落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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二年前くらいに書いた作品なので設定などなど甘いところもありますが、よければお付き合いください。


序章あるいは原作前
序章-1「親方! 空から地球外高度知的人工生命体が!」


 ――力が欲しいか?

 その声に、はっと私の目蓋が持ち上がった。目の前には見慣れた天井。窓からカーテン越しに差し込んでいるのは朝六時の朝日だ。

 先程聞こえた声は、未だにスマホからリピートされて鳴り響いている。とある漫画の有名な台詞を使った目覚ましアラーム。これで目覚めるだけで、なんだか夢見の良かった気がしてくるのだから、私は単純なやつだ。

 スマホの画面をタッチしてアラームを止めながら、私は重い体を持ち上げるように起き上がった。

 

 ◇

 

 生粋の日本人であり、現在日本で女子高生をやっている私――高村優李には、とある秘密がある。

 それは、私にいわゆる前世の記憶というものがあると言うことだ。

 転生者と言えばファンタジックな世界に生まれたり、夢小説や二次オリよろしく漫画やらアニメやらの世界に生まれたりするのがセオリーだけど、私は普通に、前世と同じ現代日本に生まれた。……と、思っていた。

 ただの現代じゃなかった。この世界、何を隠そう、前世の日本でもそこそこの知名度があったアメコミ『マーベル』シリーズ――おそらく『マーべル(M)シネマティック(C)ユニバース(U)』の世界なのだ。

 テレビで時々トニー・スタークの姿を見るから確かだ(勿論映画の宣伝とかじゃなく、スキャンダルとかスターク社についてのニュースで、だ)。初めてトニー・スタークをテレビで見た時はびっくりして五度見くらいした。

 翌日図書館で第二次大戦関連の本を読み漁ってキャプテン・アメリカについて調べた。資料写真のバッキー・バーンズ軍曹の顔がはちゃめちゃに良かった。

 確かに母方の叔父は何となく真田〇之に似ているし、名前の読みもアキヒコだけど、『エンド・ゲーム』のあの人とは思わんじゃん。

 ちなみに確認がてら無邪気に「叔父さんってお仕事何やってるの?」と聞いたら意味深な笑みと共に「ちょっと言えないこと」と返されたぞ。サマウォかな?

 まあ、何はともあれ。私は前世から今世まで、夢も腐でもなんでもござれの雑食系オタク女だ。MCUも勿論好きだったし、推しと同じ星の空気吸っていると考えれば興奮したけど、あの映画がこの世界では見られないことは残念でもあった。

 ちなみに前世の記憶もサブカル関連がほとんどで、前世の家族や友人、死因すら覚えてないのだから我ながら呆れてしまう。

 そんな私の一日に特筆するようなところは無い。母子家庭で母は夜の仕事のため、自分で朝食を作り、母が作り置きしてくれた弁当を持って三十分の道のりがある高校まで自転車を走らせる。

 転生者で反抗期・思春期も無いが、全て「大人びている」と言う扱いだ。それでも部屋に親は入れられないし、本棚の奥を探られるのは困るけど、それはいい歳した大人であった前世の私もそうだったので、なに、気にすることはない。

 高校の自転車置き場に自転車を停めて、午前中に四時間の授業、お昼には手作り弁当を食べて、眠気と戦いながら午後に二時間の授業を受けて学校は終わり。一部の生徒は部活をするが、それ以外の生徒は大抵家路に着くか遊びに行くか、バイトに行くかだ。

 今日の私はと言えば、本屋で雑誌を立ち読みして、漫画の新刊を買って家路につくこととした。

 残念ながら、今世のサブカル界と前世のサブカル界のラインナップは全く別物になっている。『ドラ〇もん』や『アンパ〇マン』や『サザ〇さん』などの国民的アニメは存在するのだが、それ以外はあったりなかったりだ。この違いは何なのか。

 こちらの漫画・アニメ・ゲームもなかなかどうして侮れないのだが、心残りなのは追いかけていたのに最終話を見られなかったあの漫画やこの漫画のことである。しんどい。

 ちなみに、朝の「力が欲しいか」アラームは似た声を繋ぎ合わせて自分で作ったパチモンである。

 駐輪場のない本屋の、駐車場の片隅で、スクールバッグの中に買った本を丁寧に入れる。教科書やら筆箱やらが入ったバッグに、さながらパズルゲームのように試行錯誤して隙間を作り、買った本を入れる。

 そうしているとき、どこかから騒がしい音が聞こえてきた。叫び声のような音だ。

 きょろきょろと辺りを見回しても、その音源は見当たらない。

 近くを通って行った買い物帰り風のお婆さんは特に気付いている様子もない。耳が遠いだけか、それとも私の耳がおかしいのか。耳掃除ならこの間やったばかりだったと思うが。

「――ぁぁあああああ!!」

 いや、おかしくない。確かに悲鳴が聞こえる。

 音のする方――上を見上げれば、何かがこちらに落ちてきていた。その〝何か〟と目が合う。避ける間もなく、私は〝それ〟を顔面で受け止めた。

 モノ自体は柔らかく、ふわふわしているものの、頭を持っていかれそうな衝撃に、首の骨がどうにかならなかったのは本当に不幸中の幸いだったと思う。

 一拍の間を置いて、私は体勢を整えながらその〝何か〟を引き剥がした。

「――ッ」

 引き剥がして、まじまじと見た〝それ〟に、私は声も上げられずに〝それ〟を地面に叩き付けるように投げた。

「ぅぐあぁっ!?」

 〝何か〟は悲鳴を上げて地面で弾み、丁度やってきた車にはねられた。運転手は気が付かなかったのか、それが人では無かったから気にしなかったのか、そのまま走り去っていった。

