落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

33 / 101
第二章-12「踏み出す一歩」

 ――それは、絶望の底に差し込んだ、唯一の光だった。

 

 ◇

 

 レザンの中で暴れていた魔法核の力が収束した。私が展開し、レザンと魔法核にほぼ乗っ取られていた固有結界は消えて、周囲は元の格納庫へと戻った。

 私とシロの中に、レザンに取り込まれた魔法核の力を感じる。シロに持たせるには、私が扱うには、少し重く、手に余る。

「マスター、あの腕輪はまだあるか?」

「うん。……ああ、なるほど」

 どうしたものかと考える私に、シロが助け舟を出した。フリッガから貰った腕輪。ルーン魔術と相性がよく、アスガルド製で丈夫。強力な力に耐えられる。

 ポケットに入れていたそれを取り出し、ナイフで文字を刻む。腕輪は、一度は私たちに取り込まれた魔法核の力を吸い取った。アスガルドの品は丈夫だから、魔法核の力を保持しておくことくらいは問題ないだろう。

「これは君のだ、レザン」

「……いいのかい?」

「君が彼らの魂をこうしたんだ。その責任は、君が果たせ」

 腕輪はレザンの手首に付き、もう外れることは無い。イマジェンの力が戻ったレザンだが、腕輪を静かに眺めるだけで、何かしようと言う気力は見えなかった。

 この後どうしようかと息を吐いた時、格納庫のハッチが開いて、この星では見ない小型宇宙船が何機も入って来た。機関銃のような銃器が向けられ、宇宙船からは武装した人々が次々と降りてくる。

「ノヴァ軍だ! 全員武器を捨て、手を挙げろ!」

 私も傍にいたロキも、素早く両手を挙げた。

 ノヴァ軍と言えば、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に出てきたザンダー星の治安部隊だ。いや、原作コミックスにも出てくるけど。

 確か彼らの設定は、ザンダー星の警察的仕事に加え、銀河の平和の維持も行っているのだったか。ここミルファン星もノヴァ軍の管轄内らしい。

 彼らはミルファン人たちを次々に捕縛しており、私たちは明らかに部外者だった。

「レザン、大人しくしろ! ……君たちは?」

 レザンもまた今回の一斉検挙(?)の対象だったらしく、武器を構え駆け寄ってきたうちの一人が、私たちを見て首を傾げる。

「テラ星のユーリ・タカムラとシロ、アスガルドのロキとタットです。何事か伺っても?」

「彼らは銀河平和維持の法律を破り、ザンダー星を始めとする各地で戦争や略奪を起こした犯罪者だ。君たちは何故ここに?」

「シロがレザンに拉致されたので、助けに来て……丁度帰るところです」

 レザンは兵士たちに囲まれ、手錠を掛けられて立たされる。私たちの応対をする兵士は私の言葉に頷いた。

「すまないが、ザンダー星まで同行してもらいたい」

 その言葉に私はロキをちらりと見る。ロキは仕方がないと言わんばかりに肩を竦めて、私も兵士に向き直って頷いた。

 そうして私たちはザンダー星に連れていかれ、多少の取り調べを受けたがすぐに解放された。乗ってきた小型艇は証拠品の一つとして一度は押収されてしまったが、すぐに返却された。

「あの、レザンはどうなるんですか?」

「おそらくはキルン刑務所に入れられるだろう。凶悪な犯罪者たちが入れられる場所だ。そこで罪を償う」

 ザンダー星に来た私たちの応対は、ローマン・デイと言うザンダー星人が行った。おそらくだが、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に出てきたクイルの知り合いの、ノヴァ軍将校だろう。

「そうですか。……すみませんが、これを彼に渡すことは出来ませんか。いつでもいいんです。出所した後でも。出所できないとか、渡せなかったら、まあ、適当に処分してください」

 私が出したのは、私が作ったラシューカ語の翻訳メモ……簡易の辞書だ。訳は英語と日本語併記してあるので、翻訳機を使えば問題ないだろう。

 ローマン・デイはちょっと困ったように眉を寄せたが、それでも頷いた。

「……期待はしないでくれ」

「お願いします」

 失われつつある言語だが、それでも、これは彼に必要な言葉だろう。

 

 ◇

 

