落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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序章-10「ポストクレジット」

 母の死は、対外的には事故死と言うことになっている。

 雉村はS.H.I.E.L.D.の方で身柄を拘束されるそうだ。コールソンから聞いた話では、今のところ自身の所属する組織のことは一切語っていないらしい。

 時間の問題だ、とコールソンは言っていたが、S.H.I.E.L.D.が尋問にどんな手を使うのかまでは聞いていないので、詳細は分からない。尋問が上手くいって、雉村が語るべきことを語ったとして、その情報が私に回ってくるのかも分からないし。

 何せ私は、クインジェットごと雉村たちを潰して殺しかけたのだ。精神的に不安定になれば、能力があるだけ危険性も増す。超人用の檻に入れられたり、シロと引き離されなかっただけマシと言えるのだ。仇について教えてくれ、なんて贅沢は言えないだろう。

 私たちの今後は、ほぼ今まで通りと言って良かった。S.H.I.E.L.D.に〝インデックス〟として登録はされたものの、どこかに収監されるようなこともなかった。おそらく要観察とか、そういう対象になったのだろう。

 母が亡くなって、父のいない私の後見人は叔父が引き受けてくれた。私は母と暮らしていたアパートを引き払い、叔父が用意した小さめの一軒家に越した。叔父は時々私の様子を見にやってくる。

 わざわざ引っ越したのは、賃貸だとシロの扱いが難しかったからだ。元のアパートはペット禁止だったし……いや、そもそもシロは、見た目はどうあれペットではない。

 私は今まで通り普通に、高校に通っている。強いて変わったと言うなら、一緒に暮らす相手が母ではなくシロになったということくらい。

 スパイダーマンみたいに街の犯罪を取り締まる……なんてことはしない。そもそも、私が暮らす日本のド田舎シティと大都会ニューヨークじゃ犯罪件数自体違い過ぎる。

 能力を持つ者として、どういう身の振り方をするのが〝正しい〟のかはこれから考えていくことにしている。中身はどうあれ、私は世間的にまだ高校生だし。大学にも行きたい。

 力に対する責任も分かるが、それでもそれが青春を捨ててまでするべきことであるとは思わない。青春を謳歌することは若者の権利であると思っている。多分これは、一度、一応は成人(おとな)を経験したからこその言い分だと思うけど。

 私はイマジェンの能力でどんなことが出来るのか日々模索しつつ、しばらくの間は変わらず普通に暮らすつもりだ。

 イマジェンの能力について、ある程度説明しておこうか。

 まず一つ目、イマジェンには書物などのデータを記録しておく機能があり、自由に閲覧することが出来ること。閲覧したいと念じれば目の前にホログラムで本や巻物のような形で現れる。

 シロの持つデータは、シロがこれまでに記録したものに限るが、ざっと見たところ学校の図書館程度の蔵書数がありそうだった。中にはシロも読むことが出来ない言語で書かれた資料もあった。

 ちなみに、私は暇を見つけて、その翻訳を行っている。シロも昔のグー○ル翻訳みたいな翻訳が出来る程度には知識があるらしいので、手伝ってもらっている。言語の法則性を見つけるところからではないため、思った以上に翻訳作業は捗っていると思う。

 翻訳は趣味と実益を兼ねている。蔵書の中にはより重要な資料もあったからだ。それが、魔法の〝術式〟について書かれた魔導書の資料である。

 本格的にファンタジー染みてきたなって感じ。

 術式とは簡単に言うと、シロから借りた能力――魔法を発動するためのプロセスだとシロは説明した。

 私はこれまで、ただ想像したものを具現する能力としてシロの能力を使ってきたが、それは地図やガイドなしで目的地へと向かうような行為らしい。

 地図なしで目的地へと向かおうとすれば、時間もかかるし、目的地を探すために神経も使うだろう。魔法を使うのもそれと同じ。特定の魔法を発動するために、必要な箇所に必要なだけのエネルギー……つまり魔力を使う。それが効率化に繋がる。

