落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第二章-10「ミルファン星にて」

 地表に広がるのは荒野。恒星がある様子はなく、地上で人類に近い生き物が生活している様子はない。それがミルファン人の住むミルファン星だった。

 万年戦時中みたいな状況らしいミルファン星に普通に入管とかあるわけないので、ルーン魔術で宇宙船ごと隠して真正面から入った。行き当たりばったり過ぎる方法で不安だったが、拍子抜けするほどあっさりと、私たちはシェルターの中に侵入できた。

 私たちの乗った宇宙船は、格納庫と呼ぶにふさわしい広い空間へ着陸した。

 着いたらどうするかという作戦会議はもう済んでいた。私は用意していたルーンを刻んだ石(石自体はラシューカ星で拾ったものだ)を両手に持って、バッグに詰めて、小型艇の外へと飛び出した。

 戻ってきた小型艇に駆け寄っていたミルファン人たちが、小型艇のハッチを開けて現れた私の姿を見て固まった。私はすうっと息を吸う。

「どっかで見てんだろ、レザン! 私が来たぞ! 友達を助けに来た!」

 普段出さないような大声を、腹に力を込めて叫ぶ。駆け寄ろうとしていたミルファン人たちは研究者の類で戦う術を持っていないのか、すぐに及び腰になり背を向け逃げていく。そしてそれと行き違うように、銃器の類を持ったミルファン人たちが走ってきた。

「来いよ、リトル・グレイ共! ――片っ端から潰してやる」

 感情の高ぶっている私は、ミルファン人たちを見回して言い放った。こういう決め台詞ってのは、調子乗っているくらいが丁度いいのだ。別に全て倒してしまっても構わないのだろう?

 こちらに向けて銃を構えるミルファン人たちに、石を投げる。投げた石が種のように割れて、そこから勢いよく蠢く触手のように茨が生えた。ミルファン人たちに巻き付き、その体を拘束し――茨はそのまま電撃に変わり、ミルファン人たちを電気ショックで倒す。

 その時、重い物を勢いよく金属の床に叩きつけるような、そんな足音が耳に届いた。獣のような咆哮。私の体を覆うような影が差す。そちらを見れば、見覚えのある巨体が私を見下ろしていた。ミルファン製巨大メカ。

「レベル上がった後に、昔苦戦したボスと再戦ってやつ?」

 軽口を叩きながら、私は二つ目の石を投げる。巨大メカの足元にぶつかった石は、その瞬間に氷となって巨大メカの脚に広がった。地面にも及んだそれは、巨大機構の動きを阻む。

 次はどのルーン使おうかとバッグに手をやったところで、何か光弾のようなものが巨大メカに当たり、そこから溶解が広がっていく。巨大メカは瞬く間に文字通り、消されてしまった。

「こいつはなかなかいい武器だな」

「やるじゃん」

 光弾が放たれた軌道を辿れば、ミルファン人の落とした銃を拾って構えたロキがいた。話している間にもミルファン人や戦闘用メカ、巨大メカがぞろぞろと集まっていた。私も落ちていた銃を拾う。

「使えるのか?」

「引き金引くだけっしょ?」

 夏休み近くなるとホームセンターとかでよく見かける、ちょっとお高い水鉄砲みたいな形をした大きな銃を持って、私は引き金を引く。銃口から放たれたレーザー弾は宇宙船の一つにぶつかって、宇宙船が一機消えた。

「引き金を引くのは狙ってからだ」

「おっけー、学んだ」

 はいここでなんかノリのいい曲。……とか言うとデッドプールっぽさあってパクリとか言われそうだよね。でもやっぱり、こういうシーンにノリのいい洋楽流れるの、ベタだけど好きよ。

 私とロキは奥へと進みながら、背中合わせに銃をぶっ放し、時々石を投げて、次々にミルファン人やメカたちを倒していった。

 その最中に、私は既視感のある装置を見つける。ラシューカ星でも見た装置であり、シロの記憶を介して見た装置でもある。装置から発せられる、この格納庫全体に広がったオーラのような物。ミルファン人が戦争時に使い、あの装置が作る範囲の中で、イマジェンたちは能力を使えず、私も同じくシロの力を使えなかった。あれを壊して、シロを取り戻せば、また能力を使えるはずだ。

 しばらく進むと、こちらに銃を向けていたミルファン人たちがざわつき始めた。銃撃が止み、機械たちも動きを止める。私とロキも、その様子に足を止めた。

 かつん、かつん、と静かな空間に足音が響き、奥から白い男が出てきた。レザン。手にはシロが捕まっていた。

「来たか、紛い物」

 レザンは言い放った。それほど大きな声で言ったわけではないのに、周りが静かだったせいか不思議とよく響いた。

 ロキがレザンの言葉に、「何?」と呟き首を傾げる。ロキが本当はラウフェイの息子だからそう言っているのかと一瞬思ったが、レザンの視線は私に固定されていた。もしかして、シロを介して私の記憶を見たのか。紛い物とは随分な御挨拶である。

