落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第二章 レディ&テディ+α編
第二章-1「アスガルドへ」


 

 

 ――夢を見た。

 

 ――いつかの、誰かの記憶を。

 

 

 

 ◇

 

 丁度学校が夏休みの終業式を迎えたその翌日、家の上空に雷鳴が轟いた。家の小さな庭に光の柱が降りてきて、ソーが現れた。庭にミステリーサークルが出来た。

 そうして、虹色に輝く光の通路を通って、私たちはアスガルドへとやって来た。アスガルドで最初に見たのは、ヘイムダルと思われる肌の黒い大柄の男。そして彼が番人を務める、アスガルドの断崖にあり、虹の橋の先端に建てられた天文台・ヘミンビョルグ。

「アスガルドへようこそ、ユーリ、シロ」

 ソーがおどけるように恭しく言って、ヘミンビョルグの出入り口を背にして立った。その向こうには、王都へ繋がる長い虹の橋と、谷間に築かれた科学と魔法で発展した不思議で美しい街。遠く見えるのはパイプオルガンのような外観をした、一際大きな建物。

「あそこに見えるのがヴァーラススキャルヴ。俺の育った宮殿だ」

 その大きな建物を指して、ソーが言った。北欧神話にも出てくる、オーディンの宮殿だ。

 ヘミンビョルグから一歩外へ出れば、橋の下には海が広がっている。映画で見た通り、アスガルドは平面の星で、端は滝となっている。

「海に落ちたらどうなるの?」

「死ぬぞ」

「とても簡潔で分かりやすい説明デスネ……」

「マスター、すぐに端に行って下を覗き込む癖は直したほうがいい」

 飾りであろうオブジェはあれども、手すりの付いていない虹の橋の端から、私はそっと離れる。

「両親を紹介しよう。しっかり掴まれ。落ちるなよ」

 ソーは右手でブンブンとハンマーを回し、左手に私を抱える。シロは慌てて私の服にしっかりとしがみついた。私は片方の手をソーの体に回す。その瞬間、体が浮き上がった。

「その前に、景色を楽しみたいだろう」

 空中高く、私たちの体は浮き上がっていた。ゆっくりとしたスピードで、私たちは宮殿に向けて空を飛ぶ。空からは王都の全貌がよく見えた。

 建造物は、古代ローマや古代ギリシャの建築物のような歴史を感じるものから、SFのような近代的なものまで様々に混在し、宮殿へと近付くほどに近未来的な建造物が増えていく。

 特異な形状の建物があちこちに見られて、そのどれもが日の光を受けて黄金に輝いていた。原理や用途は分からないが、巨大な浮遊物も見える。

 都市の外れには小島がいくつも存在していて、大きな像が建てられている場所もあった。

「あの像は誰?」

「我が祖父であり、先代国王ボーだ。全世界を支配しようとしたダーク・エルフに対して、自ら軍を率いて戦い、勝利した」

 『マイティ・ソー』の二作目で描かれていた人だろうか。

 王都から離れた山地には、雪が積もった山頂、滝に削られた谷や豊かな森が見えた。山の麓には葡萄畑があるのだと、ソーが教えてくれる。

 王家の領地だと紹介された中心部には、鳥小屋や馬小屋などの建物が見える。やがて、ソーは宮殿の入口近くにゆっくりと着地した。

「近くで見るとなおさら大きいなぁ」

「こっちだ、二人とも」

 あちこち見回す私を、ソーが手招きする。私は慌ててソーを追いかけた。わざとでなくとも迷って禁止された場所に入ったら、怒られるだけでは済まなそうな場所だ。

 廊下を進むと、向かいから歩いてきた鎧兜姿の男達がソーを見て、「殿下」と呼びかけ礼をとる。堂々とした姿でそれを受け入れるソーは、やはり王子様なのだと再確認させられた。

