アレスの天秤〜伊那国雷門なんていなかった〜 作:風邪ひきたくない
クロニクルのストーリーを読むために割り切ってたけど伊那国雷門が好きになれない…
あと過去キャラも出してよ!小暮とか!塔子とか!あいつら今何してんの?
エイリア石があった方が良かったじゃん!
そんな一、イナズマイレブンに青春を捧げた人間の駄作小説です。
読んでくれてありがとう。
ピッチに立つと、空気が軽い。
星章学園は公式試合ランキング一位。全国大会出場は、もう決まっている。
――前年度優勝校が辞退した。
雷門中の全国優勝メンバーがサッカー強化委員として全国に散ったからだ。
その穴を埋める“特別枠”として、星章が呼ばれた。
正直、悪い気はしなかった。
悪い気がしないこと自体が、今日の伏線だったのだと思う。
「鬼道がいない分、まとめます」
自分の声に、チームの視線が集まる。
鬼道は強化委員として、星章を強くするために“あえて”外れている。
地区予選は鬼道無しで勝ち進む――その意図は、分かっていた。
笛。
⸻
―前半0分―
ボールは星章。落ち着いて回す。
いつも通り。そう思った瞬間、雷門の前線が来た。
FWが一枚、二枚。
MFまで距離を詰めてくる。
寄せが速い。いや、速いだけじゃない。止まらない。
「早……っ」
味方の声が漏れた。
ワンタッチで逃げても、次の瞬間にはまた目の前にいる。
後ろに下げた瞬間も、追ってくる。
普通、序盤のプレスは“勢い”だ。
数分で落ちる。
それが当たり前のはずなのに――落ちない。
実況が明るく言う。
「雷門、前線から積極的にプレス! 序盤は勢いがあります!」
勢い。
そう見えるのが普通だ。
でもこれは勢いじゃない。
速さじゃない。
数だ。
一枚かわしても二枚目がいる。
二枚目外しても三枚目がいる。
ボールを持っているのに、呼吸が詰まる。
⸻
―前半2分―
「落ち着いて剥がしましょう。下げます」
言いながら、言葉が胸に引っかかる。
まだ二分だ。下げる必要なんて、本当はない。
下げる。回す。前を見る。
出せない。
また下げる。
雷門は奪いに来ているのに、同時に“塞いで”いる。
出したい場所に、最初から立っているみたいに。
⸻
―前半4分―
汗が、妙に早い。
まだ四分。なのに喉が乾く。
時計を見る。
四分。
体感は、もう十分を過ぎている。
星章は保持する。
実況はまた言う。
「星章、落ち着いた組み立て! 保持時間も長い、優勢でしょう!」
優勢。
ボールは持っている。
――持っているだけだ。
雷門は奪うと短い。
奪った瞬間に前を向き、数手でシュートまで行く。
決まるかどうかじゃない。短い。
短いから、消耗しないように見える。
こっちは長い。
長いほど脚に来る。
なのに時間は進まない。
⸻
―前半8分―
前線プレスが、まだ落ちない。
雷門のFWが走る。MFも走る。追うのをやめない。
「まだ来ますか……」
誰かが掠れ声で言う。
自分も同じ気持ちだ。
普通なら、回していれば相手が走る。
走れば相手が落ちる。
落ちれば試合がこっちのテンポになる。
ならない。
相手は落ちない。
むしろ、こちらが落ちる。
⸻
―前半10分―
空気を変える。短く終わらせる。
必殺だ。
「――行きます!」
「皇帝ペンギン2号!」
ペンギンが跳ぶ。
決まる。そういう手応えがある。
そのはずなのに。
目の前に壁が立った。
「ザ・タワー!」
雷門のDF――財前。
シュートコースに、最初からいたみたいに立っている。
弾かれたボールは、雷門GKの手の中。
派手に跳ばない。構えて、普通に受けて、普通に抱える。
……取られた。
雷門はすぐ終わらせに来る。
奪ったら短い。
戻る。並び直す。
その間にも、雷門の前線が走っている。
⸻
―前半12分―
回す。下げる。回す。
前がない。
「一回、下げます!」
言葉にするたびに、胸がざらつく。
下げることが正解なのに、下げるほど苦しくなる。
⸻
―前半14分―
コースを変える。タイミングを変える。
今度こそ。
必殺の声が上がる。
――また、そこだ。
「旋風陣!」
小暮。
軽いはずの動きが、軽いままコースに入ってくる。
当たり前みたいに、そこにいる。
「……また、そこですか」
自分の声が硬い。
GKはまた普通に抱える。
そして淡々と指示を飛ばす。
「戻れ! 次、来るぞ!」
次。
必殺を撃った後に“次”って何だ。
⸻
―前半16分―
脚が重い。
まだ十六分。なのに息が熱い。
時間が進んでいない。
進んでいるのは脚だけだ。
雷門の前線プレスが、まだ来る。
前半十六分で、これか。
⸻
―前半18分―
三度目。
通せば空気が戻る。通らなければ、戻らない。
渾身。迷いを全部ボールに乗せる。
空気が切れる音がした。
「真空魔!」
飛鷹。
初心者だと聞いていた。
そのはずなのに、入り方が迷いなくて怖い。
ボールはまたGKへ。
また普通に抱えられる。
普通。
その普通が一番腹立たしい。
⸻
―前半19分―
希望を作る。
ブロックに入られる前に、一対一。
「灰崎!」
呼んだ瞬間だけ、星章の攻めが短くなる。
やっと“こちらの形”になる。
灰崎が前を向く。
雷門の守備が一瞬だけ噛み合いを外す。
飛鷹の間合いが、半歩だけ違う。
その半歩を、灰崎が踏み抜いた。
「抜けました!」
胸が跳ねる。
ここなら――決まる。
⸻
―前半20分―
灰崎が跳ぶ。
ペンギンが空を裂く。
「オーバーヘッドペンギン!」
決まる。
そう思った。
雷門GKが一歩前に出た。
慌てない。下がらない。
両手を伸ばして――普通に掴む。
……掴んだ?
時間が止まる。
耳が一瞬、聞こえなくなる。
誰かの声が、息みたいに落ちた。
「……は?」
GKは笑わない。
ボールを抱えたまま、淡々と叫ぶ。
「戻れ! 次、来るぞ!」
次。
次ってなんだ。
観客席の端に、見慣れた横顔がある。
鬼道だ。
こちらを見ていない。
ピッチだけを見ている。
口が動く。
――星章は、攻めてない。
攻めさせられてる。
背筋が冷えた。
⸻
―前半30分―
笛。
止まる。
止まった瞬間、膝が軽く震えた。
たった三十分。
……なのに体は、もう後半みたいだ。
自己満に近いので批評も受け入れます。
これからもよろしくお願いします。