落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第二章-11「レザンとの決着」

 私の言葉に、レザンはカッと目を見開いた。

「粋がるな小娘!」

 レザンが手を振りかざす。冴え渡った直感がここに立つべきでないと私に告げて、私は地を蹴って飛び上がった。立っていた地面から黒い槍のようなものが何本も生える。

 飛び上がって串刺しを免れた私は、空中で両手の剣を消す代わりに弓を投影した。矢の代わりに剣が現れ、引き絞り、放つ。レザンが避けて、放った剣はその足元に刺さった。

 私が地面に降りるのを待たずに、レザンは大量の黒い槍を放ってきた。黒の魔法に似た力だ。私はそれに対抗し、同じだけの剣を投影し、槍にぶつけて相殺する。

「魔法の弱点は、術式を使用しない場合のエネルギー効率の悪さだ。しかし私は、それすら超越した」

 地面へ降りた私に、レザンは凄惨な笑みを浮かべて言った。

「……さて、せいぜい頭を使ってみせろ」

 レザンが両手を広げると、その場にあったものが浮遊を始めた。宇宙船も、ミルファン製の武器も、そこらにあった手すりや壁を這っていたパイプも、千切れて浮き上がる。その先端はこちらへ向いている。

「やれ」

 短くもはっきりとレザンが命令を口にした。浮き上がって制止していたすべてのものが動き始める。

 宇宙船は機関銃を撃ち、銃器は光弾を発射し、手摺やパイプの残骸はこちらに飛んできた。

 ――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 薄紅色の七枚の花弁が開く。花弁の一枚一枚が古の城壁と同じだけの防御力を持つ光の盾は、レザンの猛攻を防ぐが、それと同時に私の体はそこへと釘付けにされてしまう。

「どうした、ユーリ・タカムラ! 手も足も出ないか!」

 哄笑と共に聞こえるその声に、心内でくそったれ、と呟く。防御と同時に剣の投影をしようとすれば、片っ端から撃ち落された。

「マスター、あれをやろう」

「え、でも」

 バッグから顔を出したシロの言葉に、私はためらいを見せる。

「すでに術式は完成している。試してはいないが、問題ないはずだ。今必要なのは、この状況を打開する策だろう。あれなら奴の度肝を抜かせられる。隙が生まれる」

 シロは必ず出来ると確信した様子で言った。「それに」とシロはさらに言葉を続ける。

「術式の理解が深まれば魔力の消費量は減る」

 エネルギー残量が視界に表示される。ここまでで剣や弓、盾を投影し、身体も強化した。でも二割も減っていない。

「マスター、今の俺たちならば出来る」

 シロは少し得意気に言った。私はそれに、にやりと笑い返した。

 ――I am the born of my sword.(体は剣で出来ている)

 堅牢さを誇るアイアスの盾だが、さすがの猛攻に花弁が割れ始める。それを見て笑みを深めるレザンを見ながら、私は詠唱を始めた。

 ――Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で心は硝子)I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)

 無限の剣製の詠唱は、暗記していたわけではない。使おうと思うと、ふっと頭の中に浮かび上がるのだ。

 ――Unaware of loss.(ただ一度の敗走もなく、)Nor aware of gain.(ただ一度の勝利もなし)

 言葉を紡ぐごとに、空中に電流のようなものが走り、徐々にその大きさを増していく。

 ――Withstood pain to create weapons,(担い手はここに孤り)waiting for one's arrival.(剣の丘で鉄を鍛つ)

 床に稲妻のようなひび割れが走り、光の炎が吹きあがった。

 ――I have no regrets. This is the only path.(ならば、我が生涯に意味は不要ず)

 しかと前を見据える。残り一枚となったアイアスの盾の向こうにいる、レザンを。最後のフレーズを口にするため、私は息を吸った。

 ――My whole life was(この体は、)"unlimited blade works"(無限の剣で出来ていた)

 詠唱を終えると同時に周囲は光に包まれ、一瞬でその景色を切り替えた。金属の床は荒れた大地となり、金属の壁は夕焼け空へと変わる。

「なっ……これは……!」

 どうやらレザンは、私とシロが出会ってからの戦いは知らないらしい。その〝魔術〟にレザンは目を見開いて、一瞬攻撃の手が止まる。その一瞬の隙を、私は逃さなかった。荒野に刺さった無数の剣が浮き上がる。固有結界内に引きずり込まれた宇宙船や銃器は瞬く間に針山となって、爆発した。

