落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第一章-3「シュトゥットガルトにて」

 艦橋で暇を潰していた私たちの元に、任務が舞い込んだ。

 ドイツはシュトゥットガルトに現れたというロキの捕獲。捕獲って言うとなんか動物を捕まえるみたいだな。捕縛のほうが良いか。

 ともあれ、ロキの姿が確認された自然史博物館では、今日、ある教授がパーティーを開いていた。

 私たちはロマノフの操縦するクインジェットに乗り込み、シュトゥットガルトに急行する。

「マスター、さっきから何を見ているんだ?」

「博物館の展示品とか、保管品の目録」

 クインジェットの後部席に座った私は、片手でドーナツを食べながら、もう片手に持った円盤状の端末からホログラムを投影して見る。そこには写真や文字がびっしり並んでいた。

「何か気になることでも?」

 尋ねたのは向かいに掛けたロジャースである。

 彼はステージ衣装のような星条旗がモチーフの戦闘用スーツを身に纏っている。派手だ。

 『ザ・ファースト・アベンジャー』でもあの派手な衣装を着てたのはステージに出ていた最初のうちだけで、本格的な任務にはちゃんと暗色のスーツを着てたのにね。個人的に『ザ・ファースト・アベンジャー』の暗色のスーツが一番好きですね。

「キャプテンがロキの立場だったら、どうします?」

 一応任務中だし、雰囲気作りにキャプテンなんて呼んでみた。あとでキャップって呼んでみたい。

「どうする、とは?」

「ロキはセルウィグ博士を連れて行った。バートンの動きから、彼は他にも研究者を集めています。つまり、キューブの研究――そしてその研究の先にある何らかのことをやろうとしているのは明白。魔法を使えばS.H.I.E.L.D.から逃げられるだろうに、それをせずに姿を現したのはなぜでしょう?」

 まくしたてるように言った私の言葉に、ロジャースが難しい顔をする。横で私を見上げるシロが心底驚いている、というのが雰囲気で伝わったので、その額を指で弾いておいた。

「だから、こういう博物館でしか手に入らないようなものが欲しいのかなって思って、見てたんですけど……どう考えても恐竜の骨とか、研究には使わないでしょう?」

 展示品リストで丁度出てきた何とかサウルスの骨。粉末化して飲むと恐竜のパワーを得られるんです、なんてことはあり得ない。

「そもそも、こういうところに保管されている貴重な物を手に入れるのって、たいてい裏ルートみたいなものがあったりするもんでしょう。バートンがそれを知らないとは思えません。そういうルートを使って手に入れられるものを、わざわざ目立つ方法で手に入れようとする理由って何? 何か他の目的があるんじゃないですかね?」

「マスター、そういうことをちゃんと考えていたんだな」

「相棒に対して失礼だな。私だって仕事はちゃんとやるよ」

 世界的に真面目で通っている日本人なもんで。

 ロジャースは顎に手を置いて考え込む。

 ロキの目的はアベンジャーズを仲間割れさせて各個撃破することって知ってはいるんだけど、答えをそのまま提示は出来ない。怪しまれるだろうし、そうなった場合上手い説明が思いつかない。

 順当にいけばロキを倒すことに変わりはないんだけど、やられっぱなしは癪だ。

「そろそろ着くわよ、準備して」

 ロマノフに呼びかけられて、私たちは顔を上げる。ホログラムを消して、端末をポケットに仕舞う。

「僕がロキの相手をする。レディたちは市民の避難を」

「了解、キャプテン」

「本当にその格好で行くの、レディ?」

「それキャプテンにも言ったほうがいいですよ」

 普段着のようなパーカーに、普段着のようなショートパンツ。ジャケットには普段着のようなGジャン。普段着のような、と形容しているが、れっきとした普段着である。強いて普段と違うと言えば、パーカーのフードを被っていることだろうか。

 レオタードのようなスーツも、不二子ちゃんみたいなスーツも、貧相な体しか持たない私は勘弁願いたい。

 クインジェットは暗い夜空に潜んで、博物館上空に浮かぶ。ハッチが開かれて、外の様子が見えた。シロの能力で視覚を強化し、地上を見た。

 逃げ惑う人々が角の生えた金の兜を被る男……ロキに遮られ、逃げ道を失った。サイレンの音がして、警察車両が角を曲がって来たが、ロキが衝撃波を飛ばす。私は反射的に三本の指を立てた左手を出した。

 ROOM……シャンブルズ。

 周りに人がいる状態で言うのはやっぱり恥ずかしいので心の中で言わせて下さい。私の声帯が神谷○史さんになったら言わせてもらうね。今回の能力はこちら! 『ONE PIECE』から、トラファルガー・ローさんで、オペオペの実の能力です!

