落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第一章-6「仲間割れ」

 こちらの問題が片付いたところで、私はシロと共にヘリキャリアの中を探索しつつラボへ向かっていた。

 ラボの近くへ来ると、ロジャースが剣呑な顔つきでラボを出て行くのが見えた。

 もしかしなくてもロジャースとスタークの初衝突だろう。いや、クインジェットのときが初衝突? まあ、どっちでもいいや。

 ロジャースの背を見送ったあと、私は一度踵を返し、休憩室で一杯コーヒーを飲んでから再びラボへと向かった。思った通り、話は終わったようだ。

「こんにちは」

「やあ、ライラちゃんとイオレク君。まさか君たちが来るとは思っていなかった。歓迎するよ」

 私が入るとスタークは歓迎するように両手を広げた。

 やっぱり私たちのあだ名は『ライラの冒険』から取っているらしい。トニー・スタークってファンタジーも詳しいんだなぁ。

 いずれ来るかもしれない未来でのアベンジェットの私の登録名はライラで決まりだね。

「それで、どうしたんだい、ユーリ、シロ?」

 バナーが首を傾げる。

「その、杖をちゃんと見てみたくて。邪魔なら後にするんですけど」

 これはシロの提案である。ロキの捕縛の際、短時間だが間近で見て、何か感じるものがあったらしいから、もう一度見たいそうだ。

「ああ、イオレク君は宇宙から来たんだっけ? 杖について、何か知ってる?」

「いや、よく見てみなければなんとも言えない。それに知っているというほどでもない気がするしな。だから邪魔なら後でも構わない」

 スタークの問いにシロは首を振る。

 スタークは、二人揃って腰が低いな、とつぶやいて、招くように片手を杖へと指し示した。私たちは礼を言いながら杖の前へと寄る。

 キューブを見たときと同じように、私は視界を変化させる。キューブと同じように、杖の先端の、青い宝石の中から輝きは生まれている。

「キューブと同じだね」

 私のつぶやきに、シロは頷き、スタークとバナーは首を傾げた。

「何が同じなんだ?」

「これも、力の根源は宝石の中にあるってことです。杖の宝石の中に、更に小さな石が入ってる」

「つまり、杖は入れ物に過ぎないってことか」

 トニーの言葉に私は頷く。シロは何か考え込んでいる様子でじっと杖の宝石部分を見つめている。

「何か知っているのかい、シロ?」

 バナーがシロの様子に気づき、首を傾げる。

「……いや、知ってはいない。ただ、この杖の中身は、キューブの中身と似ているように思えてな……」

「似ている?」

「ああ、上手くは説明出来ないが、そう感じる」

 シロはそう答えると、杖の宝石に近付けていた顔を戻して、私の肩に乗り直した。

 杖の中身とキューブの中身が似ている、というのは、どちらもインフィニティ・ストーンであるということを示唆しているのだろう。

 宇宙誕生以前から存在した六つの特異点が、宇宙誕生の大爆発の際にそれぞれエネルギーの結晶へと姿を変えたもの。つまり元々は特異点であり、似たものなのだろう。よく知らないが。

「でも、なんでわざわざ入れ物に入れてるの? パワーを使うだけなら別に、石をそのまま使うのでもいいじゃん」

「それだけ強大な力が秘められているということだろう。入れ物に入れることで、扱いきれる程度の力に抑えているのだ」

「はあ、なるほどね」

 そういえば、一作目の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』では、パワー・ストーンを手に持っただけで身を滅ぼしそうになっていたっけ。『エンド・ゲーム』とかでも、インフィニティ・ガントレットを完成させただけで全身に負荷が掛かってたし。

