落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について 作:緑茶山
「まだ出てくるようだな」
異空間の通路から、先程倒したのと同じリヴァイアサンが出てくるのを見て、シロがつぶやいた。
「〔どうする、キャプテン?〕」
アイアンマンが指示を仰ぐ。
「いいか、みんな。通路が閉じるまで敵を押し止めろ」
キャプテンは全員が最優先とする指示を出し、次にそれぞれへと指示をする。
「バートン、屋上へ行って上から見張れ。敵の様子を知らせろ。スターク、ユーリとシロ、君たちは外側だ。三ブロックから外へ出るやつは押し戻すか、灰にしてやれ」
「運んでくれ、スターク」
「ああ。飛ばすぞ、落ちるな」
指示を受けたアイアンマンが、バートンを掴んでビルの上へと飛び上がる。私もキャプテンに頷いて、ほうきを出して空へ飛び上がった。
「〔ソー、あの通路を頼む。出てくる奴らを君の雷で痺れさせてやれ。ロマノフは僕とここで戦闘を続ける。……ハルク、暴れろ!〕」
無線からキャプテンの指示の続きを聞く。ソーがハンマーをぐるぐる回して飛び立ち、ロマノフが凛々しく頷き、ハルクが歯をむき出しにして笑う絵が浮かんだ。
ハルクの咆哮がマンハッタンに響き渡る。クライスラービルの尖塔に稲妻が集まるのを見ながら、私も空中で魔法を展開した。
ビルを這い回り、空を飛び交うチタウリたちに、私はビルとビルの間を飛び回りながら、次々と黒い槍をお見舞いした。
◇
「〔あのデカブツ、まだ残ってるのか〕」
なかなかに消耗を強いられている戦闘の中、無線機の向こうでバートンがリヴァイアサンを見つけたらしく、低くつぶやいた。
「〔おいおい、もう充電が切れそうなんだが?〕」
アイアンマンがうんざりした声で答える。
「そのでかいの、私のところに連れてきてくれる?」
「〔お望みのままに、ライラちゃん〕」
私もエネルギーは切れそうなくらいに戦っているが、まだポーチの栄養補給バーや飴は残っている。
近場のビルの上に降り、私はアイアンマンを待った。
「マスター、あんまりやり過ぎないでくれ。俺はもう、チョコレートを食べたくない」
シロが気分悪そうに言う。私は戦闘中で正直食べている暇がないので、エネルギー補給は主にシロが担当だ。用意したのはチョコレートコーティングされた栄養補給バーが多かったから、さすがに胸焼けしているらしい。シロに焼ける胸があるのか? という疑問はなしだ。
「まあ、なんというか……善処するよ」
これから一番エネルギー使いそうなことするんだけどね。
言い合っている間に、ビルの合間からリヴァイアサンを引き連れたアイアンマンが現れる。それを追うリヴァイアサン。
「〔連れて来たぞ〕」
「ありがとう」
私は脳内で術式を引っ張り出す。初めてやるものじゃない。一度、術式の知識がないときに、すでにやったことがある。しかし、前にやったときはもっと小さいやつが相手だった。アレを小さいと思うときが来るとは夢にも思わなかったが。
空中にいくつかの空間の歪みが生まれる。その真ん中を、アイアンマンが飛んで来る。アイアンマンは後ろを気にしながら、私の上空を飛んでいった。迫りくるは巨大な鯨のような宇宙生物。遠慮や容赦は要らない。思いっきりやれる。
いくつかの空間の歪みの中心に、しっかりと獲物が入ったところで、私は杖をかざした。歪みからそれぞれ太い鎖が射出され、リヴァイアサンの巨体に巻き付き、その飛行を阻む。
お馴染みの天の鎖である。こいつは
天の鎖はリヴァイアサンの体を締め上げて、完璧にその巨体の動きを封じた。
「〔こういうのはもっと早くやってくれ〕」
「みんなに出番を譲ってあげたんだよ」
アイアンマンの言葉に、私は肩を竦めてみせる。
リヴァイアサンがもがけばもがくほど、その装甲が剥がれていった。私はその剥がれた装甲を残らず地面へ落ちる前に浮き上がらせた。装甲が剥がれて丸裸になったリヴァイアサンの周囲を、装甲の残骸が浮かんで囲む。
「落とし物だぜ」
その言葉と同時に、すべての装甲の残骸がリヴァイアサンの体に勢いよく突き刺さる。数秒前まで自身を覆い守っていた鎧が、今はその身を貫く刃となって、リヴァイアサンの体に襲いかかっていた。リヴァイアサンから低く響く唸り声が発せられ、やがてその巨体は完全に動きを止めた。
大物を倒した私はとりあえずほっと息を吐きながら、そいつを地面に下ろす。
「バートン、でかいのはこれで最後?」
「〔ああ。大仕事お疲れさん。その調子で頑張れよ〕」
