笑顔で答えた。対する一馬はその言葉がよっぽど予想外だったのか呆気にとられた表情で綾香を見つめている。

 

 

「なら改めてよろしく頼むぞ一馬。……どうした?」

 

 

 呆気に取られている一馬を見て、綾香が首をかしげる。

 

 

「いや…お主は面白い女子だな、黒江」

 

「そうか?それと、私の事は綾香で良いぞ?こっちが名前で呼ぶんだからそうじゃないと不公平だろう」

 

「クッ…そうか、そうだな…こちらこそよろしく頼むぞ、綾香」

 

 

 そこから暫くの間、2人は色々な事を語り合った。自分の生まれ、軍に入った理由、そして仲間達の事…酒も入っている所為かはたまた綾香の人柄の為せる業か、会話はどんどん弾んでいく。

 

 気づけば2時間ほど経っていた。流石にこれ以上起きていては明日に響くので酒盛りを切り上げ部屋に戻ろうと考える綾香であったが、ふと一馬が呟いた。

 

 

「なあ綾香…お主は運命という物を信じるか?」

 

「?…いきなりどうしたんだ一馬。酔ってるのか?」

 

 

 突然の言葉に茶化しながら一馬の顔を見る綾香。しかしそこには先ほどまでとは違い唯々真剣な眼差しの一馬の顔があった。

 

 

「オレはな、あると思っておるのだ。そしてそれを乗り越えたい……そう、ずっと思ってきた。抗いもした、しかし……それを超える事はあまりにも難しい」

 

 

 月を見上げながらそう語る一馬。その表情は笑っている様で泣いている様で、その心中までは窺い知る事が出来ない。綾香が先ほどとは違う真剣な雰囲気に少し考え込みながら、一馬に告げる。

 

 

「私はあまり運命とかそういう言葉は好きじゃない、だから信じない」

 

 

 そう言って綾香は立ち上がる。対して一馬は綾香の言葉に「そうか…」と一言返し、お猪口に残った酒を飲み干す。少しの間目を伏せ静かにその場から立ち去ろうとする一馬であったが、次いで綾香は語り続ける。

 

 

「だってそんな言葉で一括りにしてしまったらつまらないだろう?運命なんて唯の方便さ。私達の行く先は変わり続ける…私達が進み続ける間はな」

 

 

 その言葉に、立ち去ろうとしていた一馬の足は完全に止まる。

 

 

「進み…続ける?」

 

 

 振り返る一馬。そこには月の光に照らされつつ、真っ直ぐと一馬を見つめる綾香の姿があった。

 

 

「ああ、少なくとも一馬…お前はまだ進み続けてるんだろう?お前がどんな物に抗ってるのかは知らないが、進み続けてる限り乗り越えれる可能性は潰える事は無い。私はそう思うぞ?」

 

 

 言うべき事を言い、満足そうに頷く綾香。対して一馬はまるでその言葉を噛み締めるように目を伏せる。しばし続く静寂…その静寂を破ったのは一馬だった。

 

 

「そう…だな、いや……お主の言う通りだ綾香。オレとした事が弱気になったものだな……クックック…ならば最後まで足掻いてやろうではないか」

 

 

 目を開け、呟く一馬の表情は最初に見せた少年の様な屈託の無い笑顔だった。その顔を見て、綾香の表情も自然と緩んでいく。

 

 

「ふふっ…良い笑顔じゃないか一馬。その様子なら迷いは吹っ切れたみたいだな」

 

「さて…どうかな、しかし礼を言うぞ綾香。そして……」

 

「……?」

 

 

 一馬が最後に言った言葉が聞き取れなかったのか、思わず首をかしげる綾香。

 

 

「なあ一馬、今何を……」

 

「いや、唯の戯言だ気にするな。それより明日も早い…今日はこの辺りにしておくとしよう」

 

「むっ……」

 

 

 問いをはぐらかされ綾香は納得のいかない様子だったが、そんな綾香に苦笑しながら一馬は宿舎の方へと歩いていく。

 

 

「ではな綾香、お主と酒を交わせたこの一刻はとても有意義な時間だったぞ。」

 

 

 最後に一度振り返り、一言述べて一馬は今度こそ夜の闇へと消えていった。綾香はその姿が消えるまで見守りつつ、ため息をつく。

 

 

「やれやれ、妙な奴だったけど悪い奴じゃ無さそうだな。それに…」

 

 