 術式を深く理解すれば、魔力の消費量も減るし、魔法を発動するまでの速度も上がる。つまり、シロの蔵書を紐解くことは、一石二鳥三鳥どころの話じゃないってことだ。

 ついでに、新たな術式を自分で組めないか、試行錯誤もしている。アニメや漫画で見たあんな魔法こんな魔法を術式で再現出来るって、オタクのロマンだよね。

 と、まあ分かったことはその程度だろうか。日本の閑静な住宅街では、あまり大規模な実験は出来ない。そのうちまた、S.H.I.E.L.D.の研究施設で検査があるだろうから、その時に訓練施設を使わせてもらおう。

 しかしその時より前に、S.H.I.E.L.D.に別件で呼ばれる可能性はあったりするのだろうか、とカレンダーを見つめた私はひとりごちる。

 私が高校二年となった今年は、2012年。暦は四月の下旬、というか五月に変わろうとしている。

 2012年の五月といえば、MCUならば『アベンジャーズ』第一作となるロキの襲来と、ロキ率いるチタウリ軍襲来、そしてニューヨークでの決戦が行われる時期だ。

 子供は戦場に行かせられないと判断するか、それとも使える手札はすべて使うと判断するか。その裁量は長官のニック・フューリー次第だ。会ったこともない私には、どうしようもないことである。

 アベンジャーズに……、ヒーローになりたいかと問われると、あまりなりたいとは思わない。普通の人間としての生活を犠牲にしてまで人助けをしたいとは思わない。正直ヒーローというのはやりがいの搾取にも思える。感謝されれば嬉しいだろうけど、その分リスクも大きい。

 どんなにすごい力を持っていたところで、すべてを助けられるわけがないのに、それでも人は、ヒーローに万能を求めるものだから。その期待を背負うのは、少し重い。気は進まない。

 だけど。

 それでも、〝正しいこと〟であるとは思う。

 人々を苦しめる悪者から、人々を守る。それは分かりやすい〝正しさ〟だ。

 私たちの力をS.H.I.E.L.D.が求めるなら、私は〝正しいこと〟をするために、シロの力を使おうとは思っている。

 ま、何はともあれニック・フューリー次第だが。

 

 ◇

 

 シロは基本的に、どこへ行くにもついて来る。シロクマ姿でうろつくわけにもいかないので、バッグの中に入っていて貰うことになるが。

 そういえば言い忘れていたかもしれないが、シロは体の大きさを自由に変えられる。鬼になったどこぞの炭焼き一家の妹みたいに。だから初めて会った頃のようにバッグを開けた瞬間みっちりとシロクマの毛が現れるということはなくなった。

 今日も、シロをスクールバッグに入れて高校に行って、いつも通りに帰宅した。部屋の様子は、いつも通りとは少し違っていたけれど。

 玄関には黒いブーツ。サイズはかなり大きくて、軍用のようなゴツさ。叔父の靴じゃない。

 シロがバッグから降りて、小さくなっていた体を大型犬くらいのサイズに変えた。いつもより大きいサイズになったのは、警戒しているためだろう。

 玄関を上がって廊下を進み居間の引き戸を開ける。男が立っていた。黒いコートに、黒い眼帯の、黒人の男。手にしていた母の写真立てを棚に戻して、男は片方だけの瞳をこちらに向けた。

 ニック・フューリー。何でこの人がここにいるんだ。忙しくないのか。

「君がユーリ・タカムラか。そっちがシロだな」

「何者だ」

 シロが警戒心をあらわに短く尋ねた。私はその姿を一度見下ろして、再びフューリーに目を向けた。

「S.H.I.E.L.D.の人?」

 冷静に問い掛けた私に、フューリーは微かに目を細めた。私は床にスクールバッグを置いて、ダイニングテーブルの椅子に腰掛ける。

「私がS.H.I.E.L.D.の人間だと誰かに聞いたのか?」

 フューリーが、私の様子を見て、片眉を上げて首を傾ける。私は首を振った。

「聞いてはないですけど、この家はS.H.I.E.L.D.の人が監視してるはず、そうでしょう? 怪しい人が来たなら相応に対処するはずです。そうじゃないなら、S.H.I.E.L.D.に関連してる人ってことだ」