 紆余曲折あったが、私たちは無事アスガルドへと戻った。ロキの同行は私たちの今回の宇宙旅行限定だ。ここでお別れとなる。

 王宮の謁見の間ではオーディンとフリッガが待っており、私たちにねぎらいの言葉を掛けてくれた。何かしらの魔法で私たちを見ていたのかもしれない。

 ロキは魔法の力を戻され、手錠を嵌められて牢屋に戻ることとなった。地球に飛ばされたソーのように、これで恩赦とはさすがにならないようだ。

 オーディンとフリッガに挨拶を済ませ、私は兵士に連れられて牢屋へ向かうロキを追いかける。牢屋へと下りる階段の手前で、ロキを見つけた。

「ロキ!」

 多少声を張り上げて呼び止めれば、ロキはまだ何か用かと言わんばかりの表情で振り向いた。

 私はそんな彼に大股で歩み寄って、彼の首元を引っ張る。背の高いロキに、私は精一杯背伸びして、彼を抱きしめた。

「な、おい、何を」

「ありがとう、ロキ。たくさん助けてくれて。私、結構君のこと好きだよ。君と旅ができてよかった。楽しかったよ」

 戸惑うロキに、言いたいことを言うだけ言った。私は体を離し、ニッと笑ってみせる。

「俺からも、一応礼を言おう、ロキ。ありがとう、世話になった」

 シロも少し素直じゃない言い回しだが礼を言う。ロキはぽかんと間抜けな顔で私たちを見つめて、それから、不器用に笑った。

「ああ、私も……まあ、悪くない旅だったよ、ユーリ、シロ」

 初めて呼ばれた名前の響きに、私はちょっと、照れたようにはにかんだ。

 そこに割って入るように、足元から鳥のような鳴き声が響く。見ればそこにはタットがいて、自分を忘れていないかと言わんばかりに私たちを見ている。私は屈んでタットの頭を撫でた。

「タット、うん。君は本当に大活躍だったからね。ありがとう。これからは、たまにロキの話し相手でもしてあげると良いよ」

「おい小娘。こんなケダモノと何を話せと?」

 ああ、せっかく名前で呼んでたのが小娘に逆戻りだ。私は肩を竦める。ロキの嫌そうな顔などどこ吹く風で、タットは任せろ、というように胸を張った。

 シロはタットと目を合わせ、何やら分かりあったように頷き合う。いつの間にそんな仲良くなったの、君たち。

「じゃあ、ロキ、タット。また、いつか」

「……ああ」

 言葉少ない別れの挨拶を交わし、ロキとタットは牢屋の方へ、私とシロは虹の橋へ、それぞれ踵を返し歩きだした。

 

 ◇

 

 ヘミンビョルグへ向かう輝く虹の橋の上を、潮風を浴びながら私とシロは歩いていく。

「マスターは、スターク氏たちの未来を変えたいのか?」

 ぽつり、シロが尋ねる。私は足を止めた。風が私の髪を混ぜる。下を見れば、シロは私を見上げていた。

「最初はそうだった。彼らのためにそうしようと思った」

 私がシロの記憶を見たように、シロもまた、私の記憶を見たのだ。

 私が、この世界がMCUの世界であることに気付き、その後に見た記憶。〝彼ら〟を救いたいと願い、そして散っていった、(誰か)の記憶。

「……でも違うんだよな。大事なのは誰がどうとかじゃない。私がどうかなんだ。私が、彼らを救いたいかどうか。……いや、救うなんて烏滸がましいけど。私は彼らに生きていてほしかったんだ。世界を救うのに必要な犠牲とか、そんなのどうでも良くて、私は――」

 もう、どれが私の記憶で、どれがそうでないのかなんて、分からなくなってしまったいくつもの記憶。

 それでも、あの記憶だけは鮮明だった。映画館で、スクリーン越しに見た彼らの生き様。あの時感じた魂の震えと、涙の熱さ。

「――私はただ、問答無用のハッピーエンドが良かったんだ。ヒーローの誰一人として欠けずに、めでたしめでたしが良かったんだ。……その想いだけで良かったんだ。これは最初から、ただの私のわがままだったんだから」

 あの記憶が、〝私〟の原点だった。あの寂しさが、あの喪失感が、〝私〟をここまで連れて来た。

 あの記憶を、あの物語を、否定する気はない。

 彼らは一人のヒーローとして、一人の、誰かを愛する人として、生涯を終えたのだ。あの物語を否定することは、その生き方を否定することになる。そんなことは出来ない。出来るはずがない。その覚悟を含めて私は、彼らが好きなのだから。

 それでも。その想いと裏腹に、私はひとつの望みを抱いてしまった。

「私は、私の望みを――我儘を叶えるために、彼らの未来を変えるんだ。……反対する?」

 苦笑いで、首を傾げる。そんな私に、シロはふっと笑い返した。

「そういう時は、一緒にやろうと誘うものだ、マスター。君の望みは、正しく俺の望みでもあるのだから」

「……はは、うん。じゃあ、一緒にやろう、シロさん」

 確かな足を、一歩、私は踏み出した。今度は、相棒(シロ)と共に。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。