「こ、こんなことが……ありえない、ただのテラ星人風情が! 〝紛い物〟と言え、私に比べたら大した年月を生きていない貴様が! 何故こんなことを……!」

「生きた年月なんて関わりあるかよ。それに――オタク歴なら私が上だ」

 片手を上げ、周囲の剣をすべて浮き上げる。切っ先はレザンへと集中し、空中で私の指示をじっと待つ。

「毛布をマント代わりに新聞紙の杖持って、守護霊呪文も唱えたことのない奴が、私たちを殺せると思うなよ」

「くっ……意味の分からぬことを……! 今理解したぞ、ユーリ・タカムラ! 貴様は殺す! 今ここで殺す! 貴様を殺して、ゼロイチの力を我が物として初めて、私はこの宇宙を支配できる! そのためには……手段は選んでられないようだ……!」

 『ハ〇ー・ポッ〇ー』すら観たことも、読んだこともないのか。その程度のオタク力(妄想力)で想像力を問われるシロの力を扱おうとしているなんて片腹痛いわ(悪役風)。

 なんて考えていれば、レザンは右手を持ち上げ、力を込めた。ほっそりとした白い腕が、ぼこぼこと沸騰するように隆起する。そして瞬く間に肥大化していく。

「第二形態が醜いってザーボンさんかよ」

 醜いと言っても、レザンの右手以外はそのままで、右手だけがハルクのような大きさになっている。つまり――とても奇怪な化け物となっている。それ体のバランスよく取れるね。

「死ねぇ! ユーリ・タカムラ!」

 巨大化した右腕を振り上げて、レザンはこちらに猛然と駆けてきた。私の足元で風が渦巻くのを感じる。足が絡め取られ、私は尻餅をつく。

「いってぇ、くっそ!」

 私は尻餅をついたまま、剣を投射した。真っ直ぐに己の首を狙う数多の剣を、レザンは弾きながらこちらに近付いてくる。絶え間なく射出される剣を、レザンは腕を振り、空気を操って弾き、歩みを止めることなく襲い掛かってきた。立ち上がろうとする私。レザンは目前に迫っていた。

 勝ち誇った顔で私を見下ろし、レザンは笑う。

「追い詰めたぞ、ユーリ・タカムラ! 私の勝利だ!」

「いいや、勝てないよ、〝私たち〟には」

 私が告げた瞬間、どっ、と目の前で揺れた体の主は、歪んだ笑みを浮かべた顔をやがて驚愕に染めた。レザンの視線が下がる。

 その胸からは、赤く血に濡れた剣が生えていた。レザンが弾いた剣か、それとも投擲を誤った物か、ただ近くに刺さっていたものか。どう手に入れたかなどと尋ねるのは、もはや無粋だろう。

「貴、様」

 レザンの後ろに立つのは、緑が差し色の黒尽くめの男。ロキ。

「何故……!」

「何故? 私が裏切りの神と呼ばれることを忘れたか? そう簡単に信用するものじゃない」

 人を小馬鹿にする嘲笑を浮かべ、ロキはレザンの背を貫いた剣を抜き去る。レザンが振り上げていた拳は力なく降ろされた。酔っ払ったようにふらついていて、二本足で立ってこそいるが、重心を定められずに後退していく。

「あの爆破のルーン、私を殺す気だったろう、小娘」

「君こそ、あんな近くで撃ったじゃん。お互い様だよ」

 レザンに警戒しつつもこちらに来て、手を差し出すロキに、私は肩を竦めて答えながらその手を取って立ち上がった。そんな私たちを、レザンは血を吐きながら睨めつける。

「く、そ……! 何故私が、貴様らなんぞに! 下等な生き物共に!」

「……上等だろうと下等だろうと、世界はたった一人で変えられるほど、甘くはないってことさ」

 タットが足元に走り寄ってきた。見上げるつぶらな瞳に、私は小さく微笑む。

 シロを奪われたとき、私が一人だったなら、水に呑まれた時点で諦めていただろう。私一人でここに来ても――例えルーン魔術があったとしても、シロを取り返すことは出来なかったかもしれない。