 如月一馬…どうにも掴みづらい人物であったが、そんな彼が時折見せた神妙な顔が綾香の中でどうにも引っかかった。先ほどの問いといい、何か途轍もなく重い物を背負っているのか。虫達の声が響く草むらで、綾香はしばらく思いを馳せ……自分もまた宿舎へと歩き出した。

 

 

 

 余談であるが、次の日の朝。颯爽と起きて早朝ランニングを行っていた智子はすれ違った人物が何故か自分の顔を見てクスクスと笑っている事に気づく。その事を不審に思いつつもランニングを切り上げ汗を流す為にシャワー室へと向かい…智子の絶叫が周囲に木霊した。額にマジックで書かれた「おてんばウィッチ」の文字に気づいて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後、施設内の食堂にて

 

 

 

「う~………っ」

 

「……♪」

 

 

 智子が机に突っ伏していた。何やら機嫌が悪いらしく、唸りながら対面に座っている武子の顔をじぃ~っと見つめている。対して武子がそんな智子の様子を気にする事無く満面の笑みで昼食を堪能していた。メニューは陸軍式カツレツ定食炊事兵の腕がよほど良かったのか初日から昼食にこれを頼むのが武子の密かな楽しみとなっている。ちなみに綾香と圭子は晶と一緒に格納庫へと行っており、なにやらキューナナユニットについて色々晶に質問しているらしい。

 

 

「も~…なんなのよ~~っ」

 

 

 そうこうしている内に智子の機嫌はどんどん悪くなっていき、遂には机の上で両腕をパタパタさせながら武子に不機嫌さを訴える。休憩時間がウィッチとウィザードでは異なる為食堂はかなり空いているが、それでも何人かが席について昼食を取っている。ちなみにウィッチとウィザードの休憩時間が違うのは、医務室での件を考慮した結果である。しかしこの基地で珍しいウィッチが騒いでいるとなれば段々と周りの目が痛くなってくる。武子は大きな溜め息を一つ付いて智子を見据えた。彼女の楽しい昼食タイムは此処で終了である。

 

 

「で、貴女は何でそんなにムクれているのよ智子?」

 

 

 「大体の察しは着くけど」という言葉は飲み込み、智子に問いかける武子。対する智子はやっと話を聞いてくれる気になったのが嬉しかったのか、パッと笑顔になるがその胸に秘めた鬱憤が大きすぎたのかその笑顔もすぐに曇ってしまう。

 

 

「だって……分かるでしょ?ここ数日ここで男達(ウィザード)と一緒に訓練してみて嫌ってほど」

 

「はぁ…やっぱりその事なのね」

 

「アイツ等…やっぱり全然ダメじゃないっ」

 

 

 再び机に突っ伏し、声を上げる智子。そう、こうして智子が突っ伏し項垂れているのは訓練相手のウィザード達に原因があった。端的に言えば彼等の錬度は全然なっていなかったのである。

 

 訓練初日は智子もこれほど項垂れてはいなかった。宣言通り藤井の訓練の厳しさは想像を超えており、普段江藤に扱かれている彼女達でもかなりキツイ物であった。このメニューを毎日こなし、今まで逃げだしていない彼らを当初智子は尊敬していたほどである。但しそれも飛行訓練になるまでであった。

 

 一応ちゃんと空は飛べるようだがその動きは明らかにぎこちない。極めつけはウィザード達の半数近くがロクにシールドを扱えないほど魔法力が低いのである。中には数名動ける者も居るがそれでも自分達に敵う者は居ない、それがこの数日で智子が彼らに下した評価だった。

 

 

「はぁ~……どうせなら藤井教官と模擬戦出来れば良いのに…」

 

「馬鹿言ってるんじゃないわよ、今は実戦を退いてるって言っても相手は歴戦のウィザードよ?流石に今の私達じゃまだ太刀打ち出来ないわよ」

 

「そんなのやってみなきゃ分かんないでしょ?少なくともアイツらと模擬戦するよりよっぽど有意義そうだしね。満足に動けない上にシールドすら張れないんじゃ実戦に出たって…」

 

「ほ~…言ってくれるじゃねえか、おてんばウィッチ!!」

 

 

 突然乱入してきた声に驚き、2人は声の方を見る。そこには一見まるでチンピラの様な男が立っていた。乱雑に切られた髪に鋭い眼光、先ほどから話題に出ていたウィザードの一人稲垣勝夜である。どうやら智子のグチを聞いていたようで、額には明らかに青筋が立っていた。

