落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第二章-6「疑念と真実」

 最初こそイマジェンの力により優位に立っていたラシューカ軍だったが、相手も対策を打って、そう上手くは行かなくなっていた。

 二人目の相棒が死んで、次に俺の相棒となったのは、二人目の相棒の幼馴染の女だった。彼女は、一人目の相棒の、片恋相手だった。

 女は軍の二等士官(中尉)だった。少し前までは三等士官だったそうだが、戦局の悪化で指揮官が減少して、昇進したのだそうだ。そう本人は語っていた。

 女は細腕に見えて意外と力があり、武術に長け、銃火器の扱いにも優れていた。指揮官の減少が昇進理由だと彼女は言っていたが、理由はそれだけでないことは俺にも分かった。

 平時は穏やかだが、戦闘時は凛々しく部隊を指揮する。どこか憂いを帯びた、しかし柔らかな笑みを浮かべる彼女に恋をするのは、俺の一人目の相棒だけではなかったと知った。女はまさしく、戦場に咲く花であった。

 女はイマジェンである俺と、よく話をした。とりとめのない話題が多かった。宿営地の傍に咲いていた花のこと、女の家族のこと、どうして兵士になる道を選んだか、俺の前の相棒たちのこと、戦場に駆り出されて何を思うか……。

口の上手くない俺の話を、女はいつも楽しそうに微笑んで聞いていた。俺も、彼女の穏やかな声が心地よかった。

 軍の兵士たちは、彼女の凛とした横顔に恋をした。彼女の真っ直ぐに前を見つめる瞳に恋をした。彼女の柔らかな笑顔に恋をした。けれど彼女は、涙を流す姿さえも美しいのだと言うことは、ただ、俺だけが知っていた。

 

 ◇

 

 レザンの話が終わり、私たちは城の中の二部屋を使うよう言われた。おそらく往時には賓客を迎えるために使われていた部屋なのだろう。ベッドやテーブルなど、一通りのものが揃っていた。そのどれも、王城にふさわしい上品で洗練されたデザインの調度品だ。

「……マスター、少し散歩をしてきても良いか?」

 さて一息つこうかと言うとき、シロが口を開いた。シロが自らそう言うことは数少ないことで、私は少し驚いたものの、鷹揚に頷いた。

「行ってらっしゃい。私はしばらくここにいるよ」

「ああ。ゆっくりしてくれ」

 手を振る私に、シロは頷いて部屋を出ていった。ドアの無い入り口の向こうへシロが去る。それを追いかけるようにタットが横切っていくのが見えた。元気で自由なリスである。ここに来た時も、私が淹れてもらって飲むのをやめたタリナの花茶とやらを勝手に飲み干していた。

「小娘」

「ロキ、どうかした?」

 意外な来客に、私は目を瞬く。ロキは遠慮なく入ってくると、部屋を見回した。

「イマジェンはいないのか」

「シロさんなら、散歩してくるって」

 私の答えを聞くと、ロキは不意に私の左手首を掴んで引いた。急な出来事に、私はうわ、と声を上げる。ロキは私の左手の甲を見る。シロが離れて能力が使えないとき、令呪もどきはアザのようにぼやける。

「アレがいないと能力は使えないのに、離れたのか?」

「別に、敵はいないでしょ、ここに」

 私の返答に、ロキは更に左手を引っ張った。目と鼻の先にロキの顔が近付く。その表情は、嘲笑うように歪んでいた。

「そうか? 少なくとも私はそうだったぞ? あのレザンと言う男も、信用ならないな。何故一人でこんな星に残っている」

 手首を強く握り込まれた。魔術を封じられているが、お前など簡単に殺せるのだと言われているようだった。私は一瞬気を呑まれかけるが、空いている右手でロキの顔を押し返す。

「近い! ……守ってるんじゃないの、この星を。滅ぼされても故郷でしょ」

「ならば何故、ミルファン人はこの星を侵略しない? ルベラ人の軍が守りきれなかった星を、たった一人であの男が奪い返したと? そもそも、何故ミルファン人はこの星を滅ぼした?」

「それは……確かにそうだけど」

 ロキの指摘に頷く。

 侵略にはいつでも、理由があるはずだ。ルベラ人が土地を求めてこの星を侵略したように。ロキが地球人を支配するため地球を侵略したように。ここへ来る前にちゃんと疑問に思っていたことだった。何故忘れていたんだ、そのことを。

 もしも、レザンがミルファン人を使ってこの星を取り戻したとしたなら――。

 一瞬、嫌な考えが頭をよぎる。ロキも同じことを考えているのか、じっと黙って私を見下ろしていた。

「散歩に行かなきゃ」

 私は立ち上がり、ロキとともに部屋を後にした。

 

 ◇

 

 とにかくシロを探そうとしていた私の横を追い抜き、ロキは勝手に前を歩き出した。ちょっと、と声をかければ、ロキはこちらをちらりと振り返り、ついて来いと言うように顎をしゃくる。なにかアテがあるのだろうか、と私は半信半疑ながらも、その後ろについて行った。

 ロキは私を連れて、城の深部へと向かっているようだった。地下空間で元々光の少ない城内が、更に暗くなる場所へと連れて行かれる。地下へ行けば行くほど、内装は軍事基地を思わせるような簡素で近未来的なものに変わっていく。