 固有結界の果てに沈む太陽が、レザンの白い肌を赤く染め、髪は赤金に輝いていた。うつくしいのに、みにくくて、かなしいひと。

「勝ったような気になっているが、まだだ。私が取り込んだ魔法核の中には、治癒魔法の術式を記録した魔法核もある。この程度の怪我など、すぐに……何だ、ひっ……! 何だこれは、やめろ! やめろっ!」

 貫かれた胸元に手を当てたレザンは、治癒の能力で傷の修復をしようとしたのだろう。しかし、胸の傷は塞がったかと思えばそこから更に膨れ上がった。皮膚の内側に何か別の生物でもいるのかと思うような動きでレザンの体は大きく波打つ。体は奇妙に膨らんで、レザンを内側から呑み込んでいく。

「大量の魔法核をいくつも取り込んだのだ。何が起きてもおかしくない」

「嫌だ、嫌だ、助けてくれ! 父さん、母さ……!」

 悲痛な叫び声。肉の塊に埋もれながら、レザンは手を伸ばす。

 これが、彼の末路。仕方ないと思いながら、私の中で正義感の欠片が首を振る。死んでも仕方ない、なんてないのだと。誰もがチャンスを与えられるのだと。上手くいくかは分からない。でも少しでも可能性があるなら。それが、今の私の、〝正しい道〟だ。

 私は駆け出し、レザンが伸ばした手を掴んだ。

 手の平の繋がったところから、光があふれる。それは爆発的に膨らみ、奔流となって周りの景色を塗り替えていった。

 ドーム状の世界は大量のモニターで埋め尽くされて、それぞれが違う映像を流していた。固有結界は心象世界。これは、レザンと、そして彼に取り込まれたたくさんの魔法核の記憶で、記録だった。

 レザンは私と手を繋いだまま、放心したようにその場で座り込んでいた。彼を呑み込もうとしていた体も落ち着き、元の華奢な体に戻っている。その目はいくつも浮かんだ映像の一つを注視していた。

「……私が逃がされたのは、子供だったからだ。少なくなったラシューカ人の中で、唯一の子供だった」

 ぽつり、ぽつり、レザンが語る。映像の一つが広がって大きくなる。レザンの視点で映されているのであろうその映像では、大人たちが悲しげに笑って、彼を見送っていた。

「父は、手記を私に託した。父は手記にはイマジェンについて書かれていると言っていた。けど……私は、ラシューカ語を読めなかった」

 ラシューカ人の時代に、学校の類があったのかは知らない。けど、レザンが逃がされたのは、そう言った学習を始めるより前だったのだろう。

「悔しかった。奴らが来なければ、父さんの手記を読めるようになれた。いや、あの星に今まで通り暮らしていたはずだ。父さんと、母さんと……、みんなと……」

 レザンの記憶の映像が、幸せな光景に変わる。彼によく似た男、眼差しが似た女、その隣に並ぶ少女は姉妹だろうか、それとも友人だろうか。

 彼はそれをすべて奪われて、復讐に走り、歪んだ。いや、歪んだから復讐に走ったのか。どちらが先であろうと、結果はここに帰結する。

「お父さんの手記って、これのこと?」

 ポケットから革張りの手記を取り出す。レザンはそれを見て、微かに目を丸くした。その表情は何処か子供のようで、痛々しい。

「そうだ。ああ、持ってきてくれたのか。父の形見なんだ」

「彼ら――〝魔法核が、正しき道のために使われるときが来ることを祈る。〟手記の最後に、そう書かれていたよ」

 手記を受け取り、愛おしそうに微笑むレザンに、きっと彼の父親が伝えたかった言葉を告げる。レザンはその言葉に、何か眩しいものを見たように目を細めた。

「ユーリ・タカムラ。私の道は、間違っていただろうか」

「さあ。正しさなんて結局、その人の心の尺度でしか測れない。今回の件は、君の正しさと私の正しさが違ったから戦いになっただけ。君の正しさを、君が間違いだったと思うなら、それが答えだよ」

 復讐が間違っているなんて、私には言えない。私もアベンジャーズとして戦った一人なのだから。人々を支配して宇宙を平和に、という考えだって――それもきっと、見方によっては宇宙平和の一つの手段なのかもしれない。

「一つ間違ったからって、全てが終わりなわけじゃない。世界は続いているし、君も続いている」

「また、君にとっての間違った道に、進むかもしれない」

「そうしたら、また止めるよ」

 私の言葉に、レザンは嬉しそうに笑った。

 

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