 

 

「少なくともオレはテメェ何ぞに負けたりしねえよ!やる前から勝手に見下してんじゃねぇ!!」

 

「っ!?やっ…やらなくたって分かりきってるわよ!それとおてんばウィッチって言うなぁ~!!」

 

「はいはい、2人とも食堂では静かにね…」

 

 

 どんどんヒートアップしていく勝夜に対して、智子は顔を真っ赤にして反論していく。武子は一応仲裁の言葉を入れるものの、半分諦めているのか何処か投げやりである。どうやら智子のあだ名は「おてんばウィッチ」でウィザードの間に浸透しているらしい。最も面と向かって彼女をそう呼んでくる猛者は彼以外居ない。

 

 

「はっ…確かにオレ達の大半は実戦経験のねえ新兵同然の奴等がほとんどだけどよ、中には例外も居るぜ!例えば…オレとかな」

 

「あら、稲垣君空戦の経験があるのかしら?」

 

 

 今の発言に興味を持ったのか、武子が勝夜に問いかける。その問いに対して勝夜は「おうよ!」と自信満々に頷いて見せた。

 

 

「怪異撃墜経験だってあるぜ。ここはかなり内地寄りだけど、時偶周囲の基地から応援要請があったりするからな。そういう時はオレ含め数名のウィザードが選出されて応援に向かうのさ」

 

「フンッ…そんなの全然自慢にならないわよ。実戦経験の多さなら私達の方が断然上みたいだしね!」

 

 

 「フフン♪」と勝ち誇った様に胸を張る智子。

 

 

「唯出撃の機会が多かっただけだろーがっ。オレがテメェ並みに出撃してりゃその倍は落としてみせるぜ?」

 

「…言ってくれるじゃない」

 

 

 舌打ちをしつつ、その鋭い眼光で智子を睨みつける勝夜。2人は互いに一歩も引く事無く、場には重苦しい空気が流れていた。そんな中、武子はと言うと……

 

 

「はぁ…美味しい。最初からこうすれば良かったわ」

 

 

 巻き込まれぬ様、離れた位置に座りなおしてカツレツを楽しんでいた。最早自分の手には余ると判断したらしい。平和な昼食が戻ってきた事に笑みを浮かべる武子は、ふと近くに居る妙にソワソワした少年に気がついた。どうやら今にも取っ組み合いを始めそうなあの2人を見て、止めに入るかどうか迷っているらしい。そしてその少年に見覚えのある武子は声を掛ける。

 

 

「あら、貴方は確か稲垣君とよく一緒に居る……宮川君だったかしら?」

 

 

声を掛けられた春樹は、一瞬驚いた表情を見せたがすぐに武子向き直り、申し訳無さそうに一礼する。

 

 

「あっ、加藤さん……すいません。勝夜が何時もご迷惑を掛けてるみたいで…」

 

「気にしないで。毎回乗る智子も悪いんだし…それより宮川君もお昼かしら?」

 

「はい、勝夜と一緒に食べようと思って来たんですけど……」

 

 

 そういっていがみ合ってる2人に目線を送る春樹。当然ながら2人とも、和やかに昼食を取る雰囲気では無い。自然と春樹から溜め息が零れた。

 

 

「あの2人は放っておきなさい。それより、私達だけでも昼食を楽しみましょ?」

 

 

 そんな彼を察してか、武子は笑顔で対面の席を勧める。春樹は少し迷っていたようだが、持っていたカツレツのトレーを置きぎこちない笑顔を浮かべて席に着いた。

 

 

「すいません。じゃあ失礼しますね」

 

「どーぞ。それにしても此処のカツレツは美味しいわね。私はまっちゃったわ」

 

「あ、分かります。僕もここに着てからずっとこればっかりなんで。何でもこの基地の炊事兵には元料理人の人が居るらしくて、他の基地より料理の質が良いんです。此処の食事に慣れてしまうと、他の基地には行けませんよ」

 

「へぇ…道理で美味しいはずね。私の居た基地のご飯も美味しかったけど、確かにこれは恋しくなりそうだわ」

 

 

 他愛も無い話をしながら食事を楽しむ2人。最初は緊張していた春樹も自分が好きな話題が出たことからか、その笑顔も自然な物へとなっていく。気づけば20分近く話し込んでいた2人だが、そこで武子があることに気づいた。

