落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について 作:緑茶山
穴は塞がり敵も倒れて、あとは親玉だけ。全員お疲れムードだが、それでもスターク・タワーへ向かう。ロマノフは既に上にいるので、彼女とはペントハウスのほうで合流だ。
私は向かう最中に栄養補給のため、バッグに入れてあった手作りの鼈甲飴をなめようと取り出す。シロは胸焼けしているというか、しばらくは甘いものを食べたくないようで、無言で首を振られた。ガサガサと包装を開いていれば、上から視線が注がれる。
「それは?」
スタークが首をかしげる。もしかしたらスターク氏は鼈甲飴を食べたことがないのかもしれない。
「砂糖を140℃から180℃で溶かして、カラメル化してから型に流し込んで固まらせたものだよ」
「……つまり飴ね」
「そうとも言うね」
「そうとしか言わないだろ」
遠回しな言い方に呆れたような顔をしながら、スタークは手を出した。食べるんだ。出された手に、円盤状に固まらせた鼈甲飴を置いてあげる。他に食べる人、と見回せば、シロを除く全員が手を出した。みんな腹減りらしい。
口の中でカラコロ飴を転がしながら(ハルクとソーはバリバリ噛んで食べてた)、エレベーターでペントハウスに向かう。
スターク・タワーのペントハウスで目覚めたロキは、地球で最も怒らせちゃいけないやべーやつらが勢揃いしているのを拝むことになる。バートンが矢を向ければ、ロキは諦めたような表情を浮かべた。
「足掻いても無駄なら……酒を貰おうか」
「――よし、立たせろ。恨みつらみをぶつけるのは後だ」
事実上の降伏を宣言したロキに対し、アイアンマンが指示を出す。そうでも言わなければ、バートンは今にもロキに殴りかかるか、矢の一本や二本お見舞いしそうだ。
「気が向いたら掃除も頼む」
ついでにと言わんばかりに、アイアンマンはジョークを飛ばす。バートンが取り出した手錠でロキを拘束した。
「魔法の杖はどうする?」
「S.T.R.I.K.E.チームが取りに来る」
杖を両手で持ったロマノフが誰にともなく尋ねれば、キャプテンが答える。
『エンド・ゲーム』ではこのタイミングで棚の陰にスタークとかアントマンが隠れてるはずだけど、そんな様子は無さそうだ。その世界線ではないのだろう。そうであっても困るけど。
その場合ロキがいなくなってこの世からは恐らく四次元キューブが無くなって、2014年組と同じタイムラインなら、サノスが2023年に行って倒されるからサノスもいなくなって……アレ、平和では?
まあ、同時にガモーラもいなくなるし、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーも結成されなくなると思われる。その場合エゴと、家族コンプレックス抱いたままのスターロードが出会って、宇宙滅亡か。平和じゃないな。やっぱり来なくていいよ。いや、そもそもTVAに消されるか……。
ポーン、と機械音が鳴り響き、ラムロウ率いるS.T.R.I.K.E.チームとシットウェルが現れる。
「我々が預かろう」
「よろしく」
ラムロウがケースを用意し、シットウェルがロマノフから杖を預かる。私はなんとなく、ラムロウを凝視してしまう。
「何か用かい、嬢ちゃん?」
視線に気付いたラムロウがこちらを見て首を傾げる。やっべ見すぎた。私はぴくっと口角を持ち上げる。
「おじさん、悪役顔って言われない?」
「ははっ、どうだろうな」
ニヒルに笑い返すラムロウ。焦る様子はなさそう。さすがプロのエージェントである。
「ほーら、ユーリちゃん。おじさんの仕事の邪魔しちゃ駄目よ」
「はーい。バイバイおじさん」
片手にお酒の入ったグラスを持ったロマノフによって、私は方向転換させられる。それにおとなしく従いながら、ラムロウに手を振って離れた。余計なこと言ったせいで目をつけられたりしないといいけど。子供の言ったことだって流してくれることを祈ろう。
