もともとこの小説は一つの動画がきっかけでした。
日本語訳が字幕で出せるので、興味のある方はご覧になってください。
https://m.youtube.com/watch?v=Hkuef15pF1Q&list=RDHkuef15pF1Q&start_radio=1&pp=oAcB
―数か月がたった。
私は、気のせいだろうと思って過ごしている。
ここなら。
この世界なら、やり直せるかもしれない。
世界樹の崩壊は止まったわけではない。
ただ、延命しただけだ。
それでも。
あと数十年は持つ。
それだけの時間があれば、
何かを変えられるかもしれない。
そう思っている。
あのあと。
成り行きで知られてしまった以上、
私はエレナ様とアメリアさんに
自分が未来から来たことを打ち明けるしかなかった。
このことが、
未来にとって悪い影響にならなければいいのだけれど。
世界樹の延命は成功した。
けれど。
魔女との摩擦は、あれからも続いている。
教主様が取り持ってはいるものの、
ベリータ女王はどうしても納得していないようだった。
そして。
その妹であるエルフィン女王も、
祝賀会のあとから、どこか元気がない。
私は今も、劇場の受付で働いている。
前の世界と同じように。
成り行きとはいえ、
教主様の近くにいられる場所だ。
世界の観測も続けている。
けれど今のところ、
揺らぎの異常は見えていない。
本当なら。
これが、私の望んでいた世界のはずだった。
それなのに。
胸の奥が、どこか空っぽだ。
あまりにも多くの世界の終わりを見てきたせいかもしれない。
ここにいる人たちの姿が、
前の次元の人たちと重なって見えることがある。
そして、そのたびに思ってしまう。
――この人も、いずれ消えるのではないかと。
幸い。
教主様の恋愛模様による
世界崩壊の危機は、まだ起きていない。
それだけは、救いだった。
私はある場所に赴く。
誰もいない劇場。
客席は暗い。
私は一人、舞台に立っていた。
スクリーンにホログラムを投影する。
これまでの世界の記録。
いくつもの滅び。
ほとんどは、同じだった。
世界樹に空いた大穴。
ただ。
珍しい崩壊も混じっている。
消えない炎。大蛇の襲来。時空間の不調。
そして――
教主様がいない世界。
それが、何度も続いていた。
私は映像を止める。
静かな劇場。
今度こそ変わると思っていた。
でも。
世界は、願いを裏切ることがある。
ここは、いつも通りの崩壊だった。
世界樹に空いた大穴。
だけど、何がその穴を開けたのかは——
直接の原因は、まだわからない。
私は胸元の装置を開く。
蓋が開く。
円盤が回りだす。
ゆっくりと。
静かに。
そして――
ある方向で止まる。
51%。
私は針の先を見る。
どうやら。
この針は、教主様を指しているらしい。
この数値の意味は、まだわからない。
けれど。
これまでの観測から考えると、
その次元の「特異点」を示している可能性が高い。
エルフィン女王の世界では。
1%にも満たなかった。
もしかすると。
平和な世界ほど、この数値は小さいのかもしれない。
私はもう一度、針を見る。
51%。
静かに、動かない。
そのとき。
空気が、変わった。
劇場の静けさとは、違う。
別の、静けさ。
【――まだわからないのか?】
声。
私は顔を上げる。
劇場には、誰もいない。
【この針の先が教主を示すなら】
【やつが揺らぎの原因だ】
心臓が強く打つ。
「どういうこと?」
沈黙。
それから。
【やつがいる世界は必ず壊れる】
でも――
エルフィン女王の世界では崩壊しなかった。
数値は、低いままだった。
【それは、やつがいた期間が短かったからだろう】
【触媒は、長く留まるほど反応を強める】
そうかもしれない。
でも。
エデンにたどり着くまでは
教主様がいる時間が、一番安定していたじゃない。
【それは、これまでの話だ】
沈黙。
【お前は、エデンに着いてから変わったと思わないのか?】
どういうこと?
【……ふっ】
【いいだろう。教えてやる】
【お前は、教主がいたからこそ
世界の滅亡が免れてきたと考えていたな】
【だが同時に】
【教主が原因で滅びた世界の統計も
高かったはずだ】
【矛盾があると思わないか?】
私は言葉を失う。
【しかし】
【エデンの次元を出てから】
【その法則は意味をなさなくなった】
確かに……。
【なぜだと思う?】
沈黙。
【誰かが干渉を始めたからだ】
干渉?