「彼らはエインヘリャル。アスガルド軍の、勇敢で優れた戦士たちだ。平時は王宮の守衛として、王に仕えている」

 歩きながらそう説明される。青みがかった灰色のマントに、高級感のある洗練されたデザインの武具を身に着けた戦士たち。三作目で、ホーガンと共にヘラに挑んでいた戦士たちだろう。

「強そう。マントが渋くてかっこいいね」

「強いぞ。俺には劣るがな。マントのかっこよさも」

 そう言って自信有り気にソーは笑みを浮かべて、私はつられるように笑った。

 ふと天井を見れば、天井いっぱいに絵が描いてある。

「動いてる……」

「ああ、あそこにはアスガルドの歴史が描かれている。あれは氷の巨人族との休戦協定についての絵だな」

 三作目でヘラに壊されていたやつかな。動くって設定だったっけ。どういう技術なんだろう。魔法なのかな。

「それより、マスター、これから王様に会うのだろう。平気なのか」

「え、あっ、そうか。ソー、大丈夫かな。私こんな格好だし、アスガルドの礼儀作法とか知らないよ」

「大丈夫だ。いつもどおりにしていれば問題ない。取って食いはしないさ」

 アベンジャーズとして戦ったときとほぼ同じ、ショートパンツにTシャツ、Gジャンというあまりに普段着の自分を顧みて焦る私を見て、ソーは笑いながら私の肩を叩いた。

 まあ、ソーが来たときのくたびれたTシャツ姿の私が挨拶するよりマシだろうけど……。

「この先が謁見の間だ。――父上、母上。ただいま戻りました」

 声を掛けながら歩みを進めるソーに、私は少し駆け足になりながらついて行く。

「よくぞ戻った、ソー。我が息子」

「おかえりなさい、ソー。その少女が、話していた子ね」

 低く威厳のある声が響き、柔らかな声がソーを出迎える。

 壇上の玉座に座るはオーディン。北欧神話においては主神であり、戦争と死、詩文の神。そしてその横にはその妻フリッガ、愛と結婚と豊穣の女神、と神話にはある。

「はい、母上。彼女がユーリ。俺の仲間の一人であり、言語学者で、ミッドガルドの魔術師です。そしてこの熊が、シロ。ラシューカ星出身で、ユーリの相棒です。ユーリ、俺の父にしてアスガルドの王、オーディンと、母であり王妃のフリッガだ」

「はじめまして、えっと、王様、王妃様。お招き頂いて、とても感謝しています」

「お会い出来て光栄です」

 ソーの紹介に、私が言語学者ってなんのこと? と少し困惑しながらシロとともに挨拶をして頭を下げた。下げてから、これ日本人の礼儀作法だよとセルフツッコミを入れる。

「ソーから話は聞いている。ロキ捕縛の際には世話になったとな。感謝する、ミッドガルドのユーリよ」

「もったいないお言葉です」

 シロにも感謝してほしいところだけど、多分ここの人たちには特に、シロ……イマジェンはただの熊とかただのペットというイメージが強いのだろう。その辺りの問答は今することじゃないのでおいておく。