「――シロさん、もう良い? 戻ろうか」

「ああ、邪魔をしては悪いからな。俺たちはこれで失礼しよう」

 とりあえずやりたいことは終えたし、とラボを去ろうとした私たちだが、スタークに「待った」と声を掛けられた。

「僕は邪魔だとは思っていない。君たちの使う魔法について知りたいんだ。良いかな? バナーも良いな?」

「ああ。興味あるね。君たちが良ければ是非」

 スタークの言葉に、バナーは同調する。優しげだが、その目には好奇心が光っていた。この人もやっぱり科学者なのだなあと感じる。

「私、というか、私たちは構わないですけど……」

 S.H.I.E.L.D.にはなんて説明していたんだっけ、と私は記憶を探る。

 ただシンプルに、自身の想像を具現する魔法の能力だとしか言ってなかった気がする。S.H.I.E.L.D.へ報告する前に、二人に教えていいのかな。

 ……別にいいか。報告義務もないし。なんか言われたら忘れてましたって言おう。

「早速だけど、何か見せてくれないか。花とか出せる?」

 スタークはちょっとわくわくした様子で言った。

 私は適当に手の中に花束を作る。赤とオレンジのガーベラっぽい花と、カスミソウっぽい白い小さな花が、白い包装紙に包まれて、赤いリボンで留められている。なんというか、素人が想像で絵に描いた花束をそのまま現実に持ってきたような姿だ。

 スタークは何とも言えない顔でそれを受け取る。

「……なるほど。これは、何の花?」

「……さあ。花は詳しくないから、想像上の花束」

 花を咲かせる術式とかは、シロも知らない。

 私も当面は必要なさそうだから術式として作ろうとは思わなかった。今のところロマンを追いつつも実用一辺倒な術式しか作っていない。

「つまり、どれだけ精巧に出来るかは君の想像力や知識によるってことかい?」

 スタークの隣で見ていたバナーが言う。私は頷いた。

「術式を作っておけば、それこそ恋人へのプレゼントに使えるような花束も作れるだろうがな」

「待て、術式? 聞いてない情報だ、なんだそれは?」

 シロのつぶやきに、スタークが首を傾げる。私はええと、と口を開く。

「あらかじめ使用する魔法の……なんだろう、プログラムを作っておくってことです。さっきの花束はイチから……それこそ摩擦で火熾しをするような感じで、術式はライターを作っておいて火を点けるような感じ」

「あらかじめ欲しい結果に対するプログラムを用意しておくってことか」

 スタークの言葉に、私は頷く。

「じゃあ、今使える術式で何かやってくれ」

 スタークは今度こそ魔法らしいことをやってくれよとでも言いたげな顔で言った。私は頷く。

「びっくりしないで下さいね」

 私が言うと、大げさだなとでも言うような余裕ある顔でスタークが笑みを浮かべた。バナーは他人事のように微笑んでいる。

 私はロキ捕縛の際に市民を逃がすために使ったアレをやるため、三本の指を立ててくいっと回す。

 瞬間、パッとスタークとバナーの場所が入れ替わった。瞬きの間に見ている景色が変わって、二人は目を丸くする。

「入れ替えたのか? 僕とバナーを?」

「二人の場所を。中身を入れ替えたとかではないのでご安心を」

 鏡見ます? と私は首を傾げる。二人はお互いの顔を見合わせた。ちょっと面白い。

「すごいな。どんなものでも入れ替えられるのか?」

「距離の制限はありますけど、質量とかは関係ないですね。それこそ小石と人間の場所を入れ替えることも出来ますし。実際、シュトゥットガルトでの市民の救助にはこの術式を使いました」