「なるほど」

 私の説明に、フューリーは一つ頷いた。

「探偵のような推理だな」

「初歩的なことですよ。……それで、あなたは?」

 茶化すようなフューリーの言葉に、私もおどけて、シャーロック・ホームズの台詞を真似て答える。それから、前世の記憶でネタバレは食らっているものの、一応初対面には変わりないので、名前を尋ねておいた。

「私はニック・フューリー。S.H.I.E.L.D.の長官をしている」

「長官……ということは、S.H.I.E.L.D.においては最高司令官にあたると?」

「まあ、一応はそうなるかな」

 私の向かいの椅子に腰掛け、持っていたベージュのファイルをテーブルに置きながら、フューリーは名乗った。その自己紹介に、シロが微かに驚きながら尋ねれば、フューリーは頷く。

 その言葉に私も、一応少し驚いた風を装っておいた。

 相手が長官と言うのは知っていたことだが、それでも長官がここにいるという事に驚いたのは事実である。我ながら小賢しいな。

「なんで、長官ともあろう人が、こんなところに?」

 私が尋ねると、フューリーは先程座る時にテーブルへ置いたベージュのファイルをこちらに寄越す。

 ファイルの表紙には『PROJECT P.E.G.A.S.U.S.(プロジェクト ペガサス)』の印字がされている。

「ペガサス計画……?」

 ファイルを覗き込んで印字を読み上げ、伺うようにフューリーに視線を向ける。フューリーは開いて読んでみろと言うようにあごをしゃくった。

「マスター」

「あ、うん。ごめん」

 シロに声を掛けられて、私は床の方を見る。

 いつもシロが使っている椅子はフューリーが使っているので、シロに椅子がない。そのせいで上るにも上れなかったらしい。私はシロに小さくなってもらって、テーブルの上に乗せた。

 小さくなった体のまま、シロはファイルを見る。

 ファイルをめくると、中に入っていたのは英語でびっしり書かれた数枚の紙と、写真だった。写真には、青い光を放つ立方体が写っている。

「キャプテン・アメリカを知っているか?」

「まあ、はい。第二次世界大戦中の、アメリカの英雄(ヒーロー)ですよね?」

 あまり興味なさそうに頷く。

 大戦当時敵国だった日本では、キャプテン・アメリカが授業で取り上げられることはない。だから多分、彼を知らない人の方が多いだろう。

 私は前世を思い出したついでに調べたから知ってんだけどさ。

「そうだ。彼は北極で消息を絶ち、軍やS.H.I.E.L.D.は彼の捜索を行った。その捜索途中、ハワード・スタークが北極海で発見したものがそれだ」

 フューリーの説明を聞きながら、私は数枚の紙を見る。

 キューブとか、ガンマ線とか、研究結果らしきものが論文のような堅苦しい言い回しでまとめられている。ざっと読むには英語力が少し心許ない。

「これ、この、ええと、キューブですか。これが私たちに、何か関係が?」

「さて。関係があるかもしれないし、無いかもしれない。私はそれが知りたくて、はるばるここに来たんだ」

 フューリーの勿体ぶった言い回しに、私は首を傾げる。

「キューブは宇宙由来のものでね。同じく宇宙由来の、シロ。君に意見を聞きたい。君たちを、S.H.I.E.L.D.の研究施設に招待する」

 フューリーはそう言って、不敵に口角を持ち上げた。

 そうして私はやっと気が付いた。これはいわゆるエンドクレジット後のシーン、ポストクレジットだったのだと。

 

 

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