 

 

「ふふっ…宮川君も中々……?」

 

「?…どうしたんですか、加藤さん?」

 

 

 突然怪訝な顔をした加藤に首を傾げる春樹。対する武子は素早く周囲を見渡し、一筋の冷や汗を流す。

 

 

「智子がいつの間にか消えたわ…」

 

「!……そういえば勝夜も…」

 

 

 武子の言葉に春樹の顔もみるみる青ざめていく。2人は顔を見合わせて見事に声をハモらせた。

 

 

 

「「まさか!?」」

 

 

 

 すぐさま席を立ち駆け出していく武子と春樹。あの2人から目を離した自分達を呪いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「どうした江藤?随分浮かない顔だな」

 

「!…あっ……いえ…」

 

 

 執務室にて、怪訝な顔をしている江藤に藤井は声を掛けた。対する江藤は歯切れの悪い相槌を返す。その様子に思う所があったのか、藤井は吸っていたタバコを灰皿に押し付け江藤に向き直った。

 

 

「馬鹿者が。貴様は今あの子達を率いる隊長なのだろう?それがそんな顔をしていてどうする?」

 

「…すみません」

 

 

 唯俯き、謝る江藤。その姿に何時も様な威厳や自信は何所にも無い。藤井は大きく溜め息を付くと、ポツリと呟く。

 

 

「……あの時の事は気にするなと何度も言った筈だ」

 

「!!」

 

 

 その呟きに江藤は顔を上げ、何とも言えない表情で藤井の右腕を見つめた。軍服の長袖と皮手袋で隠れているが、藤井の右腕にはとても深い傷跡が刻まれている事を江藤は知っている。言葉を紡げずにまた俯いてしまう江藤を気にする事無く、藤井は続ける。

 

 

「いいか?この傷はオレにとって誇りだ。大切な者を守り切ったという確かな実感だからな。確かに不便を感じる事が一切無いと言えば嘘になるが……オレは一切後悔はしない。今までも…そしてこれからもだ」

 

 

 はっきりと告げ、ゆっくりと江藤の前に近づいてくる藤井。

 

 

「ですがっ!!…私があの時……深追いをしなければ…っ!?」

 

 

 対して搾り出すように言葉を紡ぎ、顔を上げた江藤の目に飛び込んできたのは……まるで石の様に堅い右腕。藤井のゲンコツだった。

 

 

―――ドスンッッッ―――

 

 

 強烈な一撃が江藤の頭上に落ちる。突然の事に何が起こったのか理解できず、目を白黒させる江藤。自分が藤井にゲンコツを落とされたと気づくまで数秒。

 

 

「なっ…なななななな!?何をするんですか隊長!?」

 

 

 あまりにも強烈な痛みに、涙目で訴える江藤。しかし藤井はそれを意に介するつもりは無い。

 

 

「フン…府抜けた貴様に喝を入れてやったまでよ。そもそも江藤!今回の件、幾ら荒木の頼みとはいえ断る事は出来たはず!それをこうしてオレの前に姿を現したということは、貴様も何かしらの踏ん切りをつけるという想いがあったのではないか!?」

 

「!…それは……」

 

「…もう一撃必要か?」

 

 

 また歯切れの悪い返事をしようとする江藤に藤井の目が光る。それを察して江藤はすぐさま姿勢を正し、はっきりとした口調で話しだした。

 

 

「はっ…はい。その通りです!私は隊長からもう目を背けたくなくて…例え貴方に恨まれていても、ちゃんと正面から向かい合おうと此処に着ました」

 

「…それで良い。もう過去の事は気にするな江藤。それにこの右腕とて使えなくなった訳じゃない。こうして貴様に喝を入れる程度造作も無いぞ」

 

 

 右手を握り締めつつ不敵に笑ってみせる藤井。そんな姿を見て江藤は自分の頭部の痛みと共に、昔の事を思い出す。まだウィッチとしては未熟だった自分をずっと鍛え、守ってくれた。自分の所為で右腕に一生消えぬ傷を負ったのにも関わらず、一切責める事は無く逆に自分の事をずっと案じてくれていた彼…藤井始との思い出を。

 

 

「…敵いませんね、隊長には」

 

 

 暫しの沈黙の後、江藤は呟く。対して藤井は、口元を僅かに緩ませた。

 

 

「何、お前もまだまだこれからだろう。精進する事だな」

 

「…はい!」

 

 