「便利だな」

 スタークとバナーはそれを聞いて何やら難しいことを話し始めた。質量保存がどうとか、何とか。正直専門用語とかも多くて、私のリスニング能力では聞き取れない。

 そうしていると、それまでキューブの探索画面を映していたモニターに、大量のデータが現れてきた。

「J.A.R.V.I.S.が仕事を終えたみたいだ。悪いね、二人とも。続きはまた今度」

「キューブの在り処が分かったのか?」

 スタークとバナーは議論を止めると画面に向かう。その様子にシロが首を傾げれば、バナーがこちらを見た。

「君たちも見てみるかい?」

 バナーの誘いに、私たちは一度顔を見合わせ、バナーの隣に立って画面を見る。流し読みでも大体理解が出来た。

「……キューブの力の軍事転用?」

「素人の君でもそう見えるなら、間違いないんだろうな」

 眉をひそめた私のつぶやきに、スタークが頷く。

「何をしているんだ、スターク」

 そこへ、フューリーがラボに入ってきた。

「ああ、あんたにもその質問をしたかったところだ」

「四次元キューブの追跡はどうなった?」

 軽い口調で答えるスタークに、フューリーの目が鋭くなる。

「ああ、やってますよ。今ガンマ線のサーチを掛けてるところです。誤差800メートルにまで絞れる」

「そうそう。だから慌てない、騒がない。――〝試作モデル〟って何?」

 モニターに映ったフォルダーを適当に開いて出てきた言葉を見て、スタークはわざとらしく声を上げる。

「それはキューブの力を利用した兵器だ」

 フューリーが答えるより早く、ラボに入ってきたロジャースがモニターに映る設計図通りのモノをテーブルに置く。

「悪いね、コンピューターが遅かったもので」

 ロジャースはスタークを見て、皮肉っぽく付け加えた。バチバチですね(他人事)。

「我々はあらゆる面でデータを取っていただけだ。必ずしも軍事目的で……」

「ちょっと待った。これはなんだ?」

 さすがに武器を作って軍事目的じゃない、は無理があり過ぎる。

 取り繕おうとしたフューリーの言葉をスタークが遮った。モニターに映るのは、核兵器に似たミサイルだ。これには私の眉間にもシワが寄る。

「世界は変わっていない。昔と同じだな」

 ロジャースがつぶやく。そこには怒りが滲んでいた。

「ねえ、ここから離れた方が良いんじゃない、博士?」

 役者が増える。ロマノフがソーを連れて部屋に入って来た。開口一番に話し掛けられたバナーは、嘲笑に似た笑みを浮かべる。

「インドにいればこうはならなかった」

「ロキに利用されるわ」

「君たちはしないとでも? 聞かせてくれ。なぜS.H.I.E.L.D.はキューブを使って大量破壊兵器を作ろうとしている?」

 大人達のきな臭い雰囲気に、私はなんとなく壁際に下がる。

「彼らのせいだ」

 フューリーは、ソーとシロを示して言った。突然話題が向けられて、ちょっと驚く。

「俺?」

「何?」

 ほとんど被るように、ソーとシロが声を上げる。私も驚いたものの、こういう時声に出すタイプではない。

「去年とつい最近、別の星からお客が来た。かたやそいつの招いた戦いで町ひとつが破壊され、かたや学校一つで被害は済んだが、最悪町を破壊される可能性があった。それに……一人の少女が日常を奪われた」

 フューリーの視線がこちらに向けられる。

 言わんとすることは分からんでもないが、その言い草に私はむっとする。シロは私に選択肢を与えた。選んだのは私だ。奪われたわけではない。奪ったとするならそれは――。

 そこまで考えて、心の中でかぶりを振った。

「宇宙にいるのは我々だけじゃない。そして思い知らされた。我々は無力だ」

「この星との友好を願っている」

「宇宙には君らだけではない。脅威も君らだけではない。それは既に、彼を襲撃した奴らが証明している。宇宙には我々にコントロールできない存在が山ほどいるんだ」

「キューブもコントロール出来ない」

 ロジャースの反論に、ソーが頷く。

「キューブを研究したことで、ロキとその仲間を呼び寄せたんだ。お前たちは地球が高い次元での戦争手段を得たと知らしめたんだぞ」

「そうさせたのは君らだ。武器が必要だった」

「核と同じだな。それを抑止力にしようって言うのか」

「武器商人だった君がよく言うな」

 その辺りまで聞いていたが、私はそっと心を閉ざした。議論は堂々巡り。話し合いですらない。

 私はその場で座り込んで膝を抱く。シロは黙ってはいるが、良いのか、というようにこちらに目を向けた。

 いいの、いいの。こういう時必要なのは誰かの言葉じゃなくて我に返らせるような冷や水的な出来事だから。

 そろそろ来るかなあ、とラボの窓から見える空へと目を向けたところで、ヘリキャリア全体にすさまじい衝撃が走った。

 

 

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