「救出活動の指揮を執ってくる」
キャプテンが無線機に手を当てながら言って、足早にエレベーターへと向かう。変身してモノマネをするロキに、うるさいと言わんばかりにソーが口枷をはめた。
「ユーリ、シロ、まだ動けるか? 君たちの力が必要になる可能性が高い。手伝ってくれ」
「大丈夫、分かった」
キャプテンに声を掛けられて、私は頷いた。アイアンマンは充電切れなことを考えると、大きい邪魔な物を優しくどけられるのは私だけだった。ハルクとソーも力持ちだが、少々繊細さに欠ける。
四次元キューブはスタークがケースに仕舞い、ハルクと私とシロ以外の全員がエレベーターに乗り込んだ。重量オーバーで私たちは乗れず、階段で降りることになったが……。エレベーターに乗れなくて怒ったハルクがドアを凹ませて、『エンド・ゲーム』で見た通りに状況は進んでいった。
まあ、『エンド・ゲーム』とは違ってロキは逃げなかったし、スタークは不整脈を起こすこともなかったし、キャプテンがキャプテンと戦うこともなかったけど。
◇
救出活動の後みんなでシャワルマ食べに行ったけど、疲れた体には正直重かったし、食べてる間みんな無言で、なんなら解散のときもほぼ無言だった。
あとになって思えば、まだアベンジャーズは出来たてほやほや、成り行きで手を組んだだけで、仲もそんなに良くない。空気が重くなるわけである。
◇
数日後、私たちはニューヨークのパーク前通路に集まっていた。ソーとロキがアスガルドに帰るので、その見送りだ。
ちょっとした広場になってる場所にはS.H.I.E.L.D.のエージェントが配備されて、一般人が立ち寄れないようにされている。
エージェントが見張っているパークの向こう側を見れば、復興作業が進められている街が見える。ニュースでは多数の国や著名人が支援金を送ったことを報道し、SNSではボランティアの募集や義援金の募金活動がされている。まだまだ支援が必要な状況だが、ここは被害を免れて、静かなものだった。
ニューヨークでの戦いを終えて数日の間に、私はソーにアスガルドへ行かせて貰えるように頼んだ。ソーは快く頷いたが、ロキのこともあるから少し待って欲しいと答えた。私とシロは、それでいいと頷いた。
アスガルドには行きたいが、こっちにも一応学業がある。
ソーは私たちがアスガルドへ行けるようご両親に話を通し、再び迎えに来てくれるという約束した。時期や雰囲気的に夏休み頃になるのかもしれなかった。
ソーとロキは広場の真ん中に向かい合って立ち、他のメンバーがそれを遠巻きに囲む。
ソーがキューブのセットされた装置を持ちあげると、ロキはその反対側の取っ手を持った。ソーが周りにいたメンバーたちへ頷くと、メンバーもそれに応える。
そうして、ソーは取っ手をぐるっと回転させた。その瞬間、キューブの力で青い光が二人を包んだかと思えば、次の瞬間には二人は光ごと空へ消えていっていた。
私は空を眺めて二人を見送る。
「終わったな、やっと」
シロがつぶやく。私は頷いた。しばらくは静かに過ごせることだろう。
ふう、と小さく息を吐いて、笑みを浮かべシロを振り向く。
「今日はごちそうにしよう、シロさん! 何食べたい? ハンバーグ? 唐揚げ? 寿司? カツカレー? 餃子? デザートはパフェにケーキ乗っけようか!」
「チョコレートじゃなければ何でもいい」
「あはは、チョコトラウマになってんじゃん」
私の提案に、シロはげんなりとした様子で答える。
その会話をはたから聞いていたメンバーの反応はそれぞれだ。
スタークは子供っぽい姿に呆れた風だし、バナーは微笑まし気に笑っている。ロジャースは聞き覚えの無い料理名に対して頭の上にクエスチョンマークを浮かべ、バートンとロマノフは……うーん、エージェントの表情は読み取りにくい。
まあ、何はともあれ、私たちは無事に家路につき、始まりの戦いはそうして終わりを迎えたのである。