 戦いに有用そうな能力を知っているアニメや漫画からピックアップして、あらかじめ再現術式を作り上げておいた。これはその一つだ。

 博物館周辺に見えない〝空間〟が出来上がったのを感じる。車両に乗っていた警官たちは、衝撃波がぶつかる前に路上の石と交換させられ、座っていたその状態のまま少し離れた地面に落ちた。

 車はコントロールを失い、衝撃波によってひっくり返り、地面を滑って停止する。

「ひざまずけ」

 ロキが杖を突いて静かな声音で告げる。しかしパニックに陥っている市民たちは逃げ惑うばかりだ。

 ロキは三人の分身を作り出し、四人で人々を囲む。もう一度杖を地面に突くと、一際大きな光が杖から発せられた。

「さあ、ひざまずけ!」

 ロキが叫ぶと、人々はその場に膝を付いた。その様に、ロキは満足そうに笑みを浮かべる。

「簡単な事ではないか? これがお前たちの本来の姿では? 誰も口にしないが人間は、服従することに喜びを覚えるのだ。自由なんて言葉に惑わされ、人生の喜びは減じ、厄介な苦労が始まる」

 ひざまずく人々の間を歩きながら、ロキは演説を始める。

「お前たちは、支配されるために生まれた。最後にはひざまずくのだ、必ず」

 ロキが言い終わると、ひざまずいていた人々の中の一人が立ち上がった。

 皆がロキのほうを向いて視線を落とす中、真っ直ぐとロキのいない方を見ていた老人。決して強そうには見えない、ただの年老いた男。

 老人は毅然とロキを睨みつけ、人差し指を突きつける。

「誰がお前のような奴に!」

「私のような奴だと?」

 ロキは首を傾げる。笑みは絶やさないが、その言葉の奥に苛立ちが見える。

「いつの世にもいる、下種野郎だ」

「中々気骨があるな、あのご老人」

 シロがポツリとつぶやく。スティーブ・ロジャースと同じ時代を生きたであろう老人は、ロキのまやかしに屈することは無かったのだ。

「お前たち、あの年寄りを見るがいい。見せしめにしてやろう」

 ロキは言って、杖を構える。杖の先端の青い宝石が、光を増した。その瞬間、ロジャースが横から飛び降りていった。おそろしく速い動き。オレでなきゃ見逃しちゃうね。

 杖の衝撃波が放たれるのと、ロジャースが地面に降りたのはほぼ同時だった。ロジャースが構えた盾によって、衝撃波は弾かれて、打ち出したロキ本人にぶつかった。ロキはその衝撃で倒れ伏す。

 私はといえば、疑似オペオペの実の能力で、博物館前の広場が見える建物の上に移動した。

「確かこの前ドイツに来た時にも、人を支配しようとした男がいたっけな。奴とはそりが合わなかった」

「来たか、兵士」

 地上ではロジャースの言葉を聞きながら、ロキが立ち上がった。ロキは挑発するように笑みを浮かべる。

「時代遅れのやつめ」

「時代遅れはどっちだ」

 上空の高い位置で待機していたクインジェットがすぐ近くに下降した。クインジェットの腹の部分から機関銃が出て、銃口がロキを捉える。

「ロキ、武器を捨てて降伏しなさい」

 マイクを通し、ロマノフが降伏勧告をする。しかしおとなしくそれを聞くロキではない。杖から再び青い光弾が飛び出して、戦闘機はそれを間一髪で避けた。

 ロジャースは瞬間、ロキへと盾を投げる。

 戦闘の合図だった。二人の一騎打ちが始まると、広場にいた人たちはやっと覚醒し、我先にと一斉に逃げ出す。私は再び左手を出した。

 はーい、シャンブルズシャンブルズ。路上の小石と広場の人々が入れ替えられる。突然周りの景色が変わって、人々は驚いた様子を見せるが、すぐに避難を始めた。

「あらかた避難させられたようだが」

「ロマノフ、そっちから逃げ遅れた市民は見えますか?」

「〔いいえ、問題ないわ。キャプテンの援護を……〕」

 通信機から聞こえるロマノフの声を遮るように、聞こえて来たのは激しいヘヴィメタル。やがて上空に、メタルレッドが飛んできた。

「ひゅう、アイアンマンだ」

 アイアンマンは手のひらからリパルサー光線を放ち、ロキの体はその唐突な攻撃になぎ倒された。その衝撃で杖が弾かれ、地面を転がっていく。

 放置はまずかろうとそこに移動し、杖を拾う。結構重いな。

 アイアンマンがスーツに仕込まれた武器を広げて見せる。肩から、腕から、銃口やら小型ミサイルやらが現れて、全てがロキへと向けられていた。

 アイアンマンの隣に、キャプテン・アメリカが立つ。ロキは参ったとばかりに両手を挙げた。

「スターク」

「〔キャプテン〕」

 良いツーショットだね。スマホを出してパシャリ。

「〔勝手に撮るんじゃない、ライラ・シルバータン〕」

「撮らせていただきました、Mr.スターク。ありがとう。これで許可は取ったね」

「〔許してはいない〕」

 顔は見えないが呆れた様子なのは分かった。と言うかライラ・シルバータンって……『ライラの冒険』か? トニー・スタークってファンタジー小説読むんだ。

「ユーリ、杖を」

「はい」

 ロジャースの言葉に頷き、杖を渡す。その後ろでアイアンマンがロキを拘束していた。クインジェットが広場に降りて、ハッチを開いて待っている。

「〔さて、戻るとするか〕」

 アイアンマンの言葉に、頷くまでもなく私たちはクインジェットに乗り込んだ。

 

 

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