「ここ、知ってたの?」

「いいや。しかし、隠し事をするなら地下と相場が決まっている」

「私はシロさんを探したいんだけど……」

 答えながら、そういえば、まだ出てきて無いだろうけど死の女神ヘラの犬は、アスガルドの王宮の地下に封じられていたっけと考える。

 長い廊下にはドアが等間隔に並んでいる。ドアの横にはプレートが設置されてあって、保管庫だの兵器開発所だのを意味するラシューカの文字が刻印されていた。争いを好まないとレザンは言っていたが、軍事基地はちゃんと軍事基地らしいことをしていたようだ。

「ロキ、ここ」

「何だ」

 一つ一つドアを開けて中を確認し進む中で、私はそのプレートの付けられたドアを見つけた。ロキを呼び、そのドアを指差す。

「〝魔法核開発研究室〟って」

「……入るぞ」

 ロキは言って、ドアを開けた。他の扉と同様に、簡単にドアは開いて、中の様子が目に飛び込んでくる。そこはこれまで見たような、コンテナの並んだ倉庫ではなく。謎の数式や図式が壁に書かれた部屋でもなく。

 そこに並ぶのは、赤や青のコードに繋がれた球体だった。

「これは……」

 呆然と私はつぶやく。これは何だと問う視線がロキから寄越されるのを感じて、私は彼を見上げた。

「魔法核……イマジェンだ」

 シロのような、熊の形すらしていない。ただの水晶玉みたいな球体。でもそれらがシロと同じものであると、本能が言っていた。

 私は躊躇いがちに歩を進める。

 コードに繋がれたそれらは、本当にただの球体だった。色はくすんで、冷たい。触れても反応はない。

 確か触れることでイマジェンと仮契約だったか、と私はいつだったか聞いたシロの言葉を思い出す。既に私が別のイマジェンと契約しているから何も反応がないのだろうかと思ったが、ロキが触れても何の反応も無かったのを見るに、どうやら機能を停止しているらしかった。

 そんなふうに、機能停止したイマジェンが、入り口から左右の壁際の机に並べられていた。しかしその中で、奥の壁際に置かれたイマジェンだけは、色を帯びていた。

 ぼんやりと発光するイマジェンに近付いて、私はそっと触れる。それに反応して、イマジェンは目を覚ますように光を瞬かせた。

「――生体反応を検知。テラ星人、イマジェン製造番号ゼロイチの相棒の反応アリ。氷の巨人族の反応アリ。おハヨうゴザいます。私はイマジェン、製造番号ナナサンでス」

 返ってきた言葉に、私は思わず口を噤んだ。感情の無い、機械的な声。これが、シロと同じイマジェンなのか。

「お前たちは誰にここへ連れてこられた」

 ショックで言葉を失う私に代わって、ロキがイマジェンに尋ねた。

「レザン。ラシューカ人。登録番号ゴーナナイチゼロサン。イマジェンの製造番号ゼロニ、ゼロゴー、ゼロハチ、イチサン……」

 イマジェンは製造番号を次々に呼び上げる。止まる様子がない。

「いい、読み上げなくていい。データは出せる? 見せて」

「データを表示しまス」

 イマジェンは球体の中にレザンについての情報を映し出した。彼の言うラシューカ人とは、地下ラシューカ人のことだろう。

 データにはレザンがイマジェンの力を扱うこと、そしてそれが、目の前にいるナナサンを含めた複数のイマジェンであることが書かれていた。イマジェンとの契約は一対一とシロから聞いたが――いや、それはルベラ人の常識だな。

「レザンの目的はなんだ?」

「データにありマセん」

 ロキは尋ねたが、無感情に返ってきた言葉にチッ、と舌打ちをする。行儀悪いぞ王子。

「レザンはこんなたくさんイマジェンと契約をして、一体何を……」

「契約していマセん」

「え?」

 呟いた言葉に、意外な返答が来る。

「レザンは、私たちの力を使いマス。でスが契約はしてマセん」

「どういうこと?」

「この品の無い機械でどうにかしているのだろう。しかし、まずいぞ。お前のイマジェンが危険だ」

 レザンが何をしようとしているのかは分からないが、つまり何をしていてもおかしくはないということで。シロが、ここに置かれたイマジェンと同じような目に合うかもしれないということだ。

「おい、レザンの居場所は分からないのか?」

「イバ、いば、イバしょ、しょしょショショしョ、ヒョウ、ひょう、じジじじじジジ、ししシマままマ……」

 突然バグが起こったように、ナナサンは言葉を繰り返しはじめ、やがて動きを止めた。帯びていた色と光も失う。彼も他のイマジェンと同じように、()()()しまった。レザンはおそらく、このイマジェンの力も奪ったのだろう。

「ロキ、その辺に紙ない?」

「? ……これでいいか?」

 机の引き出しには雑多に詰められた書類の束がある。ロキはその中からまっさらな紙を引っ張り出して私に差し出す。

 引き出しの中に、革張りの小さな手帳があった。中を見ればラシューカ語でイマジェンを意味する言葉が見て取れた。とりあえずその手帳をポーチに詰め込んだあと、私は持ち歩いているペンを出した。白い紙に、シロの元へと案内してくれ、という意味のルーンを書く。

 インクに魔力を込めて書いた文字が淡く光を帯びた。紙は浮き上がり、私たちの入って来た扉の隙間をするりと抜けていく。

「行こう」

 私たちは空飛ぶ紙を追って駆け出した。

 

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