落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第一章-7「緊急事態、そして」

「ユーリ、シロ、私と共に艦橋へ来い!」

「りょりょりょー」

「変な言葉遣いをするな!」

 うるさいおじさんだわ、と言わんばかりに肩を竦めながら、赤いランプの明滅する廊下をフューリーの後ろにくっついて走る。その間にも、フューリーはエンジンがどうのこうのとアイアンマンに指示を出していた。

 艦橋にももちろん敵が来る。むしろ落とすなら本丸狙いと言うことだろう。

「二人とも、艦橋に敵を入れるな!」

 フューリーが鋭い声で指示を出す。廊下から迫る銃撃の音と硬い床をブーツが叩く足音。

「ぃよっし、私たちの出番だシロさん」

「ああ、やろう」

 ロキ捕縛の任務で減ったエネルギーはご飯を食べて既に回復している。令呪もどきが私の描いたイメージに呼応して淡い光を帯びる。出入り口に現れた、ロキに雇われた傭兵集団がこちらに手榴弾を投げた。

 その手榴弾が傭兵の手から離れる前に、私は構築しておいた術式のイメージを脳内に引っ張り出す。同時に、手の中に杖が現れる。三十センチ弱程度の、指揮棒のような杖だ。『ハリー・ポッター』に出てくるようなやつ。

 投げこまれた手榴弾を、変身術でパイナップルへと変える。文字通りだ。パイナップルがツルツルとした床を滑っていく。

 こちらに銃口を向けて入ってくる敵には、もれなく武装解除(エクスペリアームス)で小銃を吹き飛ばしてからの浮遊呪文(レビオーソ)、そして衝撃呪文(フリペンド)あるいは落下呪文(ディセンド)だ。

 物々しい装備の敵たちは、それぞれ壁や床に叩き付けられて意識を失う。ついでにインカーセラスで縛っておければ安心なんだけど、ちょっとその余裕はない。

 ふと顔を上げると、艦橋の天井裏みたいなところからバートンが矢をつがえている最中だった。

「あ、やべ」

 この展開忘れてた。時すでにお寿司。

 続けざまに矢が放たれる。しかもそのうち数本は思いっきり私を狙っている。慌てて防御呪文(プロテゴ)を発動。更にクルーたちを狙って放たれた矢には変身術を使い、矢をリボンに変える。

「ああ、クソ!」

「待て、マスター! あれは囮だ!」

 シロの焦った声の通り、私の意識が爆発矢に向かっている間に、バートンが最後に放っていた矢はパソコンの差込口に刺さり、ヘリキャリアのメインコンピューターにウイルスをばら撒いた。艦橋に並ぶモニターの画面が一斉に乱れる。

「下降中。コントロール出来ません!」

「第一エンジン、完全に停止しました!」

 クルーの報告と共に、ヘリキャリアがゆっくりと、しかし大きく傾いていく。ぐらりと揺らいだ地面に、私は体勢を崩して尻餅をついた。

「レディ、テディ! いけるか!?」

艦橋(ここ)は!?」

「問題ない! スタークが修理するまで支えろ!」

 フューリーの指示に、私は打ち付けて痛む尻をさすりながら文字通り空へと瞬間移動をした。杖をほうきに変えて乗り、ヘリキャリア全体を見られる空中に浮く。

 ヘリキャリアの大きな船体を掬うように、見えない大きな手をイメージする。傾き高度を下げかけていた巨大空母は、何かの力でその傾きを和らげた。けれどさすがは巨大空母、重くて長く支えることは出来ない。

「〔ライラ、君たちか?〕」

「そうです、アイアンマン。でも長くは持たないです」

「〔だそうだ、キャプテン。レディを待たせるなよ〕」

「〔今やってる!〕」

 変化にいち早く気付いたアイアンマンから無線が入り、私は正直に答える。アイアンマンはキャプテンに水を向け、キャプテンは切羽詰まった声で答えた。無線越しに銃声が聞こえる。赤いレバー引くために今めっちゃ頑張ってるところだな、キャプテン。

 それにしてもスターク、レディを待たせるなはちょっと、キャプテンに言うとなんか……洒落にならんと言うか、笑えないジョークになるんだよなあ。

 しばらくすると、見えない手への負荷がぐんと減った。

「〔もう平気だ、ライラ、イオレク〕」

 無線からアイアンマンの声が聞こえ、私はヘリキャリアを支えていた手を消す。ほっと息を吐き、私たちはヘリキャリアの上へと帰還した。

 

 ◇

 

 その後の展開としては映画通り。アイアンマンとキャプテン・アメリカが協力してエンジンを直したことでなんとかヘリキャリアは立て直し、ソーとハルクがバトってS.H.I.E.L.D.の被害額がかさんで、ロマノフがバートンに対して精神分析(物理)でクリティカルだった。

 そして、コールソンが死んだ。

「コールソンの上着にこれがあった」

 重い沈黙を破って口を開いたフューリーは、艦橋のテーブルに投げるようにカードを置いた。ここにいるアベンジャーズのメンバーは、スタークとロジャースだけだ。ロマノフは部屋で休んでいるバートンに付き添っているし、ソーは檻に入れられて落とされたし、ハルクもどこかへ落ちて行った。