 地面に落ちた〝それ〟を遠目で見て、私はしかし何も見なかったことにした。

 後輪部分に取り付けられた鍵穴へ、特に思い入れのないキーホルダーが付いた鍵を差し込んで外した。

 昔二頭身にデフォルメされたキャラクターのキーホルダーを付けていて、生首だけになっていたことがあってから、お気に入りのキーホルダーを付けるのは止めようと思った。こういうどうでもいい事が頭をよぎるのは、慌てている証拠だった。

 私は自転車のスタンドを蹴って、自転車を押して駐車場の出口へと向かおうとする。

「待ってくれ、お嬢さん」

「ひぃっ」

 低くてやたらと良い声が足元から聞こえ、それとほぼ同時に脚に何かが触れる感覚がした。柔らかく、ふわふわした感触……若干のくすぐったさを感じるそれに、ぞわっと全身に鳥肌が立った。

 恐る恐る下を見れば、猫ほどの大きさの、白い子熊に似た〝何か〟が私の脚に抱き付き、こちらを見上げていた。

 動物園から逃げ出したシロクマの子供? もしも母熊が近くにいるなら私はきっと殺されるだろうなぁ。でも熊って人の言葉喋れたっけ? 最近の熊はそうなの? 私の脳は理解することを拒否していた。

「投げることはないだろう。そんなに邪険にしないでくれ」

 なんかよくわからない生物(?)に妙に堅い口調で話しかけられると言う異様な状況に、私は思考停止した。

 

 ◇

 

 熊に似た〝それ〟はイマジェンと名乗った。

 銀河の彼方にある惑星ラシューカで作られた知的生命体。〝相棒〟と呼ばれる、その名の通りパートナーの思考を読み取り、相棒に力を授ける存在。

 侵略者から、生まれた星を守るために作られた彼はしかし、相棒との連携が上手く取れなかった。どうやら相棒として選ばれた軍の精鋭たちは、知的生命体から与えられる力というものを上手く使いこなせなかったらしい。

 結果、星は侵略者によって乗っ取られ、イマジェンは侵略者に連れられて、滅ぼされた母星を後にした。その後いくつかの星を巡り、隙を見て脱出、どうにかこうにか辿り着いたのがテラ――地球だそうだ。

「それは大変でしたね」

「分かって貰えるか。ここまで来るのに、随分と苦労したのだ……」

「そうですねじゃあ私はこの辺で」

 少し聞いてくれないか、から始まったイマジェン誕生秘話及び苦労譚を聞いているうちに、時計の長い針はぐるりと一周していた。真冬よりはマシとは言え、まだ日も長くはないこともあって、周囲はすっかり暗くなっていた。

 堅い口調のわりに話し出すと止まらない性質らしい彼の話は何度も脱線しかけて、その度にそれとなく軌道修正するのが大変だった。

 こういう時に限って何故か人は来ないし、完全に帰るタイミングを見失っていたが、話の区切りは付いたし、もう帰りたい。母はこの時間から本格的に仕事で家にはいないだろうから心配されることは無いけど、普通に帰りたい。

「なっ、ちょっ」

 背後から聞こえる声を無視して自転車に乗った。おれは家に帰るぞ! ジョ〇ョ――ッ!!

 

 ◇

 

 無事に家に帰宅して、アパートの階段下に自転車を突っ込んで玄関へ、暗い部屋に帰宅の挨拶をして、電気を点けながら部屋に入る。

 弁当箱を出そうとバッグを開けて、私は身を固まらせた。いつの間にか、そこにはイマジェンが入り込んでいた。一瞬本物の熊と空目して血の気が引いたし、声のない悲鳴を上げた。

「置いて行くことはないじゃないか」

 イマジェンはバッグから出て、ちらりと私の部屋を見回した。私もその視線に釣られるように、思わず部屋を見てしまった。

 至って普通の部屋だと思う。ロフトベッドに勉強机、大きめの本棚が一つ。

 緑色とダークブラウン系の家具でまとめた部屋は、蔵書数が少し多いことと、サブカルオタク臭がかぐわしいことと、魔法少女アニメの設定資料集の隣に近代武器やら戦車やらの本が並んでいたりする以外は一般的な女子高生の部屋といって良いだろう。まあ、本棚の中はあまりおおっ広げには出来ないのだけど。

「なんでついてくるんですか」

 椅子に腰掛けながら、私はため息混じりに尋ねる。

「俺は、勝手ながら、君を相棒にしたいと思っている」

「なんて?」

 何言ってんだこいつ。

「君を相棒にしたいと思っている」

「他を当たってください」

「そんなことを言わずに」

 若干冗談っぽくイマジェンは返してくるが、冗談じゃない。なんでこんな熊なのかそうじゃないのかよく分からないヤツの相棒にならねばいかんのだ。相棒になるなら右京さんの相棒になるわ。

 しばらく押し問答を繰り返した私たちだが、夕飯の支度があったので休戦となった。学校を出た頃には思いついていたはずの夕飯の献立は、気付けば記憶から吹っ飛んでいて、思い出したり考えるのも面倒だったのでオムライスにした。

 いつもは卵を破かずにケチャップライスを巻けるのに、今日は気忙しさのせいか破れてしまった。無念。

 

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