屋上から全体を見ているであろうバートンに尋ねれば、ねぎらいの言葉を貰えた。お疲れと言っている割に頑張れなのだから、S.H.I.E.L.D.という組織は人使いの荒さに定評があったりするのかもしれない。
はーい、と間延びした返事をして、再び屋上を飛び立って遊撃を再開する。大物こそいなくなったものの、雑魚の数は減っているように思えない。ジリ貧ってやつだ。
チタウリ共を倒しながら飛んでいけば、地上でチタウリに群がられるアイアンマンが見えた。
「楽しそうだね、アイアンマン」
「〔遅かったな、ライラちゃん、イオレク君。こっちは先にパーティ始めてたぞ〕」
「もっと早く呼んでくれれば良かったのに」
飛びながら黒い槍を射出する。アイアンマンに群がっていたチタウリの体は引き剥がされ、地面に縫い付けられる。多少は動きやすくなったはずだ。
「〔どうも! J.A.R.V.I.S.、エネルギーをスラスターに回せ!〕」
よほど急いでいたのか、礼もそこそこにJ.A.R.V.I.S.に指示を出したアイアンマンは、私の目の前を猛スピードで空へと昇っていった。地面に立った私はそれを見送りつつ、周囲の地面から多数の槍を生やして、その場に動いていたチタウリ共を根こそぎ串刺しにする。
もしかして核ミサイルが発射されたか。全く、これだからお偉いさんは短絡的で困る。核ミサイルで宇宙人を倒せたことがあったか? 『エイ○アンVSプ○デター』でも『インデペ○デンス・デイ』でも核なんて効かなかっただろ。いい加減学習しろ。
「〔みんな、聞こえてる? 通路を塞げそうよ〕」
「〔やれ!〕」
無線が繋がり、ロマノフの声が響く。キャプテンが叫ぶように答えた。それに対してアイアンマンが待ったを掛ける。
「〔いや、待て。ミサイルが来る。あと一分もない。捨てるには丁度いい穴だ〕」
そんな声が聞こえたあと、ミサイルを抱えたアイアンマンがビルの谷間から現れ、スターク・タワーの手前で急上昇。屋上から立ち上る青い光に沿って真っ直ぐと、空に開いた暗い穴へ向かって飛び込んでいく姿が見えた。
やがて、地上で暴れていたチタウリたちが一斉に動きを止めて、バタバタと倒れていく。敵の本拠地がミサイルによって破壊されたのだろう。しかし、アイアンマンが戻ってこない。
「スターク氏が帰ってこないぞ」
シロが不安げにつぶやく。映画通りなら、キャプテンが決断をしたすぐあとに、彼は戻ってくるはずだ。不安を紛らわせるように、私はシロの毛並みを撫で、祈るように空の穴を見つめる。
その時、穴からアイアンマンが飛び出した。手足に取り付けられたスラスターはしっかりと機能している――かと思ったが、穴を出た瞬間にそれが消えた。機能停止してしまったのだ。機能停止が映画よりも遅かった。その場合、落ちる勢いはどうなる。
「〔ロマノフは穴を塞げ! ソー、ユーリ! スタークを!〕」
キャプテンが切羽詰まったように指示を出す。私は夢中で、その場を飛び上がった。猛スピードで飛び、グランド・セントラル駅の前に向かう。
空中で、ハルクがビルの上から飛び降り、アイアンマンをキャッチするのが見えた。その着地点近くの車を、大きなクッションに変える。ぼふん、と巨大クッションがハルクとアイアンマンを受け止めた。地上へ降りる前にエネルギーを使い切った私は、そこそこ高い位置から車の屋根に落ちた。背中を強かに打ち付けて、一瞬息が詰まる。
「マスター、無茶をし過ぎだ」
「いや、はは、ついね」
若干のハンガーノック状態と痛みでフラフラしながら、地上に降ろされたアイアンマンの元へと向かう。ソーがアイアンマンのマスクを外し、キャプテンが息を確認する。スタークの目は固く閉じられており、胸のアーク・リアクターの光も消えている。しかし、ハルクが吠えると「うわっ!」と驚いてスタークは目を覚ました。
「何なんだよ?」
スタークは傍で自分を見下ろすキャプテン、ソー、ハルクを見やる。
「何がどうなった? 誰もキスしてないよな?」
「……勝ったぞ」
死にかけていたというのに、いつもの彼らしいジョークを吐くスタークに、キャプテンはため息をついて言った。
「そうか……やった……やったな、ご苦労さん。明日は休みにしよう、働きすぎた。シャワルマって知ってる? 近くにシャワルマの美味い店があるんだ。一度食べてみたくてね」
「まだ終わってないぞ」
ソーの言葉に、キャプテンがスターク・タワーを仰ぎ見る。スタークも思い出したようにそちらをちらりと見た。
「じゃ、終わったらシャワルマ」
やっぱりシャワルマを提案した。