【市長エレナは言っていたな】
【次元を移動した時点で
元の次元と転移先の次元に
大きな影響を与える可能性があると】
そうね。
【だからこう結論づけた】
【転移した時点で影響が起きていなければ】
【お前が干渉しても影響は軽微だ、と】
だからその理論を聞くまで私は。
なるべく世界に干渉しないようにしていた。
【だが】
【それが間違いだったら?】
……え?
【転移した時点で】
【お前は、この世界には存在しないエルフだ】
【つまり】
【この世界の世界樹に生まれた存在ではない】
...意味が分からない。
【エデンに到達するまでのお前は、装置の力のみで次元を渡ってきた。】
【だが今回は違う】
【世界樹の力は、次元を超えて影響する】
【お前はどうやって次元を渡ってきた?】
……。
【前の世界の世界樹の力だ】
【他の次元の世界樹によって
存在を保証された“バグ”が】
【この世界に影響を与えない保証は
どこにある?】
劇場は静まり返っている。
【そして極めつけだ】
【お前の態度】
【今までは不干渉を貫いていた】
【だが、この世界では違う】
【お前は、干渉している】
延命装置。
箱舟。
教主様。
すべてが、脳裏に浮かぶ。
……それって。
「私が原因ってこと?」
沈黙。
なら。
私が消えれば。
すべて終わるんじゃないの?
【愚かな…】
【お前はすでに世界樹によって組み込まれている】
【消えれば次元の歪みが拡大する】
息が、止まる。
頭の中で、
何かが音を立てて崩れる。
「……どうして」
声が、震えていた。
自分でも気づかないまま。
【崩壊は——むしろ早まる】
沈黙が続く。
逃げ場が、ない。
それから。
【そして】
【数値が示す値】
針が、静かに止まっている。
私は息を止める。
51%。
【教主】
【やつこそ】
【世界を崩壊へ導く触媒だ】
心臓が大きく跳ねる。
「……証拠は?」
沈黙。
それから。
【証明してやろうか】
【やつが原因かどうか】
【簡単だ】
針が、微かに震える。
【世界を救いたいなら】
【触媒を消せ】
劇場の闇が、静かに広がる。
そのとき。
次元移動装置が、突如震えた。
甲高い警告音。
私は思わず息を呑む。
ホログラムが弾けるように立ち上がる。
赤い文字。
『System Alert』
『Critical Error』
一瞬、意味が理解できない。
私は装置を操作する。
だが――
次の表示が浮かぶ。
『World Tree Link: Lost』
息が浅くなる。
そんなはずはない。
私は震える手でログを開く。
そこには、信じられない文字が並んでいた。
『Jump Function: Disabled』
息が止まる。
「……どういうこと」
この装置は。
世界樹の力で動いている。
つまり――
世界樹側に、何かが起きている。
次元を渡る力が、消えている。
私は劇場の扉を押し開ける。
夜の空気が流れ込む。
そして。
私は立ち止まった。
空が。
揺れている。
夜空に、巨大な光が流れていた。
緑。
紫。
赤。
世界樹の枝のような光。
オーロラ。
だが、これは普通のものじゃない。
光が脈打っている。
まるで――
空そのものが裂けているみたいに。
私は揺らぎの装置を見る。
数値が消えている。
胸の奥が、嫌な予感で満ちる。
「……何かが起きている」
こういうとき。
決断する人は一人しかいない。
私は王宮へ向かって走る。
世界樹の枝を渡り。
広場を抜け。
司祭の回廊へ。
そこで。
一人の妖精を見かける。
司祭長のネルさんだった。
「……リニュアさん?」
ネルさんが私を見る。
「これはいったいどういうことですか?」
私は空を指す。
ネルさんの顔が曇る。
「わかりません。突如、妖精王国の上空であのようなものが発生して」
胸がざわつく。
「教主様はどこですか」
ネルさんは少しだけ間を置いた。
それから言う。
「魔女の王国です。」
世界が、また少しだけ軋む。
私は息を吸う。
そして言う。
「……私が行きます。」
警告音が小さくなっている。
次元移動不能。
つまり。
もう。
逃げ道はない。
私は、魔女の王国へ向かって走り出した。
完結させたら、ネルがいなくなってスピッキーがネルの代わりをするしかない世界線とか書きたい。
スピッキーを完全にネルとしか見なさなくなる教主が最終的には罪悪感で引きこもって、
スピッキーは教主のフリもしないといけなくなるとか…。
一応、冒頭は書けたか…?
https://syosetu.org/novel/408758/