「ラシューカ星について知りたいと聞いた。感謝の印として、城の図書室の資料を自由に閲覧することを許可しよう。アスガルドの学者たちとも意見を交わすと良い」

「はい! ありがとうございます」

 数千年にわたり続いてきた王国の図書館への出入りを許可され、私は深々、もう一度頭を下げる。

「フリッガ、客人を頼む。ソー、話がある。残りなさい」

 オーディンが命じれば、フリッガは頷き私達を促した。ソーはまた後でな、と私に声を掛けてオーディンへと顔を向けた。

 私はソーに頷き、オーディンに頭を下げて、フリッガに促されるまま謁見の間を後にした。

「古代ラシューカ語の研究をしているんですってね?」

「へっ、は、はい。あ、でも、ソーが言ってたように学者では、まだなくて。ただの学生、でして」

「ふふ、そんなに緊張しないで」

 宮殿の広い廊下を歩きながら話し掛けられて、私は声がひっくり返りながら答えた。そんな私の様子に、フリッガは笑う。

 うーん、それにしても綺麗で上品な方だ。

「怒らないでね、夫のこと。わざとシロのことを出さなかったわけじゃないの」

「え、いや……」

「私は気にしておりません。本来、陛下の反応が当たり前なのですから」

 シロの言葉に、当たり前と外れたことして悪かったな、とちょっぴり睨む。シロはその視線に気が付いて、ぷいっと顔を逸らした。

「仲が良いのね」

 フリッガは微笑ましそうに私たちを見て言った。

 話を交わしながら廊下を進み、私たちは大きな扉の前に案内される。随分重そうな扉なのに、フリッガが手を置いただけで、すいっと開いてしまった。

「魔法がかけてあるのよ」

 不思議そうに見上げていたのがバレていたらしく、フリッガが教えてくれる。魔法のタッチ式自動ドアってことか。

 扉の向こうには、大空間が広がっていた。壁際は天井まで本棚が届いていて、みっちりと本が詰め込まれている。一階にも吹き抜けて少し覗き見える二階にも、背の高い本棚が並んでいた。

 アニメの『美女〇野獣』の中で出てきた、野獣の城の図書室みたいだ。いや、あれよりも蔵書数が多いかもしれない。

「アルヴィス、いるかしら」

 フリッガが入り口近くで声を掛けた。そんなに声を張っているように見えなかったのに、フリッガの声は大空間に反響する。

「ええ、フリッガ様。ここに」

 本棚の陰からのっそりと現れたのは巨人だった。灰色のもじゃもじゃの髪と髭に、同じような色のローブを纏った大男。姿かたちはガンダルフなのに、縮尺がおかしい。三メートルは確実にある。

「アルヴィス。彼女はユーリ。ラシューカ星や古代ラシューカ語について調べている、ミッドガルドの学者よ。そして、彼女の相棒のシロ。いろいろと教えてあげて。ユーリ、シロ、彼はドワーフのアルヴィス。この図書室の司書を務めているの。図書室のことなら、アルヴィスに聞くと良いわ」

 そういえば、『インフィニティ・ウォー』の時にストーム・ブレイカーを作ったのがエイトリと言うドワーフで、彼もソーの身長の二倍くらいありそうな大きさだった。

 地球のファンタジー作品に触れている私からすると、ドワーフと言えば人間より小さくずんぐりむっくりモジャモジャひげと言うイメージだが、アスガルドの――と言うかMCU世界に実在するドワーフは大きいのだろうか。

「ドワーフって大きいんですか」

「ええ。巨人族よりは小さいけれど」

「そうですか。よろしくお願いします、アルヴィスさん」

 巨人族ってどんだけ大きいんですか、という問いが喉元まで出るけれど、話が脱線するので抑えた。

「ミッドガルドの人間を見るのは初めてだ。アスガルド人より小さい。子供のようだな。よろしく、ユーリ、シロ。小さな娘、小さな熊」

 アスガルド人より小さくて子供のようなのは人種の差というか、個体差なんだけど、うん、まあいいや。

「あとはお願いね、アルヴィス。ユーリ、シロ。ゆっくりしてね」

「はい、ありがとうございます」

「感謝します、王妃様」

 私たちに声を掛け、フリッガは図書室を後にする。図書室の扉が閉まるのを見送った後、私は、おそらく学校の天井より高い位置にあるアルヴィスの顔を見上げた。

「それで、ユーリ。どんな資料が読みたい、という要望はあるだろうか」

「あ、はい。ソー王子からラシューカ語で書かれたものがあると聞いたので、そちらを。それから、ラシューカ星やラシューカ人について書かれた本があれば、どんなものでも……!」

 ついに資料を読める。これから目の前に現れるであろう、地球にない文字で綴られた文書に、私の胸は躍っていた。

 

 

 

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