「ユーリ・タカムラ。貴様は何者だ」

 やはり、そのようだ。ロキが少し困惑した様子で私を見下ろしたのが視界の端に映る。私はその視線をとりあえず無視して、口を開く。

「地球のナウなヤングにバカウケナウなヒーローチーム、アベンジャーズのメンバー。レディ&テディのレディの方だ」

 紛い物でも何でも、好きに呼べばいい。

相棒(テディ)を助けに来た」

 要は自分が自分をどう思うかで、何者かどうかより、何をするかが大切なのだ。

「ついでに、宇宙の危機も救いに来たよ」

 私の言葉に、レザンはくだらないと嘲笑うように唇を歪めた。

「マスター、すまない。逃げようとしたが捕まった。俺はピーチと改名した方が良いかもしれない」

「配管工に就職する気はないから却下。今助けるよ、シロさん」

 割と余裕あるシロの謝罪に、私は軽く笑みを浮かべて答える。その会話に、レザンは心底おかしいと言うように笑いだした。悪役必修の三段笑いだ。

「今助けるだと!? イマジェンの力が無くては何も出来ない小娘が、何をほざくか!」

 レザンは言うが、こっちにはラシューカ星の時には持っていなかった大量のルーン石があるのだ。ルーン魔術はその場で刻んで使える利便性もさることながら、それにプラスして準備をしておけばその有用性はさらに高まる。文字通りあの時の私とは違うのである。

「……レザン、始める前に聞きたいんだが」

 それまで黙って成り行きを見守っていたロキが口を開いた。私は何を言い出すのかと横目でそちらを見る。レザンは発言を許すようにロキを見た。

「協力すれば、九つの世界は私のものか?」

 ロキの問いに私は目を瞠ってそちらを振り向き、レザンは少し驚いたような表情を見せた後、口角を上げた。

「いいだろう。九つの世界くらいくれてやる。私の考えに賛同してくれたようで嬉しいよ、ロキ王子」

「ロキ、何を……っ!」

 ロキは私に銃口を向け、間髪入れずにその引き金を引いた。

 幸いにしてレーザー弾は持っていた銃に当たって、私は反動で吹き飛ばされるだけで済んだ。着ていたS.H.I.E.L.D.謹製ジャケットには防護のルーンを刻んであるので、ダメージは少ない。そして運の良いことに、転がった先には例の装置があった。

「マスター! ――ロキ、貴様!」

「言っただろう。私を信用するなと」

 顔を上げ、私は嘲笑を浮かべるロキを睨む。

「クソ野郎!」

 罵りながらルーン石を投げれば、爆発が起きてロキは吹っ飛んだ。お前にはそういう役がお似合いだ。レザンはその仲間割れを楽しそうに眺めていたが、それに気を取られて近付く小さい影に気付かなかった。

 小さな影はレザンの顔を目掛けて飛び掛かる。

「ぐあっ! くっ、なんだっ!?」

「ナイス、タット!」

 レザンはシロの拘束を緩めた。シロはレザンの手を逃れて、私もシロへと駆け出す。背後では電気の弾ける音が響いた。

「この……下等生物め!」

 タットがレザンに剥がされて放り投げられるのと、私がシロを掴んだのは同時だった。

「魔法核の力は使えぬとまだ……まさか!」

 レザンははっと装置の方を見る。やっと気付いたらしい。先程の電気が弾ける音は、私のルーン石がくだんの装置を壊した音だ。装置は電気を帯びて煙を吹き、壁全体に広がっていたオーラのようなものは消え去った。私の左手の甲には令呪もどきが形を得る。

 悪態を吐きながら、レザンはナイフを生み出し、こちらに投げた。シロは私の意図を感じ取り、私の両手が空くように私の体にしっかりと抱き付いた。

「――干将、莫耶」

 私の両手には一対の夫婦剣。シロの力によって強化された私の目には、飛んでくるナイフは止まったようにゆっくりと見えて、私はそれに合わせて、両手の剣を振り抜いた。金属と金属のぶつかり合う甲高い音が響き、ナイフは床に落ちる。

 レザンはわなわなと私たちを見つめた。私はシロにいつものようにショルダーバッグに入っているよう促して、握った剣の片方をレザンに向ける。

「最初に言っておく。お前は――私たちには勝てない」

 響く声。それが、戦いの合図となった。

 

 

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