 藤井の言葉にはっきり返す江藤。その顔はまだ少々ぎこちなくはあるが、清々しい表情をしていた。その表情を確認し、安堵したのか藤井は別の話題を切り出す。

 

 

「さて…貴様の憂いが晴れた所悪いが、オレからも言わなければならない事がある。今回の合同訓練…お前達に来てもらったら理由だ」

 

「!…それは私も気になっていました」

 

 

 ずっと気になっていた話に江藤の表情が変わる。結局晶からは「データをより取り易くする為」としか聞かされなかったが、前線近くで戦っていた自分達を態々こちらまで呼び出した以上、他にも何かしらの理由があるものだと思っていたのだ。

 

 

「ウチの部隊は急遽、ウィッチとの模擬戦をする必要が生まれてな。聞く所によるとお前も此処に来た初日に奴と顔を合わせたそうだな。陸軍省所属、川島義輝少将に」

 

 

 陸軍少将…それを聞いて江藤は、初日に会ったあの男を思い出した。散々悪態を付いてきたあの顔に一撃入れれなかったことは、今でも江藤の心残りの1つである。

 

 

「ならば分かると思うが、少将殿はどうにも我々魔法力を持つ物…特にウィザードが気に入らないらしい。この部隊設立当初から嫌がらせを受けていたのだが…遂に実力行使に出てきてな」

 

 

 それから藤井は語りだす。この独立第十戦隊が今抱える問題を。

 

 事の始まりは江藤達がここに到着する1週間前。今まではあれこれ口を出すだけだった川島少将が基地に視察に来るなり宣言した。曰く、ウィッチにすら劣るとされているウィザードをこの現状で悠々と育てている余裕は無い。即刻部隊を解散するべきである。しかしそれを聞いて簡単に引き下がる藤井ではない。紆余曲折あった結果、現状のウィザードでも十分にウィッチに対抗できる事を正銘できれば解散は見送るということで落ち着いたらしい。

 

 

「そこで荒木と相談した結果、候補に上がったのが江藤…お前達の部隊と言う訳だ。お前達は既に多数の戦果を上げ、陸軍の中でも評価は高い。実力を示す相手としては申し分ないと…な。少将殿には先日こちらへ訪問された時に告げたが…渋々ながら了承した」

 

「なるほど…そういうことでしたか」

 

「…部隊を存続させる為とはいえ、お前達を巻き込んでしまった事は申し訳ないと思っている」

 

 

 姿勢を正し、頭を下げる藤井。

 

 

「っ…頭をあげて下さい隊長!いえ、形はどうあれこの訓練はあの子達にも有意義な物になると思いますので。それに…隊長が現在育てられている子達にも興味があります」

 

 

 対して江藤は予想外の事に慌てながらも、彼らウィザードに対しての興味を示した。それを聞いた藤井は小さく笑みを浮かべ、自信満々に語る。

 

 

「フッ…奴等はまだまだ経験不足だが根性だけは誰にも負けんぞ。鍛えるべき道筋も見えた…後数ヶ月で、奴等を陸軍トップの精鋭に仕上げてみせる。そして…お前達にぶつける4人はオレのとっておきだ。悪いが今回の勝負、勝たせてもらうぞ?」

 

 

 それは、部下に対しての信頼の熱さを覗わせる真っ直ぐな瞳だった。決して、奴らはウィッチに後れを取ったりしない…と。その視線に対して、江藤は

 

 

「……それは此方のセリフです。ウチの部隊を選んだのは失敗だったと、後で嘆く事になっても知りませんよ隊長?」

 

 先ほど迄とは明らかに違う、自信に満ち溢れた何時もの彼女がそこにはあった。その姿を見た藤井は、心底嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

 

 

「フッ言うようになったな江藤!いや、それだけ教え子を信じてるという事か。正直最初再会した時はどうしたものかと思ったが、なるほど…立派に隊長の任をこなせとるようじゃないか。成長したな」

 

 

 そう言うと藤井は、その無骨な右手で江藤の頭を撫でる。その行為に対して江藤は顔を赤らめながらもその手を決して振りほどこうとはしなかった。しかし

 

 

「っ……私だって何時までも子供じゃありません」

 

 

 子供扱いされるのは心外だ。と言葉と視線に込める江藤。だがそんなあどけない態度こそが、子供っぽく見えるものなのだが。はたして藤井は、そんな江藤を見て唯笑い続けるのだった。

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