 せっかく集めたのにみんなバラバラだ。元々心はバラバラだったが。

「サインを貰い損ねたようだな」

 テーブルに置かれたのはキャプテン・アメリカが描かれたカードだ。まだ乾いていない血が付いていて、綺麗に磨かれたテーブルは血で汚れた。

「八方塞がりだ。通信は不能。キューブの在り処も不明。バナーとソーも何の情報もない。大事な仲間すら失った。私のせいかもしれん」

 フューリーは背中で手を組んで空を見ていたが、言葉を切ってこちらを向き、椅子の背もたれの一つに手をついた。その片方しかない目で、私たちを見回す。

「確かに我々は四次元キューブで兵器を作ろうとしていた。だがそれだけではない。同時にもっと危険な計画も進行中だった。その計画を、スタークは知っている」

 スタークは何も言わない。ただじっとどこかを見つめていた。

「……その名を〝アベンジャーズ計画〟。目覚ましい力を持った者たちを集め、チームを組んで、より大きな力にする。彼らが力を合わせれば強大な敵にも必ず立ち向かえると思っていた。フィル・コールソンは死ぬまで信じていた。その実現を。ヒーローたちを」

 そこまで聞いて、スタークが立ち上がり、足早に艦橋を出て行った。

「まあ、ヒーローなんて、もう古いがな……」

 スタークの背中に、フューリーがつぶやくように言った。

 

 ◇

 

「平気か、マスター」

「うん、まあ」

 廊下の出窓のところで、私は窓の外を眺める。隣のシロが心配そうに声を掛けて、私は心ここにあらずで頷いた。

 コールソンの死は知っていたことだ。でもやっぱり、辛い。T.A.H.I.T.I.計画で息を吹き返すと分かっていても、やはり悲しい。

 知っていたのに見殺しにしたという罪悪感が、胃の中に落ちて、鉛になる。

 彼の死は必要な事だった。アベンジャーズの結束のために。必要だったから仕方ないとか、七つの球を集めて生き返らせればいい、みたいな考えが欠片でも存在する自分が嫌になる。

 そもそも、生き返ったところできっともう、私はコールソンに会うことは出来ない。そんなの、死んでると同じじゃないか。もうあの柔らかい声を聞くことも、私を嗜める時の困ったような表情も見られないのだ。

 けれど、こうすると決めたのは自分だ。だから顔を上げろ、前を向け。まだ任務は終わっていない。ロキに仕返しするまで、終わらない。終われない。――終わらせはしない。

「マスター」

 シロに声を掛けられて、私は顔を上げる。シロが手で示す方向を見れば、ロジャースが立っていた。

「大丈夫か?」

 労りを含んだ目だった。そして少しの同情。ただの子供が戦場にいることへの、同情。私が自分の意思に従ってここにいると知っていても、そうなったことへの同情が消えるわけではない、ということなのだろう。

 でも、私は覚悟してここにいる。S.H.I.E.L.D.の監視下に入ると決めたあの日から――いや、シロを助けに自転車を走らせたあの時から、こういう事態を覚悟していた。

 私は出窓にもたれていた体を起こして、キャプテンに向き直る。

「大丈夫です。ロキにする仕返しについて考えてたの」

「何か作戦はあるか、キャプテン」

 シロと共に笑い返して見せれば、キャプテンは少しの間私の目を見つめて、そしてその覚悟を確かめたのか、力強い笑みで頷いた。

「行くぞ。スーツを着ろ」

 名言キタ。思わずにやけてしまったけど、ニッと笑ったように見えていたら良いな。

 キャプテンはそのまま、バートンとロマノフのいる部屋へ行き、二人に声を掛ける。

 キャプテンは盾を、バートンは弓を、ロマノフは銃を。私も武器を手にしたりスーツの調整をしたりとかそれっぽいことしたかったけど、シロと視線を交わして微笑み合うくらいしか出来なかった。

 私もヒーロー活動用のスーツとかあったほうがいいのかな。スパイダーマンが手作りしてたみたいに、私も作ろうか。でもやっぱりレオタードみたいなのは恥ずかしくて嫌だな。現在進行系でレオタードみたいな衣装を着てるキャプテンの横で、こんな事思うのもなんだけど。

 それぞれ自分の得物を手にしたカッコいい人たちと並んで、私とシロはヘリキャリアの格納庫を訪れる。その場にいた整備士らしきクルーが動揺を見せた。

「ここは立ち入り禁止です」

「いいからどくんだ、坊や」

 私もキャプテンにお嬢さん、とかって子供扱いされてみたいわ。……いや、子供扱いはされたけど、そういうのじゃなくてさ。

 この状況でキャプテンの前に立ちはだかれる人間などいるわけもなく、クルーは引き下がる。私たちはクインジェットに乗り込んで、目的地――ニューヨークのマンハッタン島へと飛び立った。

 

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